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写真=坂本博和(写真工房坂本)

写真=坂本博和(写真工房坂本)

「子どもと一緒に出勤できます」 20年前から“子連れ出勤”を続ける授乳服メーカー「モーハウス」

  • 暮らしと社会

子どもの預け先を確保できずに悩む女性が多くいる。そんな中、産後すぐに赤ちゃんと一緒に働くことができる「子連れ出勤」に取り組む企業も増えてきた。人目を気にせずいつでもどこでも授乳できる画期的な授乳服を開発している授乳服メーカー「モーハウス」は、今から20年前の創業当初から「子連れ出勤」を続けている。茨城県つくば市にあるオフィスで、子育てと両立しながら生き生きと働くお母さんたちの声を聞いた。

きっかけは電車の中の体験

 約20人のスタッフが働くモーハウス本社のフロア。現在5人の女性がそれぞれ働きやすいシフトで子どもと一緒に出勤しているという。ひざの上に抱っこしてパソコンに向かう姿はとても自然で、小さい子がオフィス内を歩き回っても、だれかがさりげなく相手をしている。

 創業の1997年から実施しているという「子連れ出勤」は、3人の育児と両立しながら働いてきた代表・光畑由佳さんにとって当たり前のことだった。そもそもモーハウスは、当時0歳だった光畑さんの次女が電車の中で泣き止まず、人目が気になりつつも授乳して泣き止ませたという体験がきっかけで始まったのだとか。

 「母乳育児の人が気軽に外出できないのはおかしいという問題意識からスタートした会社です。次女が0歳数か月のときに自宅で始めたので、子どもを抱っこしたり、近くに寝かせたりしながら仕事をしていました。そのうちに集まってくれたスタッフや応援してくれる友人もみんな子連れでしたから、私たちにとって子連れ出勤は、当たり前で自然なことだったんです」

「子連れ出勤を通じて女性の選択肢を広げたい」と話す、モーハウス代表の光畑由佳さん(写真=坂本博和)

 当たり前ではないと気づいたのは数年後、商品ではなく「働き方」を取材したいという新聞社からの取材依頼があったときのことだった。

 「当時は、なんで働き方? 商品がすごいのに!とガッカリしました(笑)。ですが実際に取材をしていただいて、当たり前だと思っていたこの働き方が全国紙に載せていただける価値を含んでいるということに気づきました。私も独身の頃、子どもができたら自分の仕事人生は終わると思っていたので、そのときに子連れで働ける会社があると知っていれば、子どもを産むことは何かをあきらめること、という思い込みをなくせたかもしれない。その瞬間、子連れ出勤をさらに広めたいと思いました」

赤ちゃんは泣くのが仕事ではない

 子連れ出勤といえども、会社は“仕事”をする場所。光畑さんはスタッフに「子どもは泣かないようにしてほしい」とお願いしている。

 「よく“赤ちゃんは泣くのが仕事”と言いますが、私はそうは思いません。泣くのは何かしら不快なことや困ったことがあるから。ここは仕事場ですから、泣かせっぱなしはダメですよね。おっぱいをあげたり、抱っこしたり、おむつを替えたりして不快を取り除いてあげる。それが仕事を優先することにもつながります。ある意味子どもにとっては、家よりも会社のほうがきちんと見てもらえるかもしれません(笑)」

 取材中も「ふえっ」と一瞬、泣き声が聞こえることはあったが、大泣きすることはない。丸1日誰も泣かないこともあるとか。

 「ここは子ども好きのスタッフが多い職場ですが、子どもが嫌いな人も許容できる子連れ出勤じゃないと社会性はないと思うので、それが可能だということを実証していければなと思います。要は子連れ出勤を通じて女性の選択肢を広げたいんです。私が昔そうだったように、子どもがいる状態で働くことは不可能と思っている人のために、突破口を開きたいというか。どうしてダメなの?という問いかけをしていきたいですね」

 粉ミルクで育てるお母さんの子連れ出勤は、ミルクの準備で離席して仕事が中断されることもあり、思うようにはいかなかったという。だが、これまでモーハウスでは、のべ300人以上のスタッフが子連れ出勤を行ってきた。多くの女性の働く選択肢が広がったことは間違いない。

子連れ出勤している杉山貴子さん。福子ちゃんを抱いて仕事をする姿も周囲に溶け込んでいて自然だ(写真=坂本博和)

 人見知りせず、にこにこと愛らしい笑顔を見せる1歳2か月の福子ちゃんと出勤しているのは、大学を卒業後に入社し、現在、通販チームのリーダーをつとめる杉山貴子さん。

 「大学時代、進路に迷っていた時期があったんです。働き続けたいけれど、女性はキャリアを積んでも将来的には結婚、出産などの節目で悩むことになる。まだ何も予定がないうちからそんなことを考えては悶々としていて。とにかく将来のイメージがとても暗かったんです」

 その悩みを大学のゼミの先生に相談したところ、「あなたみたいな子が行くといいかもしれない」と紹介されたのがモーハウスだった。入社後、子連れで仕事をしている先輩たちの姿に、杉山さんはカルチャーショックを受けたと言う。

