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東京の里山で竹の伐採と道作り。環境保全が健康づくりにもなる「グリーンジム」とは?

  • 環境と平和

満員電車での通勤や住宅密集地の空の狭さ……。そんな都市生活の息苦しさから抜け出せる里山が、東京・新宿からわずか30分余りの場所にある。「いなぎめぐみの里山」は、生協のパルシステム東京が運営する場所だ。気軽に参加できる農作業や里山体験のプログラムは、抽選になるほど人気のものも。今年度からは、竹林の整備活動を通して健康づくりも目指す企画「グリーンジム」が始まっている。

都心から好アクセスの里山を取得

 「いなぎめぐみの里山」は、新宿から電車で約25分の稲城駅から徒歩15分という好アクセス。なだらかな丘陵に、畑や広葉樹の林、竹林が広がっている。

 パルシステム東京は、2004年にここを開設以来、農作業や里山体験の企画を通して、農の大切さや里山の環境保全を学ぶ機会を提供してきた。年間延べ約3000人の組合員が、タケノコ掘り、野菜の植え付けや収穫体験など、40以上の企画に参加している。

 昨年1月、パルシステム東京は、これまでは借地だった「いなぎめぐみの里山」の土地の一部を取得した。土地の所有者だった大手不動産会社が土地を手放すことになり、買うか買わないかの選択に迫られた結果の判断だった。環境推進課課長の横井進也さんは、「もし私たちが買わなかったら、住宅開発が進み、農業体験の場が失われる可能性がありました」と話す。

写真=坂本博和(写真工房坂本)

 取得した土地の中には、未整備だった傾斜地の竹林もあり、部署横断的に立ち上げたプロジェクトチームの中で活用法を探ってきた。その第一歩として、昨年12月「森林保全で健康づくり! 竹の伐採とミニ門松作り in いなぎめぐみの里山」を開催。定員を超える申し込みがあり、大変好評だった。

 今年5月19日、第2弾の企画「竹の伐採と道づくり in いなぎめぐみの里山」が開催された。講師は認定NPO法人JUON(樹恩) NETWORKの3名の方たち。高台のあずまやに集合して、自己紹介と準備体操を終えたらヘルメットを装着。腰にはノコやナタを下げ、唐鍬(細身のくわ)と掛け矢(大形の木槌)も携えて「現場」へ向かった。

竹の生命力を実感する

 講師の一人、庄司達郎さんに導かれ、最初にたどり着いたのは広々とした竹林。「皆さん、どうですかこの雰囲気? 感じてみてください」。風が吹き渡り、差し込む光が美しい。

 「では、今度はこちらを見てみましょう」と向かったのは、隣接する竹林。斜面に竹が密生し、薄暗い。「さっきの場所と違いますね。ここが皆さんと一緒に管理していく場所になります」

 見回すと、数メートルおきに目印のテープが巻かれた竹がある。「今日はこの目印をつけた竹の上側に道を作ります。そのことをイメージしながら上に登っていってください」と庄司さん。斜面の道なき道を踏ん張りながら慎重に歩く。登りきると視界が開け、畑につながっていた。なんとその畑にひょこんと竹が顔を出している。こんなところまで根を伸ばすとは!

竹びき用ノコで間伐体験

 今日の活動場所を確認したところで、早速、庄司さんから竹の間伐方法について手ほどきを受けた。「道作りに使う竹は、4~6年目ぐらいの割と締まったものです。地面から1メートルぐらいで切っておくと、次の竹が生えてこないといわれています。切り口に水がたまらないように、節のすぐ上で切ってください」

 現場の条件を見ながら、今回は次の手順で切っていった。

1.竹が倒れる方向に「受け口」を入れる。目の細かい竹びき用ノコを使い、ノコ道(鋸が通る溝)を浅くつけてから、直径の3分の1ぐらいまで、なるべく水平に切る。
2.受け口の反対側、1~2cm上に「追い口」を入れる。

 切る前には、必ず上を見て、ツルなどがからまっていないかをまず確認する。また、倒す際には、「倒しまーす!」などと、大声で周囲に呼びかける。切った竹は、使いたいサイズにカットしてから、枝を払うと作業しやすい。

竹林の整備は、まさにグリーンジム

 この竹林、ほとんど平らな場所がない。斜面に立って説明を聞いているだけで、けっこう足に来る。しおりに「本企画で期待できる身体的効果」として、「傾斜地を歩くことによる血流促進、斜面での姿勢維持による下腿の筋持久力の強化、など」と書いてあったとおりだ。ここではちょっとした移動にも斜面のアップダウンが伴う。

 今回の企画にあたり念頭に置いたのは、イギリスなどで普及している「グリーンジム(Green Gym)」だ。地域の森林や緑地の保全活動を通して、その技術を身につけながら健康づくりにもつながるというもの。「豊かな自然のなかに来ることによるメンタルケアの効果も得られます。きれいな空気を吸いながら、みんなで目標に向かって何かを作る楽しさを味わってもらいたいですね」(パルシステム東京地域支援課課長・坂本浩行さん)

どんどん道らしくなっていく!

