はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

食と暮らし、持続可能な社会を考える、
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写真=疋田千里

写真=疋田千里

地域のエネルギー革命で、暮らしを取り戻す。映画『おだやかな革命』が描く“これからの豊かさ”とは?

  • 暮らしと社会

2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まって以降、地域でエネルギー自治を目指す動きが広がっている。この動きは、私たちの暮らし方や価値観をも変えていくかもしれない。渡辺智史監督の新作映画『おだやかな革命』では、自然エネルギー事業を軸に地域再生に取り組み、身近な自然や人とのつながりを見直しながら、お金やモノ、成長や拡大だけではない「豊かな暮らし」を取り戻そうとする人々の姿を描いている。

どんな「暮らしの選択」をしていくか?

――映画『おだやかな革命』では、自然エネルギー事業に取り組む5つの地域での動きを取り上げています。しかし、この映画がテーマとしているのは、「エネルギー問題」ではないですね。

渡辺 ええ、違います。この映画では、自然エネルギー事業を「新しい豊かさ」を目指す手段の一つとして取り上げました。

 どんな映画なのかを説明するときによく使うのが、「暮らしの選択」という言葉です。人口減少が進み、成長・拡大ばかりを求めてきた社会に限界が来ている中、都市部で暮らす人も地方で暮らす人も、これからは今までと違う暮らしの選択をしていく必要に迫られています。特に3.11以降は、これまでのようなお金やモノを中心とした「豊かさ」に疑問を感じる若い世代も増えました。

 では、どんな選択をしていけばいいのか。この先にどんな希望が描けるのか。その答えが、自然エネルギーを軸に地域再生に取り組む人たちの姿から見えてくると思うのです。

これまでも私たちは、自然の力を借りながら生きてきた/©いでは堂

――前作『よみがえりのレシピ』(2012年)は、在来作物やその種を守ろうとする地域の人々を描いた映画でした。渡辺監督が、今作で自然エネルギーを切り口にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

渡辺 『よみがえりのレシピ』の公開直前に見た、『幸せの経済学』(※1)という映画が一つのヒントになりました。この映画は、行き過ぎたグローバリゼーションによるひずみを描き、自分たちの手の届くところから経済を取り戻すために、ローカライズ(地域化)していこうという内容です。『よみがえりのレシピ』も、まさに食を地域に取り戻していく道筋や持続可能な農業のあり方について描いた作品。この映画を見て背中を押される思いがしました。

3.11を経て「自分自身の意識も変わった」と渡辺智史監督(写真=疋田千里)

 また、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也さんに誘われて、地域が中心となって自然エネルギーを進める「コミュニティパワー」の会議に参加する機会を得たのも大きなきっかけでした。そこでの話を聞いて、地域でエネルギー自治を目指す動きと「幸せの経済」は、根っこの部分で同じだと気づいたんです。

※1:『幸せの経済学』(監督:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、スティーブン・ゴーリック、ジョン・ページ/製作:2010年)は、ヒマラヤの辺境ラダックで近代化と消費文化に翻弄される人々の姿をもとに、本当の豊かさを問う映画。

参考記事:いまここから始める、多様で豊かな「ローカル社会」 ヘレナさんの「幸せの経済学」(KOKOCARA)

――切り口こそ「食」と「エネルギー」で異なりますが、テーマには共通性があるのですね。

渡辺 人間はずっと長い間、食べるために作物から種を採り、作物も種を採ってもらうことで子孫を残してきました。しかし、そうした共生感覚も、種を企業から買うようになってから薄れています。『よみがえりのレシピ』を制作しながら気づいたのは、今の若い農家さんたちが、在来作物を育て、自分で種を採ることにすごく誇りを感じているということでした。

 経済優先の社会でそぎ落とされてきたなかに実は大事なものがあると気づき、自然や人とのつながりの中で、喜びや誇りに満ちた暮らしを取り戻そうとしている。その動きは『おだやかな革命』に登場する人々の姿と重なります。

人口約270人の石徹白地区に移住した平野さん一家。地元の人たちと小水力発電や地域文化の継承に取り組む/©いでは堂

次世代へ地域をつなぐために

――映画に出てくるのは、福島県喜多方市、同県飯舘村、岐阜県郡上市石徹白地区、岡山県西粟倉村、秋田県にかほ市の5つの地域です。どんな動きが起きているのでしょうか?

