初めてでも怖くない! おうちの鍋で、ふっくら炊飯のコツ[今日からできる台所術-7]

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シリーズ7回目となった、「今日からできる台所術」。ごはん大好きな編集室の高橋と山川はこの日、新米を持って食文化史研究家・魚柄仁之助さんの元を訪れた。「新米をもっとおいしく食べたい!」という二人に、魚柄さんが差し出した意外な鍋とは……?

土鍋や高級炊飯器がなくても、大丈夫。大事なのは、道具より炊き方

 「一年に一度の実りの季節。魚柄さん、わたし、最高においしい新米が食べたいんです!」(山川)

 「近ごろは、プレミアムな炊飯器も売ってるけれど、なかなか手が出ないので、ぜひ……」(高橋)

新米を持って遊びに来た高橋と山川

 そんな二人の声を聞き、魚柄さんは早速台所へ。「はいはい、お気持ち分かりました。じゃ、この鍋でおこげの入ったおいし~い新米、炊いていただきましょ!」と、どこの家庭にもありそうなガラスのふたの両手鍋を二人に差し出した。

 「こ、こんな普通の鍋で……!?」

 「こういう鍋ならうちにも、うちの実家にもあります!」

どこにでもありそうな普通の鍋

ふた付きのものならどんな鍋でもOK

 どっしりとした土鍋や、昔ながらの羽釜を想像していた二人は、意外な提案に驚いたようだ。しかし魚柄さん、二人の不安などどこ吹く風。

 「なにをおっしゃる、大事なのは鍋じゃあない。“どう準備”して、“どう炊くか”なの。しかも、家にある鍋でおいしく炊けるなら、文句はないでしょ。さ、今回も実践でっす!」

どんな鍋でも、ごはんは炊ける。では、押さえておくべきポイントとは?

 「で、おいしいごはんが炊きたいっていうけど、そもそも炊飯の大切なポイント、分かってます?」

 魚柄さんからの早速の問いかけに、山川と高橋は首をかしげながら答えをひねり出す。

 「お米を丁寧にといで……水に浸して……」(山川)

 「火加減は、『はじめチョロチョロなかパッパ』でしたっけ」(高橋)

 二人の答えに、「さてはきみたち、昔むかしの言い伝えから、『常識』が変わっていないな!?」と、魚柄さん。

 「じゃあまずは、米の洗い方から伝授、いたしましょう。あ、とぎ方じゃなくて『洗い方』ね」

お米はざるに入れ水道水で洗う

 そう言うとざるを取り出し、2合の米を入れてから、水道水で全体をササッと流して「はい、おしまい」。

 「ええっ、とぎ汁が透明になるまでとがなくて、いいんですか?」(高橋)

 「ざるを使えば手もぬれなくて楽チンだけど……」(山川)

ざるを使えば手も濡れない

 驚きつつも、何だかうれしそうな二人に、魚柄さんはニヤリ。

 「あらっ、二人とも意外と古風なのねえ。実は今は、精米技術がかなり進化しています。だから、通常の白米でも米と米とをすり合わせて「とぐ」作業は必要ないんです。水で全体を流して、ホコリが取れれば完了です!」

炊飯は、準備8割!? 「吸水」の過程をお忘れなく

 そして、洗うことよりも大切な工程が、「吸水」だと話す魚柄さん。

ざるのお米を鍋にあける

 「お米屋さんは、においの吸着やカビの予防という視点から『お米は生鮮食品』と言うことが多いですな。これ、間違いではないんですが、でも収穫後、一定水分を抜いて乾燥させてあるのだから『乾物』と考えることもできますよネ。乾物ならば、おいしくいただくためにはしっかり水で戻さなきゃあいけない。吸水こそ、重要なポイントなんです」

 ここで、二つのガラス瓶が登場した。

 「今洗った米と、1時間水に浸した米、比べてみましょ」。魚柄さんが並べた瓶を見ると、その差は歴然。

左の瓶は水を入れてすぐ、右の瓶は1時間吸水させたお米

左の瓶は水に浸した直後の米、右の瓶は1時間吸水させた米

 「米が水を吸って、白く膨らんでいますね」(高橋)

