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相談に使用される電話

写真=疋田千里

「だれかに話を聞いてほしい」――相談ダイヤルから見えてきた孤立に、どう寄り添えるか

  • 暮らしと社会

生協パルシステムが主体となって、2016年に設立した「一般社団法人くらしサポート・ウィズ」では、くらしに関するあらゆる相談を無料・匿名の電話で受けている。経済困窮や熟年離婚から香典の金額に至るまで、さまざまな相談が寄せられる中で、半数近くを占めるのが「ただだれかに悩みを聞いてほしい」という電話だ。「くらしの相談ダイヤル」に届いた声から、今、私たちの社会が抱える課題や支え合いの必要性が見えてくる。

※本記事は、2020年3月26日に取材した内容です。

悩みを相談できる相手がいない

 お金のトラブル、家族関係や子育ての悩み、老後の不安……日々の生活のなかで困りごとや悩みに直面したとき、相談する先をすぐに思い浮べることができるだろうか。

 「どこに相談したらいいのか分からない、悩みを話せる相手がいないという人は多いんですよ」

 そう話すのは、「一般社団法人くらしサポート・ウィズ」(以下、ウィズ)が運営する「くらしの相談ダイヤル」(以下、相談ダイヤル)相談員のTさんだ。

「くらしの相談ダイヤル」のパンフレット

 平日10:00から16:30まで、さまざまな相談を無料(※1)・匿名で受け付ける相談ダイヤルには、30、40代を中心に10代~80代までの幅広い世代から、毎月百数十件もの相談電話がかかってくる。

 一般的な相談窓口は、生活困窮やDVなど悩みの内容別になっていることが多いが、ウィズでは、離婚、相続、お金に関することから冠婚葬祭のマナーに至るまで、くらしに関するあらゆる相談を受け付けているのが特徴だ。それぞれ社会福祉士、キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザーなどの資格を持つ相談員がいて、15分ほどの相談時間を目安に相談者の話を聞く。

「くらしサポートウィズ」のオフィス

「くらしサポートウィズ」のオフィス

 たとえば「税金を滞納し、カードローンもあって生活が苦しい」「夫からの暴言暴力があるが、離婚したら生活費はどうなるのか」「母と同居中の兄が勝手に母のカードを使っているが、どうしたらいいか」といった内容であれば、必要に応じて弁護士会や司法書士、あるいはウィズと連携している支援団体の情報を提供している。

 企業や行政などでも相談員を務めた経験をもつTさんは「限られた時間の中ですが、一緒に話しながら問題を整理していくことで、相談者が本当に困っていることは何かを考えていきます。ここは匿名で顔の見えない電話相談なので、だれにも話せなかったようなことも打ち明けやすいのかもしれません」と話す。

相談員のTさん

相談員のTさん

※1:通話料は相談者負担。

ただ話を聞いてほしい。「答えのない相談」

オフィスの本棚に並んでいる様々な専門書

 相談内容の中には、具体的な解決策を示すことが難しい「答えのない相談」も多く、相談件数の半分近くを占めるという。

 例えば、

 「80代だが、夫が他界して子供もいない。毎日が不安だらけ」
 「子供がひきこもっている。話をして、自分の気持ちを整理したい」
 「飼い猫が亡くなって立ち直れない」
 「3歳の子供が言うことをきかない」
 「休職して父親を自宅介護中。このつらさを聞いてほしい」

 といった悩みには、何か一つの答えがあるわけではない。

 「相談者も解決策を求めているわけではなく、ただ話を聞いてもらいたいということがほとんどです。私たち相談員は相手を決して否定せず、気持ちに寄り添うことを大事にしていますが、そうやって話を聞いているうちに、相談者の気持ちが落ち着いて電話が終わることも多い。こうした相談に共通しているのは『だれかに共感してほしい』という思いです」とTさん。

寄せられた相談内容を綴じてあるファイル

寄せられた内容は整理し保管。別の相談の解決の糸口になることも

背景にある、人とのつながりの薄さ

 ほかにも、ウィズには香典の金額や結婚式の服装など、マナーやしきたりに関する相談も多数寄せられる。そして、相談者は電話をかけてきた時点ですでにマナー本やインターネットで、自分なりの答えを出していることがほとんどだ。

 では、なぜわざわざ電話相談をしてくるのだろうか。

 「不安だから誰かと答え合わせがしたい。『大丈夫ですよ』と同意してほしいのではないでしょうか」。多くの相談を受けてきたTさんは、周りに相談できる相手がいない人、自分で決断することが不安な人、他者とコミュニケーションをとるのが苦手な人が増えているように感じているという。

