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イクメンパパが突撃取材!映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』監督インタビュー

  • 食と農

日本は、世界一の遺伝子組換え作物(GMO)輸入国といわれます。ところが、ふだんの食生活でそのことを意識することは少なく、「何となく不安だけど、よくわからない」という人も多いのではないでしょうか。そこでおすすめしたいのが、4月公開のドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』。3人の子どもをもったことで「食」について真剣に考えるようになったジェレミー・セイファートさんが、遺伝子組換え企業に体当たりの取材。3月に来日した監督のジェレミーさんと、パートナーのジェンさんに、映画に込めた思いを伺いました。

「遺伝子組換えを知っている」は、100人中わずか1人

 「遺伝子組換え?」「何それ?」「聞いたことないなぁ」

 街頭でマイクを向けられ、戸惑いの表情を見せる人たち。映画のなかのワンシーンです。「遺伝子組換えを知っていますか?」とインタビューした約100人のうち、「知っている」と答えたのがわずかに1人。

 「このときの違和感は、いまでも鮮明に覚えていますよ」と話すジェレミーさん。「これだけメディアが発達し、あらゆる情報があふれている時代に、自分が食べているものがどういうものかを知らないなんてあり得ないじゃないですか」と当時の驚きを振り返ります。

 アメリカでは、栽培されているトウモロコシの85%、大豆の91%、菜種の90%が遺伝子組換えであり、流通している加工食品の80%近くに遺伝子組換え原料が使われているのだとか。

 「これほど食生活に深く浸透しているにも関わらず、遺伝子組換えという技術についても自分がそれを使った食品をすでに食べているということも、ほとんどの人が知らないというのは異常。それは、アメリカでは食品に表示義務がなく、情報が"隠されている"からです」

遺伝子組換え種子を拒絶し、「いのちの種」を守るハイチの農民

 ジェレミーさんが自らが制作する映画のテーマに「遺伝子組換え」を選んだのは、2010年のハイチ地震(マグニチュード7.0、政情不安も重なり31万人の死者を出した)直後に起こった農民運動がきっかけでした。

 「約1万人の農民たちが、支援物資としてアメリカから送られてきた475トンもの種子を燃やしてしまったというニュースに疑問を抱き、調べ始めたんです。震災や飢餓で苦しんでいるはずなのに、『なぜだろう?』とね」

 調べていくうちにわかったのは、支援物資は遺伝子組換えの種子で、背後に世界の食や農を支配しようとする多国籍バイオ企業の存在があること。彼らが種の特許を取得することで、農民たちは毎年種を買わなければならなくなる。遺伝子組換えに関する情報は人々にはほとんど知らされていないことなど、調べれば調べるほど、ジェレミーさんの不信感は募りました。

 「ハイチの農民たちは、種を自然の恵みであり、"いのちの素"と大切にしています。遺伝子組換え種子を燃やしたのは、自分たちの食やくらしを変えようとする企業への抗議の行動だったのです。ハイチの農民たちに比べて僕たちがいかに遺伝子組換えの実態を知らないかにがく然とし、この事実を多くのアメリカの人々に伝えたいと思ったのです」

モンサント社へも突撃取材。遺伝子組換えの実態を浮き彫りに

 長い歳月をかけて培われてきた「農業」とまったく異質の技術であるにも関わらず、長期にわたる使用が人体や環境にどんな影響を及ぼすかの充分な検証も行われないまま私たちの食べ物に取り入れられてしまった遺伝子組換え作物。

 遺伝子組換え市場シェア90%のモンサント本社、遺伝子組換えの種を育てる農家、遺伝子組換え食品の長期給餌の実験を行ったフランスのセラリーニ教授......と世界各地を巡るジェレミーさんのカメラは、遺伝子組換えの実態や背後にある多国籍バイオ企業の思惑を徐々にあぶり出していきます。

 「自然についてすべてわかっている、コントロールできるという思い込みが遺伝子組換えを推進しようとする企業の頭のなかにある。でも、僕はそれをとても傲慢な考え方だと思います。自然と人間は敵対するものではなく、僕たちは自然の一部にすぎないのですから」

 「自然と共生し、環境にもからだにもやさしい循環型の食のシステムを『育む構造』とすれば、巨大バイオ企業が自らの利益のために遺伝子組換え技術をもって牛耳ろうとしている食のシステムは、食べ物を選ぶ自由や播く種を選ぶ自由を奪う『搾取の構造』といえるだろう」とジェレミーさんは分析します。

遺伝子組換えを100%排除することはむずかしいけれど......

