15年後には3戸に1戸が空き家に!?
空き家がいま、急激なペースで増えている。35年前となる1983年の総務省調査では、空き家の数は330万戸で総住宅数に占める割合は8.6%だった。ところがその後、調査をするたびに過去最高を更新。直近の2013年の調査では、空き家数は2.5倍に増加し、総住宅戸数に占める空き家の割合も13.5%まで上昇した。
野村総合研究所は、15年後の2033年、空き家の数は約2000万戸を突破し、空き家率は30%程度にまで上昇すると推計している。これは、3戸に1戸、つまり自分の家の両隣のどちらかが空き家になってしまうという驚くべき予想だ。
「30%というのは全国平均なので、地方はより深刻です。道路や上下水道、電気などのインフラを維持することがむずかしくなり、スーパーや銀行、クリニックなどの施設が撤退、町内会の運営や防犯など、生活のさまざまな部分で支障が出てくるでしょう。各地でゴーストタウン化が急激に進むと思われます」と上田さんは話す。
空き家が増え続ける背景にあるのは、核家族化と少子化と言われている。高度経済成長期以降、子どもたちが独立し、親だけが住む家が急増。こうした家のほとんどが、親が亡くなったり施設に移ったりすることで空き家になってしまうのだ。
「人口が減っているにもかかわらず、住宅が建築され続けていることも、空き家が増える大きな要因。今も新築需要が経済の重要な牽引役となっているからです」と上田さん。「空き家の増加を抑制するため、国も中古流通市場の活性化に向けたさまざまな策を行っていますが、それでも景気刺激策として新築が優遇されているのが現状です」と表情を曇らせる。
いまや、誰にとっても決して他人ごとではない空き家問題。上田さんは、空き家を現在所有している、または今後所有するかもしれない場合、管理と利活用のふたつの視点から考えることが必要と説く。
まず、管理について。親の家の使い道には、自分が住む、売却する、人に貸す、解体すると4つの方法がありますが、いずれにしても、結論が出るまでに数年、場合によっては10年以上の歳月を費やすことも少なくない。
「その間、近隣の方に迷惑をかけないためにも、資産価値を維持するためにも、適切な管理が不可欠です」と上田さんは言う。
人が住まないと、建物は急速に劣化するもの。閉め切った建物の内部に湿気がこもることでカビや汚臭が発生し、建材がもろくなり、屋根や外壁がはがれ落ちることもあります。また、生い茂った庭木や雑草が害虫を招き、それをエサとする動物がすみ着くということも。さらに、ゴミの不法投棄や放火、不審者の侵入といった犯罪も招きかねない。小さなうちに気づけば容易に対処できる問題も、しばらく放置しているうちに大事になり、手に負えない状態に陥ってしまうのだ。
実家に足を運んだら、ご近所に挨拶を
そのため上田さんは月に一度程度は現地に足を運ぶことを勧める。 「換気、清掃、庭の手入れなどの作業と、雨漏りがないか、ハチが巣を作っていないかなどのチェックを定期的に行い、空き家の状態の把握と維持を心がけましょう」
このとき忘れてならないのが、ご近所への挨拶。現地に着いたら作業前に挨拶をし、地域の治安状況や空き家が迷惑を掛けてしまっていないかなどを確認。コミュニケーションをきちんととっていれば、場合によっては、ポストに投函されたちらしの処分や郵便物の保管などをお願いすることもできる。また、何かあったらすぐに知らせてもらえるように、こちらの緊急連絡先も伝えておけば安心だ。
ただし、空き家の管理は長期にわたることが多く、定期的に通い続けることは決して容易ではない。空家・空地管理センターにも、「こんなに大変だとは思わなかった」「もう管理しきれない」と駆け込んでくる相談者が少なくないそうだ。
「当初はがんばって通っていても、遠方だったり、仕事や子育て、介護に追われたり、本人も高齢で体力的にきつくなったりと事情が変わり、通いきれなくなる。実家の近くに住んでいる子どもだけに負担が集中しがちなことも、管理が続かなくなる理由のひとつですね」
トラブルを未然に防ぐため、上田さんが強調するのが、「まず兄弟姉妹間で話し合いをもつこと」。管理代行サービスなど第三者の力を借りる可能性も含め、誰がどうやって管理するのか、管理にかかる経済的な負担はどうするのかなど、役割分担を決めることが大切だと言う。