子連れ出勤は社会性のある子を育てる

 「みなさん子どもと一緒に楽しそうに仕事をしていて、何よりもそれがきちんと利益を生み、給料を払って成立している会社組織であること自体がとても素敵だなと。イメージがガラッと変わり、将来が明るくなりました(笑)」

 取材中もほかのスタッフのひざの上に座ってごきげんの福子ちゃん。見ているこちらが福をもらえるような笑顔だ。

 「産後4か月から最初は週2回でゆっくり復職したのですが、子どもが場所や人に慣れてからは私じゃなくても誰でもいいので(笑)、一緒に子育てしてもらえて助かっています。家でふたりきりだったら、もっと大変だったと思いますね」

 モーハウスでは子連れ出勤の期間を、事務系スタッフの場合は子どもが1歳になるまで、ショップスタッフの場合は2歳になるまでを大まかな目安に、個別に相談して決めている。

 「ここに来ていた子どもたちはみんな社会性がある子どもに育っている」と光畑さん。

 「小さい頃から社会に出てさまざまな環境、人に触れているので、コミュニケーション能力や環境に適応する力を持った子どもに育っているように感じます。“就活に有利です”と言うと短絡的すぎますが(笑)、分断化された社会の中で、多様性のある環境に小さい頃から身を置くことは悪いことではないと思います」(光畑さん)

お互いさまと支え合って働く

 事務系スタッフだけでなく、つくばと青山にあるショップにも子連れ出勤で働いているスタッフがいる。ショッピングモール「LALAガーデンつくば」にあるつくばショップで、長女の出産後から働いているという園部幸枝さんは、次女の稔哩ちゃんとともに出勤する毎日。赤ちゃんを抱っこしてお買い物に訪れていたお客さまと並ぶと、どちらが店員さんかわからない。園部さんがモーハウスを知ったきっかけは、お姉さんからの授乳服のプレゼントだった。

モーハウスの授乳服。左右にスリットがあり、授乳時にはさっと開くことができる(写真=坂本博和)

 「結婚後、新しい土地に慣れないうちに子育てをスタートし、ひとりで家の中にいる毎日でした。子育てについて話せる相手が身近にいなかったので、ついついインターネットを見てしまい、さまざまな情報に惑わされては落ち込むことも。そんなときに姉から子連れ出勤のことを聞き、応募してみようと思ったんです」

 採用が決まり、「出社初日のお化粧には力が入りました」と笑う園部さんの生き生きした笑顔からは、落ち込んでいた頃の姿が想像できないほど。だが、初めての育児に戸惑いながら自分の殻に閉じこもってしまう女性は少なくない。現在は、まわりのスタッフと「お互いさま」と支え合い、夫の理解と協力のもと、楽しく働けているという園部さん。

 「悩んでいるお客さまに、私の育児体験をお話して安心していただけるとうれしいです。いろいろとお話したお客さまがリピーターとして来てくださることが、仕事を続けていく喜びになっています」

 園部さんが接客されていたお客さまも「先輩お母さんなので、育児のコツや心配ごとを相談できて心強い」と話してくれた。

つくばショップで働く園部幸枝さん(右)。同じ年頃の子どもがいる母親同士、商品を手にしながらの会話も楽しそうだ(写真=坂本博和)

「子なれた社会」が生む寛容なまち

 子連れ出勤を可能にしているのは「授乳服を着て授乳する仕組み」だと光畑さんは言う。

 「赤ちゃんがぐずったらサッと授乳できるので、飲ませている間は頭を押さえる右手が使えないとか、多少のことはあるかもしれませんが、やっていた仕事が途切れることはありません」

 実際、園部さんが接客中にぐずり出した稔哩ちゃんにサッと授乳した瞬間があったが、撮影していたカメラマンでさえまったく気がつかないほど。授乳服の機能性に驚いた。

園部さんはこの時、授乳中だったが、カメラマンは気づいていなかった(写真=坂本博和)

 「母乳育児と仕事とは水と油のように思うかもしれませんが、実は母乳は仕事のための最強ツール。外出するときもそうで、すぐにおっぱいがあげられる授乳服を着ていれば、電車の中でも赤ちゃんを大抵泣き止ませることができる。そんな最強ツールを装備していれば、お母さんに安心感が生まれて出かけやすくなりますよね」

 お母さんの安心感は子どもにも伝わる。杉山さんが家族3人で回転寿司を食べに行ったときのこと。帰り際にとなりの年配の女性から「おりこうでびっくりした。全然うるさくないのね」と声をかけられたことがあったという。

 「やっぱり赤ちゃんはうるさいイメージがあるのかなとも思いましたが、だからこそ子育て中の私たちが、“泣かないよ”“楽しいよ”という姿を見せていくことが大事だなと」(杉山さん)

 「子連れで出かける親子が多いほど社会はその存在を認知し、子どもも親も社会に慣れていく」というのは、光畑さんが提唱する「子なれた社会」のあり方。「子どもの声=騒音」と言われてしまう現在、「一番の問題は人々がストレスフルな状況にあることでは」と光畑さん。

 「子どもを連れたお母さんに寛容でありましょう、という言葉の陰に我慢する人がいては意味がない。お互い快適でいるために何ができるか、考えていくことが大切ですよね」(光畑さん)

取材協力/有限会社モーハウス 取材・文/石本真樹 撮影/坂本博和(写真工房坂本) 構成/編集部