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「#SNSを楽しい場所に」。フォロワー56万人超のパントビスコさんに聞く、SNSとのつきあい方

  • 暮らしと社会

Instagramのフォロワー数だけで56万人以上。オンラインを中心にイラスト作品を発表し、その活躍の幅を広げてきたクリエイターのパントビスコさん。「#SNSを楽しい場所に」というハッシュタグとともに、誹謗中傷の問題についても積極的に発信している。SNSを使うときやコミュニケーションをとるときに、どんなことに気をつけたらいいのか、パントビスコさんの思いを聞いた。

コミュニケーションについて考えさせられる作品が多数

――パントビスコさんは、今注目のクリエイターとして、雑誌やウェブ、広告など、さまざまな媒体でイラスト作品を発表されています。人気が広がったきっかけはInstagramだったそうですね。

パントビスコ そうなんです。8年くらい前までは、もともと趣味でイラストを描いていて、Facebookに友人限定公開で絵日記などを投稿していました。それを見た知り合いから、はやり始めていたInstagramへの投稿を勧められたんです。

 Instagramで作品を一般に公開し始めたところ、いろいろな方が興味を持ってくださり、そこから活動が広がっていきました。Instagramのフォロワーさんが56万人くらいいて、今も毎日1~2作品をアップするようにしています。

――パントビスコさんの作品には、博愛主義の「やさ村やさし」、相手の気持ちに無関心な「サイコパスオ」など、個性的なキャラクターが登場して、その発言に笑わせられたり、ハッとさせられたりします。LINEのやり取りをネタにしたシリーズなどは、コミュニケーションについて考えさせられる内容でもあります。

パントビスコ 作品には、私が日ごろから感じていること、伝えたいことが色濃く出ていると思います。ふだん感じていることをキャラクターが代弁することもあれば、「こういう人間関係ってつらいよね」と、反面教師にしてほしい内容を描くこともありますね。

「#LINEシリーズ」をはじめ、多くの人気作品がある(©Pantovisco)

対面で言えないことは、SNSでも書いてはいけない

――お仕事柄、SNSを頻繁に使われていると思いますが、SNSによる誹謗中傷の問題についても積極的に発信されています。こうした問題に関心を持つようになったきっかけは何だったのでしょうか。

パントビスコ 一つは、自分自身がSNSでの誹謗中傷を体験したことです。今私にはありがたいことにInstagramやTwitterなどを合わせると、SNSに80万人くらいのフォロワーさんがいます。でも、フォロワーさんが増えるにつれて、ネガティブなことを言ってくる方も出てこられるんですね。

 私のフォロワーさんは30代くらいの女性の方が多いのですが、最初のころにびっくりしたのは、ご自身のお子さんと思われる写真をアイコンにした方が悪口を言ってくることでした。お子さんが知ったら、どういう気持ちになるのだろうと思ってしまいます。

©Pantovisco

 それから、俳優やミュージシャン、タレントの方とも仲良くさせていただいているのですが、SNSで誹謗中傷の被害に遭った話を聞くことが多くて本当に心が痛かったのです。「SNSで悪口を言う人が100%悪い」と思っているのですが、やはりタレントさんなどは悪口を言われても反論しにくいところがあります。「何かもめている人」みたいなネガティブなイメージがついてしまうからです。

 それに比べると、私は比較的発言しやすい立場にあるので、彼ら・彼女らの代わりに、というわけではないのですが、「SNSは、もっとこうやって使ったほうがいいよね」と気づいてもらえる発信をしていきたいと思っているんです。

――そうした投稿に対してフォロワーの方からの反応はいかがですか。

パントビスコ だれかを攻撃するような言い方ではなく「こういう対応は悲しいですよね」「こういう言葉をもらうとつらいです」といった、なるべく共感してもらえる内容で発信するようにしています。99%の人が「気づかなかったけれど、たしかにそうですよね」「私も今度から気をつけます」といった肯定的な反応をしてくれますね。

 しかし、中には「有名人はたたかれてもしょうがないでしょう」と反発したり、「面白いイラストだけ見たいのに、ギスギスした投稿があるのは嫌だな」という理由で私のフォローを外したりする人もいます。フォローを外すのはもちろん自由ですが、SNSでだれかを攻撃したいという方がゼロになることはないのだろうなとも感じています。

 SNSには発信をする自由も、それを見続ける自由も、フォローを外して遠ざける自由もあります。でも、「悪口を言う自由」はないと思うんですよ。SNSの怖いところは、対面だったら絶対に言わないような悪口でも、気軽な気持ちで本人に直接伝えてしまえるところです。

