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「食の安全」はどう手に入れる? 中国の期限切れ鶏肉問題から考える―垣田達哉さん

  • 食と農

2014年7月、大きな波紋を呼んだ中国食品工場での「期限切れ鶏肉使用問題」。まさか、日本の大手ファストフードやコンビニエンスにも出回っていたとは、ほとんどの人が想像しなかったのではないでしょうか。最近ではメディアに取り上げられる機会も減ってしまいましたが、なぜこのような事件が起きたのかの検証が充分に行われたとはいえません。この問題の根底にあるものは何なのか、「消費者問題研究所」の垣田達哉さんにうかがいました。

期限切れ肉使用問題は「氷山の一角」

 今回、問題が発覚したのは、米国の食材卸大手傘下の中国法人「上海福喜食品」。公開された映像を見て、素手で肉を扱う、床に落ちた肉をそのまま機械に入れる、青色に変色した肉まで使うといった食品工場にあるまじきショッキングな光景に目を疑った人も多いでしょう。

 しかし、食の安全や食品表示問題に関する第一人者で「消費者問題研究所」代表の垣田達哉さんは、「今回の事件は、氷山の一角にすぎません」と語ります。

 垣田さんによると、中国では毎日のように、表示偽装など食品企業に関する不祥事が報道されているのだとか。2013年の2~4月の3カ月間だけでも、政府が摘発した食品偽装に関わる案件は2010件にものぼったそうです。

「安く大量に作ることが優先され、安全性は二の次になっている」と指摘する垣田達哉さん

 企業側の管理の甘さも無視できません。「実際、上海福喜食品には米国の親会社からの常駐者はなく、管理はすべて現地任せ。年に数回の監査があるだけで、全く機能していません」と垣田さん。

 「国の食品検疫も、基本的に輸出相手国の検査を信用するという前提がある。たとえば10,000箱の荷物のなかから数箱をチェックする、というような現在のモニタリング検査では、問題を防ぐことはできないでしょう」

背後にある、グローバル化と価格競争のゆがみ

 日本で中国産食品の不祥事が話題になったのは、今回が初めてではありません。冷凍野菜の残留農薬問題や冷凍餃子への毒物混入事件など、その安全性が疑問視されるような出来事が過去にも起きています。

 しかし、2013年の農林水産物の輸入額を見ても、中国産は全体の13.5%とアメリカに次いで第2位に位置。問題の直後は一時的に中国からの食品の輸入は減るものの、しばらくすると、加工食品や外食産業などを中心に「中国産」に逆戻りするということの繰り返しで、私たちの食卓が中国に大きく依存する状況は変わっていません。

 「グローバル化が進むなか、利益を上げるために生産コストをできるだけ抑えようとする企業にとって、土地代も人件費も安い中国は頼みの綱。価格競争が激化するなか、生産と消費の現場がどんどん遠くなり、結果的に、食品として大切な品質や安全性が二の次にされてしまっているように感じられてなりません」と垣田さん。

 「価格競争が激化すれば、安く大量に作ることが優先される。本来なら、現地工場に常駐の管理者を増やすとか、監視カメラを設置するとかの措置を取る必要があるのですが、なかなか積極的に取り組まれません。管理にコストがかさむと、そもそも中国で製造する意味がなくなってしまうのでしょう」と指摘します。

 いずれの事件でも、背後に見えてくるのは、今の私たちの食が行き過ぎた効率主義のもとに生産されている実態。さらに、そうした構造を招いている要因の一端は、価格優先で食品を選びがちな私たち消費者にもあるのかもしれません。

「表示がないものほど、怖いものはありません」

 TPP(環太平洋経済連携協定)などグローバル化を加速させる動きが見えるなか、懸念されるのは、食卓を取り巻く状況がますます複雑で見えにくくなっていくこと...。私たちは自分と家族の健康や安全を守るために、何を信じて食品を選べばよいのでしょう。

 垣田さんは、「食品を購入するときには、『表示のあるものを選ぶ』『表示を確認する』ことを習慣にしましょう」とアドバイスします。

 「たとえば、大手ファストフードが今回の事件を受けて初めてハンバーガーの原材料産地をホームページ上で公開しましたが、原料産地を見て驚きましたね。ピクルスのきゅうりはトルコやスリランカから、玉ねぎはアメリカから...というように、ほとんどの材料が海外産。消費者は買うときに知りたいのに、店頭では表示したくないのでしょうね」

店頭では表示のないファストフードも、私たちは何の疑いもなく選んでしまいがち

 「デパート地下の惣菜にしかり、宅配ピザにしかり、本当は、表示のないものほど怖いものはないんですよ。何が入っているのかわからないものを自分や子どもが口にするということですから。表示というのは、選ぶ際の大切な判断材料。表示があれば比較ができる。自分がよいと思ったものと価格とのバランスをとりながら買うことができますから、できるだけ表示がきちんとされているものを選ぶことをおすすめします」

「ほんもの」を見極め、変えていけるのは消費者自身の力

 何が "ほんもの"なのか見えづらくなっている今、垣田さんは「最終的には、消費者一人ひとりが問題意識をもち、自分の身は自分で守るしかありません。世の中に流通しているものはどれも『安全』だとうたっていますが、何を基準に安全と言っているのか、消費者自らが"ほんもの"を見極めることが大事です」と語ります。

 今回の事件では、上海福喜食品の鶏肉製品が日本に輸入され、ファストフードやコンビニでチキンナゲットとして販売されていたとして問題になりました。一方、パルシステムの『までっこ鶏チキンナゲット』は、指定された岩手県の産直鶏肉を使い、国内の工場で加工。生産コストを抑えるために肉を減らしてその分を添加物で補うのではなく、肉の持ち味を生かすため、鶏肉の配合を86%まで高めて、添加物の使用を最低限にとどめています。

パルシステムの『までっこ鶏チキンナゲット』の製造ライン。エサに抗生物質を使用しない産直鶏「までっこ鶏」を使用

 「さかのぼれば、パルシステムのチキンナゲットは、余剰になりがちな産直鶏のムネ肉をおいしく食べやすくするために開発されました。つまり、産地でていねいに育てられた産直鶏を大切にいただく、という意味が込められているんです。利益を上げるためにできるだけ原価を下げて...という一般的なナゲットとは、スタート地点から考え方が180度違うんですよ」((株)パル・ミート(※)・江川淳)。

 パルシステム連合会・事業広報部長の高橋宏通は、「きちんと素材に向き合い、安全や環境に配慮したものは時間も手間もかかり、それなりの価格になります。けれど、私たちが、安さや便利さだけに惑わされず、"ほんもの"を選んでいけば、いのちの源である食が健全な形で行き渡る社会のしくみを取り戻すことができる。私たちの"選ぶ力"が、子どもたちがこれから生きていく社会を守ることにもつながるのです」と訴えます。

衣が薄く、肉感たっぷりの『までっこ鶏チキンナゲット』は、子どものおやつやお弁当にも人気のロングセラー

 「"よりよい選択"をするためにも、まずは、食の安全や食品表示に関心を持ってください。すべてにこだわれなくても、ひとつからでも、『ここは譲れない』という自分なりのこだわりをもって選んでみる。何かのきっかけで関心をもてば、そこで疑問が湧いてきます。その疑問が入口になり、いろいろなことが見えてきますから」(垣田さん)

※(株)パル・ミート:1979年にパルシステムの畜産部門が独立してできた畜産専門子会社。

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部