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キッチンの拭き掃除をする本橋さん

写真=川津貴信

家じゅうの掃除は、5つの洗剤があればいい。汚れを“化学して”落とす「ナチュラルクリーニング」術

  • 暮らしと社会

身の回りはきれいに保つほうが、気持ちいい。分かってはいるものの、なかなか腰が上がらない。その割りに新しい洗剤が発売されるとつい手が出て、家の中はボトルだらけ……。「そんなかたにおすすめの掃除術がありますよ」と話すのは、合成洗剤を使わない「ナチュラルクリーニング」の普及に力を入れている本橋ひろえさん。かつて薬品会社で洗剤開発を手掛け、掃除嫌いも自認する本橋さんがすすめる、安心・時短、しかも経済的なナチュラルクリーニングとは?

酸素系漂白剤で排水口の汚れもにおいもすっきり!

――本橋さんの『ナチュラルおそうじ大全』(主婦の友社)を拝見し、早速、わが家のキッチンの排水口を酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)でつけおき洗いしてみました。つけておくだけで、力を入れてこすらなくても、ヌルヌルしていた汚れがきれいに取れて、さっぱりしました。

本橋 それはよかったです。排水口は少し複雑な構造ですから、掃除しにくいですよね。とくに、水がたまる排水トラップの部分は手が届きにくいので雑菌が繁殖しやすく、においの原因にもなりがちです。でも、過炭酸ナトリウムを使えば、汚れ落としと除菌が一度にできるんです。

排水口に過炭酸ナトリウムを投入

ラップ等で排水管にふたをして、排水口をつけおき洗いする(写真=川津貴信)

――確かに! 気になっていたにおいも消えました。これまで、排水口には排水口用の洗剤を使わないと……と思っていました。

本橋 洗剤メーカーは、場所別、用途別に商品を提案していますからね。でも、「ナチュラルクリーニング」では、場所ごとの専用洗剤はありません。重曹、クエン酸、過炭酸ナトリウム、石けん、アルコールの5つで、家じゅうの汚れを落とすことができます。排水口用の洗剤を買ってこなくちゃ排水口をきれいにできない、ということはなくなりますよ。

重曹、クエン酸、過炭酸ナトリウム、石けん、アルコールの包材

写真=編集部

――それだけでも、掃除のハードルが少し下がる気がしますね。

本橋 はい。おそらく多くの家庭で、使い切れていない洗剤のボトルがゴロゴロしているのではないでしょうか。まだ残っているのに、目新しい商品が出てくるとつい買ってしまう。ナチュラルクリーニングを始めたら、余計なボトルがなくなって家の中がすっきりした、洗剤に費やすお金が減ったと喜んでいる人が多いですよ。

小学校の理科の実験で習った“あの原理”を利用

――改めて、「ナチュラルクリーニング」とはどういう掃除術なのかを、説明していただけますか?

本橋 一言でいうと、「合成洗剤を一切使わない掃除の方法」です。今世の中で販売されている洗剤のほとんどは合成洗剤ですが、先ほど挙げた5つはすべて、自然界にある素材。食品添加物として使われていたり、川や海の水の中にもともと存在する成分からできているので、環境への負荷が小さく、手肌に触れても安心といわれています。

重曹の粉末

写真=川津貴信

――毎日使うものですから、肌や環境に優しいのはうれしいですね。ただ、場所ごとでないとすると、どうやって洗剤を選べばいいのですか?

本橋 汚れの性質を見極め、それを落とすのに最適な洗剤を“化学的に”選ぶのです。

――「化学的に選ぶ」とは、どういうことでしょう。

本橋 小学校の理科でリトマス試験紙の実験をしませんでしたか? 酸とアルカリが混じると中和という反応が起き、中性になると習いましたよね。掃除には、あの原理が使えるんです。

 家の中には、ほこりやちりなど掃除に洗剤を必要としない汚れもありますが、洗剤を必要とする汚れは、化学的には、酸性、アルカリ性、中性に分類されます。そして、酸性の汚れにはアルカリ性の洗剤を、アルカリ性の汚れには酸性の洗剤を組み合わせる。すると、汚れが中和されて緩み、面白いように落ちるのです。

 洗剤の裏面を見ると、必ず性質が書いてありますよ。先ほど挙げた中では、重曹、石けん、過炭酸ナトリウムはアルカリ性、クエン酸は酸性です。

クエン酸の包材の裏面

写真=編集部

家じゅうの汚れの8割以上は酸性

――なるほど! 酸性の汚れにはアルカリ性の洗剤、アルカリ性の汚れには酸性の洗剤。とてもシンプルですね。でも、家の中の汚れの性質を判断できなければ、適材適所に洗剤を選ぶことはできませんね。

本橋 そこがナチュラルクリーニングの肝です。汚れの性質を見極めるのは、決して難しくはないんですよ。というのも、家の中の汚れで、洗剤を使って落とすものの80~90%は酸性ですから。