デスクで仕事をする冨永さん

プライバシーを守るため、デスクはパーテーションで仕切られている

 「以前に『頂き物の食べ物がたくさんあって食べきれないのだけど、どうしたらいいか』という相談が寄せられたこともありました。意外な質問も結構多いんですよ」

 頂き物のおすそ分け先や香典の額などは、家族や隣近所などに尋ねれば解決する内容のようにも思えるが、逆に言えば、そういうつながりさえ失われているということなのかもしれない。

 「人とのつながりや自分で決断することなども含めた『生きる力』をつけていくためのサポートが、必要とされているように思います」

生協から生まれたくらし相談

 この相談ダイヤルを運営しているウィズは、2006年に「パルシステム生活協同組合連合会(パルシステム)」と「生活クラブ生活協同組合・東京」の2つの生協が、司法書士や消費生活相談員らと連携し、組織を超えて多重債務の問題解決をするためにつくった「生活サポート生協・東京」から生まれた団体だ。

くらしサポートウィズの看板

 理事長の吉中由紀さんは、「当時、多重債務を抱えた人の増加が大きな社会問題になりました。生活サポート生協・東京では、そうした方たちの生活相談を受けながら貸付業務を行う別組織と連携し、問題解決をめざしていたのです。その後、相談事業を引き継いで、パルシステムが培ってきたノウハウやネットワークを活かし、組合員以外にも対象を広げて活動ができるよう、2016年12月に一般社団法人化して設立したのがウィズなのです」と設立の経緯を説明する。

理事長の吉中由紀さんのインタビューのようす

理事長の吉中由紀さん

 ここ数年は、独り暮らしの高齢者が将来への不安を相談してくる件数が増加している。また、成人した30代、40代の子供の生活を見続けている高齢の親からの相談などもあり、吉中さんは「孤立、格差、8050問題など、今の社会が抱える課題が映し出されている」と感じている。

 相談ダイヤルのほかにも、ウィズでは専門家による講座や個別の面談・相談なども行ってきた。ウィズで離婚やDVなど「女性のための法律相談」を担当する弁護士の田中記代美さんは、「身近に悩みの受け皿があることがとても大事」だと話す。

弁護士の田中記代美さん

弁護士の田中記代美さん(写真=くらしサポートウィズ)

 「いきなり一人で弁護士の所に相談に行くのはハードルが高いけれど、電話相談だったら入口として利用しやすい。相談者からは、身近な存在である生協が運営していることへの信頼も感じます。私も、そうした相談者の信頼や、助けてほしいという気持ちを裏切らないようにと心掛けています」(田中さん)

同じ悩みを抱えた人たちが集まる場

 電話相談などに寄せられた声をもとに、ウィズでは同じ悩みを抱えた人同士が集まる機会も提供してきた。これまで5年にわたって開催してきた「ほっこりカフェ」もその一つ(※1)。パルシステムの組合員を対象に、成人のお子さんについて悩みを持つお母さんたちが集まり、臨床心理士ら講師と一緒に話をする場だ。

「ほっこりカフェ」のようす

「ほっこりカフェ」のようす(写真=くらしサポートウィズ)

 数年前、息子さんのことで悩みを抱えていたAさんは、パルシステムの広報誌で、ほっこりカフェのことを知り参加したという。

 「当時は子供のことで悩み、いろいろな本を読みましたが、どれも納得できませんでした。周りのお母さんたちは、みんなうまくいっているように見えて相談できなかったし、行政の相談窓口やカウンセリングにも抵抗がありました。ほっこりカフェには同じ悩みを持つお母さんたちが集まっていたので参加しやすかったのです。それに、パルシステムがやっているという安心感もありました」とAさん。

 「当時は本当に真っ暗闇で出口が見えなかった」と話すAさんは、ほっこりカフェをきっかけに、ウィズが運営する個別カウンセリングにも参加。現在お子さんは自立しているが、「一番つらい時期に助けてもらいました」と振り返る。

 「一人で悩みを抱えているのと、だれかにアドバイスをもらえるのとでは全然違います。臨床心理士の先生の言葉には本当に支えられましたし、いつでも相談したいときに行ける場所があるというのが、私にとっては大事でした」

