40万円が必要で始めたゴミ清掃員
――滝沢さんはお笑いコンビ「マシンガンズ」として活動しながら、ゴミ回収を行う清掃員としても働き、ゴミ問題に関するさまざまな発信をしていらっしゃいます。ゴミ清掃員になったきっかけは何だったのでしょうか?
滝沢秀一(以下、滝沢) 僕はお笑い芸人をもう25年やっていますが、いわゆる“売れていない”状態が長かったんですね。お笑い番組ブームの時はよかったのですが、それが終わると生計を立てるのが難しくなりました。そんなタイミングで11年前、36歳の時に妻から「3月までに40万円持ってこい」と言われました。そう言うと何かの取り立てみたいですけど(笑)、出産費用が必要だったんです。
貯金がゼロだったのでアルバイトをしようと慌てて探したのですが、求人雑誌を見たらどこも「35歳まで」と書いてある。片っ端から電話をかけて9社すべてに断られました。もうお笑いをやめようか……と思ったときに友人の口利きで紹介してもらったのがゴミ清掃員の仕事だったんです。
――始められたのは偶然だったのですね。
滝沢 たまたまでした。今では環境や食品ロスの問題に関する活動や発信をしていますけど、そのときの僕はゴミに対する関心も知識もなかったし、ゴミ清掃員がどんな仕事をしているのかも知りませんでした。言ってみれば知識ゼロ。だからこそ、働き始めてから「ゴミの世界はこんなことになっていたんだ!?」と驚きの連続でした。
「えっ、日本がゴミで埋まるんですか!?」
――ゴミ清掃員になって、まず驚いたのはどんなことでしたか?
滝沢 まず、とにかくゴミの量ですよね。自分の家から出るゴミの量は、せいぜい45リットルのゴミ袋一つ分くらい。大したことない気がしますけど、街じゅうのゴミを集めると衝撃的な量になってくる。
例えば僕が可燃ゴミを担当する日は、朝8時から回収を始めて、2トンの清掃車がいっぱいになると「ごみピット」という一時保管場所に持って行きます。それを午前中に4回、午後に2回繰り返す。
つまり僕が担当する清掃車1台で、一日10~12トンくらいの可燃ゴミを回収します。ごみピットに行くと十数台の清掃車がいますから、地域全体だとゴミの量は、その十数倍になるわけです。
――可燃ゴミだけで、一日でそんなに出ているのですか……。
滝沢 地域でこれだけゴミが出ているなら、日本全体ではどれだけなんだろうとびっくりして、「日本ってゴミで埋まらないですかねえ」とベテラン清掃員に冗談半分に言ったら、「そりゃ、埋まるに決まっているだろ」って当たり前のように返されたんです。「えっ、埋まるんですか!?」って。
そのとき初めて、東京23区の最終処分場である「中央防波堤埋立処分場」が、あと50年ちょっとで満杯になると知りました。ゴミは燃やしたら消えてなくなるわけじゃなくて、最後は灰になって最終処分場に埋めるんですよ。地域によって最終処分場の寿命(残余年数)はバラバラですけど10年もたないところもあって、日本全国の平均では残り23.5年です[1]。
あと20年くらいでゴミを埋める場所がなくなってしまう。それがすごく衝撃的で、「じゃあ、ゴミを減らさなくちゃいけないんじゃないの?」といろいろ調べるようになったんです。
「ゴミ」か「資源」か、分別にかかっている
――ゴミを減らすために、どんなことができるでしょうか?