 「でしょう。ここまで水を吸わせてから炊けば、ふっくら炊き上がるんです。でもね、1時間たっているから、これ以上水を吸うことはありまっせん。調査では、こんなグラフもあるんです」(魚柄さん)

米の吸水時間と吸水率

吸水時間と吸水率のグラフ

1時間以上たつと白米はほぼ吸水しなくなる。なお、玄米は胚芽や糠がある分、水を吸収しにくいので3時間たってもまだ吸水している (出典:『主婦のための調理の科学』川島四郎(1947年、主婦之友社)より編集部作成)

 「本当だ、1時間後から横ばいになっています」(高橋)

 「さよう、だから、何日も放置するのでなければ『水に浸しすぎ』の心配はナシ。朝食用なら前日の夜、夕食用なら朝のうちに浸けておいても、全く問題ないんでっす」(魚柄さん)

おうちの鍋でも、羽釜のおいしさに。さあ、鍋で炊飯に挑戦

 洗米の手軽さ、吸水の大切さが分かったところで、本題の炊飯へ。と、思いきや、「こんな、圧力もかからなそうな普通の鍋で大丈夫なんですね」「逆に、難しい技術が必要そう……」と高橋と山川はまだ不安そうだ。

 すると魚柄さん、改めて二人に向き直り、こう話し始めた。

 「あのね、そもそも圧力圧力っていうけど、羽釜の木のふたごときで圧力なんてかかっていないんですの! 羽釜の利点は、①丸い鍋底のためきちんと対流が起きること ②分厚い木のふたの保温力でしっかりと蒸らせること、ぐらい。この状況を再現できれば、羽釜もおうちの鍋も『ふた付きの鍋』であることには変わりなし!」

羽釜と鍋の構造はほぼ同じ

どちらも同じ、ふた付きの鍋。対流の発生と保温力の違いは魚柄流のワザでカバーできる

 魚柄さんの力強い言葉に、二人とも不安が吹き飛んだよう。

 「鍋で炊飯なんてなかなかしないから、ずっと昔のイメージにとらわれていました」(山川)

 「確かに、精米技術も進化しているし、ガスレンジやIH機器になって火加減の精度も上がっている。僕たちも、炊飯の常識をアップデートしなければいけないんですね!」(高橋)

水加減にレシピなし!? 「マイベスト」の炊き上がりを探るべし

 と、いうわけで、気を取り直して鍋の準備から。米を浸しておいた水を捨て、新たに冷水を入れて水加減を調整する。

鍋に米を入れ水も入れたところ

 「水は、お米の何センチ上がいいんでしょう?」と山川が尋ねても、「そんなの、分かりませんよ~」と、魚柄さんはにべもない返事。

 しかし、これにも理由があった。

 「あくまでも『目安』なら、米の1センチ上ぐらいです。でもね、ここでそう伝えたら、みんな定規を持ってきて測りだすでしょう? それこそが失敗のモト。決めたところで、鍋の厚さや米の水分、その日の湿度なんかでも炊き加減は変わってしまうんですから。ま、ここは気楽に、固めが好みなら水は少なく、軟らかめなら多めに入れて、あとは炊き上がった状態を見て次回から調整したらいいんでっす!」

 そして火にかけ、まずは強火に。

鍋をのぞきこむ魚柄さんとそれを見る二人

 「『はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふたとるな』というのは、かまど炊きで火をいきなり強くしたり弱くしたりするのが難しかった時代のコツなんです。今は簡単に火の強弱が調整できるんだから、いきなり強火でいいんですよ」(魚柄さん)

 「なるほど……」(高橋・山川)

強火にしてふつふつと沸いてくるのを待つ

沸騰前のふつふつした状態になったらふたを開ける

 ガラスぶたから中をのぞき込み、ふつふつと沸き始めたところで魚柄さん、鍋のふたをパカッ。何やらスプーンで鍋底をサッとさらうようにかき回している。

鍋のふたをあけてスプーンで鍋底をすくう

鍋の底をさらうようにかき回す。ぐるぐるとかき混ぜるのはNG

 「えっ! ふたを取ってもいいんですか!?」(山川)

