ペットボトル水「富士の天然水」と使用済みペットボトルを圧縮したかたまりがいくつも積み上げられているようす。

写真=編集部

「B to B」ってなんだ? プラスチックごみ削減に取り組む生協が、ペットボトルを導入した理由

  • 環境と平和

生活に密着したプラスチック製品の一つに、ペットボトルがある。日本での年間販売量は、約236億本(※1)。CO2排出やプラスチックごみの問題など、課題は山積している。しかし、これほどまでに普及した背景には強度や衛生面など多くの利点があるのも事実。これまでペットボトル商品の取り扱いを見送ってきた生協パルシステムでは、2016年に再生樹脂100%のペットボトルについては、ミネラルウォーターに限ってその取り扱いを開始した(※2)。環境に配慮する生協がなぜ、ペットボトル導入に踏み切ったのだろう。

※1:2017年度。 PETボトルリサイクル推進協議会調べ

※2:パルシステム東京では扱っていない

転機となったのは東日本大震災

 1967年、アメリカで開発されたペットボトル。ポリエチレンテレフタレート(PET)という石油製の樹脂を使ったこの容器は、その利便性、耐久性などが評価され、瞬く間に世界各国で用いられるようになった。

形が違う複数のペットボトル

日本ではリサイクル推進のため、ペットボトルに「着色はしない」と定められている(写真=スムース / PIXTA)

 しかし、この半世紀であまりにも増えすぎたペットボトルは石油資源の枯渇や製造時のCO2排出、海洋プラスチックの問題など、環境への負荷が世界的に懸念されるようになっている。

浜辺に捨てられたペットボトル

プラスチックごみによる海洋汚染問題が深刻化(写真=Blue flash / PIXTA)

 事態は日本でも同様だ。国内のペットボトルのリサイクル率は約85%(※3)といわれているが、日本で活用されずに海外へ輸出されているものも多く、国内で資源として生かされていないことが多いのが現状だ。

 日本では1982年に清涼飲料用の容器としての使用が認められたペットボトル。今では清涼飲料の約3/4がペットボトル容器になり、缶や紙パック、びんを大きく上回っている。

清涼飲料容の容器別シェアの円グラフ。ペットボトル飲料74.6%、缶詰飲料12.4%、紙容器飲料8.5%、びん詰飲料1.2%、その他3.2%

(出典=一般社団法人全国清涼飲料連合会)

 ペットボトルが飲料容器の主流になってからも、商品開発段階で使用および廃棄までを想定し、環境に配慮した容器包装を採用してきた生協パルシステムが、2016年になってペットボトルの導入を決めた。あえてペットボトル商品を扱わない姿勢を貫いてきたのに、なぜ方針を変えたのか。

 パルシステム生活協同組合連合会代表理事 専務理事の渋澤温之さんは、「大きなきっかけは、東日本大震災でした」と、この決断に至った経緯を振り返る。

代表理事専務理事の渋澤温之さん

代表理事 専務理事の渋澤温之さん(写真=編集部)

 「パルシステムではプラスチックを含め、商品の容器包装の取り扱いについて、1990年代から組合員を交えて慎重な議論が重ねられてきました。2004年にはリユースペットボトルの検討も進められましたが、再利用、再資源化および再生システムの確立が不十分との考えから、取り扱いを見送っていました。しかし東日本大震災が発生した際、揺れが大きかった地域では、紙パックのミネラルウォーターがつぶれたり破れたりしました。持ち運びにくい、リキャップできない等も災害時には問題となりました。

 加えて、当時唯一の水商品だったこの紙パック水に注文が集中し、供給が追い付かない事態に。『届けたくても、届けられない』という状況が続く中、ライフラインとして、また備蓄のためにも『衝撃に強く、持ち運びやすく、ふたの開け閉めが容易なペットボトルの水を』という切実な意見が、まず組合員の声としていくつかの会員生協から上がってきました」