兄弟姉妹で相続する場合は要注意
次に、親の家の利活用という視点から、知っておきたいことをうかがった。
親の家を相続した場合、リフォームして賃貸にする、解体して駐車場にするなどさまざまな利活用の方法があるが、圧倒的に多いのは売却だ。
「思い入れのある家を手離すのはしのびないと、いったんは人に貸すことを検討される方もありますが、賃貸経営にはリスクもありますし、リフォームのコストを伴うため、決断しにくいというのが現実のようです」
ただし売却は、現金化できること、管理の手間やコストがゼロになるという点でメリットは大きいものの、いざとなると、なかなか一筋縄ではいかない面も多いのだとか。
売却がスムーズに進まない理由には、思った価格で売却できない、買い手が見つからないなどいろいろありますが、とくにトラブルに発展しがちなのが、兄弟など複数の人が共有で相続している場合。上田さんが受けた相談でも、兄のほうは「管理も大変だし、売りたい。お父さんやお母さんもそれを望んでいたと思う」と言うのに対し、妹や弟が「先代が苦労して手に入れた家を売るなんてとんでもない」と反対し、合意成立までに長い時間がかかったケースがあるそうだ。
相続人同士の無用な対立を避けるためには、住む人がいなくなった後の実家の利活用について、親が元気なうちにその意思をしっかり確認しておくことが望ましいと上田さんは話す。
「そうでなくても、実家にはそれぞれ思い入れがあり、売却や解体には罪悪感がつきまとうもの。売却してお金で幸せになってほしいのか、それとも家を守り続けてほしいのか、親の意思を聞けていれば、それが道しるべとなり、売却するにしても罪悪感は軽くてすみます。親が家を残すことを望んだ場合でも、兄弟が力を合わせてがんばれるのではないでしょうか」
子ども全員を集めて家族会議を開き、そこで親の想いを伝えるのが理想ですが、遺言書やエンディングノートなどに残すという方法もある。
「一部の子どもだけに伝えるのは絶対にやめてください。遺された子どもたちが家を巡って仲たがいすることのないように、親として、“物”だけでなく“想い”もきちんと相続するという配慮が必要です」
さらに上田さんは、親の気持ちに配慮しながらも、子どもの側も相続の話をタブーにしないことが大事と話す。子どもが問いかけをすることで親が考えるきっかけになるからだ。
「『一生懸命建ててくれた家だけど、自分たちにも家があるし、この家をどうしてほしい?』とざっくばらんに聞いてみてはいかがでしょう。親の想いをつないでいきたいという姿勢を見せれば、お父さんお母さんも決して嫌な気持ちにはならないと思いますよ」
きちんと管理されていれば財産
全国各地で空き家が増え続けているのは、「所有者がどうにかすれば解消されるといった単純なものではない」(上田さん)という側面もあるからだ。
「所有者の当事者意識はもちろん必要ですが、行政には、所有者の適正管理を支援するような情報やサービスの提供を求めたいです。また、空き家の近隣に住む人たちも、空き家問題を解決するための主体となれるはずなんです。昔から空き家はありましたが、皆で見守ってきたから大きな問題にはならなかった。もちろんできる範囲でかまわないのですが、たとえば、『何かお手伝いすることはありますか?』とひと言声をかけるなどすれば、所有者もお願いしやすいでしょう。お互いの小さな気遣いで対立にならず解決できる問題は多いと思います」
また上田さんは、増加する空き家が大きな問題になっていることを懸念する一方で、「空き家=地域のお荷物」とばかり、一律に空き家のリフォームや解体を迫る風潮があることも気になっていると言う。
「相談者からも『空き家は必ず利活用しないといけないんですか?』という質問を受けることがありますが、決してそうではないと思います。きちんと管理さえされていれば、個人の財産なので、利活用するのも空き家のまま保有するのも所有者の自由。そこは憲法で保障された権利であることを、ご本人も周囲の人たちも理解すべきです」
空き家や親の家に関するたくさんの相談を受ける上田さんだが、「私たちにできることは、必要な情報を提供したり、選択肢を見えやすくすること」と言う。
「空き家となった親の家をどうしていくかは、あくまでも所有者一人ひとりが考えること。最後まで自分で考え、自分が納得できる答えを見つけることが大事です」