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写真=亀山ののこ

今、どんな選択をするか。未来は私たちの手にゆだねられている―セヴァン・スズキ

  • 環境と平和

なんとなく不安感が漂う今の社会。日本の政治はどうなるのか、気候変動は止められるのか……。「伝説のスピーチ」で知られるカナダの環境活動家、セヴァン・カリス=スズキさんは、「私たちの行動が、後の世代にとってとても大きな意味をもっている」と訴える。子どもたちの未来のためにどんな選択をするべきか。2児の母でもあるセヴァンさんのメッセージを手がかりに、考えてみたい。

カナダで起きた大規模な森林火災。責任の一端は、私たちにも?

――22年前、セヴァンさんは12歳のとき、ブラジルで開催された「地球サミット」で「どうやってなおすのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください」とスピーチし、世界中に感銘を与えた。今、彼女が気がかりなのが、自身が暮らすカナダで起きた大規模な森林火災だ。

セヴァン カナダ西部のアルバータ州で起きた大規模な森林火災によって、10万人以上が避難生活を余儀なくされたことをご存知でしょうか。原因はまだはっきり解明されていませんが、温暖化による気温上昇が干ばつを招き、干ばつによって森林火災が増えるともいわれています。

 それが本当だとすれば、10万人以上の人々をふるさとから追いやったこの火災の原因の一端は、温暖化を招いた私たち自身にもあるということになります。

2016年5月に起きたアルバータ州北東部フォートマクマレーの大規模な山火事。20日間で約50万ヘクタールが消失した(写真:AP/アフロ)

 じつはカナダでは、国を挙げてタールサンドの掘削に力を入れています。タールサンドとは、石油に替わるエネルギー源として注目されている化石燃料。森林火災が起こったアルバータ州のフォートマクマレー市も、世界第3位のタールサンドの産地なのです。

 「カナダがすべてのタールの産業化に成功すれば、温暖化と気候変動によって、地球は人類の住める場所ではなくなってしまうだろう」と科学者たちは警告していますが、エネルギー産業で莫大な利益を上げている人たちは聞く耳を持ちません。

 巨大な企業が説明責任も果たさず政府をコントロールしている。こんな世界のエネルギー政策のあり方は、未来の世代にとって、とても希望のもてるものとは思えません。

世界のリーダーたちの「脱化石燃料宣言」に注目を

――世界各地で異常気象による自然災害が増えるなか、2016年4月、「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」で合意された「パリ協定」に、世界175の国と地域のリーダーたちが署名した。

セヴァン 世界の平均気温の上昇を工業化以前に比べて2℃以内に収めるというのがこれまでの目標でしたが、パリ協定では、さらに、温度上昇を「1.5℃以内に収めるように努める」という文言が加えられました。これは「2℃も上昇したら、もはや人類が住めない土地になってしまう」という科学者たちの警告が受け入れられた結果です。

「脱化石燃料宣言」を画期的な成果と評価するセヴァンさん(写真=編集部)

 これまで通り化石燃料に頼っていては、気温上昇を1.5℃以内に収めることは不可能です。その意味で、私は、パリ協定で世界のリーダーたちが、気温の上昇を1.5℃以内に収めなければならないという共通認識を示したことに注目したい。これは、「脱化石燃料」を宣言したに等しい、とても意味あることだと思うからです。

一人ひとりが「脱化石燃料」へ。まずは、食べものを選ぶことから

――「脱化石燃料社会」は、どうすれば実現できるのだろうか。私たちは、具体的にどう行動したらいいのだろう。

セヴァン パリ協定があっても、この目標のために行動していくのは、リーダーたちではなく私たち自身です。「これさえすれば化石燃料への依存から抜けられる」という画一的な答えはありません。自分の住む地域で、自分の影響の及ぶ範囲で、持続可能なくらしのためにできることを考え、一人ひとりが行動することが大切です。

 まずは、個人として何ができるのかを考えてみましょう。例えば、どうやったら自分のくらしから排出される二酸化炭素を減らせるか、地球の資源をどうやって消費し、そのごみをどうやって地球に戻すのか、自分の口、胃の中に何を入れるのか。そうやって個人のレベルでできることを考えてみる。それだけで毎日の選択肢が変わり、ひいては地球への影響も変わってきます。

2016年5月8日に東京の明治学院大学で行われたセヴァンのトークには、300名近くが集まった(写真=編集部)

