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写真=映画『聖者たちの食卓』(左)/映画『未来の食卓』(右)より

写真=映画『聖者たちの食卓』(左)/映画『未来の食卓』(右)より

[子どもたちの食(2)]明日、飢えないという幸せ 「世界食料デー」に観る食卓のドキュメンタリー

  • 食と農

10月16日は、世界食料デーということをご存知だろうか。NPOやNGO、国際機関が呼びかけ、飢餓や食料問題など、世界の食について考えようという取り組みだ。「みんなで食べる幸せ」があれば、明日を生きられる――映画を見ながら、そんなことを子どもといっしょに学んでみるというのもいいだろう。メジロフィルムズ代表で映画ライターの松下加奈さんに、2つの「食卓」にまつわるおすすめの映画をうかがった。

毎日10万人分の食事を無料で提供する食堂

 これまで飢餓や食料問題といえば、南半球、アジアやアフリカなどの途上国の問題として捉えられてきました。でも最近は、飽食の国、日本でも「貧困」は確実に忍び寄っていて、もはや地球の裏側の話ではなく、もっと身近なトピックになっています。そんないま、これからの食を考えるうえでヒントになる、2つのドキュメンタリー映画を紹介したいと思います。

 ひとつ目は、2014年に公開となった『聖者たちの食卓』というインドのドキュメンタリーです。私は、以前勤めていた映画配給会社のアップリンクで、この映画の担当をしていました。

 舞台は、インドとパキスタンの国境付近にひっそりと建つ黄金寺院という金ピカのシク教の寺院です。その寺院には、毎日10万人分の食事を無料で提供している巨大食堂があります。映画には、その膨大な食事、主に豆カレーを用意するキッチンの舞台裏や、驚愕するアクロバティックなインド流後片付け術が次々と映し出されます。

 朝、畑で収穫するところから始まり、大きな鍋で玉ねぎを炒めたり、インドの薄焼きパンであるチャパティを次々と焼き上げたり、粛々と厳かに、でもインドらしい騒がしさのなか、祈りとともに食卓の準備が進んでいきます。食事は多くのボランティアのスタッフや寄付でまかなわれていて、時にシングルマザーや、家庭内暴力で行き場のない親子のセーフティネットにもなっています。

 寺院で働く人のなかには、盗賊や理由(わけ)ありの、いわゆる外の社会で生きていけなくなった「裏稼業」の人たちもいます。労働を対価に、寝食の場所と安らぎを得る人々は後を絶ちません。人種も階級も社会的な立場も関係なく、食べることに困った多くの人々が、ここを訪れ、食を得ているのです。

飢えないという確信は、本能的な安心感と創造性を育む

 私は、この映画と貧困が加速する日本の状況を重ね合わせたとき、一見豊かな食がある日本にも、みんなが安心してごはんを食べることができる場が必要なのではないかと思い始めました。

 そんなときに縁があり、この映画といっしょに、「こども食堂」という、子どもは無料、大人は寄付することでいっしょに食べられる1日限りの無料食堂を、都内のお寺を借りて開催することになりました。

 発起人はオルタナティブなライフスタイルを提案する雑誌『マーマーマガジン』の編集長、服部みれいさん。みれいさんは、この映画を観て、すぐに「こども食堂をやりたい」と話してくださったのです。

 食材は、すべてつながりのある農家さんからいただいた季節の野菜。料理家のたかはしよしこさんが、腕によりをかけて食事を作ってくれました。それは、単に映画を紹介するという仕事を越えたところで、多くの人が一体となっての取り組みでした。

写真提供=ブログ「マーマーな農家」より

 人参嫌いのお子さんが、有機人参で作ったスープをぐびぐび飲み干す姿は印象的でした。嫌いなものを食べられるよう工夫してもらったり、「おいしいね!」と伝える相手がいる。食卓を囲むということは、うれしい感情を誰かと共有できることなんだなと思います。何より、満足そうにおなかいっぱいにしている子どもたちの姿を見ていると、こちらまで満たされていきました。

 コンビニに行けば、簡単に食事が手に入る。ワンコインで安易におなかを満たすこともできる。そんな日本に生きている私たちには、飢えなんて想像しがたいことです。でも、この映画に出合って、「平等におなかを満たす」ということは、いかにむずかしいことなのか、いかに貴重なことなのか、ということを考えさせられました。

 満腹から来る、明日飢えないという確信は、本能的な安心感と、次の食事の心配をせず、明日は何をして過ごそうという創造性を育みます。満腹というのは、とても人間的で、本当に大切なことなのだと気付かされます。

子どもと老人の給食を、すべてオーガニック食材にするという挑戦

 食卓のあるべき姿として、もうひとつ紹介したいのが、『未来の食卓』という南フランスのドキュメンタリーです。ゴッホが晩年を過ごしたアルルの近く、バルジャック村というのどかな田舎町を舞台に、子どもたちの給食と老人たちの食事を、すべてオーガニック食材にしようと、村長たちが四方八方、奮闘する姿を描いた作品です。

 公開は2007年、今から9年近く前です。オーガニック食材が、今ほど認知されておらず、日本では生協や自然食品の専門店に行かないと手に入らない入手困難な食品でした。来日された映画監督のジャン=ポール・ジョーさんが、「オーガニックの緑茶を飲みたい」と言うので、担当だった私は、オーガニックショップを探して六本木をさまよったのを覚えています。

 当時に比べると、オーガニックという言葉も浸透し、有機の食材を使ったおしゃれなカフェや惣菜屋も増え、さらに自然派のコスメやシャンプーも専門店ができるようになって、市民権を得たと思っています。

 久しぶりに映画を見直し、9年たった今でも思うのは、この給食をオーガニックにするという方法は、色褪せないテーマだということです。毎日一定数の食事をまかなう給食というシステムにオーガニックが組み込まれることによって、その土地の食材を使い、地域の経済を潤し、雇用も生まれ、子どもたちには土地への愛着も育まれる。地球の裏側から、肉や野菜を輸入して、それが国内の野菜より安くスーパーに並ぶということ自体が不自然なのだと気がつきます。

世界のオーガニック市場を拡大させているのは、お母さんやお父さんたち

 映画の中には、最初オーガニックに無関心だった大人たちが、子どもたちの影響でオーガニックに目覚めていくというシーンがあります。大型スーパーでの買い出しから解放されて、近くの個人商店で買い物をするようになると、選択肢が減って、悩まなくて済み、冷蔵庫も必要なものだけでスッキリするようになったというお母さんたちも出てきます。野菜が苦手だったフィリップ君も、野菜のおいしさに目覚め始めます。

 ひとつの変化がムクムクと化学反応を起こし、広がっている様子は、観ていてすごく気持ちがいいし、とても勇気づけられます。

 無理強いは決してしないけれど、食という毎日の選択から未来をつくっていくということ。映画の公開以降も続く、世界に広がるオーガニック市場の拡大は、「やっぱりよいものを食べたい」、そんな想いを誰もがもっているそのことの証明にほかなりません。それを牽引しているのは、お子さんをもつお母さんやお父さんなのだと確信しています。

 お腹を満たすこと、信念を持って食べ物を選ぶことの大切さ、世界食料デーのこの機会に、家族といっしょにご覧いただいてはいかがでしょうか。

協力/有限会社アップリンク  文/松下加奈 構成/編集部