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出産や子育ての不安も喜びも、何でも話せる場を作りたい。助産院から生まれた母と子のサロン

  • 暮らしと社会

待ちに待った赤ちゃんとの暮らし。いざ始まってみると、ミルクは足りているか不安になったり、夜泣きに悩まされたり、思うようにならないことが多い中で、気持ちが不安定になることもある。誰かに会ってちょっと話がしたいと思っても、外出すら億劫になりがちだ。東京の国分寺市にある矢島助産院は、そんなお母さんたちを温かく支えるファミリーサロンを開設している。赤ちゃん連れで気軽に参加できるランチや、はり治療や整体などの施術、各種講座なども行なわれている。

「みんなで子育てしましょう!」

 国分寺駅からは、徒歩10分ほど。矢島助産院の分室、ファミリーサロンは、助産院の建物からすぐ見える場所にある。その案内リーフレットには、「みんなで子育てしましょう! 楽しい時、さみしい時、悲しい時、話せる場所がここにある」と、心強い言葉が書かれている。

サロンのようす

 院長の矢島床子さんが、国分寺で開業してから今年で30周年。サポートしてきたお産の件数は5700件にもなる。実は院長の自宅のワンフロアーも「ウィメンズサロン」と名づけて開放され、食の講習会や妊婦さんやその家族向けの学習会が開かれている。助産院、ウィメンズサロン、ファミリーサロンの3つの施設で、女性たちの妊娠・出産・育児期を支えることに力を注いでいるのだ。

 矢島助産院がこうした場を作った背景には、院長自身の子育て経験があった。「わたし自身が年子で子どもを産んで、余裕のない子育ての中で、夫との関係も思うようにいかず、重い育児ノイローゼになっちゃったんです。子どもをぶってみたりとか、苦しかった。だから助産院を開業してからは、お母さんたちを支えたいというのが、大きな目的になっていきました」

 「子産み子育ては一人じゃできません。思うようにいかないときに電話したりとか、アドバイスをもらえたりとか、おしゃべりをして気分転換ができるとか、そういう場所が必要ですよね。地域で子産み子育てを見守り続けられるといいですよね。いついつと予約して行くのじゃなくて、駆け込み寺のような助産院であり、サロンでありたいと思っています」

矢島床子さん

院長の矢島床子さん

 ファミリーサロンは、縁があったご近所の方の一軒家を購入し改修。矢島助産院で出産した人たちの出資の後押しを受けてでき上がった。矢島院長は言う。「やっぱりお産がいい経験だったから、協力してくださったのかな。ファミリーサロンは、みんなと一緒に作り上げた館です。お手紙を書いて(出資金を)みんな返していったんですが、この時の楽しかったこと!」

サロンの建物

赤ちゃん連れで、ランチを食べながらのんびりと

 取材でファミリーサロンを訪れた日は、7月下旬のランチ開催日。12時近くになると、赤ちゃん連れのママたちが、三々五々、やってきた。皆さん、親しい友だちの家に遊びに来たようなくつろいだ表情だ。

サロンのようす

 「夜眠れてる?」「お下がりほどありがたいものはないよね」「子どもが産まれても“〇〇ちゃんママ”じゃなくて、自分の名前で呼ばれたいね」……こんな会話が、ランチを食べながらのんびりと続いていた。

 ファミリーサロンの運営を統括している小川みさとさんは、矢島助産院で二人のお子さんを出産した先輩ママだ。同院のキッチンスタッフを経て、ファミリーサロン開設時から企画運営に当たってきた。

 「日常の中の、隣近所のおばさんたちとして、お母さんたちが来たときに、『ご飯食べる?』とか、子どもが来たら『おなかすいてる? お茶飲む?』みたいに迎えるようなことならできると思ってやってきました」

小川みさとさん

小川みさとさん

 利用者のうち矢島助産院で出産した人は、約2割だけ。8割は、地域の普通のお母さんたちだそうだ。「『ただいま。ご飯あります?』みたいな感じで皆さん来ます。グループではなく一人で来る人が多いです」

 心に何かつかえるものがあるときは、ランチの席などでは話しにくいのでは?