渡辺 5つの地域それぞれに、自然エネルギー事業を始めた背景や状況、人口規模なども異なります。例えば、喜多方市の会津電力は、3.11の原発事故をきっかけに、「地域を次世代につなげたい」と、県内7つの市町村、地元の銀行や企業、団体や個人が出資して設立されました。

 その会津電力の社長・佐藤弥右衛門さんに応援されて、原発事故によって居住制限地区となった飯舘村で畜産農家の小林稔さんが始めたのが飯舘電力です。飯舘電力では、先祖からの農地を守りながら、エネルギー事業の収益で村での仕事をつくりたいと、ソーラーシェアリング(※2)を行っています。

自然資源を生かし、持続可能な地域を目指そうと立ち上がった会津電力/©いでは堂

 一方、人口約1500人の西粟倉村は、「平成の大合併」の際に村民の約6割が合併を否定。地域の自治を守りたいと自立の道を選んだことから、村の95%を占める山林を活用しようと取り組んできました。小水力発電、森林再生と間伐材の製品化、地域通貨の流通など、行政と住民が協力しながら、さまざまな取り組みを展開してきました。

※2:ソーラーパネルの発電と農作物の栽培を同じ土地で両立させるシステム。

「100年の森林構想」を打ち出した西粟倉村には、若い移住者も増えている/©いでは堂

――西粟倉村の小水力発電による売電収益は約7200万円ですが、村の収入が5割も増えたと聞いて驚きました。

渡辺 すごいですよね。でも、大事なのは数字よりも、自然エネルギー事業で得た利益を地域のためにどう還元させるかなのです。西粟倉村では、それが福祉や子育て、再生可能エネルギー事業のために使われています。

 標高700メートルの山奥にある石徹白地区でも同じです。ここは、少子高齢化が進む人口約270人の集落ですが、「30年後も地域に小学校を残したい」というビジョンを掲げてきました。住民たちが協力しながら全戸出資で小水力発電所を作り、売電収益を耕作放棄地の活用や雇用創出に充てています。

 小さな地域ほど経済的インパクトが大きいため、エネルギー事業による効果や影響が目に見えやすいのです。

小水力発電設備の取付工事も自分たちで行う石徹白地区の人たち/©いでは堂

エネルギー事業がもたらした変化

――こうした取り組みに参加する住民たちも楽しそうで、地域に誇りを感じている様子が伝わってきます。

渡辺 エネルギー事業がもたらしたものは収益だけではありません。西粟倉村の小水力発電の収益で薪ボイラーを導入したゲストハウスでは、地元の人たちが持ってきた薪を地域通貨と交換しています。今までは放置されていた薪が活用されることで、山もきれいになり、地域通貨の利用で地域内で経済が循環するようになりました。

 これまで灯油を買うことで外に流れていたお金が、地域内に留まるだけでなく、地域にある資源を見直したり、新しい仕事ができたり、人とのつながり、喜びや誇りが生まれていました。これらは、灯油を買い続けていたら起きなかった変化です。こうした持続的で創造的な暮らしを求めて、移住する若い人も増えているんです。そして、地域の資源や文化を生かした新しい仕事を生み出しています。

薪ボイラー導入がもたらしたものは、経済的なメリットだけではない/©いでは堂

 もちろん、自然エネルギー事業といっても、大企業がメガソーラー建設で乱開発の問題を起こすようなケースもあります。しかし、もし地域の住民が、自分たちの森や川を次世代のためにどう使うかを話し合って決めることができたら、無理な開発は起こらないのではないでしょうか。