※3:2017年度。 PETボトルリサイクル推進協議会調べ

ペットボトルからペットボトルへ、何度でも

 こうしてパルシステムでは、再びペットボトルの取り扱いについて真正面からの議論を行った。環境だけでなく防災の観点にまで広がりを見せるようになった。この同時期に、ペットボトル導入への決断を後押しする二つの大きな出合いがあったという。一つは、協栄産業株式会社との出合いだ。

 協栄産業は、1985年に設立されたリサイクル会社。増え続けるペットボトル利用に比例するように、新たな石油が使われ続ける現状を打破するため、同社は不可能だと思われていたペットボトルからペットボトルへのリサイクル技術「ボトル(B) to ボトル(B)」を確立した。

 これまで、回収された使用済みペットボトルは海外に輸出されるか、衣料用の繊維や梱包資材、文房具などの原料となる「再生PET」を製造するのが一般的。この再生PETで再び飲料用のペットボトルを作ることはできていなかった。どんなに洗浄しても、PET樹脂の中に入り込んだにおいや汚れを完全に除去するのは不可能だったからだ。

 この難題に挑んだのが、同社代表取締役社長の古澤栄一さん。これだけペットボトルが普及してくると、新たな石油を使わないためには再生ペットボトルを開発するしかない。「ペットボトルはペットボトルに戻すべき」という強い信念のもと、この問題を解決する技術を2009年に開発し、2011年に見事実用化を果たした。スタート時は再生原料の割合は50%だったが、翌2012年からは100%に。新たな石油資源を使わない100%リサイクル原料で作った飲料用ペットボトルを誕生させた。

古澤栄一さん

協栄産業株式会社 代表取締役社長の古澤栄一さん(写真=持城壮)

 「PET樹脂を200℃以上の高温・真空の状態にすることで、内部に収着したにおいや汚れを取り除き、不純物を完全に除去した高品質なPET樹脂を再生することに成功しました。分子と分子が不純物なく再結合した再生PETは強度も高く、バージン原料(石油から作ったPET樹脂)と同等の品質です」と、古澤さんは自社の再生PET樹脂について説明する。

ペットボトルのリサイクルの流れを表す図

出典=協栄産業の資料を基に編集部が作図

 パルシステムではこの技術を「国内での資源循環を可能にし、ペットボトルによる環境負荷を大きく軽減させる革新的なもの」と高く評価した。

 「従来の再生PETでも、一度は資源を再利用できますが、再利用製品が劣化すれば次は廃棄せざるをえないという課題が残っています。しかし協栄産業の方法なら、何度でもペットボトルへの再生が可能であるということに大きな感銘を受けました」(渋澤さん)

 水の容器としてこの100%再生ペットボトルを導入しているのは、現在、パルシステムだけである。パルシステムではかねてより、宅配事業による「届けて、回収する」という独自の物流システムを生かし、プラスチック袋や紙パックなどの回収を行ってきた。ここにB to Bのペットボトルを加えれば、使用済みペットボトルも資源として循環させることができる。しかも、協栄産業ではちょうどその当時、新たなリサイクル工場を新設したばかり。大量の使用済みペットボトルを継続して受け入れられる体制にあった。

回収されたペットボトルの山

容器包装リサイクル法に基づいて回収されたペットボトル(写真=編集部)

 そしてもう一点、B to BはCO2排出削減につながるというのも大きな利点だ。PET樹脂1kgを原油から製造した場合、約1.577kgのCO2が排出されるのに対し、ペットボトルから再生PET樹脂1kgを製造した場合は約0.583kgと、CO2排出を約63%抑えることができるという報告がある(※4)。つまり原油を輸入してPET樹脂を作るより、回収したペットボトルで再生PET樹脂を作るほうが、環境負荷ははるかに少なくなる。

 「ペットボトル商品を開発するからといって、『産直と環境』というパルシステムの基本理念から外れる商品にするつもりは当然ながらありませんでした。使って返すことで繰り返し何度でも再生できるB to Bのペットボトルなら、パルシステムが取り扱う商品としてふさわしいのではないか、という意見が、知るほどに高まっていったのです」(渋澤さん)

