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「石けん」と「合成洗剤」納得できる選択はどちら?―水はめぐり、いのちをつなぐ

  • 環境と平和

食器洗い、洗濯、お風呂......私たちは一日に何度「洗う」という行為を繰り返しているでしょうか。汚れを落としてきれいにするのは気持ちのよいものですが、風呂場や台所から出て行く水について、私たちは案外無頓着なのではないでしょうか。私たちの流した水は、川や海へ。空から降ってくる雨も、大海の水も、田んぼの水も、くらしの排水も、からだのなかの水分も、それぞれまったく別のようでいて、じつは、長い月日をかけてどこかでつながっています。

「生きものが大好きだから、水を汚したくない」

 「合成洗剤よりも石けんのほうが水を汚さないという記事を何かで読み、学生時代、一人暮らしを機に石けんを使うようになったんです」

 そう話すのは、現在、山梨市に住む鈴木律子さん(パルシステム山梨組合員)。石けんを使い始めて10年以上になる鈴木さんは、今では洗濯も食器洗いも、お風呂も、すべて石けんで済ませています。

 小さい頃から、生きものが大好きだったという鈴木さん。「昔は、まだ下水が整備されていなくて、近所の小川が生活排水の泡やヘドロでとても汚れていたんですね。その光景をずっと見てきて、子ども心に、自分はできるだけ水を汚したくない」と思っていたそうです。

 「自然やほかの生きものにもあまり負荷をかけないですむと思うと気持ちも軽いですね。自分がきれいになっても、生きものたちにしわ寄せがあったら申し訳ないですから」

 石けんのさっぱりした洗い上がりやナチュラルな香りも気に入っている、と鈴木さん。「子どもたちが使うときにも、あまり気をつかわずに安心して見ていられるのもありがたい」とにっこりします。

"洗う"とは、「水に汚れを溶かして流す」こと

 「洗う」という字は、「サンズイ」と「先」の組み合わせ。「洗」は、もともと「(足の先の)汚れを水で流す」ことを示す文字でした。

 ところが、実際には、汗や泥、ほこりなど水溶性の汚れは水があれば落とすことができるのですが、皮脂などの油性の汚れがやっかい。油を含む汚れは水に溶けないため、水だけでは落とすことができません。

 そこで、油汚れを水に溶かす働きをするのが、石けんや合成洗剤などの洗剤です。石けんにも合成洗剤にも、本来は混じり合わない水と油をなじませる「界面活性作用」があり、水に汚れを溶かして流すことができるのです。

 では、石けんと合成洗剤は何が違うのでしょうか?

 もともと、古代ローマ時代、神に供える生贄(いけにえ)の羊からしたたり落ちた脂が木の灰と混ざり合ってできたといわれる石けんは、牛脂や米ぬかなど「天然の油脂」と「アルカリ」というシンプルな原料から成る界面活性剤。その製法は現在に至るまでほとんど変わっていません。

 一方、合成洗剤に使われる界面活性剤は、主に石油を原料に高温・高圧のもとで化学合成。5000年にも及ぶ長い歴史をもつ石けんに比べ、最初に合成洗剤が開発されてからまだ100年もたっていません。

環境中に排出される合成洗剤は、東京ドーム3個分!?

 「石けんより少ない量で効果があり、シャンプーから食器洗いまで幅広い用途に使えるということで、合成界面活性剤はそれで利益を上げようとするメーカーにとって都合がよかったのです」と語るのは、長年、全国の消費者団体、市民団体、生協などとともに、石けんの普及運動に携わってきた長谷川治さんです。

 日本では、1950年代半ば以後、電気洗濯機の普及に伴って合成洗剤が急速に浸透し、63年には、合成洗剤と石けんの生産量が逆転。前述した組合員、鈴木さんの子ども時代である80年代には、すっかり合成洗剤が主流になっていました。

 経済産業省の統計によると、2013年の合成洗剤の販売量は、洗濯用、台所用、住居用だけで109万トン。現在も、じつに東京ドーム3個分に相当する量の合成洗剤が、下水や河川、海に排出されていることになります。

 500℃50気圧もの高温・高圧で化学合成される合成界面活性剤は、構造がとても複雑。そのため下水処理場を通過しても充分には分解されず、自然界に排出後、分解されるまでに長い時間がかかると言われています。