――こうした取り組みに、都市部の人たちが参加する動きもあります。その一つとして、生活協同組合(生協)による風力発電所を取り上げていますね。

渡辺 食やエネルギーを作る地方と、それを「消費者」として買う都市部の人たちは切り離されてきました。それに対して、産地と消費者が支え合い、顔と顔が見える関係を築いてきたのが生協の運動です。消費するだけでなく、つくる地方のことも一緒に考えていく。そうした「提携運動」と呼ばれるものが、食だけでなくエネルギーの分野にまで広がってきています。

 都市部に住んでいても、生協運動のようにできることはあります。食もエネルギーも衣服もすべて、何を選ぶのかは、どんな未来を選ぶのかと同じこと。「幸せな経済」を作っていくための「暮らしの選択」なのです。

風力発電を通じて、首都圏と地方が支え合う関係が生まれている/©いでは堂

――5つの地域を取材してみて、何か見えてきた共通点はあるのでしょうか?

渡辺 ええ。これまでのように国とか行政などの大きなシステムに依存したままでは、次世代へのビジョンを描くことが難しい時代です。そんな中、地域によって状況は異なりますが、それぞれ身近にある自然資本を見直し、自然エネルギー事業という手段によって、自分たちの手で新しい未来をつくろうとしている。その点では共通していると感じました。

豊富な水の流れを利用した小水力発電/©いでは堂

「何が幸せか」が軸にある暮らし

――渡辺さんが考える、これからの「豊かな」暮らしとは?

渡辺 そうですね……。どういう暮らし方、働き方が自分にとって望ましいのかを、私も含めて多くの人がいま模索している最中だと思います。はっきりと言えることは、経済成長一辺倒の時代と低成長の時代を経て、人生にとって何が大切かという価値観が、確実に変化してきていることです。

 現代のような大きなシステムの中で暮らしていると、お互いの顔も見えないし、自分でその手綱を握ることもできません。拡大や成長が最優先にされる社会では、「どういうやり方で」という部分は脇に置かれてきました。その一つがエネルギーです。しかし、これからは「どういうやり方で」というのが、大切になってくるのではないでしょうか。

「未来に向けて、一歩を踏み出した人たちの姿を見てほしいですね」(渡辺さん)(写真=疋田千里)

 それはつまり、ただ消費するためにあくせく働くのではなく、「こういう暮らしが自分たちにとって幸せだよね」、「この地域にはこういうやり方が合うよね」という、人生の喜び、人とのつながりや誇りなどを、きちんと軸にした上で、暮らしを選択していくということです。

 そんな暮らしが、幸せな「地域経済」を取り戻すことで可能になるかもしれない。そこに向かって実際に一歩を踏み出しているのが、映画に出てくる人たちです。

「豊かな地域として次に自信をもって渡していける」と会津電力の佐藤彌右衛門さん/©いでは堂

――会津電力の社長である佐藤彌右衛門さんが「便利性、合理性、コスト、効率、スピード、そのなかで一生懸命生きているけど、果たして幸せですか?」と問いかけるシーンが印象に残りました。

渡辺 この映画には、誰かスーパースターが出てくるわけではありませんし、何かすごいことが起きて社会が飛躍的に変わっていく話ではありません。

 取り上げている地域の動きは、社会全体で見れば、山の中から清水が湧き出すようなゆるやかなものかもしれない。でも、そうした揺るぎない小さな水の流れが集まることで、確実に社会は変わっていくのではないでしょうか。「おだやかな革命」というタイトルには、そんな思いが込められています。

 この映画を見た人たちが自分なりの「暮らしの選択」について考え、それぞれの場所で一歩を踏み出してくれたらいいなと思います。

取材・文/中村未絵 撮影/疋田千里 構成/編集部