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写真=豊島正直

米から鶏へ、鶏ふんからエネルギーへ! 東北発、バイオマス発電が地域の資源循環を変えた

  • 環境と平和

生協パルシステムは、2016年10月から、原子力に頼らない再生可能エネルギーを中心とした電力の供給を、家庭向けにスタートさせた。岩手県軽米(かるまい)町にある「十文字チキンカンパニー バイオマス発電所」は、パルシステムと提携する主力の「発電産地」で、そのエネルギー源はなんと“鶏ふん”である。地域が主体となって資源を循環させ、新たにエネルギーを生み出すこの発電所を動かそうと立ち上がったのは、“電気の素人”ばかりだった。

“厄介もの”の鶏ふんが、肥料に、そしてエネルギーに

 株式会社十文字チキンカンパニーは、パルシステムで人気の鶏肉「までっこ鶏」の産地。「までっこ」とは岩手県北部の方言で「丁寧に」という意味だ。その名前の通り、手間をかけ丁寧に鶏を育てている。

 十文字チキンカンパニーが発電に活用しているエネルギー源は、「までっこ鶏」をはじめ、契約する養鶏農家などから集められた鶏ふん。鶏ふんを燃やすことで生まれた熱による水蒸気の力で、タービン発電機を回し、電気を生む仕組みだ。

写真=豊島正直

 そもそも同社では長年、地域資源循環型の「耕畜連携」(田畑と畜産の農家が連携すること)にこだわってきた。たとえば、地元を中心に300戸以上の農家が育てる飼料米は、鶏の飼料に使われる。それは、休耕田(耕作放棄地)を活用することにもつながっている。

 鶏ふんも、大切な地域資源である。発生した鶏ふんは、そのほとんどが肥料・堆肥となり、畑や水田、草地などに使われてきた。

 一方で、肥料や堆肥の需要は産地でも減ってきた。その打開策として研究を始めたのが、鶏ふんを活用したバイオマス発電である。しかし、バイオマス発電所は事業規模があまりにも大きく、同社としても、なかなか建設を決断することができなかった。

 そんなとき、未曽有の災害が東北を襲う。2011年3月11日、東日本大震災である。岩手県沿岸部にある飼料のコンビナートが津波で大きな被害を受けた。停電や道路の寸断により飼料の供給ができず、鶏舎にいる鶏180万羽と、ひな180万羽、合わせて360万羽が衰弱死してしまう。

本州初の鶏ふんバイオマス発電プロジェクト、始動

 東北の地で生きる者として、何かできることはないか。原発に依存しないエネルギー社会を、どうつくっていくべきか。震災をきっかけに、十文字チキンカンパニー内でも議論が始まった。

 「再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)」が施行されたことも後押しとなり、同社ではバイオマス発電の計画が本格的に動き出した。2014年3月、同社は発電事業への参入を表明。鶏ふんを燃料としたバイオマス発電所は、宮崎県と鹿児島県に先行事例があるが、本州では初の試みだ。

 規模の大きな発電事業は、発電プラントのメーカーに運転を委託するほうが合理的ともいえる。しかし、同社は鶏ふんの供給から、発電所の運転・管理までを一貫して行うことを選んだ。「自分たちの発電所を、自分たちで動かそう」という想いがあったからだ。

 新事業を託されたのは、鶏の生産から鶏ふんの処理まで携わってきた社員たち、いわば“電気の素人”ばかりだ。選ばれたのは、20代から40代の若手を中心に約20名。発電所係長の西舘良孝さんは、入社13年目で、ここに来る前は、鶏ふんの炭化工場で働いていた。

 「新しいプロジェクトに抜擢されたことへの期待と、本当に自分にできるのかという不安が半々でした。自分たちの手で、自分たちの発電所を稼働させる喜びもありましたね」(西舘さん)

バイオマス発電所所員のみなさん。前列左から、西舘良孝さん、坂本純也さん、山岸滉さん(写真=豊島正直)

まるでスペースシャトル打ち上げ前かのような緊張感

 発電所のスタッフに抜擢されたメンバーは、発電のイロハから学んだ。九州にあるバイオマス発電所で2週間、研修を受け、そのあとも勉強の日々が続く。

 運転員の坂本純也さんは、入社10年目で、鶏ふんを有機質肥料にするコンポスト工場で働いていた。

 「鶏ふんを燃やして、なぜ電気になるのか。初歩的なことすら分からず、必死に勉強しました。ボイラーに火を入れ、鶏ふんが燃え、発電を示す数値を見たときの感激は、今も忘れられません。本当に電気ができるんだ、と」(坂本さん)

発電所の心臓部である管理室(写真=豊島正直)

 発電したら、どこに売電するのか。「うちで買いたい」という複数の申し出があったが、売電先は「パルシステム電力」(※1)に決まった。

 十文字チキンカンパニーとパルシステムの間には、長い月日をかけて育んできた“顔の見える関係”がある。関東の消費者が岩手県を訪れ、「までっこ鶏」を通して地元の生産者と交流することも多かった。こうした経緯もあり、パルシステム電力への売電は、自然な流れだった。

