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写真=疋田千里

新生活に向けて「休む練習」をしませんか。私の、身近なあの人の、ストレスとの向き合い方

  • 暮らしと社会

「何だか疲れる」「新学期・新生活がゆううつ⋯⋯」、心身の不調を感じる人が増える季節。そもそも、なぜ不調になるの? 簡単にできるセルフケアは? 長年、自律神経について研究し、日々多くの親子と関わってきた小児科医・発達脳科学者・公認心理師の成田奈緒子さんにアドバイスを聞きました。成田さんの生き生きとした笑顔のひけつとは?

不調を招くストレス、でも「いいストレス」もある

――だんだん寒さが緩んできましたが、春は何だか体調を崩す人が多いように思います。

成田奈緒子(以下、成田) そうですね。季節の変わり目であることに加えて、特に春は入学、卒業、就職とふだん以上にストレスがかかる時期。体調を崩す人は多いですね。

――なぜストレスによって体調が崩れるのでしょうか。

成田 ストレスは体の状態を整える「自律神経」の働きに影響を及ぼすんです。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があります。体を緊張、興奮させるのが交感神経、リラックスさせるのが副交感神経。人はストレスがかかると、それを乗り越えるために交感神経を働かせ興奮状態になります。

 じつは、どんな人でもいつでも、何かしらストレスはかかっています。問題はそれをどうとらえるかなんです。例えば「学校でテストがある」というストレスを、「よしがんばるぞ」ととらえることができれば、成長するエネルギーとなります。「きっと失敗する、もうだめだ」と、悪いストレスとして認知されると気持ちが落ち込み、体調も悪くなり、「こんなに不調だからやっぱりだめだ」と、さらにストレスがかかって負の循環に陥ってしまうんです。

笑顔で話す成田奈緒子さん

写真=疋田千里

 「わたしは大丈夫」と思っていても、みなさんストレスはかかっているわけですから自律神経が安定しているとはかぎりません。私、こう見えて昔は自律神経の働きがものすごく悪かったんですよ。子どものころは大変でした。今はめちゃくちゃ元気! 自律神経の働きは体質的なものも関係がありますが、私のように自助努力で改善できますよ。

自分の「がんばりすぎ」に気づいてあげる

――では、自律神経のバランスを整えるにはどうすればいいですか。

成田 「気持ちがちょっと落ちてきたな」と気づいたら、その場で呼吸を整え、睡眠や食事をきちんととりましょう。意外とシンプルでしょ。ポイントは、不調が軽い段階で手を打つこと。本格的に心身の調子が崩れる前の感じをわかることが大事なんです。でもそれができずに、気づいたときにはすでに負の循環に入ってしまっている人が多い。

――確かに、軽い不調程度だと、「がんばらなきゃ」と無理をしがちです。

成田 そうなんです。私のところに相談に来られるお母さんもがんばりすぎの方が多いですね。「うちの子は勉強しないし、学校でいろいろあって⋯⋯」と、ずーっと子どもの話ばかり。「お母さん、ものすごく疲れてません?」と聞いても、「私は大丈夫。子どものためにがんばることが私の生きがいですから!」と笑顔を見せる。ところが、私がワークショップなどで使用している自律神経バランス測定装置で測ると、悪い数値が出る。

身振り手振りを交えて話す成田奈緒子さん

写真=疋田千里

――無理をすることに慣れてしまうとなかなか気づけないと思います。どうしたら気づけますか。

成田 自律神経のバランスが乱れると、ありとあらゆる内臓にサインが出ます。いちばん典型的なのは心臓。バクバクしているときは交感神経が働いているわけですから、何らかのストレスがかかっています。逆に副交感神経が優位になれば筋肉が緩み、心拍数が落ちるはず。では、みなさん、今から心拍数を落としてみましょう!

――えっ、心拍数を落とす!?

成田 できないですよね。では呼吸はどうですか。呼吸をゆっくりにしてくださいと言われたら⋯⋯できますよね。深呼吸をしてゆっくり呼吸すると、おのずと心拍数も落ちるんです。

「4・7・8」の呼吸でリラックス

――緊張したときに「深呼吸をしなさい」とよく言われる理由がわかりました。

成田 ただスーハッ、スーハッとするのではなく、正しい深呼吸は吸気よりも呼気を長くします。私が推奨しているのは「4・7・8」。4秒鼻から吸って、7秒止めて、8秒吐く。

 吸うときは腹式呼吸。おへそから指3本分下にある丹田というツボを膨らませることを意識すると、肺の下にある横隔膜がグッと下がって肺の容量が増えます。広くなった肺にたっぷりの空気を入れ込み、体の隅々に酸素が巡るイメージを持つ。

横隔膜の動きを説明する成田奈緒子さん

写真=疋田千里

 大人は1分間にだいたい15〜20回呼吸していますが、緊張すると25回くらいになります。それが「4・7・8」にすると3回になる。それを3分くらい続けていただくと自律神経が整います。「4・7・8」が難しければ、ご自身に合った秒数に変えていただいてもかまいません。

――これならすぐに実践できますね! 先生はご著書などで睡眠の大切さについても説いていらっしゃいますが、正直、睡眠をしっかりとるのは難しいのですが……。

成田 「7時間、絶対に眠らなければならない」と思うと、それがまたストレスになってしまいますよね。「私にとって睡眠はとても大切なものである」ということを脳にインプットしておく。それが大事なんです。そして、たまたま時間ができたときには、スマホやテレビではなく睡眠を優先する。それでいいですよ。