 ジェレミーさんの原動力となっているのは「子どもたちに安全なものを食べさせたい」という親なら誰もが抱く思い。ときには、好物のアイスクリームをほおばる子どもたちの姿にため息をついたり、安全にこだわるあまりに厳格にしすぎてしまったりと、映画では、どの親も直面するだろう悩みや葛藤もていねいに描かれています。

 アメリカでは食品に遺伝子組換えの表示義務がないこともあり、商業栽培が始まって約20年の間に、食生活の隅々にまで遺伝子組換え食品が浸透。映画のなかでつぶやくジェレミーさんの「遺伝子組換えを捨てることは慣れ親しんだ"食文化"を捨てることだ」という言葉には、いまやそれなしでは食卓が成り立たない現状への憤りやもどかしさが込められています。

 そうした現実を受け止めながらも、「どんな食べ物を選択していくか」という課題と真摯に向き合おうとするジェレミーさん一家。パートナーのジェンさんは、「外食や友だちといっしょの時は、食事を楽しむことを優先させます。子どもたちもずっと閉じ込めておくわけにはいきませんから。でも、だからこそ、なるべく家で料理するようにしているし、家ではほぼ100%の食材をオーガニックにして、できる限り食卓に遺伝子組換えを持ち込まないように気をつけています」と表情を引き締めます。

 「遺伝子組換えについて学んでから、わが家には大きな変化があった」とジェレミーさん。「いままで無意識にしていた食選びを意識的にするようになったことで、食べ物の裏側や食べ物が食卓に届くまでのシステムに自分たちも参加していることを自覚するようになった。オーガニックを食べることで、自分たちも『いのちを育む』システムの一部であることに気づいた。これは幸せな発見でした」

何も行動を起こさなければ、自分の権利を放棄するのと同じ!

 映画の後半、6歳(現在7歳)のフィン君は、ジェレミーさんといっしょに庭で野菜の手入れをしながら、「買うのをやめれば、この(遺伝子組換え作物を拡大させようとしている)会社はつぶれちゃうんでしょ?そうすればいいじゃない」と無邪気な笑顔で語りかけます。

 「まさにその通り! とてもシンプルだけど、僕はそこに深い知恵があると思いましたね。僕らは何かを食べるたびに誰かの何かを儲けさせているということを、もっと自覚するべきなんです。何かを選ぶ前には、『育てる側の人間になりたいのか、それとも搾取する側の人間になりたいのか』をじっくり考えることが必要ですね」

 「大きな社会問題に立ち向かうとき、僕たちは大きな解決策を考えがちですが、それはむずかしいし忍耐力がいる。小さなことでも長く続けられることが大事だと思います」とジェレミーさん。「巨大な企業に比べて、一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、僕たちの強みは数が多いこと。大きな数は大きな力を生みます」と力強く訴えます。

 最近はアメリカでも、多くの州で、表示義務を求める市民運動が活発化。昨年4月には、全米で初めてバーモント州で、GMO表示を義務化する法案が可決し、コネティカット州やメーン州でも法案はすでに可決され、いくつかの近隣の州が参加すれば、法案が有効になるというところまできています。

 「まず、できることから一歩を踏み出しましょう。何も行動を起こさないということは、自分の持っている権利を放棄するのと同じこと。バイオ企業に権力を手渡してしまうことになります。そうしたら、私たちにまったく選択の余地はなく、自動的に彼らの食品を買わざるを得ない時代になってしまう。子どもたちにそんな未来を手渡したくないですよね」

取材協力/有限会社アップリンク 取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部