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写真:アフロ

1日に何リットルの水を使っている? すぐできる夏の自由研究

  • 環境と平和

お風呂にシャワー、炊事、洗濯、トイレ……私たちの毎日は、水がなくては成り立たない。でも、「1日に何リットル使っていますか?」と問われて即答できるほど、日々の水の使い方を意識している人は少ないのでは。夏休みは、子どもといっしょに水の大切さを考えてみるいい機会。水ジャーナリストの橋本淳司さんが、今からでもすぐに取り組める、夏の自由研究を教えてくれた。

50リットルの水で1日過ごせるか? 気づきを生む体験授業

 橋本さんは、小学生から大人まで、さまざまな層を対象に、水の授業を行っている。そのほとんどは体験やワークショップを通して学んでいく参加型の授業だ。

 「小学生に水について話してほしいと初めて頼まれたのは、もう15~16年も前のことです。そのときは、途上国の子どもが水汲みに苦労していることなどを話したんです。そうしたら、『かわいそう』という感想ばかりが出てきて、これは失敗したぞと思いました。遠い国の話を自分ごととして考えろ、というほうが無理なんです。みんな、生まれたときから水道がある環境で育っているのですから」

小学校での出張授業。「水はどこから来るか」を考える

 もっと相手の心を動かす伝え方が必要だと思っていたとき、別の小学校の先生から「子どもたちが水の大切さに気づく合宿をやりたい」と、相談を受けた。そこで、一生懸命練り上げたのが、「50リットルの水で1日を過ごしてみよう」という授業だった。

 50リットルは、「人間らしいくらしをするために1日に最低限必要な水の量」(※1)とされている数字だ。しかし、シャワーを1回浴びるだけでも60リットルの水を使う。授業では、子どもたちからブーイングの声が上がった。無理もない。

 子どもたちは不満をもらしながらも、アイデアを出し合って水の使い方を工夫し、奮闘し、水の大切さに自ら気づいていった。その様子は、橋本さんの著書『100年後の水を守る』(文研出版)に詳しく書かれている。同書は、今夏、神奈川や埼玉などで小中学生向けの推薦・指定図書に選ばれた。

体験型授業を受けると水について興味が高まる。みずたまカードに書かれた子どもたちの質問に1つずつ答える

 「この経験は、ぼくにとって貴重なものとなりました。その後も学校などでの水の授業を続けていますが、ぼくが何かを教えるのではなく、気づいてもらうこと、考えてもらうことが大切だと思っています」(同書より)

※1:世界保健機関(WHO)が定めた「一日に最低限必要な水の量」

お風呂、トイレ、炊事……家族で使った水の量を調べてみよう

 橋本さんが「家で1日でもできる」と、考えてくれた自由研究のひとつ目は、「1日に家族全員で水をどれだけ使ったか調べる」というもの。「1日を50リットルで」の授業に比べると、かなり手軽で取り組みやすい。

 おおよその基準になる水の量は、下記のようになる。

トイレ 10リットル
食事の用意・後片づけ 60リットル
お風呂 200リットル
シャワー 60リットル
洗濯 100リットル
洗濯(風呂の残り水を使う場合) 50リットル
手洗い・洗面 6リットル
歯磨き(※2) 6リットル

※2:蛇口の水を、30秒間出しっぱなしで口をすすいだ場合。コップに水を入れて使った場合は約300ml。

これに、使った回数をかけて合計すれば、1日の水使用量が調べられる。

 「こうして調べてみると、料理や飲み水などの口に入る水以外で、こんなに使っているということが、まずわかります。合計量を家族の人数で割ると、一人当たりの水使用量も出せますね。水道の請求明細から1リットル当たりの水の値段を割り出せるので、何にいくら使っているのかも見えてきます。無駄に使っているなと思ったら、どこが減らせるか考えてみる。シャワーや歯磨きを流しっぱなしで使うのはやめてみようかとか」

 「ちなみに、日本の生活用水の1人1日の平均使用量は、289リットル(※3)です。その内訳は、次の通り。

飲料水などとしておなかの中に入るのは、せいぜい5リットル(2%弱)ぐらいだと思います」

 1日289リットルという数字は、ほかの国と比べるとどうだろう。

 「ヨーロッパは、平均150リットルぐらいですから、日本のほぼ半分なんです。でも、気候や風土の違いを考慮する必要があります。気温も湿度も低いと、1日おきにシャワーを使うだけというふうになり、水使用量も大きく減ります。世界を見回してみると、自分たちの水の使い方が決して当たり前ではないことに気づきますね」

※3:「日本の水資源 平成26年版」(国土交通省)より

料理にかかる水の量を計算してみよう

 自由研究ふたつ目は、料理をつくる際にかかる「バーチャルウォーター(仮想水)」を計算してみようというもの。バーチャルウォーターとは、野菜や肉などを生産する際に必要とされる水をさす。