滝沢 地域によって分別の種類は違いますが、基本的に「ゴミ」というのは、実は可燃ゴミと不燃ゴミの2種類だけ。容器包装プラスチックや古紙、瓶、缶、ペットボトルなどは、すべてゴミではなく「資源」です。粗大ゴミも可燃や不燃、金属などに分けられます。
けれど、東京・港区が令和4年度に実施した「ごみ排出実態調査」[2]によると、家庭から出た可燃ゴミのうち、約3割は資源としてリサイクルできる紙やプラスチックでした。つまり、資源になるはずのものがゴミとして燃やされてしまっている。
お菓子の箱や封筒など、何となく可燃ゴミに入れてしまいがちですが、ちゃんと分別すればゴミは減ります。それらを古紙回収に出せば、もう一回紙として生まれ変わることができる。ペットボトルなどほかの資源も同じです。よくいわれるように、「捨てれば『ゴミ』、分ければ『資源』」なんです。
――捨てた瞬間にゴミになってしまう。日々、回収の現場で感じることも多そうですね。
滝沢 値札がついたままの洋服や開けていないお中元の箱、さらにはメロンが丸ごと捨てられていたこともあります。新米の季節になると、大量の米があちこちで捨てられているんですよ。たぶん新しい米をもらうんでしょうね……。
回収するのが僕の仕事ですが、まだ食べられる食品を清掃車に入れて回転板のスイッチを押すときは胸が痛くなります。日本の食品ロスは500万トン以上で、その半分弱が家庭から出ています。環境問題も食品ロスも、どこか遠くで起きていることじゃなくて、身近な生活につながっているんだと知ってほしい。
ギニア出身の清掃員と一緒に働いたことがあるのですが、彼は古い靴を見て「まだ履けるのに」と、ずっと「もったいない、もったいない」と言っていました。回収するゴミを見ていると「とりあえず買っておいて、いらなければ捨てればいい」と思っているのかなと感じてしまいます。
むき出しの包丁、可燃ゴミにガスボンベの「危険」
――びっくりするような出し方をしているものもありますか?
滝沢 けっこうありますよ。いちばんびっくりしたという意味では、大量のえのきバターかな(笑)。高級住宅街で90リットルのポリバケツいっぱいに、えのきバターが捨てられていたことがありました。周りに飲食店があるわけでもないし、今も理由はなぞのままです。
そういう不思議なのもあるけれど、危険な出し方もあります。あるとき、ゴミ袋を回収しようと持ち上げたら、むき出しの包丁がストンと落ちてきたんです。足の上に刃から落ちていたら貫通していたと思います。
また、秋冬にはカセットコンロ用ボンベを出す人が増えます。自治体によって不燃ゴミだったり資源だったりと回収の仕方は違うのですが、年末にそうした回収が終わってしまうと、可燃ゴミに混ぜて捨てる人が出てきます。中身がわからないようにタオルでぐるぐる巻きにしているのも見たことがありました。
――それは、ひどいですね。
滝沢 こういうスプレー缶は、清掃車の中で圧迫されて引火することがあるんですよ。不燃ゴミ回収をしている僕の友人は、清掃車が2回燃えたことがあると言ってました。1台1000万円くらいするのですが、結局はみなさんの税金ですよね。もちろん、お金のことだけじゃなくて、僕の友人のようにゴミ清掃員の命がかかっています。
最近多いリチウムイオン電池なども、清掃車火災の原因になります。携帯扇風機とかモバイルバッテリー、電子タバコなどに使われていて便利なのですが、自治体によって回収方法が異なり、回収していない地域もある。買うときに「これってどうやって捨てるんだろう」ということも考えてもらえるといいなと思います。
「出してしまえば、だれかが何とかしてくれる」
――分別を守らないことが事故につながることもあるのですね。
滝沢 「とりあえず出してしまえば、だれかが何とかしてくれるだろう」という気持ちがあるんでしょうね。資源回収に出したペットボトルのラベルやキャップをはがさない人もけっこういますが、実はこれ、清掃員が手作業で一つずつはがすんです。夏場はペットボトルが多いので、この作業でけんしょう炎になる人もいます。
なぜラベルとキャップを取るのかというと、ボトル本体はPET(ポリエチレンテレフタレート)、ラベルはPS(ポリスチレン)、キャップはPP(ポリプロピレン)と、素材が全部違うからなんですね。混ざるとリサイクルの質が下がってしまう。