――そう言っていただけてホッとしました。

成田 ただし、子どもに関しては、脳を育てるために一定の睡眠時間はマスト。何が子どもの睡眠時間を削っているかというとゲーム・宿題・習い事などです。それらよりも寝ることが大切で楽しいことだ、というイメージを親子で持っていただきたい。私はふだん朝5時には起きるので、早ければ19時半には布団に入っています。「今日こんなに寝られるなんて超幸せ~」って思いながら。

――体づくりの基本でもある食事についてはどうでしょうか。

成田 できれば朝ごはんを重視してほしいですね。人間は昼に行動する動物。起きたばかりのときは副交感神経が優位になっているので、交換神経を優位にして活動を始めるためには、脳にエネルギーを補給しないとなりません。できる範囲でしっかり食べられるようにしてみてください。

――自律神経を整えることは、更年期障害にも効果がありますか。

成田 更年期と思春期はどちらもホルモンが乱高下して自律神経に影響を与え、ひどく乱れることが想定されています。それでもふだんから自律神経を整えておくと、不定愁訴ふていしゅうそ(はっきり病名をつけられない体の不調)や気持ちの落ち込みを最小限にとどめることができます。ちなみに私は思春期はボロボロでしたが、更年期障害は一切ありませんでした。

朝、窓際で伸びをする女性

写真=PIXTA

子どもの不調に気づいたら「休んでいいよ」と言ってあげて

――子どもの自律神経が乱れているかどうかはどうすれば気づけるでしょうか。

成田 自律神経がちゃんと育った子だと、夜はすぐに寝つくし、朝は勝手に目が覚めるし、朝はおなかがすくんですよ。そうすると異変があれば不調だとすぐわかる。逆に、「いつも寝つかない子」「いつも朝は食欲がない子」であれば、まずは自律神経を整えましょう。

 また、「以前は意欲的にやっていたことが手につかない」「元気がない」など、メンタルの不調があるときは、100%自律神経が原因ではないかもしれませんが、自律神経を整えることで気持ちが前向きになることもあるので、やはりまずは自律神経を整える生活習慣を取り戻すことが大事だと思います。

――子どもがストレスを抱えていそうだと思われるとき、どうすればいいですか。

成田 先ほど言ったような不調に気づいたら、「学校休んでいいよ」と言ってあげてほしいですね。朝、起きられない、気持ちが悪いという子に「怠け病だ」「さぼってる」と言ってしまうと、親の期待に添おうとがんばりすぎて余計に調子が悪くなってしまう。無理に学校に行っても、結局、友だちとうまくいかなかったり勉強に身が入らなかったりしてますます落ち込んでしまう。

 親御さんがストップをかけてあげること。そうすると、子どもは「わかってもらえた」「認めてもらえた」というメッセージを受け取ります。そのあとで、ストレスのもとは何かじっくり話を聞きましょう。

家の前で遊ぶ子どもたち

写真=PIXTA

――子どもの話を聞くときはどのようなコミュニケーションを心がけるといいですか。

成田 「どうだった?」と強く問われると、子どもは親に「ネガティブな評価をされてしまうのではないか」と不安になってとっさに「別に」と隠してしまうんです。まずはいっしょにおやつでも食べながらリラックスさせて、「今日もよくがんばったね」などとさりげなく話し始めるといいですよ。

――褒めることが効果的ということでしょうか。

成田 いえ、褒める子育てが推奨されていますが、ストレスを抱えて自信を失っている子に口先だけで褒めても響かないと思います。特に勉強に関して褒めるのは避けたほうがいい。「90点取ったね、すごいね」と褒める基準を数値化してしまうと、「90点以上じゃないと褒められないのではないか」と子ども側にも基準ができ、余計に不安を感じてしまう子もいます。

 褒めるよりも認めることが大事。たとえば親御さんが仕事から帰ってきたときに、子どもがごはんを炊いておいてくれたらめちゃくちゃうれしいですよね。心から「ありがとう」という言葉が出てきますよね。そうすると、子どもは学校でうまくいかないことがあっても、家の中では認められているということが自信になり、自己肯定感が上がっていきます。

 褒めるよりも認めることが大切なのは、子どもだけでなく、ほかの家族や職場の部下に対しても同様だと考えています。

やさしく語り掛ける成田奈緒子さん

写真=疋田千里

周囲をサポートするにもまずは自分を休ませること

――子どもだけでなく、家族や友人がストレスを抱えていたらどのように支えればいいですか。

成田 家族や友人に対しても、まずは「今日はだるいな」といったつぶやきや、顔色に生気がないといったちょっとした変化に気づいてあげること。そして「疲れてるみたいだね」と声をかける。それだけでも「わかってもらえた」と励みになるものです。

 でもそれはね、自分に余裕がないとできないのよ。だから最初に戻って、まずは自分。自分に注視して、やばいという声を聞いて休ませてあげる。私なんか休めるときは「お母さんは今から休暇に入ります!」と宣言することにしています。そうすると子どもは夕飯は適当に電子レンジでチンしてくれる。私はワインとチーズをテーブルに置いて好きな映画を見てゴロンとして⋯⋯って、家の中でそういう姿も時には見せてきました。

――休む練習をしておいたほうがいいですね。大人も子どもも。

成田 そうなんです。自分が休むことや、子どもを休ませることに勇気がない方が多い。子どもが「休みたい」と言っても、「休み癖がつくのが怖いからだめ」という親御さんが多いのですが、逆なんです。ちゃんと休んで体の調子を整えることが大事。無理を重ねて立ち直れなくなって、何年も不登校になった例をたくさん見てきました。

 人間、休まないとやっていけないですよ、本当に。私、今年還暦なんです。人生60年で得た知識や実践してよかったことを、ぜひみなさんにも試していただけたらと思います。

談笑する成田奈緒子さんとスタッフたち

写真=疋田千里

取材・文=安楽由紀子、サンウッド 写真=疋田千里、編集部 構成=編集部