 例えば、世界的に有名な歌手や俳優の方にも、SNSのアカウントさえあれば、今すぐにでもDM(ダイレクトメッセージ)を送れますよね。あまりにハードルが低いので、相手に対してリアリティを感じられない。スマホの向こうには生身の人間がいて、その人も傷つくんだということを忘れて、直接だったら言えないことを言ってしまうことが多いように思います。

画面の向こうには、生身の人間がいることはつい忘れてしまいがちだ。

SNSは気軽に使えるがゆえに、画面の向こうに生身の人間がいることを忘れてしまいがちだ(写真=PIXTA)

誹謗中傷の内容に「イイネ」を押すことの意味

――パントビスコさんご自身のご経験についても教えていただけますか。

パントビスコ 1回だけですが、「死ね」と言われたことがありました。そのアカウントを見ると通っている高校名やクラス名まで書いてあって、男子高校生だということが分かったんです。

 この方に対しては、私の事務所のほうから、誹謗中傷で罪に問われる可能性があること、今度から気をつけてほしいということを伝えました。そうしたら返ってきたのが「申し訳ありませんでした。目を離しているすきに、自分ではなく友達が勝手にメッセージを送ってしまいました」という謝罪でした。それは事実かもしれないし、分からないですけど……。プロフィール自体がうそだという可能性もありますからね。そこがSNSの怖いところです。

 彼もまさか返事が来るとは思わずにDMを送ったのかもしれませんが、意外と相手はちゃんと見ているし、傷ついたり怖かったりするんですよ。個人情報が分かるようなSNSで、あまりにも気軽に、自分の代償も考えずに誹謗中傷を書いている人は少なくないと思います。

――以前に、「『バカ』とコメントを書いた人も『バカ』と書かれたコメントにイイネを押した人も同罪」という投稿をされていました。

パントビスコ これも、とても伝えたいことなんです。「バカ」と直接書くのはいけないことだと分かっていても、そうしたコメントに「イイネ」を押すことに対しては悪いことだと自覚していない人が多い気がするんですよ。

 それに、矢面に立たない分、私は余計によくないことだとも思っているんです。他人の言葉を借りた誹謗中傷ですし、それによって傷つく人がいます。実はそういう行為も、意外と見られているんだということを知ってほしいですね。

©Pantovisco

ネガティブな気持ちになるなら、SNSと距離を取る

――友人間など、日常的なSNSでのコミュニケーションで気をつけたほうがいいことはあるでしょうか。

パントビスコ よくあるのが、投稿への妬み・ひがみによるネガティブな反応です。毎日、自分が子育てや仕事で忙しくて大変なときに、知り合いがキャンプに行ったり、おいしいごはんを食べに行ったりしたといういわゆる「キラキラした」投稿をしていると、つい腹が立ってしまうという話を聞きます。

 その気持ちも、自分だけしか見ない日記に書くとか、友達に愚痴って発散するとかならいいと思うのですが、ついSNSでネガティブなコメントをしたり、裏アカウントや鍵アカウントを使って攻撃したりする人もいます。でも、SNSにアップされているのは、その人の日常の一部分を切り取ったものにすぎないので「あまり気にしないほうがいいですよ」と伝えたいですね。どうしても妬む気持ちが起こるなら、フォローを外して見ないという方法もある。うまく距離を取ることが必要だと思います。

©Pantovisco

相手は、生身の人間。「大きな主語」でくくらない

――自分の投稿が意図せずだれかを傷つけたり、不快な気持ちにさせたりすることもありそうです。発信することが多い立場として、パントビスコさんが心掛けていることはありますか。

パントビスコ いつも意識しているのは、Instagramの約56万人のフォロワーさん一人ひとりが「生身の人間」だということです。そして、全員と対面で会う可能性があると思って発信するようにしています。

 もう少し具体的には、発信する内容で「仲間外れを作らない」ことを気にかけていて、「好き嫌い」についてもあまり発信しません。「好きなことなら発信してもいいんじゃない?」と思われるかもしれませんが、「好き」という発信がネガティブに取られることもあるんです。たとえば私は福岡県出身なのですが、仮に「大好きな球団はソフトバンクホークスです」と言ったとしたら、ほかの球団ファンが嫌な思いをする可能性もあるんですよね。

