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サバンナを歩くゾウの親子

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

16歳のふたりが動物の大量絶滅の原因に迫り、自然との共生を探る旅へ。映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』

  • 環境と平和
映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』では、今進んでいる動物の大量絶滅の原因と解決策を探るべく、16歳の若者ふたりが世界中のさまざまな現場を訪れ、対話を重ねていく。自然と人間との関係性を見つめ直す旅の中で、ふたりが見いだした希望は何か――。監督は、環境活動家でもあるシリル・ディオン氏。種 注釈 の絶滅や気候変動に直面する今、監督が考える、人間が果たすべき役割とは。

地球は「資源」ではなく、生かしてくれている存在

――本作は、すでに始まっているといわれる地球史上6番目注釈 の「動物の大量絶滅」をテーマにしています。環境活動家でもある監督は、前作の映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』注釈で、人類の絶滅を回避するための農業や民主主義、教育などの新しい在り方を示しました。今回はなぜ動物に目を向けたのでしょうか?

シリル・ディオン(以下、ディオン) 動物の大量絶滅の原因を探ることは、今私たちを取り巻く環境問題や気候変動などの原因を考えることにもつながっていきます。さらには、そのことを通じてほかの生き物たちと人間の関係性について見直すことができるのではないかと考えました。

 今まで私たち人間は、経済成長のためには、自然やほかの生き物を利用してもしかたないと考えてきました。気候変動や環境問題も、そういった考え方によって引き起こされています。しかし本来、自然界や生物の世界は、人間を生かしてくれている存在。私たちが呼吸をしたり、食べたり飲んだりすることを可能にしているのは、森、海、昆虫、鳥といった自然界や生物の多様性があるからです。

 ですから、自然界を「資源」として見るのではなく、自分たちを生かしてくれている存在として見ること。そして、自分たちも自然界の一員なのだという意識を持つことが、今とても重要だと感じています。

インタビューに応えるシリル・ディオン監督

シリル・ディオン監督(写真=疋田千里)

映画を通じて「未来は変えられる」と感じてほしい

――本作では、ベラとヴィプランという16歳のふたりがさまざまな人や場所を巡る旅に出ます。このふたりの若者は、気候変動のストライキやデモに積極的に参加するなど、未来に切実な危機感を持っていますね。監督自身もずっと環境保護活動をされてきましたが、今の若い世代との意識の違いなどを感じますか?

ディオン 自分の若いころと比べて感じるのは、今の若者たちは失望を抱えているということです。政治もダメだし、いろいろな行動を起こしても結局は何も変えられない。未来は暗いと若者たちは感じているように思います。

 私がかつて若者だったときは「自分が動けば少しでも未来を変えられるんじゃないか」みたいな、そういう希望がまだ持てていた。でも、今の若い世代はそうした希望を持っていません。それは大きな違いだと思います。

 この映画の目的は、そういった若い人たちのエネルギーを、もう一度「自分たちは何かを変えられるんだ」という方向に向けることでもありました。そして、彼ら・彼女らよりも上の世代の人たちにも、「自分たちにもできることがある」という思いを新たに燃やしてほしい。この映画を通じて、それができたらいいなと思っています。

ベラとヴィプラン

旅をするのは16歳のヴィプラン、ベラ(左から)
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

海岸のプラスチック汚染から、欧州議会の現場まで

――過去40年間に脊椎(せきつい)動物の60%以上の個体数が絶滅し、ヨーロッパでは飛翔昆虫の80%が姿を消したといわれています。ベラとヴィプランは、こうした種の絶滅を引き起こす「5つの原因」について教わり、その後、さまざまな現場を訪れていきます。これらの訪問先は、どのように決めたのでしょうか?

種の絶滅の5つの原因(生物環境の破壊/乱獲/気候変動/環境汚染/侵略的外来種)

ディオン 映画を撮影し始めた時は、大量絶滅の「5つの原因」それぞれに対して、ひとつの場所に取材をしに行こうと考えていました。たとえば「環境汚染」ではインドの海岸のプラスチック汚染の現場を、「生息環境の破壊」では米国・ロサンゼルスの無限に続く都市化を取材するなどです。

 そこからさらに、ふたりには動物行動学者のジェーン・グドール 注釈 のようなカリスマ的な人たちに会って刺激を受けてほしいとも考えました。ほかにも欧州議会に行き、環境に悪影響を与えかねない政策がどんな人たちによってどのように議論されているのかを知ってもらったり、夜中の牧場でオオカミの真の生態を知るために野宿したりするような強烈な経験もしてもらいました。

