はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

食と暮らし、持続可能な社会を考える、
生協パルシステムの情報メディア

プラスチックごみ

写真=AlinaKho/ PIXTA(ピクスタ)

プラスチックごみはどこまで減らせるか? 生協がメーカーを巻き込み広げる、プラスチック削減プロジェクト

  • 環境と平和

日本はプラスチック生産量で世界第3位、一人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は世界第2位とされる(※1)。問題が世界的な議論の的となる中、生協と食品メーカーの協働による商品包材の見直しが進められている。使用量を減らす「リデュース」を核に、「届けて、回収する」という生協ならではの宅配システムを生かした「リサイクル」を組み合わせ、どのようにプラスチックとつきあっていくのか。その取り組みを追った。

※1:WWFジャパン「海洋プラスチック問題について」

プラスチックごみ削減は、生協の「当たり前」

 週に1回、宅配で商品を届ける、生協パルシステム。商品の品質を損なわずに届けるためには、プラスチック包装材に頼らざるをえない現状がある。しかしそこに無駄はないか、減らす工夫はできないかと、メーカーとともに検討を続けてきたという。

 例えば、千葉県漁業協同組合連合会(以下、千葉県漁連)がパルシステムのプライベートブランド(PB)商品として製造する「しめさば(国内産)」も、そうして包装材のプラスチック使用量を削減した商品の一つだ。

 「以前からトレーを使わないことでプラスチックの使用を抑えていましたが、さらに袋のサイズを可能な限り小さくすることで、商品1点当たりのプラスチック重量を30%削減。年間で約1.1トンのプラスチック削減を実現しました」

小型化したしめさばのパッケージ

パッケージのサイズを20mm縮小した(写真=坂本博和(写真工房坂本)

 そう話すのは、パルシステム連合会運営本部環境活動推進室長の植村幸子さん。世界的課題となっている海洋プラスチックごみ汚染などの問題を受け、パルシステムでは2017年度から「プラスチック排出総量削減」(3カ年計画)をスタートした。事業や利用者の拡大から増加する2019年度のプラスチック排出総量を、パッケージの軽量化や材質変更、リサイクル回収強化などにより、2016年度と同じ水準にとどめるというものだ。(※2)

環境活動推進室長の植村幸子さん

環境活動推進室長の植村幸子さん(写真=編集部)

 プラスチック削減の取り組みは、にわかに始めたことではないと植村さん。

 「『環境と調和した事業を進める』を事業理念とするパルシステムでは、環境保全型農業や、環境に配慮した商品作り、3R、FIT電気(再生可能エネルギー)と、再生可能エネルギーを中心とした電力事業などに幅広く取り組んでいます。
 家庭ごみの容積の半分以上が容器や包材といわれていますが、パルシステムでは資源循環型社会の構築を目指し、1990年代から3Rに取り組んできました。代表的な例が卵のパックです。市販品はプラスチック容器が一般的ですが、わたしたちは個別宅配の開始当初から紙製の『モウルドパック』を採用し、回収してまた卵のパックへと再生させる取り組みを続けています。また、ワンウェイの包装においても当会独自の容器包装の取り扱い規程に沿って簡素化に努めてきました。トレー不使用の冷凍餃子や、カップ容器をなくした即席麺(ノンカップ麺)などがそれに当たります」

紙製のモウルドパック

2018年度にモウルドパックで出荷された卵が、プラスチック容器で出荷されたと仮定すると、重量は322.19トンにもなる(写真=豊島正直)

※2:プラスチック排出総量(パルシステム独自の考え方による計算式)=青果を除く食品包材+生活消耗品のPB商品のプラ重量)−(環境負荷の少ない材質へ切り替えた量+回収量)

生協商品での挑戦が、一般流通の商品も変えた

 3カ年計画では、パルシステムの取り扱い商品について以下の二つの視点で改善を検討、実行している。

  1. プラスチックの使用量を減らす
    • 容器包装を小さく、薄くする
    • トレーや留め具を廃止する
    • プラスチック以外の素材へ変更する
  2. 環境負荷の少ない材質へ切り替える
    • 再生原料など環境負荷を軽減できる材質へ切り替える

 実現にはメーカーの協力が欠かせない。その例の一つが、パックご飯などで知られる食品メーカー・佐藤食品工業株式会社と行った容器改善だ。同社ではパルシステムのオリジナル商品「産直ごはん(パック)秋田あきたこまち小盛り130g」の容器の厚みを、10%削減することに成功した。
 営業担当の森山晶平さんはこう話す。

「産直ごはん(パック)秋田あきたこまち小盛り」を器に盛るシーン

一つずつ直火で炊くおいしさと手軽さで、注文数は右肩上がり(写真=大木啓至(大木写真事務所)

