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のどごしツルン。暑い夏こそ、“粉”を使いコナして食欲アップ![今日からできる台所術-4]

  • 食と農

「暑さで食欲がわかない!」「気づくと麺ばかりで、献立もマンネリ……」と、この猛暑にすっかりバテぎみな編集部の高橋と小林。食文化史研究家・魚柄仁之助さんととも数々の「台所術」に挑戦してきた二人は、今回も魚柄さんに泣きついた。悩める二人に、魚柄さんが差し出したものとは?

うまみがあと引く水晶煮に欠かせない「あの粉」とは

 「確かに、今年の夏もお暑うございます。ま、とりあえずこれでも食べて」。魚柄さんが差し出した器に盛られていたのは、冷えたトマト。何やらトロリとした液体をまとっている。

 「何だか上品です」(高橋)

 「マリネ、ですか……?」(小林)

 そう言いながら口に運ぶと、「わっ、だしがきいてておいしい!」「のどごしもよくて、後を引きます~」みるみるうちに平らげた二人。そこへ魚柄さんから種明かし。

 「これぞ、日本の夏に涼を呼ぶ『水晶煮(すいしょうに)』。塩味のだしで煮てとろみをつけ、冷やしていただく料理ですぞ。ほれ、このコナがあればすぐにできるから、キミたちもやってみなっさい」

 そう言って魚柄さんが手渡したのは、白い粉が入った瓶だ。表のラベルを見ると「かたくり粉」の文字が。

 「片栗粉、なんですね!」と、小林。「片栗粉って、麻婆豆腐とかには使うけれど、つい余らせて冷蔵庫の片隅にあるあの粉ですよね」と高橋が言えば、小林も「冷たい料理に片栗粉、ダマにならないんですか……?」と、つい及び腰。そんな二人に「何をおっしゃる!」と魚柄さんから檄が飛ぶ。

 「水晶煮は、食欲を高めて夏を乗り切るための“粉使いの妙”を感じられる調理法。覚えておいて損はないですぞ。片栗粉のとろみで、のどごしがよいのはもちろん、素材のうまみが口の中にとどまる『口中滞在時間』が伸びる。だから、冷え冷えでも深~い味わいが楽しめるというわけ。やってみればカンタンだから、とにかく実践あるのみです!」

まずは基本、粉をまとわせる「薄衣」から……

 そして用意されたのは、湯の入った鍋と、薄切りの豚肉。「まず簡単なところから、片栗粉を食材に直接つけて衣をまとわせるテクニック、『薄衣(うすごろも)』をやってみましょ。豚肉の『薄衣』なら、沸いた湯に片栗粉をつけた豚肉をささっとくぐらせるだけ!」

 言うが早いか、魚柄さんは早速手本を見せる。粉をつけて、熱湯にくぐらせて火を通したら……

引き上げるだけ。

 「本当に簡単でした!」

 そう言って、でき上がりを早速試食した高橋。「薄い肉でも食べごたえが出るのがうれしいですね。しかも、普通の豚しゃぶより表面がつるっとして、口当たりがよくておいしい!」と感想を漏らす。

 「そう、このなめらかな衣こそが『薄衣』なのです。こうして片栗粉でコーティングして火を通しておけば、生肉のまま冷蔵庫に置き去りにしておくより日もちもする。翌日のお弁当作りにも役立つでしょう」と魚柄さん。「味付けも後からでいいなんて、これは気軽。すぐにやってみたい!」と、小林も盛り上がる。

 「さ、それでは二人の番ですぞ!」

 魚柄さんに促され、まずは高橋が豚肉の『薄衣』に挑戦。

 「このくらいで火、通っていますか?」

 指を粉だらけにして苦闘しながらも、なんとか成功。「これなら家でもできそうです!」と、笑顔を見せる。

薄衣成功のコツは「魔法のひとたらし」にあり

 「よし、では慣れてきたところで、小林さんは豆腐を薄衣にしてみましょう」

 「ええーっ、こちらのほうが難しそうです」

 突然のメニューチェンジにとまどう小林。 しかし実は、豆腐に片栗粉をまとわせてゆで上げた『薄衣豆腐(うすぎぬどうふ)』は、昭和20年代以前の料理本では頻繁に登場していた「薄衣料理」の原点といえる調理法だそう。

山本惠造(1951)『お客料理十二ヵ月』主婦之友社より

 「片栗粉を均一につけるのが、難しいですね……」と言いながら、何とか仕上げることができた。

 しかし……よく見ると小林が懸念していたとおり、衣の厚さにムラができ、周囲に粉も飛び散っている。

 「魚柄さん、できればコナの始末もきれいにしたいです。一体どうしたら……!?」

 「薄衣豆腐の成功のポイントはまず、豆腐をしっかり水切りしておくこと。それでも粉の付け方が均一に行きづらかったらこうして……」と、魚柄さん、片栗粉の入ったボウルにごく少量の水をタラリ。