全部一緒に集めて機械で粉砕できる自治体もありますが、東京23区では手作業でやっているところが多い。「自分ひとりだけ」のつもりでも、それが集まるとすごい量になって大変です。
――悪気はなくても、分別の仕方がわからなくて迷ったり、間違ったりしたことがある人も多いかもしれません。
滝沢 確かに分別は意外と難しいですよね。僕がゴミについての講演会をするときも分別に関する質問がいちばん多い。地域によってルールが違うので、まずはお住まいの自治体のパンフレットを読んでもらうのがいちばんいいと思います。
確認しないで適当に出す人もけっこういて、ペットボトルの回収場所によくあるのが調味料の容器です。容器の裏には「プラ」と書いてあるのですが、何となく似ているから出してしまうんでしょうね。シャンプーやボディソープ、漂白剤の容器なども多い。缶の回収に水筒を出す人もいます。「これがいけるなら、これもいけるだろう」みたいな、もはや連想ゲームになっています。容器に油汚れや中身が残ったままで資源回収に出している人も結構いますね。
「ピザの箱は古紙回収には出さないで!」
――間違えやすい分別については、滝沢さんのSNSでも積極的に発信していますね。
滝沢 よく投稿しているものに、ピザの箱があります。古紙回収に出す方がいるのですが、チーズや油汚れがついているとリサイクルして新しい紙にしたときに油汚れが浮き出てくるので使えません。なので可燃ゴミで出してください。これを投稿すると、毎回「知らなかった」という人が必ずいるので、何度でも発信することが大切だなと感じています。
また、金や銀などメタリックな色のついた紙、それから石鹸などの強いにおいがついている紙も、新しく紙にするときに影響があるのでリサイクルできません。要は、資源として回収されたあとに何になるかを考えてみるのがポイントです。
――反対に、ゴミの出し方で「これはうれしかった」というものがあれば教えてください。
滝沢 竹串など先が尖ったものを出すときに、ティッシュの箱などに入れてくれる人がいて、「清掃員のことまで考えてくれているのかな、ありがたいな」と思いました。僕らは何が入っているのかわからないので、知らずに持ったときにケガすることもあるんですよね。
あと、コロナ禍を機に、「いつもありがとうございます」というメモをつけてくれる人も増えました。そこまででなくても、きちんと分別されているだけで回収作業がとてもスムーズになります
自分がゴミを出したあと、どんな人たちが集めているのか、分別をした先で何をしているのかをちょっと想像してもらえたら、出し方も変わってくるんじゃないでしょうか。
「4R」を大事にすればゴミ問題は解決できる
――自分が出したゴミの「その先」をイメージしてみることが大切なのですね。
滝沢 僕は、ゴミ問題の最大の原因は、捨てた先がどうなっているのかを想像できない「顔の見えない社会」になっていることじゃないかと感じているんです。
実際、僕がゴミ清掃員になったら、周りの芸人たちが「もしかしたら滝沢が回収に来るかもしれない」ということでちゃんと分別をしてくれるようになったんですね。僕らはそういう思いやりを、見えない相手に対しても持てる社会を作っていかなくちゃいけないと思っています。
「ゴミは社会の縮図」のようなもので、その人の生活から社会のあり方まで、いろいろなことが詰まっているんですよ。
――最後に、私たちがゴミ問題を考えるうえでのヒントやアドバイスがあればお願いします。
滝沢 僕自身は、ゴミ清掃員になっていろいろ調べていく中で、分別に気をつけたり、生ゴミをコンポストで処理したりするだけでなく、そもそも無駄なものを買わないようになりました。
「Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)」の3Rと言われますが、リサイクルにもエネルギーがかかる。最初からゴミを出さないリデュースがいちばん大切です。 そして、その3Rにもう一つ「Respect(リスペクト)」を加えた「4R」を大事にしてほしいなと思っています。
「いらなければ捨てればいい」「だれかが何とかしてくれる」というのではなく、みんなが食品や物、人に対してリスペクトする気持ちを持つようになれば、ほとんどのゴミ問題は解決するはずです。