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「グリーンオイル」で大地を取り戻す―原発事故から3年半。農業の再生に立ち向かう

  • 食と農

東京電力福島第一原発の事故から3年半。福島では今もなお県内外合わせて約13万人が避難し、地域の復興も思うように進んでいない現状があります。原発事故は膨大な放射性物質を放出し、山林や農地、海洋を汚染。自然の循環と生態系を守りながら農作物を育んできた生産者たちへも、深刻なダメージを与えました。そうしたなか、菜種などの「油脂作物」による除染に取り組み、その作物から食用油をしぼることで、一日も早い農地と地域農業の再生につなげようという試みが進んでいます。

手塩にかけた農地を「目に見えない」放射能で汚染されてしまった無念

 今年8月、福島県において、5つの有機農業団体の主催による「よみがえれ!福島 "生きる""耕す"有機農業のつどい」(※1)が開催。農業者だけでなく、消費者や研究者も参加し、福島や周辺地域において取り組まれてきた農地の除染についての検証が行われました。

 集まったのは、福島を中心に、長年土づくりに熱心に取り組み、持続可能な農業に力を尽くしてきた生産者のみなさん。効率が優先される近代農業のなかで、食べる人の健康や生態系、環境への影響を考えて、農薬や化学肥料に頼らない栽培に取り組んできた農業者ばかりです。

代々受け継がれてきた畑が荒れ地と化してしまった無念ははかり知れない(南相馬市)

 「地震と津波だけならまだなんとかなったが、原発事故で、これまでの努力、信頼、信用、絆のすべてが水の泡になってしまった。自分ではどうすることもできない悔しさでいっぱいです」「食べ物を扱う生産者として、消費者のみなさんに、安心して口にできる食べ物を提供できない状況がどれほど無念なことか...」

 参加者が口々に訴えるのは、手塩にかけて慈しんできた農地を、原発事故によって一瞬にして奪われてしまった苦しい胸の内。けれど、同時に多くの生産者から「土地の汚染をゼロに近づけようとするのは、農地を持つものとして当然の務め」「この1、2年が正念場だ」と、除染にかける決意も語られました。

※1:福島県有機農業ネットワーク、全国有機農業推進協議会、日本有機農業研究会、有機農業参入促進協議会、アイフォーム・ジャパンが主催。パルシステム生活協同組合連合会も実行委員会として参加。

各地域の現状を視察後、研究者と農業者による除染の取り組みが発表された

「"いのち"の土をはぐより、植物の力を借りて除染したい」

 「一刻も早く手を打たないと農地が取り返しのつかないことになる。農業者の外部被ばくも心配だ」と語るのは、日本における有機稲作の先駆者的存在である「NPO法人民間稲作研究所」(栃木県)理事長の稲葉光國さん。

 稲葉さんは、事故直後から有機農業で培った知識や技術を駆使して除染植物の実験栽培に着手し、現在は、放射性セシウムを吸収しやすいヒマワリ、大豆、菜種といった油脂作物を植えて農地の除染をはかるとともに、それらの作物から食用油(グリーンオイル)を抽出する「グリーンオイルプロジェクト」を進めています。

「一度、土をはいでしまったら元の農地には戻せない」と話す、民間稲作研究所の稲葉光國さん(栃木県)

 ヒントにしたのは、チェルノブイリ原発事故の汚染地区においても実施され、土壌を浄化する効果が認められてきた「菜の花プロジェクト」。もともと植物に備わっている、"カリウムの代わりに組成の似たセシウムを吸収する"というメカニズムを利用した試みです。

 当初国は、植物(ヒマワリ)を植える方法について「除染効果が低く、普及の段階にはない」と断定。「表土をはぐ」方法を提唱してきました。しかし、有機農業者にとって土はまさに"いのち"ともいえる存在です。

 「一度はいでしまったら元の農地には戻せない。低濃度の汚染なら、貴重な土を失って大量の放射性廃棄物を排出する方法よりも、私たち農業者の手で植物の力を借りて除染するほうを選びたい」(稲葉さん)と、「植物除染は効果なし」との非難にも屈せず、栃木や福島で仲間とともに取り組み続けてきました。