 「ほんの少しの水で片栗粉をなじませることで、一気にやりやすくなりますぞ」(魚柄さん)

 こうしておくと作業時に粉が飛び散らないだけでなく、衣も均一になる。

 「あくまでも水は、ごくごく少量に。水が少量なので、指で優しくなじませるように混ぜましょう。これ、今回の大きなポイントの一つですな」(魚柄さん)

薄衣豆腐はゆで始めに菜箸で動かすと、鍋底にくっつかない

  しょうゆをタラリとかけていただく薄衣豆腐。こちらも衣の分だけ味を含みやすく、豆腐のうまみがしっかり引き出されている。

 「私が大好きな揚げ出し豆腐の夏版という感じ。しかも揚げるよりずっと手軽にできるなんて、もっと早く知りたかった!」(小林)

左は水をなじませた粉でごく薄い衣、右は粉を直接まぶしつけた厚めの衣をまとっている

最後に冬瓜で、水晶煮をおさらい

 『薄衣』を一通りマスターしたところで、「それでは最後に、冒頭のトマトの水晶煮と同じ調理法で、『冬瓜の水晶煮』をやってみましょうか」と魚柄さん。

 冬瓜を、塩とみりんだけで味付けた白だし(かつお節と昆布のだし)で煮て、水溶き片栗粉を加え、加熱すればでき上がり。

 水:粉=1:2で作る水溶き片栗粉は、入れるたびに底からかき混ぜて。「水溶き片栗粉はすぐに分離して沈殿するから、使うときはスプーンでかき混ぜながら鍋に入れるのがポイント。スプーン一杯ずつ加えてはかき混ぜ……を繰り返せば、弱火にせずとも焦げつき知らずです!」(魚柄さん)

 「はい、でき上がり。これぞ、透明感溢れる水晶煮の定番でしょう。このままでもうまいが、やっぱり冷やした方が感じが出るなあ」(魚柄さん)

 「わあ……。工程はシンプルなのに、とろみがつくことで上品で、ぐっと手が込んだ印象になります。これは、自慢できる!」(小林)

 「気が早い! うまくできたら、ですぞ(笑)。冷めると片栗粉はとろみが弱まってサラリとしてくるので、やや強めにとろみづけしておくのも忘れずに」

調味料の感覚で、用途に合わせて「粉を使いコナす」

 一通りの調理が終わり、完成した品を並べてみる。豚肉と豆腐の薄衣、冬瓜の水晶煮に加えて、かぼちゃ、人参、じゃがいも、そしてトマトの水晶煮も添えた食卓は、夏らしくかつさわやかな印象だ。

豚肉と豆腐の薄衣に、冬瓜、トマト、かぼちゃなどの野菜の水晶煮が並ぶ

 「めんつゆも水晶煮と同じく、白だしを塩とみりんで味付けて、片栗粉を加えたもの。とろみ尽くしの食卓です。さ、食べてみなっさい」

 箸を伸ばす二人から、再び歓声があがる。

 「とろみめんつゆ、初めてですがすごくおいしい! おかずもつるっと食べられて、これならそうめんでも自然とスタミナがつきそうです」(高橋)

 すっかり、夏のとろみ料理に魅了されてしまったようだ。

 ひとしきり料理を食べ終えた小林からは、こんな感想が。

 「粉を使った料理というと、唐揚げや八宝菜など決まった料理にしか使えていませんでした。片栗粉一つとってもこんな風にいろんな食材の持ち味を引き出したり、食感を豊かに変えてくれるんですね」

 「さよう。そもそも君たち、台所で粉をどうやって保管している?」魚柄さんの質問に高橋は、「そう! 瓶に入れておくって、すごくいいなと思いました。いつも使うたびに袋からお皿に出していたので……」と話す。

 「台所には片栗粉や小麦粉などは小さなスプーン入りの瓶で保存する、水溶き片栗粉用の湯のみ茶わんを用意する……。これも、白い粉を使いコナすためのか・ま・えなのです。粉も、塩や砂糖と同じく、調味料感覚で使ってみると、料理に幅広い表情が生まれるのです」

 調味料感覚で、普段の料理に気軽に「粉を使いコナす」。そんな魚柄さんの話を受けて、「いろんな粉がありますが、どんな風に使い分けたらいいんですか……?」と小林がたずねると、魚柄さんはニヤリ。

 「薄力粉、強力粉、米粉に、コーンスターチ。ムニエルはこれ、とろみはこれ、なんて決めきらずに、なければチェンジしてみればいい。それが『知恵を身につける』っていうことです。使うほどに、それぞれの違いが実感できるはず。なあに、ちゃんと火が通っていればお腹を壊すことはないから、いろんな料理にちょちょいと試してみなっさい!」

 「はい、がんばります!」

監修=魚柄仁之助 取材・文=玉木美企子 写真=坂本博和(写真工房坂本) 構成=編集部