 それから、「主語が大きい」言葉もなるべく使わないようにしています。どういうことかというと、「コンビニの店員さんの接客が悪くて最悪」みたいな投稿ってあるじゃないですか。でも、それはたまたまその人が会った店員さんの話であって、全員がそうじゃない。まじめにお仕事されている店員さんが見たら悲しいと思うんですよ。同じように「男ってそうだよね」「女ってそうだよね」みたいな、まとめてしまう言い方はしないようにしています。

――一方で、「これもダメかも? あれもダメかも?」と考えていくと、SNSに何を発信していいのか悩んでしまいます。

パントビスコ そうですね。あまりに気にしすぎると、何も書いていない真っ白な画像を毎日アップするしかなくなります。ですから、ときにはリスクを負ってでも自分が発信したいことを投稿することもあります。ただ、その言葉の責任は自分にあることは常に意識しています。

 基本的には、「これはだれかを傷つけないかな?」と、自分なりの知識や経験を基にチェックしてから発信していますが、それでもだれかを傷つけてしまうことはあるかもしれません。いろいろな方がSNSを使っているし、受け取り方も違うので、全員に配慮するのは現実には難しいことだと思います。

 いちばん大事なのは、自分が間違ったことをしたと気づいたときにちゃんと謝るとか、「こういう考えがあるんだ。じゃあ次からは気をつけよう」とアップデートしていくことではないでしょうか。

©Pantovisco

SNSの使い方は「車の運転にちょっと似ている」

――いろいろな背景や価値観の方がいることへの配慮というのは、SNSでのコミュニケーションに限らず大事なことですね。

パントビスコ そのとおりです。ふだんから周りに気を遣える人ならば、SNSでも同じようにできるはずなんですよね。だけどSNSになると、対面では言わないようなことを言う人がいます。つい本性が出てしまう、という意味では、ちょっと車の運転に似ているかもしれないですね。

 ふだんはすごくおとなしくて優しいのに、運転席では文句ばかり言っていたりして、「え、こういう人だった?」みたいな人っていませんか。それは車が「自分だけの空間」だからじゃないかと思うんです。

 SNSも、スマホの中で自分の好きな人だけをフォローして、好きなことが言えるから、むかつく人には何を言ってもいいような気がしてきてしまう。でも、SNSは全世界公開で、自分だけの空間ではありません。みんなから何を書いたか、何にイイネをしたかは見られているんですよ。

――TwitterやLINEなどは、短いテキストでやり取りすることの難しさもあります。

パントビスコ それもありますね。LINEで「分かった明日9時。了解」というそっけない返信が来たら、「あれ、怒っているのかな?」と不安になりますよね。あるいは、なかなか返信がないと「嫌われているのかな?」と不安になることもある。でも、実際は相手がただ忙しかっただけかもしれません。人それぞれに返信の文字数や言葉遣い、スパンが違うのに、勝手にネガティブな方向に想像をしてしまうことがあるんですよね。

 そういう傾向がある方は、深く考えすぎないように気をつけたほうがいいと思います。SNSにどっぷりつかりすぎると心が削られてしまいます。なかなか対面で会いにくいご時世ですが、本当に大事なことは電話をするとか直接会うとか、結局はアナログなコミュニケーションのほうがいいのかなって思いますね。

上手に使って、SNSを楽しい場所にしてほしい

――SNSのネガティブな部分ばかりを伺ってきましたが、逆にポジティブな面も多いですよね。

パントビスコ もちろんです。今、話した以外の部分、すべてがポジティブだといってもいいくらいです。実際、私もSNSで仕事や交流が広がるなどの恩恵をたくさん受けていますし、何より私がSNSの使い方について投稿しているのは、よく使っているハッシュタグにもあるように「#SNSを楽しい場所に」という思いからなんです。

 たとえば、先ほど「バカ」という投稿に「イイネ」を押すのは同罪だという話をしましたが、まったく逆に、自分が心を動かされたものやすてきだと思ったことに「イイネ」を押すことで、応援することもできるんですよね。

©Pantovisco

 私が描く「ぺろち」というキャラクターがいるのですが、SNSを通じてぺろちを好きな人たちがつながり、リアルな場で一緒に集まったという話を聞いてうれしくなったことがあります。人間関係を作るときにかぎになるのは共通点の多さです。好きなアーティストやスポーツが同じだと仲良くなりやすいですよね。SNSはそういう情報がたくさん落ちている場所です。

 上手に使うことができれば、SNSはすごくいいツールだと思います。ただ、必要じゃない情報もたくさんある。それを遠ざける努力と勇気、そして対面でのコミュニケーションと同じような相手への気遣いが必要です。それがSNSを楽しい場所にするポイントではないでしょうか。

取材・文=中村未絵 構成=編集部