 「単一作物では経営的にも成り立たない。昔から有機農業ではいろいろな作物を輪作し、農薬や化学肥料に頼らずに連作障害を防ぐ方法が当たり前に行われてきましたから、それと同じように、大豆、ヒマワリ、菜種を輪作することで収量の安定と除染効果の向上の両方をめざしました」

油にはセシウムが移行しないことを確認し、食用油を生産

 このプロジェクトの肝心なところは、植物の力で除染をするだけでなく、除染に使用した植物から食用油を生産するというところにあります。

 「約10㎡の農地を除染する作物で、グリーンオイル1本(270g)が搾油できます。きちんと精製した油にはミネラル分が含まれないため、作物が吸収したセシウムも油に移行することはない。このことは理論的にも数々の実験データ(下表)からも立証されています」(稲葉さん)

油脂作物へのセシウム移行

単位:ベクレル/kg(セシウム134、137合計)

子実 油かす 精製油
菜種 86.8 109.5 不検出
大豆 117.3 137.9 不検出

資料:NPO法人民間稲作研究所。※菜種、大豆ともに2013年、ゲルマニウム半導体検出器で検出限界値0.08ベクレル/kgにて測定

 収穫されたヒマワリ、大豆、菜種は荷受けの段階で栽培履歴を確認し、水分検査、放射能検査を行って保管。市販の食用油の多くは完全に油分を抽出するために、化学溶剤(ヘキサン)を添加したあと、高温に熱するなどして製品化しますが、グリーンオイルは、焙煎もせずに物理的な圧力だけで油を搾ります。

 2013年は搾油技術が完全にでき上がっていなかったこともあり、油脂作物の生産量は栃木と福島で約5トンでしたが、14年は10名の生産者が福島、茨城、栃木で約15トンを生産。約16,000本分(270g/本)の植物油ができました。

熱をかけない「コールド製法」と呼ばれる手法で搾りだされた油

 「このプロジェクトには、日本の油脂作物の自給率を高める意義もある」と稲葉さん。市販の植物油のほとんどが輸入原料に依存し、しかもその多くが遺伝子組換え作物であるという実態を示し、「グリーンオイルの広がりによって、農地の除染と同時に、この地が油脂作物の一大産地として再生する道も拓ける。かつては全国で栽培されていた菜種や大豆の自給率向上もはかれるのです」と、グリーンオイルに寄せる期待を語ります。

グリーンオイルは福島にとっても希望に

 このプロジェクトに参加しているのは、栃木県、茨城県、福島県の農家のみなさん。有機栽培、または化学合成農薬・化学肥料を使わない栽培で、グリーンオイルの菜種を作付けしています。

 とくに、福島第一原発から20km圏に位置する南相馬市では、農地の再生どころか除染すら前に進んでおらず、歯がゆい状況が続いています。そんななか、グリーンオイルは心の支えとなっています。

 稲葉さんは、「このモデルをさらに本格的に広げていきたい。災いを転じて福となす。油脂作物の産地を形成して、安心して口にできる油を生産していくことの歴史的意義は大きいと思います」と言葉に力を込めます。

民間稲作研究所の稲葉光國さん(栃木県)

 農地の除染、そして農業の再生は、決して農業者だけの課題でも、福島だけの問題でもありません。稲葉さんたちが取り戻そうとしている大地は、まさに私たち一人ひとりのいのちやくらしを支える土台でもあるのです。

 パルシステムでは、「グリーンオイルプロジェクト」の主旨に賛同し、「震災復興基金」からの拠出などを通じて活動に参加しています。

 「生産者の原動力となっているのは、『安心できる作物を届けたい』『日本の農業や農地を守っていきたい』という気持ちです。私たちもこの問題を"自分のこと"としてとらえ、困難な状況をともに乗り越えていきたいですね」(パルシステム連合会事業広報部長・高橋宏通)

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部