 2014年11月、総工費65億円をかけて着工。建設は順調に進み、2016年7月からは試運転が始まった。発電所に対する期待と応援の声は、パルシステムの中でも高かった。ところが、ここからが至難の連続だった。

 「試運転の思い出は、失敗とトラブルばかりです。施設や設備に重大な問題が起こると、異常を知らせる警報が発電所内に鳴り響くんです。気が気ではありませんでした」(西舘さん)

写真=豊島正直

 売電開始まで1カ月を切った頃、十文字チキンカンパニーの十文字保雄社長は、自身のブログにこう綴っている。

 「バイオマス発電所の現場報告を聞きますと、課題はいくつもリストアップされていて、NASAの打ち上げ前のカウントダウンみたいに相当ピリピリしているようです」(「きまじめチキン日記」2016年10月11日)

 現場では、スタッフが一丸となって一つ一つの課題に向き合い、乗り越えていく。そして、2016年11月3日0時0分1秒。同発電所は、パルシステム電力への売電を、予定通り開始した。

※1:パルシステム生協の子会社、株式会社パルシステム電力。バイオマス、小水力、太陽光で発電したFIT電気(再生可能エネルギー)を中心に組合員に届けている。FIT電気率は87.2%(2017年度計画値)。

写真=豊島正直

燃やした後の灰も肥料に。無駄のないバイオマス発電

 同発電所の発電量は、1時間当たり約6,250kW。同発電所で使う分を除いた約4,800kW、年間約3,630万kWhをパルシステム電力に売電する。これは、一般家庭の約1万世帯分(年間)を賄える電力量だ。

 「発電所は、24時間稼働し、23名のスタッフが2交代で勤務しています。発電に使われる鶏ふんは1日400t、年間12万6000tにもなります」(西舘さん)

 鶏ふんは、カロリー(熱エネルギー)が高く、鶏舎の床に敷かれたおがくずも含むので、燃えやすい。おがくずの原料となる木は、その成長過程において大気中の二酸化炭素を吸収するため、発電時に燃やしても、全体で考えると二酸化炭素の増減に大きな影響がないともいえる。

写真=豊島正直

 さらに、使用後の燃焼灰(1日40t)は、肥料にも活用できるので、バイオマス発電のエネルギー源としては申し分ないのだが、難点はある。鶏ふんは、飼育農家によって含水率が異なるため、安定して燃やすことが難しいのだ。

 「含水率の低い鶏ふんは、ボイラーなどの設備に負荷がかかるという問題もあります。発電する量よりも、設備を安定稼働させ、電力を安定供給させることに、気を配ります」(坂本さん)

 発電所内には、ガラス張りの見学コースが設けられ、多くの見学者が歩けるように、廊下の幅も広くなっている。資源循環型養鶏の仕組みを伝える場としても、今後は使われる予定である。

 「県の内外から、いろいろな方が見学に来られます。知り合いの養鶏農家さんもいらっしゃるので、恥ずかしくもあり、うれしくもありますね」(西舘さん)

岩手県軽米町の風景(写真=豊島正直)

電気も量より質。発電量では「安全」は計れない

 地元・軽米町では、再生可能エネルギーを通して、環境保全と農山村振興を目指した街づくりに取り組んでいる。それだけに発電所への期待は、雇用の創出も含めて、地元では大きい。

 今年4月には、発電所に新しい仲間も加わった。宮城県の大学を卒業し、運転員として配属された山岸滉さんである。

 「初めてボイラー室を歩いたときは、うれしかったです。『この大きな施設を、自分で動かすんだ』と。火力や原子力のほうが、安定して、一度にたくさんの電気を発電できるかもしれません。でも、鶏ふんは、原子力に比べると、安全で安心できるエネルギー資源です。この発電所には、発電量だけではない意義があるはず。その誇りを胸に、頑張っていきたいです」

 発電所長の古舘裕樹さんは、今後を見据え、次のように語る。

 「これからでしょうね、発電所が持つ意義や、自分たちの存在の重みを感じるのは……。安全に安定稼働させることが、私たちに課せられた使命です。そのうえで、この仕事に対する想いを、自分の言葉で語ってほしい。それが、この発電所をよりいいものにしていくモチベーションになるはずです」(古舘さん)

所長の古舘裕樹さん(写真=豊島正直)

 発電所から続く送電線には、「十文字チキンバイオマス支線」と書かれたプレートがついている。ここで発電された電気は、この“支線”を通して、遠く離れた関東へと送られている。

※パルシステム連合会発行の月刊誌『のんびる』2017年8月号では、「共につくるエネルギー」を特集しています。『のんびる』のバックナンバーはこちら

取材・文/濱田研吾 撮影/豊島正直 構成/編集部