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写真=疋田千里

写真=疋田千里

『0円キッチン』で食料危機を吹っ飛ばせ! “ゴミ箱ダイバー”ダーヴィドさんの愉快でおいしい旅

  • 食と農

世界では、毎年約13億トンもの食料が捨てられている。そんななか、廃棄された食材や賞味期限が切れた食材を救出し、ごちそうによみがえらせる活動をしているのが、オーストリア人ジャーナリストのダーヴィド・グロスさん。映画『0円キッチン』は、キッチン付き廃油カーでヨーロッパ5カ国を巡る旅を描くエンターテイメント・ロード・ムービーだ。笑顔がチャーミングなダーヴィドさんに、「フードロス」という社会問題をどう“料理”したのか、うかがった。

ショックと憤りで、いてもたってもいられなくなり……

――映画の冒頭で、ダーヴィドさんが自らスーパーマーケットのゴミ箱に入り込んで、使える食材がないかを探しているのに驚きました。「ゴミ箱ダイバー」になろうと考えたきっかけは何ですか?

ダーヴィド フードロス(まだ食べられるのに廃棄される食料)に関して、以前の私はごく一般の人たちと同じくらい、つまり、「フードロスはあるだろうな」という程度の認識しかありませんでした。それが、たまたま、ニューヨークなどで、ゴミ箱に入り込んで、まだ食べられるものを探す「ゴミ箱ダイバー」がムーブメントになっていることを知って、いろいろ調べてみたんです。

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 本を読んだり科学者に会ったりして掘り下げていくうちに、世界中でフードロスの問題を真剣に考えて活動している人がたくさんいるということがわかりました。

 それで、故郷のオーストリア・ザルツブルグはどうなんだろうと思い、地元のスーパーマーケットのゴミ箱をのぞいてみたら、もう、びっくりです。多少はあるだろうと踏んでいたのですが、その量が想像をはるかに超えていて……。

©Wastecooking

 ジャーナリストという立場で、ゴミ箱ダイブしている誰かの活動をレポートするという選択肢もありましたが、もともと私自身、問題をそのまま見過ごすことができない性分で、まだ新鮮な食べ物が山のように捨てられている現実に、いてもたってもいられなくなったんです。もちろん映画人として、この活動を広めていくためにも映像化しようとは考えていましたが。

ゴミ箱のなかは宝の山!?

――ゴミ箱ダイブを体験して、どんな発見がありましたか?

ダーヴィド 最初は、ショックと腹立たしさで、これは何とかしなければと猛烈に使命感が湧いたのですが、白状すると、やっていくうちに、使命感と同時に、宝の山を探検しているような、冒険のようなワクワクするような感じにもなってきて。それで、なおさらこの体験を何とか他の人とも共有したいという気持ちが生まれました。

 といっても、最初から映画にするつもりはなく、まずは自分たちでできることからやってみようと、仲間といっしょに、ゴミ箱から救い出した食材を使った「0円キッチン」のイベントを始めました。「おなかがすいている人集まって!」と呼びかけて、みんなで料理して、みんなで食べる。その様子を撮影して、シリーズでウェブ上に公開したんです。そうしたら、思いがけずものすごい反響があって……。

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 そのうち、テレビやアートフェスティバルでも取り上げられ、最終的にはテレビ局から協賛を得ることができ、このヨーロッパ周遊ロードムービーができあがったんです。「0円キッチン」というタイトルもよかったんじゃないかな。単に「廃棄食材を使った料理番組をします」と言うだけでは、真意は伝わるけれど、楽しくなさそうですからね。

©Wastecooking

「家に帰ったら、冷蔵庫を点検してください」

――家庭の冷蔵庫を抜き打ちでチェックするシーンは印象的ですね。賞味期限切れの食材が出てきてバツが悪そうにしている主婦たちに、「どうしてこんなにしちゃったんですか?」と問い詰める。なぜあそこまで突っ込んだのですか?

ダーヴィド あそこは私も一番好きなシーンのひとつです。というのも、映画を観ているみなさんも、家に冷蔵庫があれば必ず思い当たる節があるでしょうから。あえて意地悪とも思える質問を投げかけたのも、映画を観終わった方が、家に帰って真っ先に冷蔵庫を開けてみるというアクションにつなげられたらいいな、という思惑があったからです。

 フードロスの問題の直接的な要因は、賞味期限です。いまの消費社会は賞味期限のルールにしばられてしまって、食べられるか食べられないかを自分の感覚で判断することができなくなってしまっている。賞味期限が過ぎた食材は自動的にゴミ箱行きという暮らし方が、この問題を深刻にしています。