 私自身が日本に来るたびに忘れないようにしているのは、マイ箸です。何年も前に日本を旅していた時、倒れたゴミ箱のなかに割り箸がたくさん捨てられていた光景が忘れられません。豊かな国でのお金や資源の無駄使いが象徴されているように思えました。

 カナダでも、美しい透明なビーチが、プラスティックのボトルで埋め尽くされている。プラスティックのボトルを買うのをやめて水筒を持ち歩けば、きれいな水をいつでも飲むことができるし、ゴミを減らすこともできる。「使い捨て」が当たり前になっている豊かな国だからこそ、意識して気をつけたい。こういう小さなことを実行していくうちに自信が生まれ、人は自ら変わっていくのです。

政府を真の民主主義へと変えていくこと

――折しも、日本では7月に参議院選挙があった。セヴァンさんは、日本の状況を憂慮し、一人ひとりが政治への参加意識をもつこと、諦めないことの大切さを訴える。

セヴァン くらしの中でCO2排出を減らしていくのと同時に、もうひとつ大事な行動は、一人ひとりが政治に働きかけていくことです。私たちの手で世論を作り上げ、私たちの政府を真の民主主義へと変えていくことです。

 私たちの政府はさまざまな約束事をしますが、約束事というのはツールにすぎない。「パリ協定」もしかりです。世論を作り上げ、政府に働きかけ、政治的な意思を作り上げていくのは、私たちの役目なのです。

 日本でも、様々なムーブメントが起きていますね。若者やお母さんが、真の民主主義を求めて声を上げている。お金の使い道や銀行への預け方を考えて変えていこうというキャンペーンに取り組んでいる人々もいる。そうした動きが世界規模で起きていることを、本当に心強く思います。

パネルトークでは、環境団体「350.org JAPAN」から「貯金の預け先を選んで、お金の流れを変えよう」という提案もなされた

 選挙もとても大事です。民主主義の社会で選挙に行って意思表示することは、私たちの責任のひとつ。考えてみてください。世界には、選挙権を持たない人たちが数多くいる。経済の面でも不安定な地域がたくさんある。情報が制限されている人たちもたくさんいる。そのなかで、私たちがいかに恵まれ、いかに大きな力を手にしているか。私たちは、それだけ責任を負っていることも自覚しなければなりません。

「友だちのファッションに刺激を受けるように、私たち自身の行動がロールモデルになる」

――環境にやさしいくらしを心がけたり、政治に参加したりしたいと思っても、日々時間に追われたり、周りへの気兼ねから、踏み出せないという葛藤も……。

セヴァン 以前、私は、考え方の違う人でも説明すれば理解して、行動を変えてくれるのではないかと思っていました。けれど今は、理解だけでは必ずしも行動に結び付かないと思っています。

 長年環境活動をしてきて行き着いた答えは、まず、自分はどんな生活をしたいのか、どう生きていきたいのかを明確にし、それを実現するために生活を見直していくこと。そういう姿が周囲にも影響を与えていくということです。

 友だちが運転している車、ファッション、食べているもの……そういうことから私たちは自然に刺激を受けている。そして、周りから影響を受けるだけでなく、私たち自身が影響を与えるロールモデルにもなり得るのです。

セヴァンがそうであるように、誰しもが「ロールモデル」になれる(写真=亀山ののこ)

 私の祖父が、よくこう言っていました。「自分が声を上げることで誰かに反対されたり攻撃されたりするかもしれないけれど、声を上げなければお前が存在していることさえ気づかれないかもしれないんだよ」。一番パワフルなのは自分が行動を起こすこと。私はそう信じています。

 日々のくらしで手いっぱい、という気持ちもわかります。それでも、私は、今は人類の歴史にとってとても特別なときなのだと訴えたい。みんなでアクションを起こしていかなければこの危機を乗り越えることはむずかしいでしょう。

 この時代、私たちの日々の行動が世界に大きな影響を与え、気候変動にも影響を与えていきます。それが私たちの子どもたちの将来を形づくっていくのです。

 「あなたたちは、何をしたのか、何をしなかったのか」――私たちはきっと、未来の世代からそう問われるはずです。

 力を合わせてどのような社会をめざしたいのか、どういう未来を手渡したいのかを話し合い、実現していきましょう。

※この記事は、2016年5月8日に明治学院大学・白金キャンパスで行われた「セヴァン・スズキのBe the Change! ツアー@東京~ミライノセンタク」を元に構成しました。

取材協力/ナマケモノ倶楽部 取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部