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©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

映画女優が見つけた、未来を変える新しい暮らしのカタチ。映画『パーマネントライフを探して』

  • 暮らしと社会

2015年にフランスで110万人の観客を動員した『TOMORROW パーマネントライフを探して』が、日本で公開中だ。監督は、女優のメラニー・ロランとジャーナリストのシリル・ディオン。世界が直面するさまざまな危機を前に、食やエネルギー、経済、教育といった切り口から、人々の切なる願いへの答えを“提案”する、ポジティブで壮大な物語だ。ドキュメンタリー映画に詳しい松下加奈さんに、作品の魅力をうかがった。

このままだと、早くて2040年に地球の循環の仕組みが破綻する

 この作品にはふたりの監督がいます。そのひとりが、フランスを代表する若手女優、メラニー・ロランです。

 メラニーといえば、ナチス占領下のフランスを描いた『イングロリアス・バスターズ』(2009年)でヒロイン役を熱演したり、人生を前向きに生きようする人々の姿を描いた『人生はビギナーズ』(2010年)などの話題作に次々と出演しています。フランスからハリウッドへと進出し、大女優への階段を上る彼女が、なぜ、映画の中でも地味といえるドキュメンタリーを制作したのでしょうか。

 発端は2012年、後に共同監督となる友人でジャーナリストのシリル・ディオンから、地球の未来に関する、ある衝撃的な論文について聞いたことから始まりました。それは、『地球生活圏の情勢変化が近づく』というネイチャー誌に掲載された論文です。

 論文の内容を簡単に言うと、“もし私たちの生活習慣を変えなければ、2040年から2100年という近い将来に地球のエコシステムが壊滅するだろう”、もっと噛み砕けば、人類がいままで通りの生活をしていくと、早くて2040年に地球の循環の仕組みが破綻する、というものでした。

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』より ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

 ちょうどそのころ、お腹に待望の第一子を身ごもっていたメラニーは、このことを聞いて、生まれてくる赤ちゃんに絶望的な未来を託すなんて、と1日中泣いて悲しんだそうです。でも、自分ならどんなことができるかと考えはじめ、新しいライフスタイルについての映画を作ることに決めたのです。

 そして、シリルとともに脚本や構成を話し合い、クラウドファンディングで制作資金を募り、もちろん女優としてのキャリアやつながりも生かしながら、映画を現実のものとしていきました。本作では、出演のみならず、映画制作で培われたセンスを充分に発揮させ、撮影の指示、編集にも携わったそう。本当に意欲的な女性です。

“新しい暮らしを始めている人々”に会いに、世界10カ国を巡る旅

 物語は、母親メラニーの視点を中心に進んでいきます。メラニーとシリルのふたりは、世界を変える方法を探すため、フランス、イギリス、アメリカ、インド、デンマーク……全部で10カ国をめぐり、食やエネルギー、経済、民主主義、教育など、さまざまテーマで、“新しい暮らしを始めている人々”を訪ねます。

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』より ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

 イギリスのトッド・モーデンで生まれた、町の真ん中で野菜を育てる「インクレディブル・エディブル(みんなの菜園)」という運動や、フランスで自然のままをモデルにしつつ収量も上げる「パーマカルチャー(持続型農業)」、アメリカのサンフランシスコではゴミを80%再利用する「ゼロ・ウェイスト」の活動、さらには2025年までに二酸化炭素の排出ゼロを目標に掲げ、再生可能エネルギーへの転換を進めるデンマークのコペンハーゲンなど、世界の先進事例が次々に紹介されていきます。どのテーマにも共通するのは、“消費社会”からの離脱です。

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』より ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

 視点は「経済のあり方」にも向いていきます。イギリスのブリストルでは、独自の地域通貨「ブリストル・ポンド」を2012年に発行、地域にある800軒近くの店やレストランで使えるようになりました。地域通貨を使うことで、地産地消を促すだけでなく、人々の間にコミュニケーションが生まれて地元への愛着が増していきます。しかも、通貨のデザインがかっこいいのです。10ブリストル・ポンド紙幣に登場するのは、なんとデヴィッド・ボウイ! こんなにかっこいいお金なら、すぐに使ってみたくなりますね。

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』より ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

 メラニーたちの世界を巡る旅は、まるで「どんな暮らしを選ぶべきか」を紹介するカタログを眺めているかのよう。私たちはそのページをめくるごとに、「これならできるだろうか?」と、自分のライフスタイルを見つめなおすことができます。未来につながる解決の糸口は、ひとつではないのです。

 映画に登場する人たちが、とびっきりの笑顔なのもポイント。楽しそうなその姿に、『さあ、何から始めよう?』とワクワクさせてくれます。

「新しい教育」という、子どもたちへの力強いメッセージ

 最後に紹介された「新しい教育」は、この映画のもっとも強いメッセージだと思います。母国語、文化や宗教が違う様々な人種が混じった生徒が集まるスウェーデンのキルコヤルビ小学校では、ひとつのクラスをふたりの教師が受け持ち、生徒ごとに違った教え方を探していきます。多様な文化のクラスメイトたちとの自由な校風のなかで、子どもたちは「答えはひとつではない」ことを自然に学び、他者を尊重する大切さを身につけていくのです。

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』より ©MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS

 他者を受け入れ、自主性を持つこと。これこそが、情報が氾濫し複雑化していくグローバル社会を生きていくなかで必要とされる知恵なのだと思います。この「新しい教育」という素晴らしいメッセージをラストに選んだのは、子育て中のメラニーだからこそかもしれません。

 いつか独り立ちするわが子のために、新しい時代を生きていく知恵を共有することは、親が子どもに贈る、大きな愛のかたちのひとつかもしれません。子どもたちは、未来そのもの。それは地球を変えるもっとも大きな力にもなることでしょう。

 さあ、あなたなら、どんな新しい暮らしを始めますか?

協力/有限会社セテラ・インターナショナル 文/松下加奈 構成/編集部