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 本当は、賞味期限が過ぎたものでも食べられるものが多い。この映画が一番伝えたいのはそこです。家庭の冷蔵庫で眠っていた賞味期限切れの食材で料理する映像をきっかけに、わが家の冷蔵庫にあるものはどうなんだろうと考えてもらいたかったんです。

自らの五感で「賞味期限」を判断する力を

――私たちは賞味期限を守らねばならないと思い込んできたので、賞味期限切れのものを正々堂々と食べるという行為はなかなか勇気がいるのですが……。

ダーヴィド そうですよね。表示されている賞味期限を気にしないという姿勢を貫くのは大変かもしれません。でも、そもそも賞味期限というのは、次々に新しい商品を売っていくために設けられた消費社会のシステムのひとつになっている。この映画は、フードロスをなくすために何ができるかということがメインテーマですが、この問題の根本にあるのはいまの消費社会なのだということも言いたかったんです。

写真=疋田千里

 幸い私たちの家庭の中にも、においや見た目、感触で、食べられるか否かを判断するという祖父母の世代の文化がまだかろうじて残っています。いまのフードロスの問題を考えるうえでも、将来の世界の食について考えるうえでも、これからの子どもたちには、「賞味期限を守りましょう」と教えるよりも、自分自身の五感で本当の賞味期限を判断できる力を身につけさせていくことのほうが大切ではないでしょうか。

 食材を提供する側にも意識の変革を求めたいですね。実際、2016年にはフランスで、スーパーマーケットの食料廃棄を禁じる法律ができ、デンマークでも、賞味期限切れの商品を半額で売るスーパーが誕生しました。企業も業界も社会的な立場や利益を守ることを最優先しますから、私たち消費者がプレッシャーをかけて、彼らが変わらざるを得ない状況を作り出していくことも必要です。

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

小さなきっかけがあれば、習慣は変えられる

――賞味期限にしろ、スーパーの廃棄にしろ、私たちの生活習慣にしろ、変えられないことはないということですね。

ダーヴィド もちろん、変えられます。いままでの習慣をすぐにがらりと変えることはむずかしいかもしれませんが、日々の暮らしのなかにもできることがいろいろあります。たとえば、買い物に行く前にはリストをつくって必要なものだけを買う、特売があっても余計に買わない、おなかがすいたときには買い物に行かないなどです。少し意識するだけで毎日できることをコツコツ積み重ねていけば、やがてそれが習慣になるはずです。

 それと、もっとも大切なのは、自分が買う食べ物の歴史に興味をもつこと。「産地はどこ?」「生産者は誰?」「旬のとき以外に買う必要はある?」……というように、食べ物がつくられる背景を考えながら買うことを習慣にすると、いろんな意味で自分と食べ物とのつながりをもっとリアルに感じられるようになる。食べ物の選び方も変わるし、食べ物への感謝も自然に生まれるのではないでしょうか。

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 私自身、この活動を始める前は、正直言って、食べ物を捨てることにあまり気を留めていませんでした。でも、この活動に関わった直後から、一切捨てなくなった。大事なのは、自分の意識を切り替えるきっかけなんです。この映画がみなさんにとって、行動を起こすきっかけになってくれたらうれしいですね。

「食べることが人々をつなげていく」

――来日した時も、「0円キッチン」のクッキングセッションをされたそうですね。みなさんの反応はいかがでしたか?

ダーヴィド とても有意義なものでした。野菜の生産者も含め、さまざまな立場の方が集まり、それぞれが持ち寄った食材で、サラダ、フライ、スープ、パスタとグループ分けしてクッキングし、みんなで食べたんです。最初はみなさん、何をどうしたらいいんだろうと戸惑っているようでしたが、やっているうちにどんどん盛り上がって、最終的にはとても楽しい食事になりました。

©Wastecooking

 フードロスの問題は、廃棄食材の量など数字で語られることが多いのですが、それだと実感が持ちにくい。「0円キッチン」では、廃棄されようとしていた食材をおいしい料理によみがえらせていくクリエイティブなプロセスのなかで、大事なことが伝わっていくんです。実体験にまさるものはないということを、改めて思いました。

 今回、参加者のなかには、食料廃棄の現状をなんとかして変えられないかと真剣に考えている人もいれば、そこまでではない人もいました。けれど、問題意識を持っていなかった人でも、この体験を共有することできっと気づきがあるはず。それが「もしかしたら」と考えるきっかけになる。“Eating brings people together.”(食べることは人々をつなげていく)といわれるように、まさしく、「0円キッチン」には、一人ひとりの気づきをつなげ、広げていく可能性があると思います。

取材協力/ユナイテッドピープル株式会社 撮影/疋田千里 取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部