 「今回は底が平らな鍋なので、羽釜のような『対流』の状態ができにくい。だから、スプーンで対流と同じ状態を作ってるんです。しかもこうやってスプーンで底をさらっておけば、鍋底にごはんがこびりつくのも防げますぞ」(魚柄さん)

 魚柄さんの解説に二人は感心しきりだ。

 「すごい……全部にちゃんと、理由があるんですね」(山川)

 「ふた付きならどんな鍋でもいいけど、鍋に“へり”があると吹きこぼれにくいんです。あの吹きこぼれのでんぷんのどろどろは掃除が大変ですからね」と魚柄さん。

 「たしかにあれ、取れにくいんですよね」(高橋)

沸騰して吹きこぼれそうな鍋

鍋に“へり”があると吹きこぼれにくいので、沸騰しても慌てずに火加減ができる

 一混ぜして再びふたをすると、程なくブクブクと沸騰がスタートした。

 「さ、ここからは五感を研ぎ澄ましていきますよ!」(魚柄さん)

目、耳、鼻……「五感をフル活用」こそ鍋炊飯成功のコツ

 沸騰したら、すぐに弱火にして吹きこぼれを防止。そして、そのまま待つこと約10分。魚柄さんは鍋のふたを指さしてこう話す。

 「機械に頼らない炊飯は、五感をフル活用することが大事なんです。まず、最初に比べて鍋から出る湯気の量が減ってきたことを目で確認です。水分が減ってきた証拠だから、だいぶごはんは炊けてきているはずですぞ」

においをかぐ高橋と山川

目で水分の減りを見て、においで香りの変化を確認

 「確かに、同じ火加減なのに湯気が減ってきました」(山川)

 「中の水が、だいぶ少なくなっている証拠なんですね」(高橋)

 そして、山川が鼻をクンクン。

 「ごはんのいいにおいがしてきました……!」

 「そう、このでんぷんのいいにおいがしてきたら、ここからはお楽しみのおこげ作りタイムでっす。今の香りが、ちょっと焦げっぽいにおいになってくるのをよーくかぎ分けて。焦げすぎないように、あくまでも火は弱くね」(魚柄さん)

手で仰ぎにおいを確認する二人

においを確認するときは、蒸気でやけどしないように手であおいで

 しばらくすると、ふいに香りに変化が。

 「あ、焦げたにおいになってきました」(高橋)

 「全部ダメにしないかって、急に不安になりますね」(山川)

 またもソワソワしだす二人だが、「まあまあ、落ち着いて。『焦げちゃったかも?!』と思うくらいでやめると、ちょうどいいおこげになってますから」と余裕の構えだ。さらに、「ほら、ごはんの表面、見えますか?」と、魚柄さん。

鍋の中の蟹孔

湯気の中にも蟹孔(かにこう)がしっかり見える。蒸気がしっかり抜けた証拠

 「あ、何だかぷつぷつと穴が開いてきています」(山川)

 「蒸気が抜けた穴で、『蟹孔(かにこう)』といいます。ちゃーんと対流ができた証拠ですぞ。これが見えてきたら、炊き上がりはあと少し!」(魚柄さん)

 続いて、鍋に見入っていた高橋も「あれっ、パチパチという音もしてきました」と、声を上げる。

さらに音の変化を確認する二人

耳を澄ますとグツグツという音からパチパチという音に

 「お、優秀優秀。音も、鍋の中の状況を知る大切な手掛かりなんでっす。このパチパチが聞こえてきたら、強火で仕上げに入ります!」(魚柄さん)

「バスタオル保温」で、薄い鍋でも羽釜炊きのようなふっくら感に

 最後に数十秒強火にしたら、火を止めてコンロでの加熱は終了。ここまでで約20分。高橋と山川は「もう、食べられるんですか?」と、待ち切れず身を乗り出す。

 「まあまあ、お待ちなさい」と、魚柄さんが持ってきたのは、バスタオルだ。

バスタオルの上に鍋を置く魚柄さん

バスタオルでくるんで保温調理

 「バスタオルを巻いて保温すれば、余熱で米のしんまで火が通りふっくら仕上がりますぞ。今度は熱を逃がさないよう絶対にふたは開けないこと。おこげの出来栄えは、蒸らしたあとのお楽しみでっす」