 昼食後は、本格的作業に。竹で道作り、木で階段作り、終点付近の草刈りと3班に分かれ、それぞれ4~5人ずつで担当する。たった2時間で道ができるのかと思ったが、道作り班の動きは見事だった。切り倒し、枝を払った竹を並べ渡して埋め置いたら、唐鍬で上の土を削り取り平らな面を作り、表面をならしていく。ペンギンのようにぺたぺたと歩いて土を踏み固めると、どんどん道らしくなっていった。

 埋め込んだ竹同士は、ばらけて崩れないように番線という太い針金を巻いていく。さらに杭も打つのだが、これも自分たちで作る。先端に4つの面ができるようにナタで切り落とすのがけっこう難しい。「杭の先が丸いと鉛筆のようにくるくる回ってしまうので、ちゃんと面を作ることが大事です」と庄司さん。杭は、スリングベルトで上側から他の人に引っ張ってもらいながら、掛け矢で食い込ませていく。

 階段作り班では、昨年のミニ門松作りにも参加していた小学6年生の石川さんが、慣れないナタと格闘しながら杭作りに取り組んでいた。うまくいかなくても投げ出さない姿が印象的だった。

 「そろそろ終わりますよー」と声掛けがあっても、すぐには手が止まらないほどみんな作業に夢中だ。竹や道具を抱えて何度も斜面を上り下りしたりして、決して楽ではないはずだが。

ついに道が開通という感動体験

 そして、ついに道も開通! 見通しもよくなり、快適な遊歩道が生まれた。参加者の皆さんから笑顔がこぼれる。「開通すると気持ちいいですね」とは、参加者の小原弘道さん。

 「こんなに太い竹を切ったのは初めてで、勉強になりました。これまでも家族で農作業体験に参加していて、ここのよさは分かっていましたが、今日はすごくいい機会でした。ナタの振り下ろしとか、中腰の作業とか、日頃使わないような筋肉を使う作業ですね」(小原さん)

 終わりの会で小原さんが「道を作るチャンスなんてなかなかなくて、開通! というえらい感動的な思いをさせてもらいました。機会があってまた来られたら、この道を見守り続けます」と感想を話すと、拍手が起こった。

 他の参加者からも、「こんなに作業が大変だとは知らなかったので、ハイキングとかに行くとある山の道のありがたみが分かりました」との感想に、皆さんうなずいていた。

気持ちよさや楽しさが原動力になる

 庄司さんは言う。「自然の中に入って、竹を一つ切るだけで、『あ!切れた』という喜びになるんです。もちろん最初と最後を見比べて、こんなになったねという達成感も大事です。山での作業は、よく3Kと言われます。きつい、汚い、危険と。でも、僕は4Kだと思っています。もう一つ『気持ちいい!』のKがある。楽しかった、気持ちよかったと思うことが続いていく原動力になる。それが一番大事だと思っています」

 横井さんは、グリーンジムの運動量について、運動強度の指標である「メッツ」を例にこう説明する。「安静時を1とすると、伐採作業は5.5ぐらい。今日のような作業だと、安静時の5倍ぐらいのエネルギーを使っていることになります。もっと山奥だと、皆さん参加しにくいかもしれませんけれど、ここは都心に近く、駅から歩いて来られる。この気軽さも魅力ではないかと思っています」

 パルシステム東京は、今後、竹を活用したクラフト作りなどもプログラムに織り込みながら、この竹林の整備を組合員とともに進め、グリーンジム習慣を根づかせていきたいと考えている。また、健康づくり体験として、約3キロの森林浴ウォーキングのプログラムも始まっている。運動不足解消に、健康づくりに、家族も誘って心地よい汗を流すのもいいのでは。

取材協力=認定NPO法人JUON(樹恩) NETWORK 取材・文=山木美恵子 写真=柳井隆宏 写真(空撮)=坂本博和(写真工房坂本) 構成=編集部