 まず、油汚れが酸性です。キッチンのコンロや換気扇の汚れをはじめ、私たちの体から出る皮脂による汚れ――手で触った跡や、はだしで歩いたフローリングのぺたぺたした感じなどですね。そのほか、人の体から出た直後の汗や尿も酸性です。

油汚れのついた換気扇カバー

写真=川津貴信

――それらと組み合わせるのは、アルカリ性の洗剤ということですね。

本橋 はい。ナチュラルクリーニングで使うアルカリ性の洗剤は3つありますが、重曹<石けん<過炭酸ナトリウムの順でアルカリ度が高くなるので、汚れの程度に応じて選びます。

 例えば、軽い油汚れなら、重曹で十分。1%濃度の重曹水をスプレーしてさっとふき取れば、二度ぶきは必要ありません。最もアルカリ度が高い過炭酸ナトリウムは、換気扇やコンロの五徳などギトギトした油汚れを落とすほか、衣類や食器の漂白、除菌効果も。60℃のお湯に溶かして使うと最大の効力を発揮します。(※1)

換気扇カバーを洗う様子

つけおき洗いした換気扇カバー。汚れがするりと落ちた(写真=川津貴信)

――本橋さんは、セスキ炭酸ソーダは使わないのですか?

本橋 セスキ炭酸ソーダも弱アルカリ洗剤(pH値9.8)ですが、重曹よりもアルカリ度が高いのです。洗浄力が強い分丁寧にすすがなくてはならないので、私はふだんの掃除には使っていません。ただ、時間がたって固くなってしまったような油汚れを落とすのが得意なので、大掃除のときなどはとても便利ですよ。

※1:お湯を使用する場合は、洗浄する物の耐熱温度にご注意ください。

洗剤のpH値と得意とする汚れ

洗剤のpH値とそれぞれが得意とする汚れの一覧

石けんの原料は天然の油脂なので、きちんと洗い流さないとかびや雑菌の原因になる

アルコールは、かびにも油汚れにも使える優れもの

――それでは、アルカリ性の汚れには、どのようなものがありますか?

本橋 水あか、石けんかす、アンモニア臭、魚やたばこのにおいの4つだけです。これらの掃除には、酸性のクエン酸を使います。

 ただ、体から出た直後の尿は酸性ですから、1週間以内に掃除をすれば、アンモニア臭は発生しません。

 水あかは、乾燥機能付きの洗濯機や食器洗浄機、加湿器などに付着しますが、ごく少量なので、ケアは1か月に1、2回で十分。蛇口やお風呂場の鏡の水あかは、1日に1回でも乾燥した布で水滴をふき取っておけば予防できます。

水道の蛇口をクエン酸水で掃除する

水回りは週1回を目安にクエン酸水でのお掃除を(写真=川津貴信)

――中性の汚れは、かびと雑菌でしたね。

本橋 そうです。かびや雑菌には、除菌効果の高いアルコールや過炭酸ナトリウムを使います。

――アルコールも、洗剤なのですね。

本橋 消毒薬のイメージが強いですよね。実際には、除菌のほかに、油を溶解する力があるので、ベトベトした油汚れにも威力を発揮します。揮発性が高く、後に残らないので二度ぶきも不要。かびの生えやすい場所のほか、家電やコンセント回りなど水を使えない場所の掃除にも向いている優れものです。

 アルコール水をスプレーボトルに入れて家のあちこちに置いておけば、気づいたときにさっと掃除できます。手作りする場合は、35%濃度(※2)がおすすめ。これより濃度が低いと効果が減少しますし、高いと家具や家電製品の塗装などを傷めてしまう可能性があります。

※2:アルコール分80%程度の消毒用エタノールの場合、90mlに対し水110mlで薄めたもの。

市販のアルコールスプレーを使う様子

市販のキッチン用アルコール除菌スプレーを使っても(写真=川津貴信)

かつて、合成洗剤の製造に携わっていた本橋さん

――ナチュラルクリーニングのメカニズムが理解できました。ところで、本橋さんは何をきっかけにナチュラルクリーニングを始めたのですか?

本橋 子供のころから肌が弱く、皮膚科で「化粧品や洗剤を選ぶときには注意して」と言われたことがあって、中学生くらいのころから、成分表示を見ることが習慣というか、もはや趣味になっていましたね。

 その延長で大学でも化学を専攻し、卒業して入社した薬品会社で所属したのが合成洗剤を製造する部署でした。そのころ担当していたのは車用の洗剤でしたが、洗剤全般の製造法や成分の基礎知識について、いつの間にか詳しくなっていました。

インタビューに答える本橋さん

写真=川津貴信

――そこから、なぜナチュラルクリーニングに?