 一方、石けんは、河川に流れ込むと水の中のカルシウムと結びつき、すぐに水に溶けない不溶性のカルシウム石けん(脂肪酸カルシウム)を生成。カルシウム石けんは家畜の飼料など食用に製造されているくらい安全性の高いもので、川の生物たちのエサになるか、あるいは、下水に流れて下水処理場の活性汚泥中の微生物によって100%分解されることがわかっています。

合成界面活性剤の多くが「有害物質」に指定

 近年、化学物質が環境や人体に及ぼす負荷の大きさが国際的にも問題視され、日本でも1990年、化学物質の排出を減らすことを目的とする「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」が制定。誰が、何を、どのくらい排出したのかがわかるようなしくみができました。

 PRTR法では、人の健康を損なうおそれがあるもの、動植物の生息もしくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの、などの条件に照らし合わせ、2014年現在、462の化学物質を有害物質に指定。合成界面活性剤の多くも、そのなかにリストアップされています。

 「該当する物質を年間1トン以上排出する事業体は報告書の提出が義務付けられていますが、実際には、家庭からも多くの化学物質が排出されている。そしてその多くは合成洗剤に由来するものです。今の私たちのくらしのなかで化学物質をゼロにすることはむずかしいかもしれませんが、減らせるところから少しでも減らしていきたいものですね。合成洗剤を石けんに変えるだけで、くらしのなかの化学物質をかなり減らすことができると言われているんですよ」(長谷川さん)

一人ひとりのくらしの変化が、地域や環境を動かす力に

 生活のあらゆる場面に合成洗剤が急速に浸透する状況のなか、人体や環境への影響を考えて、「石けん」のみを扱ってきたパルシステム。パルシステムの前身にあたる生協のなかには、石けんの共同購入をきっかけとする草の根的な市民活動が母体となって誕生したところもあります。

 「パルシステムの石けん活動では、子育て中のお母さんたちが手弁当で集まって、子どもたちのため、未来のために、どうしたら石けんを使ってもらえるかを一生懸命考えていました。倉庫にあったサンプルでおすすめセットを作ったり、そのなかに入れる文章に知恵を寄せ合ったり...自分たちで工夫しながらだったから、楽しかったですね」と語るのは、元東京マイコープ(現パルシステム東京)理事長で、(株)マハラバ文庫代表の増田レアさん。

 生協まつりや各地の地区会では、石けんを使った換気扇洗いのデモンストレーションを披露。合成洗剤と石けんの水溶液に大根の種を浸して発芽と生育の度合いを比較する「カイワレ実験」を家庭でできるようにと、キットを考案したりもしました。

 「うちの子も『カイワレ実験』を夏休みの自由研究にしていました。そういう体験によって、子どもたちにも、水といのちのつながりや、水を大切にしなければいけないという思いを自然に伝えることができたのだと思います」

 「くらしというのは個々の営みであるけれど、一つひとつのくらしが重なって地域をつくり社会をつくっていく。それが実感できるのが石けん活動でした。石けんを使ってみたら心地よかった。石けんなら安心して使える。だから、一人でも多くの人にすすめたい。そんな台所や洗面所での気づきから共感が育まれ、水や環境を守っていく地域ぐるみの力になっていったのです」

水はめぐる。私たちもその循環の一部です

 水は地球全体をめぐり、食べものにもつながっています。その循環の一部である私たちも、水によって生かされています」と増田さん。

 鈴木さんも、「私たちも、水の循環の途中で暮らしている家族。そう考えると、水をきれいなままめぐらせてあげたいと思う」と話します。

 家庭から排出された水は、川や海に流れ、蒸発して雲になり、雨になって森に戻る。森に降った雨は地面にしみ込み、川や地下水となって、やがて私たちのもとへとめぐっていく――。万物のいのちを支える水は、長い月日をかけてどこかでつながっていきます。

 忙しさのなかで、私たちは目の前の「汚れ」を落とすことだけに目が行きがちですが、ときにはそんな風に想像力をはたらかせてみてはいかがでしょう。

 「台所の蛇口を見ながら、自分が何を水のなかに流しているのか、改めてくらしを見つめてみませんか? 自分の身から離れた汚れや洗剤、それを含んだ水がその先どこに流れていくのか――そんな水のめぐりをイメージすれば、きっと、私たちの手元で汚すことはできるだけ避けたいと思うのではないでしょうか」(増田さん)

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部