 実は、ベラとヴィプランにはどこに行くのかを直前まで伏せて撮影をすることもあったんです。そのほうがふたりの素の反応が観客にも伝わると思ったからです。

ゴミで埋め尽くされたインドの海岸にたたずむベラ、ヴィプラン

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

――食用ウサギの畜産農家にも訪れていました。ぎゅうぎゅう詰めの飼育環境にふたりはショックを受けていましたが、農家の男性は「私も搾取されていて、生活が苦しい」と話していました。今の経済システムは一体誰が幸せになるためのものなのだろうかと考えさせられる場面です。

ディオン 最初、畜産農家の彼はカメラに映りたくないし声も変えてほしいと言っていたのですが、撮影前に私といっしょに食事をとりながら話をして信頼関係を築き、ふたりときちんと対面してくれることになりました。彼には、あのような飼育をせざるを得ない人たちが、いかに大変な状況に置かれているのかを知ってほしいという気持ちがありました。

 一方、ふたりはヴィーガンで動物性食品は食べません。視点も立場も異なる両者ですが、どちらが正しいか悪いかという単純な話ではなく、背景に複雑な社会構造があることをベラとヴィプランも感じたでしょうし、お互いにリスペクトを持ちながら対話できたことで、とても大切な場面になったと思っています。

食用ウサギの飼育小屋で畜産農家の男性と話すベラとヴィプラン

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

アリのような小さな存在も、生態系には欠かせない

――人間中心ではなく、動物を中心に環境問題を見つめたときに、監督にとって何か新しい発見はありましたか?

ディオン はい。自然界には、自分の知らないことがまだたくさんあるということです。たとえばケニアを訪れたときに、生物学者のディノ・マーティンス 注釈 から、アリは地球上のさまざまな栄養素を循環させ土壌に戻す過程で不可欠な存在で、彼ら抜きでは目の前にある風景すら成り立たないという話を聞きました。小さな、ささいに見える存在も生態系にとっては実はすごく重要です。そのことは私にとっても大きな発見でした。

 「あなたは自分の家のすぐ隣に生えている木にとまっている鳥の名前も、鳴き声もわからないでしょう?」と哲学者のバティスト・モリゾ 注釈 が言っていましたが、本当にそのとおりですよね。身近な生き物についてさえ知らないことばかりです。

 何よりいちばん大きな学びは、私たちは自然界のすべてのものとすごく緊密につながっていて、人間の力だけで問題を解決できるわけではないということ。人間だけで世界が成り立っているわけではありません。この映画の原題は『ANIMAL』ですが、その言葉の中にはじつは人間も含まれているということをほのめかしています。

身振り手振りを交えて話すシリル・ディオン監督

写真=疋田千里

人間だけが、ほかの種の役に立たない存在なのか?

――人間の暮らしとほかの種とのバランスをどうとるのかが、未来への鍵となるのでしょうか。

ディオン まさに「エコロジー」というのは、自然と環境とのバランスを意味するものなのです。よりよい未来をつくるためには、自然界を構成する多種多様な生命を、それぞれに維持しながら、そのエコシステムを長く存続させていくことが重要です。この映画を通じて私は、そのバランスを保つためには生物多様性こそが重要であるというメッセージを伝えたいと思いました。

 昆虫学者のニコラ・ヴェレーゲン 注釈 が、農園にミツバチの飼育箱を増やすよりも、木や花の種類をたくさん植えて、いろいろな種類のハチが生息できる環境にすることのほうが大事だと話していましたよね。それはすべてのことについて言えると思います。

 1種類の木しかない森は、病気が発生したり火災が起きたりしたときに、一気にダメになってしまうかもしれません。病気に強い木や乾燥に強い木、火災があっても生き延びられるような木など、さまざまな種類の木があることで、森のバランスを保つことができます。

ひまわりに止まっているみつばちと、その横でたたずむ人の手

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

――そのバランスを保つために「人間がどのような役割を果たせるのか」が、この映画を通じた大きな問いになっています。

ディオン 多くの生態系では種が互いに補完し合い、影響し合ってバランスを保っています。人間は自分たちの利益のためにそのバランスを崩し、おびたただしい数の種を絶滅させてきました。しかし、私たち人間だけが、ほかの種にとって少しも役に立たない侵略的な存在であるとは信じがたい。