本橋 結婚して退職し、いざ自分自身が家事をするとなったときに、改めて洗剤の裏面を見たのです。そうしたら、車用の洗剤と同じ成分が、食器用や洗濯用の洗剤にも使われていた。「車を洗うような強力な成分が、食器や肌に残留したら……」と違和感がありました。それを機に、合成洗剤をやめてみようと思ったのです。今から20年くらい前のことです。

――いっぺんにやめたのですか?

本橋 ええ。それ以来、一切、合成洗剤は使っていません。実はそのころ、世間では掃除に重曹を使うのがブームになっていたんです。界面活性剤(※3)でもないのになぜ汚れが落ちるのだろうと気になって調べ、アルカリと酸の中和反応を利用しているんだと知りました。この原理を使えば、いろいろな合成洗剤をそろえなくても、重曹一つでほとんどの汚れは落とせるんじゃないかと考えたのです。

――今、全国で講習会を開かれているとか。大変好評だと伺いました。

本橋 「わざわざ掃除を習いに行くなんて」と不思議に思う人もいるようですが、考えてみれば、汚れが落ちるメカニズムについてきちんと学ぶ機会ってほとんどないんです。何となくCMの情報で洗剤を選んでいる。学校の授業でも、理科と家庭科を横断するような形で、科学的根拠に基づく汚れの落とし方を教えてくれれば、掃除も洗濯ももっと楽になるのにと思います。

※3:界面活性剤とは、水と油の境目(界面)に入り込み、界面を壊して混じり合わせる物質の総称。

著書本を手にインタビューに答える本橋さん

写真=川津貴信

すすぎが楽だから、掃除の手間が半分以下に

――本橋さんご自身が、ナチュラルクリーニングを続けてきてよかったと思うのは、どういう点ですか?

本橋 おそらく、皆さんがナチュラルクリーニングに対して抱いているのは、第一に安全安心のイメージでしょう。もちろんそれもありますが、私自身、何がいちばんうれしかったかといえば、すすぎやふき取りがとても簡単ということでした。

 洗剤の成分が肌や衣類に残れば肌への刺激になるし、食器に残っていれば、食べ物と一緒に体に取り込んでしまうことになりかねない。やはり心配ですよね。その点、ナチュラルクリーニングなら、そもそもの素材が安心なものなので、濃度にさえ気をつければ、入念にすすいだり、何度も水ぶきをする必要がありません。一気に掃除の時間が短くなりました。

換気扇を拭く本橋さん

写真=川津貴信

――洗剤を選ぶときに、すすぎやふき取りの手間までは気にしていませんでした。

本橋 そういう人が多いです。「1滴で汚れがみるみる落ちる」という合成洗剤のCMを見ると、効率的で経済的なような気がしますよね。けれど、少量でも効果があるということはそれだけ強力な成分を使っているということ。その成分を完全に落とすために、どれだけ大量の水が必要で、どれだけ手間をかけないといけないか。

 私は本当に掃除が嫌いなのですが、一度も合成洗剤にリバウンドしなかったのは、ナチュラルクリーニングが時短につながると分かったからです。個人的な感覚でいうと、手間は半分以下ですね。

インタビューに答える本橋さん

写真=川津貴信

毎日の3分掃除で、大掃除要らず

――ナチュラルクリーニングがいいことずくめであることが分かりました。それでも「掃除が面倒」という人のために、背中を押すアドバイスをいただけますか?

本橋 私も含め、ほとんどの人にとって、掃除は積極的にやりたいことではありません。苦手な人ほど、ついつい汚れをためて毎回大掃除のようになる、ますますやりたくなくなる、やらないから汚れがたまるという悪循環に陥っています。

 小まめな掃除を定着させるためにおすすめしたいのは、きれいにしたい箇所を細かく書き出し、それぞれの掃除にかかる時間を把握しておくこと。

 終わりが見えない掃除はおっくうです。けれど、トイレなら3分、玄関なら5分というように、「これくらいの時間があればここをきれいにできる」という目安があれば、すき間時間にも行動しやすくなります。そして、3分でもやれば、その分は確実にきれいになるんです。

 私は、今日も、家を出てくる前に少し時間に余裕があったので、トイレ2か所と玄関の掃除をしてきました。それでも、合わせて10分ちょっとでしたよ。

インタビューに答える本橋さん

写真=川津貴信

――合理的ですね!

本橋 私のモットーは、最小限の手間で最大限の効果を上げることです。

 ナチュラルクリーニングなら短時間で済むし、子供にも任せやすいから家族で分担もできる。一つ一つは小さな掃除でも、積み重ねれば大掃除に匹敵する効果になります。

 10分以内で終わる掃除が20項目くらいすらすら書き出せるようになっていれば、汚れがたまらないサイクルができているはず。そうなったら、もう年末の大掃除は必要なくなりますよ。

取材・文=高山ゆみこ 写真=川津貴信 構成=編集部