※4:三菱UFJリサーチ&コンサルティング算出による

災害時の支援物資にも活用

 さらにもう一つの出合いが、水の販売元である富士山の銘水グループだった。同グループは、山梨県を拠点に富士山の伏流水を環境に配慮しながら採水しており、水事業の拡大を検討していた。また、静岡県側には朝霧に工場があり、良質な水源があった。

富士山

水質のよさで知られる富士山ろくの水源で採水(写真=Yoshitaka / PIXTA)

 「日常的に飲む水こそ、安定的に安心して供給できる体制が不可欠。製造元では充填工場内に採水井戸があり生産内容が明確なほか、森林整備をはじめとする環境保全活動を積極的に行っており、パルシステムの理念に合致すると考えました」(渋澤さん)

 このような2社との出合いを経て、2016年1月からパルシステムのプライベートブランド(PB)商品として「富士の天然水(PET)」の発売を開始。同年10月には、パルシステムと協栄産業、富士山の銘水の3社は、「富士の天然水(PET)」に関する協定を締結し、水供給事業を通した森林保全と資源循環推進、および災害時における支援物資調達の協力体制をはぐくむ関係性を結ぶこととなった。

 「パルシステムは『富士の天然水(PET)』に関しては2016年の発売開始以降、毎週注文をお受けできるようにしています。こうすることで、新しい商品の生産体制を軌道に乗せるだけでなく、災害発生時にいつでも被災地へ水をお届けできる態勢が生まれますから」(渋澤さん)

パルシステムのPB商品「富士の天然水」の商品写真

パルシステムのPB商品「富士の天然水(PET)」(写真=坂本博和(写真工房坂本)

 実際に、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨、最近では今年9月に千葉県を襲った台風15号、10月の台風19号のあとにも、このペットボトル水を被災地支援物資として届けることができたという。

議論を尽くし、声にこたえる

 こうして、スピーディーに商品化した「富士の天然水(PET)」だが、長らくペットボトル商品の取り扱いを見送ってきただけに、導入に反対する声も当然出たという。そして実は、パルシステム連合会を構成する1都11県の会員生協のうち、パルシステム東京では今もペットボトルを取り扱わないという判断をしている。

 「すべての会員生協の理事の皆さんに、ペットボトルの再生現場や天然水の採水場の見学を行っていただき、環境負荷と導入メリットの双方についても話し合いました。その結果、ほとんどの会員生協で商品導入となりましたが、パルシステム東京はリデュース(発生抑制)に取り組むという観点から、その時点での導入は見送るという結論に達しました」(渋澤さん)

代表理事専務理事の渋澤温之さん

代表理事専務理事の渋澤温之さん(写真=編集部)

 生活者の協同組合である以上、組合員の声を生かすことが基本――。連合会全体で120万世帯を超える組合員を擁するパルシステムであっても、この姿勢に変わりはない。そして導入を決めた各会員生協の組合員に向けては、この商品が「使って、戻す」というリサイクルシステムに参加することによって真価を発揮するものであることを引き続き伝えていく考えだ。

 「パルシステムは生協として誕生して以来、参加する組合員の協同によって、あるべき社会と暮らしの在り方を模索してきました。B to Bペットボトルの利用や回収システムの確立によって、一般的なペットボトル商品の在り方やリサイクルにも影響を与えられるのではないか、という考えもあります。リサイクルの仕組みは、組合員の皆さんが使用後の容器を戻してくださることで成り立つもの。貴重な資源を守り、地球環境に負荷をかけない暮らしを続けていくためにも、商品利用とともに“リサイクルの環”への参加を今後も呼びかけ、繰り返し使うという文化をはぐくんでいきたいです」(渋澤さん)

取材協力=協栄産業株式会社 取材・文=玉木美企子 写真=持城壮、編集部 構成=編集部