 「弊社のパックご飯には200g、150g、130gの3種類がありますが、製造量は200gが圧倒的。そこでこれまでは、150gと130gの商品も200gと同じ厚さの容器を使っていました。しかしご要望をきっかけに厚さの削減を検討し、製造から食卓までの過程で問題が起きないかをテスト。130g容器の厚みを10%削減することに成功しました」

 

「パックご飯」容器の断面図

従来と変更品のパッケージの構造の違いを表す図

1パックにつき10%で約1gの削減と笑うことなかれ。年間出荷数約54万食が及ぼす影響は少なくない

 注目すべきは、その後の広がり。佐藤食品工業では、この成功を受け、一般流通の自社ブランド品130gと150gの容器も、この仕様に切り替えたのだ。

 「わたしたち食品メーカーにとって、まず守るべきはお客様に食の安全を提供するということ。容器が破損したり、食味を損うことがあってはならない、という強い使命感があります。だから誤解を恐れずにいえば、プラスチック削減にブレーキがかかりやすいのです。今回それに踏み出し、成功事例を作ることができたのは、パルシステムさんとの取り組みがきっかけになったことは間違いありません」(森山さん)

バイオプラスチックを導入するメーカーも

 プラスチックの環境配慮アプローチ方法はほかにもある。さばの味噌煮やみぞれ煮は、千葉県漁連の人気商品。その包装袋の材料の一部として、石油由来のプラスチックに替えて、植物由来の素材(でんぷん)を採用したのだ。この結果、約20%の石油由来のプラスチック削減を達成した。他にも千葉県に伝わる漁師料理を商品化した「房州あじさんが焼き」は、トレーを使用しない包装形態に変更し、年間約300kgのプラスチック削減を実現している。

 こうした事例に倣い、商品ごとに最適なプラスチック使用量の削減方法を模索すべく、今年5月、取引先約80社とともに「プラスチック削減プロジェクト」を発足。メーカー、流通、環境配慮型の包装材メーカーも参加し、立場を超えた建設的な情報交換による、取り組みの推進を目指している。

 「プロジェクトの発足後、新たな容器包材メーカー様からも情報提供を頂くようになりました。わたしたちも常に新素材や新たな包装容器などの情報をアップデートし、積極的に共有していきますが、取引先同士の交流による連携やノウハウの共有にも期待しています」(植村さん)

生産者と消費者が、ともに考え、行動する

 パルシステムでは「3カ年計画」を始めて以来、50種以上の取り扱い商品において、プラスチック使用量の削減や環境負荷の少ない材質への切り替えを実施(2019年3月現在)。2018年度は、前年比で0.2%の削減を達成した。重量にして約6.5トンの削減となったが、「目標の達成はまだまだ遠いのが現状です」と植村さん。組合員が利用したプラスチック資源(米袋、「お料理セット」トレー、「富士の天然水」(※3)ボトル、商品やカタログのまとめ袋)などを配達時に回収しリサイクルする取り組みも、引き続き参加呼びかけに力を注いでいく考えだ。

 パルシステムがプラスチック削減に力を入れる理由には、産直の取り組みの中で食の現場に触れ、体験してきたことも強く影響している、と植村さんは話す。

 「例えば、職員や組合員がインドネシアのえび産地を訪ねると、海洋汚染の問題を目の当たりにし、農産産地に足を運べば、異常気象の影響について生産者から直接聞くことも増えています。

産地と組合員の交流会の様子

パルシステムは産地と組合員の交流イベントも開催している「JAつくば市谷田部」(写真=深澤慎平)

 食の生産現場である産直産地との継続的なつながりがあるからこそ、日々の行動が環境にもたらす影響を肌で感じ、これがプラスチック削減プロジェクトを力強く推進させる原動力になっているという側面は大きいと感じます。わたしたちは、消費者の力によって持続可能な社会を実現するために、暮らしと『環境』『社会』とのかかわりについて生産者(メーカー)・消費者とともに考え、異なる立場にある人が相互に理解し合い、視野を広げていけるよう取り組んできました」

 プラスチックの問題についても、互いに学び合い、連携し合うという、生協がこれまで積み上げてきた課題解決の手法が大いに生かせるはずと、植村さんは今後への意欲を語る。

 「プラスチックは公衆衛生・医療の向上や食品ロスの低減など社会課題の解決に寄与してきた反面、急速に普及したことでさまざまな環境問題を引き起こしています。解決のためのアプローチとして、より環境負荷の少ないプラスチックとのつきあい方を生産者(メーカー)・消費者とともに考え、商品の改善や暮らし方の見直しなど、継続して模索を続けていきたいと考えています」(植村さん)

※3:「富士の天然水」はパルシステム東京では扱っていません。

取材協力=佐藤食品工業株式会社、千葉県漁業協同組合連合会 取材・文=玉木美企子 写真=編集部 構成=編集部