 「料理と水の関係がすごくおもしろいなと思っているんです。環境省がホームページで公開している仮想水計算機を使ってみましょう。これを使えば、バーチャルウォーターが、簡単に調べられますよ」

 では、肉じゃがを例に実際にやってみよう。

材料 計算したバーチャルウォーター
豚肉 200g 1,180リットル
じゃがいも 3個 55.5リットル
人参 1本 41.175リットル
玉ねぎ 1個 37.92リットル
しらたき(※4) 1袋 201.25リットル
合計 約1,516リットル

※4:こんにゃく1枚に相当と仮定

 ひとつの料理でも、じつに多くの水を必要としているのがわかる。ほかにも、色々な料理で調べてみるとおもしろいかもしれない。

野菜や肉が食卓に上るまでには、驚くほどたくさんの水が必要だ

 「大事なのは、それぞれの材料の産地をおさえること。玉ねぎは海外産の場合もありますね。豚肉は国内産であっても、豚が食べるエサは海外産がほとんどではないでしょうか。地図上に上の数字を入れて『肉じゃがのお水地図』をつくってみましょう。じゃがいもが北海道産だったら、北海道の水を55.5リットル使ったことになります。豚のエサのとうもろこしがアメリカ産だったら、おおまかですが、アメリカの水を1,180リットルというふうに」

 「こうすると、わが家の食卓にどこの水がどれだけ運ばれてきたかが地図上に表現されます。これに気づくだけでも楽しいと思いますが、もう一歩進めて、その土地の降水量を調べてみるのもよいでしょう。雨の少ない地域から食料を買うということは、水不足を引き起こす原因になりかねません。それならば、もっと水の多いところから買う工夫はできないだろうかと考えることにつながりますね」

中国・鄭州(ルビ=チェンチョウ)市の小学校での水の授業。水不足、水汚染が深刻な中国で、市民に対して水教育をする節水リーダーを育てるプロジェクトの一環で行った

 日本の食料自給率は40%。それは、輸出する側の国の水を大量に使っていることを意味する。いっぽう世界には水不足や食料不足に困っている地域がたくさんある。

 「僕は、将来も変わらず海外の食料を輸入できる可能性は低いと思っています。食べ物という水を、お金を払って買ってきたけれど、それがいつまでも続くとは限らない。国内でつくられた食べ物を大事にしたほうがいいということです」

水とエネルギーのつながりも意識して

 子どもといっしょに学ぶ大人へのメッセージを、橋本さんからいただいた。

 「ぜひ、自分が使っている水に愛着をもってほしいです。たとえば東京の水はおいしくなったといわれていますが、その背景にはオゾン殺菌とか生物活性炭の利用などの莫大なエネルギーが使われています。でも、それに気づかずに、その水でトイレを流してしまっています」

 「じゃあ、エネルギーを抑えて水をつくるにはどうしたらいいのか。水は汚れたら浄水すればいいやと思うのが日本人のくせになってしまっていますが、本当は地元のきれいな水源の水を使うのが一番エネルギーがかかりません。それを守っていくには、水源のある森林の状態が大きく関係しています。間伐や下刈りなどの手入れがきちんとされている森は、元気な土が水を吸収し、水を育んでくれます」

森に降った雨は、土にしみこみたくわえられ、やがて湧き水になって川に流れていく

 「雨水の活用もエネルギーが少なくてすむ水の使い方です。今夏の東京のように、渇水で大騒ぎするのなら、もっと雨水をきちんと活用したほうがいいと思います。都民の年間水使用量は約20億トンなのに対し、東京都で1年に降る雨の量は25億トンです。たとえば、トイレの流し水を雨水に変えるだけで、ダムへの依存度は下げられます」

 私たちの日々は、目の前のことに追われがちで「100年後の水」に思いをはせて、何か行動を起こすことはむずかしそうにも思える。すると、橋本さんは、「ひとりでやろうと思わないことです」と言って、小学校3年生の娘さんとのエピソードを教えてくれた。

「水の研究は、ぜひ楽しみながらやってください。その国の言葉では水のことをなんていうのか調べたりするのもおもしろいですよ」

 「娘が言ったんです。『お父さんは100年後の水を守ると言っているけど、100年後は死んでるよね。守れないじゃない』と。ああ、そうだなと思ったんですけれど、『これはお父さんひとりで守ろうと言ってるんじゃないよ。もし、あなたもこの本を読んでこういうことが大事だと思ったらいっしょに守ってほしいし、友だちや自分の子どもに伝えていってくれれば、100年後の水は守ることができるんだよ』と話しました」

 「みんなでやっていくためには、身近な水の大切さを知り、伝えていく人を増やすことが大事だなと思っています」

 夏休みの水の自由研究も、その一歩になるに違いない。

取材・文/山木美恵子 構成/編集部