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写真=持城壮(写真工房坂本)

加工場の隣に託児所をオープン! 子育てしながら働ける環境づくりに挑戦する農業生産法人

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「子どもを保育園に預けられない」「育児と仕事の両立が難しい」という悩みを抱える女性は多いのではないだろうか。そんな中、子育てしながら働ける職場にしようと、群馬県昭和村にある農業生産法人「グリンリーフ株式会社」が、加工場の隣に社内託児所をオープンした。働く子育て世代を応援するために開設した託児所だが、働き手不足に悩む農村の事業者にとっても、うれしい効果が生まれている。

もし、この託児所がなかったら……

 グリンリーフ株式会社は、生協パルシステムが提携する産直産地「野菜くらぶ」のグループ会社だ。JAS有機認証を取得した『コア・フードこんにゃく』や『産直野菜を使った糖しぼり大根』などを製造している。グループ職員が利用できる託児所がオープンしたのは、その加工場のすぐ横だ。

 託児所の玄関から中に入ると、ほんのり木の香りがする。建物は、ふんだんに無垢の木材が使われている。見上げると、八角形の木組みの模様が美しい天井。木のぬくもりを感じさせるギャラリーのような室内だ。

国産材を使った八角屋根と床が美しい託児所。雪が積もる冬でも、薪ストーブのおかげで室内はポカポカ(写真=持城壮)

 グリンリーフのある昭和村は、上越新幹線の上毛高原駅から車で約30分。こんにゃくや高原野菜の産地で、赤城山ろくが間近に見える農村地帯だ。冬は雪が積もり、寒さが厳しいが、薪ストーブのおかげで託児所の中は暖かくて快適だ。灯油やガスの暖房ではなく、自然エネルギーである薪の「火」のぬくもりを感じられるよう設置されている。

 取材に伺った日、託児所にいた子どもたちは3人。奥利根と呼ばれる群馬県北部の天然ヒバ材を使った床の上を、はだしでペタペタと気持ちよさそうに遊び回っていた。

 お昼。お弁当を持参したお母さん、お父さんが次々とやって来て、昼食が始まる。子どもたちは、うれしそう。少しだけ甘えん坊モードになっているようにも見えた。

 りんのすけ君(1歳)の母・青木亜紀子さんは、漬け物の袋詰め作業を担当している。「保育園が定員いっぱいだったので、この託児所がなかったら、育休が終わったあと仕事に戻れませんでした。助かっています」と話す。

青木亜紀子さんとりんのすけ君(写真=持城壮)

 ひなた君(1歳)の父・木暮昌弘さんは、「妻もここで働いているんですが、商品開発を担当していて出張なので、きょうは私が来ました」と話してくれた。木暮さんは有機栽培の小松菜やほうれんそうの農場長なので、出荷のピーク時期は明け方から夜まで仕事が続く。「でも、畑から事務所に戻って託児所の前を通るとき、子どもの顔を見ることができるので、それが楽しみなんです」

 ゆのちゃんは小学1年生だが、この日、学校が休みになったため、託児所で過ごすことになった。商品開発の部署で働く母親の小林彩瀬さんは、「今朝はこの子が『ママ、お昼は来るんだよねーっ』と言って、昼食時間を楽しみにしていたようです。祝日や週末などに仕事が入ったときも預かってもらえるので、いっしょに出社するんです」と話す。

小林彩瀬さんとゆのちゃん(写真=持城壮)

子育てしながら働ける環境を

 この託児所がオープンしたのは2016年8月。グリンリーフのような農業生産法人が事業所内託児所を作る例はまだ珍しいといわれているが、若い社員を確保するために思い立ったと、社長の澤浦彰治さんは話す。「働き手を募集しても集まらないし、派遣さんもなかなか来てもらえないで、困った状況だったんです」

グリンリーフ社長の澤浦彰治さん(写真=持城壮)

 グリンリーフでは、こんにゃく、漬け物の加工などに人手がいるが、必要な人材は同社だけではない。敷地内には、野菜販売を行う「野菜くらぶ」など同じグループの事務所が集まり、農産物の栽培から、加工、流通まで多角的に手がけている。雇用している社員はグループ全体で約200人。野菜くらぶの社長でもありグループ全体をまとめる澤浦さんにとって、人手不足は大きな問題だった。

 「長時間労働の問題で企業が残業を減らしていますね。そのうえ、この地域では工場の閉鎖もありました。世帯所得が減っているので、子どもを預けながら働きたいという女性はいると思ったんです」

 託児所をつくった理由はそれだけではなかった。すでに働いている女性のためにも必要だったと澤浦さんは話す。

 「うちは女性が約8割と多くて、最近は出産ラッシュなんです。だから、会社としては、出産した社員に復帰してもらいたいし、社員のほうにも復帰の希望があります。ただ、出産して半年くらいで保育園に預けると保育料がすごく高い。だったら、そういう場所を自分たちでつくればいいと思ったんです。うちでは子どもが3人、4人という人もいますから」

年齢の違う子どもが一緒に仲良く遊んでいるのも、職場の託児所ならではの光景(写真=持城壮)

「お母さん、お仕事がんばってねー」

 この託児所で子どもの相手をしているのは保育士二人と、グリンリーフグループの社員である藤岡厚子さん。藤岡さんは、ソーラー発電事業を行うビオエナジー株式会社保育課に所属している。

 藤岡さんによると、3月段階で預かっている子どもは通常7人。夏休みや冬休みには、小学生を一時的に預かり、宿題などの世話もするそうだ。

託児所に常駐している職員の藤岡厚子さん(写真=持城壮)

 託児料はグループ各社が一部を負担しているので、1時間50円(1歳未満は80円)と驚きの安さ。託児所開設後、4人が新規雇用となり、4月までに産休明けのふたりのお母さんが新たに職場復帰する予定だという。

 「職場がすぐ近くなので子どもたちも安心しているようです。『お仕事がんばってねー』と言って、子どもがお母さんを職場に送り出すんですよ」と藤岡さんは笑う。

 「託児所をつくってみたら、社内が明るくなった。もともと明るいんだけど、子どもがいることによってなごむというか、いやされるという感じなんです」(澤浦さん)

 託児所の子どもたちは、親以外の働く大人にとっても、大切な存在となっている。

※本記事は、パルシステム連合会発行の月刊誌『のんびる』2017年4月号より再構成しました。『のんびる』のバックナンバーはこちら

撮影/持城壮(写真工房坂本) 取材・文/編集部