 鍋敷きの上に、ぐるりとバスタオルを巻いたお鍋を置いて、しばしの待ち時間に。

段ボールを重ねて鍋敷きを補強

ダンボールで鍋敷きの補強の一工夫をすると机が傷みにくくなる

 「鋳物や土鍋など、厚手の鍋で炊いた場合はバスタオルに包まずそのまま待てばいいんですの。鍋の熱で机が傷んだり塗装がはがれるのが心配!という人は、ダンボールなどで厚めに補強した鍋敷きの上に載せてね。さて、保温の間、コンロが空くからみそ汁でも作りましょ」

 魚柄さんの粋な提案に、二人は大喜びだ。

みそと片手鍋を持つ魚柄さん

保温中はコンロが空くのでおかず作りの時間に

いよいよ実食! 「おこげ」のおいしさに、鍋炊きのだいごみを実感

 バスタオルの中で蒸らすこと約20分。ついに鍋で炊いたごはんのでき上がりとなった。満を持してタオルを取り、ガラスのふたを開けてみる。

いいにおいの湯気ににんまりの山川

炊きたてごはんの湯気につい笑顔がこぼれる山川

 「つやつやだ……」

 「いいにおい!」

 二人から、この日一番の歓声が上がった。そのようすを見つめていた魚柄さんも、「うむ、なかなか上出来ですぞ」と満足げだ。

おこげもあるごはん

おいしそうなおこげもできている

 鍋にしゃもじを深く差し、底から天地返しをすると、うっすらと色づいたおこげも。全体を混ぜ合わせて茶わんに盛り、魚柄さんが用意してくれた漬物、みそ汁とともに、いよいよ実食の時間だ。

炊きたてごはんとみそ汁と漬け物

 ふだんならみそ汁からはしをつけそうなところだが、今日は二人ともまずごはんからパクリ。

ごはんを食べるふたり

ごはんをほおばるたび、笑顔になる二人

 「わあっ、おいしい……」(山川)

 「おこげが入ることで、食べる箇所によって味が違って、いつものごはんよりも風味が増して食べごたえがある気がします」(高橋)

 もりもりとほおばる二人に、魚柄さんは笑顔でこう話す。

 「やっぱり、おこげは鍋炊飯のだいごみですな。昭和の時代に炊飯の技術を研究した栄養学者・川島四郎は著書『炊飯の科学』の中で、おこげができるとアミノ酸とグルコースが反応し、全体に独特のうまみ・風味がしみ込んだうま〜いごはんになると紹介しているぐらいなんですぞ。ま、難しいことはさておき、要するにおこげには白米とはまた別のうまみが加わっているということ。これを全体に混ぜ込むことで、ごはんがますますうまくなるというわけでっす」

ごはんがすすむ高橋

 具だくさんのみそ汁と漬物だけで大満足の食卓。それをかなえているのは、やっぱり鍋で炊いたおこげ付きのごはんだろう。

 「こんなに簡単に炊けてしかもおいしいなんて、何だか、おこげのない白ごはんだけではもったいない気がしてきました」(高橋)

 「ごはんが食卓のメイン! そう思えるおいしさでした。意外なほどに時間がかからないのも魅力です」(山川)

魚柄さんの言葉に笑う二人

 二人ともすっかり、鍋で炊くごはんに魅せられたようす。

 「どんな鍋でも炊けるようになるには、レシピなんかに頼っちゃだめ。肝心なのは、鍋の“ころあい”を把握して、自分だけの炊飯術を身に着けることですぞ。いつもながら、身に着けるためには引き続き実践あるのみでっす!」

 「はい、早速やってみます!」(高橋・山川)

取材・文=玉木美企子 撮影=坂本博和(写真工房坂本) 構成=編集部