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無形文化遺産「和食」は世界に通じる健康食――食文化史研究家・永山久夫さん

  • 食と農

「世界各地に日本食のレストランが約5万5000軒!」「フランス料理のトップシェフもかつお節や昆布の『だし』がお気に入り?」。2013年12月、「和食」がついにユネスコの「無形文化遺産」に登録されました。しかし、日本に住む私たちは「和食の価値」をしっかり認識しているでしょうか? パルシステムでは、2008年から「100万人の食づくり」運動を進め、ごはんを中心とした日本型の食の大切さを呼びかけてきました。今回は、日本の食文化を長年にわたって研究している食文化史研究家・永山久夫さんに、あらためて「なぜ、和食がいいのか」をうかがいました。

ふだんの食事が「文化遺産」!?

 「和食」と聞いて浮かぶイメージは意外に幅広く、人によってさまざま。「"文化遺産"というのだから、料亭に出るようなさぞ立派なごちそうなのだろう」と考える人もいるかもしれませんね。

 これに対し、「今回登録された和食とは、家庭での日常の食事を含め、昔から受け継がれてきた日本の食文化すべてのこと。今までも、ある国の料理の一部が文化遺産になった例はありますが、ひとつの民族が普通に食べているものがトータルな形で認定されたのは初めて。画期的なことです」と永山さん。「言ってみれば、私たちは毎日、"無形文化遺産"を食べているんですよ。おおいに自信をもちたいですね」とうれしそうに語ります。

「つつましくも豊かな和食の原点は、300年前の江戸の庶民の食事にあります」と語る永山久夫さん

 永山さん自身は和食を、「素材をシンプルに味わい、自然と共生する食」と表現。「魚や野菜、果物、海草や貝など素材の持ち味を生かした日本の食事は、季節の移り変わりを実感できる食べ物ばかり。『加工しておいしくする』という欧米の発想とはまったく別の、素材そのものの風味と栄養を堪能するために発展した食文化です」

「和食」の肝は、ごはんとだし、それに季節の食材

 わかっているようでなかなか説明しづらい和食。そこであらためてその特徴を整理してみると、ポイントは、「ごはんが中心であること」「だしを使うこと」「季節の素材をとり入れること」の3つになります。

 「和食の主役はやはり『ごはん』。人は成長するにつれて身体の要求にあった食事をするようになりますが、変わるのはおかずの部分で、どの年代でも、食卓の真ん中のごはんは不動です」と永山さん。ふっくら炊けたごはんのみずみずしさやほのかな甘みはそれだけでも食欲をそそりますが、それ自体の味がシンプルで、いっしょに食べるおかずを選ばないのもごはんの魅力。ごはんを主たるエネルギー源とすれば、脂質からとるカロリーを抑えることができ、生活習慣病の予防にもつながります。

 和食に欠かせないふたつ目の要素は「だし」。かつお節や昆布などでとった「だし」は、油脂に頼らずに料理にうまみを加えることができるすぐれものです。とくにかつお節に豊富に含まれている必須アミノ酸「トリプトファン」は、リラックス状態を招く副交感神経の伝達物質「セロトニン」のもとになります。「だしのよくきいた湯気の立つおいしいみそ汁を飲むと、何となく幸せな気分で心が満たされますよね。それもトリプトファンの効果かもしれません。私はセロトニンを"幸せホルモン"と呼んでいるんですよ」と永山さんは言います。

 「季節の食材」も和食には不可欠。望めばあらゆる食材がいつでも手に入る今は、季節感が失われつつありますが、「はしり」「旬」「名残」といった言葉からもうかがえるように、もともと日本人は季節ごとの食材を尊び、積極的に食事に取り入れていました。「素材が時間をかけて蓄積した栄養価やうまみが最高点に達したところでいただく。それが旬。昔は抗生物質なんかないから、病気になったら食材に備わっている自然の力を借りて治すしかありませんでした。だから、季節の食材は和食とは切っても切り離せないものなのです」

「和食的食べ方」で「健康寿命」ものばしたい

 「健康面から食文化の価値をはかろうとしたら、"平均寿命"を見るのがいちばん」と言う永山さん。男性が79.94歳、女性が86.41歳(ともに2012年度、厚生労働省発表)という日本人の平均寿命を示し、「医薬品の開発や医療技術の進歩も大きく寄与していますが、世界でもトップクラスの平均寿命は、長く食べ積んできた和食の力の賜。これからの時代、いかに『和食的食べ方』を取り入れるかが、どの国においても課題となってくるのではないでしょうか」と語ります。

絵=永山久夫さん

 ただし、食生活を見直したいのは私たち日本人も同様。ここ数十年で日本人の食生活は、欧米型の油脂や肉に偏った食卓に大きく変化してしまったからです。主に食生活に起因する生活習慣病が増加し、寝たきりや介護が必要な高齢者も急増。平均寿命ののびに反して、自立して生きることができる「健康寿命」は一向にのびていません。

 「長く生きるだけでなく、最後まで自力でアクティブに活動するためには、今、何をどう食べるかがとても大事。遺伝子レベルで和食文化が組み込まれている私たちこそ、率先して『和食的食べ方』を取り戻すべきではないでしょうか」

まずは「6つの器」を並べてみたら?

 欧米型の食生活に傾いてしまった今、「和食的食べ方」を取り戻すのはむずかしいことのように思う人も少なくないでしょう。そこで永山さんは「和食」を日常生活で実践するためのアドバイスとして、「とりあえず、6つの食器を並べてみましょう」と言います。

 6つの器とは、いわゆる「一汁三菜」の食スタイル。ごはんとみそ汁、漬物という定番3品のほかに、肉や魚の主菜、季節の野菜を使った副菜、豆類の副菜が並ぶ食事の形です。

「まずは6つの器を並べてしまいましょう。それに、季節の食材をのせてみれば、『一汁三菜』になります」(永山さん)

 「6つというと、多いと思うかもしれませんが、手の込んだ料理を用意する必要はありません。その時期その時期に手に入る食材を、できるだけそのままの形で出せばいい。ネギを焼いただけというような簡単な料理でもいいんです。6つの器に季節のものを入れるだけで、自ずと自然に寄り添った食卓が整う。その積み重ねが心身の健康を保ってくれるのです」

 もうひとつ大事にしたいのが、折り目ごとに行われる年中行事。その季節の食材を使った行事食は、体調の変わりやすい時期にうまく順応し無難にやり過ごしていくための知恵そのもの。細かな決め事やしきたりには、健やかに生きるための基本を後の世代にも伝えていこうとする先人の思いが凝縮しています。

 「たとえば、お彼岸のぼた餅や五月の節供のかしわ餅など、春から夏にかけての行事食には小豆がよく使われますね。小豆には、体の酸化を防いだり回復力を高める成分が多く含まれているのです。『小豆を必ず食する機会』と考えると、行事食はまさに健康を維持するための食ということがわかるでしょう」

 和食が「無形文化遺産」になったことを機に、私たちは伝統的な形式の背景に込められている歴史や精神的な意味づけをあらためて学び、先人たちが守りつないできたごはんを中心とする豊かな食の形を、世界へ、また次の世代へとしっかり伝えていきたいものです。

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部