 「そういう人は、ほかに人がいないようなときを選んでいらっしゃいますね。夜の8時まで電話対応をしている月・水・金は 7時50分に電話をかけてきたり、7時50分に来たりする人もいます。ここならばしゃべれるのと、自分に1対1で対応してくれる場だからだと思います。お母さんたちは、上手に使い分けています」

 「本当に話したい人が話せる場を残しておきたくて、自分のことを話せる内容のさまざまな講座を開いています。子どものことは普通にしゃべれても、お母さんが自分のことを話す機会はなかなかないので」

サロンのようす

何に困っているかを見極めて

 ファミリーサロンでは、ヘルパー派遣事業も行っている。外国人の家庭、双子ちゃんのお母さん、高齢出産の方等々、訪問先の家の状況はさまざま。この事業の中で気づいたことがあると、小川さんは言う。

 「何に困っているかはそれぞれ違うということです。それが分からないで助言していると、かえってお母さんの不安をあおることもあります。その家の中にある具体的なものを見て助言しないと。例えば、バスタオル1枚でも私たちの思っているのと違って、短い小さなものしかないときもあります。赤ちゃんをバスタオルでお雛巻きにしてあげると落ち着くよというとき、これではくるめない、となるわけで」

サロンのようす

 小川さんによると、国は産前産後の「切れ目ない支援」の必要性を掲げているものの、現実に行われているのは産後のケア事業がほとんどとのこと。ファミリーサロンでは助成金を受けて、一昨年から2年間、「結(ゆい)ぼっこ」という事業を行った。

新しい命を授かったら…心身の変化や、これからの子育て、家族が増えることに戸惑いや漠然とした不安は尽きないものです。この事業では、産前から産後にかけて、地域の助産師による訪問と専門スタッフによるクラスやケアを通してあなたに寄り添い支えます。(「結ぼっこ」の案内チラシより)

サロンのようす

 対象は、国分寺市在住の約50名の人たちで、利用期間は、妊娠中から1歳訪問まで。全期間を通して利用費は3000円。この事業は当然好評で、小川さんたちにも発見があった。

 「産前に訪問して関係ができていると、出産・子育てへの不安が大きかったりしても、産後のお母さんたちの気持ちはそんなに落ちずに、上がっていくんです。新たな助成金が取れたら、それを初期投資にして、継続できる事業にできればいいなと思っています。その人のニーズに合わせて、ここの講座に参加するとか、はり治療や整体で身体を整えるとか、訪問ヘルパーを頼むとか、いろんなバージョンのケアをお母さんが自分でチョイスできる形の仕組みを作っていけたらと思っています」

ランチ

旬の野菜たっぷりのランチ。「『自分のお母さんのご飯』をイメージしてメニューを考えています」と、スタッフの泉本(いずもと)さん

出産前から地域の子育て情報をチェックしよう

 ファミリーサロンのような場を、自分が暮らす地域でどうやって見つけたらいいのだろう。小川さんは、雑誌『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』に寄稿した文章のなかで、出産前から市報や区報に目を通すことをすすめている。

そこには各市町村の特性を生かした情報が掲載されています。妊娠中から通える両親学級、産後は赤ちゃんを抱っこしていける場所、ちょっとしたことでも電話できるところ、子育て仲間とつながるための催し、また、子育て以外でママ自身の趣味などを通して参加してみたい! と思えるイベントや相談場所など情報がつまっています。なにかひとつでも糸口があれば、地域で孤独を感じることが少なくなります。(「話せる場所を地域に見つける」『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』№110 特集「そろそろ、自分をいたわって! 30代40代ママのこころ・からだケア」2016年2月、ジャパンマシニスト社)

 糸口を手繰り寄せていくことで、子どもが産まれるまでは気づかなかった地域の居場所との出会いがあるかもしれない。

取材協力=ファミリーサロン、一般社団法人矢島助産院 取材・文=山木美恵子 写真=堂本ひまり 構成=編集部