 この映画は、「私たちが果たすべき目的は何か」に答えるものでなければいけないと考えていました。 実際に今回の旅で、世界中で研究・活動する人たちとの出会いと多くの学びを経て、私たち人間もほかの生物と共存し、生態系を再生させ、よい方向に導くことができるのだと感じることができました。

――人間を嫌いになりかけていたベラの気持ちが、いろいろな体験を通じて少しずつ変わっていくのも印象的でした。

ディオン ベラがこの映画を通じて「動物よりも人間について学んだ」と言ったときは、「やった!」と思いました。なぜならふたりの若者には、地理的な旅、そして内なる旅を通して、いろいろなことを感じて、考えて、変化していってほしいと思っていたからです。彼女が最後にそう言ってくれたときには、とてもうれしかったです。

環境破壊に対するデモ活動でマイクを握るベラ

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

再生のために必要なのは、行き先を示す「新しい物語」

――今の社会を、生態系を守り共生する方向に変えていくために必要なことは何だと思いますか。

ディオン 私が何年もNGOで活動していて気づいたのは、人々を動かすには、その行き先を示さなくてはいけないということです。今私たちが生きている世界では、富をより多く生み出し、物質的な快適さを実現することが「豊かさ」であるという物語をみんなが信じてしまっています。

 それに対抗して、人間も自然界にいる生き物のひとつであり、生物多様性の存続こそが本当の豊かさであるという「新しい物語」を多くの人々に広めていくことが必要です。

 この映画『アニマル』も、破壊と温暖化を止め、レジリエンス 注釈 を育て、地球や私たちの社会を再生させるための「新しい物語」を広げる手段のひとつです。そして、それは夢物語ではなく、こうした小さな新しい物語が世界各地で始まっているのです。

 

映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』

僕たちは絶滅するの?
地球上の生命の「6度目の大量絶滅」が迫っているらしい。危機感を覚えた16歳のベラとヴィプランのふたりが阻止する方法を探りに世界各地へ旅するが果たして……

2024年6月1日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

監督
シリル・ディオン
プロデューサー
ギヨーム・トゥーレ、セリーヌ・ルー、ジャン=マリー・ミシェル、トマ・ベネ、シリル・ディオン、パトリック・フルニエほか
配給
ユナイテッドピープル

2021年/フランス/105分/原題:ANIMAL

映画公式サイト

 

脚注

  1. 種(しゅ)生物を分類するうえでの基本単位。そのほかの生物分類学的階級として、界・門・綱・目・科・属がある。

  2. 生命誕生以来約5億年の間、気候変動、氷河期、隕石、火山噴火など、5度の大量絶滅を経験してきた。現在も急速に進行するこの事態は「6度目の(第6の)大量絶滅」と呼ばれている。

  3. 前作『TOMORROW パーマネントライフを探して』に関する記事はこちら

  4. ジェーン・グドール動物行動学者、環境保護活動家、国連平和大使。チンパンジー研究の第一人者。26歳の時にタンザニアに赴き野生のチンパンジーの生態調査を開始。科学と人間と動物の関係についての私たちの理解に大きな進歩をもたらした。

  5. ディノ・マーティンス昆虫学者、進化生物学者。ケニアのムパラ研究センターの所長。プリンストン大学の上級講師。彼の科学的研究は、種の相互作用の進化と生態学に焦点を当てている。

  6. バティスト・モリゾ哲学者。フランス・リヨンのENS(高等師範学校)でアグレガシオン(一級教員資格)と哲学の博士号を取得。研究テーマは個性化の理論と科学的発明の認識論。エクス=マルセイユ大学で講師を務め、人間と生物の関係を研究している。

  7. ニコラ・ヴェレーゲンブリュッセル自由大学の農業生態学教授。昆虫学者であり、野生のミツバチの専門家。受粉媒介者の多様性をよりよく理解し、その保護を促進し、生物多様性の維持と人間の幸福における役割に光を当てることを目標としている。

  8. resilience:「回復力」「弾力性」「適応力」などの意味を持つ言葉。心理学、ビジネス、防災、教育、生態学など多岐にわたる分野ごとの意味合いで用いられている。ここでは、「環境破壊などからの回復力」の意。

取材協力=ユナイテッドピープル株式会社 通訳=山田紀子 取材・文=中村未絵 写真=疋田千里ほか 構成=編集部