※1:「ほっこりカフェ」は2019年度で開催終了。

くらしサポートウィズが運営する様々なサービスのチラシ

電話相談以外にも事業を展開。さまざまな悩みに向き合っている。

相談をもとに「ひきこもり女子会」を開催

 さらに今、ウィズが力を入れているのが、ひきこもりや生きづらさに悩む女性たちが集まる「ひきこもり女子会@パルシステム」の開催だ。

 相談ダイヤルで近所づきあいや家族間のトラブルなどの相談を受けるなかで、さまざまな生きづらさを抱えた女性たちの存在が見えてきたことから、一般社団法人ひきこもりUX会議が行っている「ひきこもり女子会」をパルシステムでも主催するようになった。当事者同士が集まって話すことで「生きる力」を自分たちで育んでいく場を目指しており、参加者は多いときで100人近くにもなる。

 2018年6月に初めてウィズとひきこもりUX会議の共催で開かれた「ひきこもり女子会@パルシステム東京」に参加したことが、自分の生活を大きく変えたと話すのは、30代の女性Bさんだ。

Bさんのインタビューのようす

「ひきこもり女子会」に参加したBさん

 Bさんは、義理の両親と同居していた家から引っ越して夫と2人暮らしを始めてから、「孤立を感じるようになった」と話す。持病があるために働くことができず、インターネットを通じて共通の趣味を持つ人たちと交流を持とうと努力もしてみたが、そこでの人間関係でイヤな思いをすることがあり、懲りてしまった。そんなとき、通っていたカウンセリングの先生が教えてくれたのが、ひきこもり女子会だった。

 「どういう会か分からないまま、とにかく友達がほしいという思いで参加しました。テーブルに6人くらいで分かれて、テーマに沿っておしゃべりをするのですが、それが、すごく楽しかったんですよ」とBさん。

 夫以外の人と話すことがほとんどない日常の「あるある話」について話すと、その場にいた参加者たちが「わかる、わかる!」と共感してくれた。

話をするBさんの手元

 「自分と同じような人が本当にいたんだって思いました。病院などで『あなたのような悩みを抱えた女性が増えているよ』と言われることもあったのですが、一体どこにいるんだろう?って思っていたんです。ひきこもり女子会には過去に人間関係でつらい思いを経験した人も多いので、お互いに相手を傷つけるようなことは言わないし、しない。だから、安心していられる場所なんです」

つらかったのは「孤独」ではなく「孤立」だった

 Bさんは、いまではウィズが主催するひきこもり女子会のボランティアとして運営にも参加している。

 夫との関係も良好で、一見普通の生活を送っているように見えるBさんは、世間が考える「ひきこもり」のイメージとは違うかもしれない。しかし、地域にはコンビニやスーパーの店員以外に顔を知っている相手がおらず、夫以外に話す相手がいなかったBさんは、ずっと深い孤立感を抱えていた。

 「女子会に参加するようになって、自分は友達が欲しかったのではなくて、夫以外の誰かと話したかったんだなって気づきました。それまで自分と社会とのつながりは、本当に細い糸のようだったんです。ボランティアをすることで、いろいろな人とのやりとりが生まれて、いつの間にか綱引きのロープくらいになっていました」と笑う。

柔らかい表情で話すBさん

 「女子会に参加している人たちは、みなさんがイメージする『ひきこもり』とは違うかもしれません。それだけ生きづらさが多様化しているということだと思います。夫がいるのに、どうして自分は孤独なのだろうってずっと思っていたんです。でも、じつは孤独じゃなくて孤立していたんだと気づいたときに、すっと腑に落ちました。世界が少し広がるだけで気持ちが大きく変わったんです。何か具体的に困っていることがあるわけじゃなくても、ただちょっと誰かと話がしたいという人にも参加してほしいと思います」

Bさんがデザインしたポスター

運営にも参加しているBさんがデザインした、過去イベントのポスター

支え合う「共生社会」を目指して

 「相談現場に寄せられる声からは、格差による生活困窮、高齢化や孤立といったさまざまな社会問題が見えてきます。そうした声をもとに、みんなで支え合う仕組みや解決に向けた事例をつくっていくのもウィズの役割だと思っています」と理事長の吉中さん。

真剣な表情の吉中理事長

 ウィズでは、他の支援団体や有識者とも連携しながら、「ひきこもり女子会」のように生きづらさを抱えた当事者が集まる場づくりや、児童養護施設などで育った若者の支援など、相談事業を軸にして活動の幅を少しずつ広げている。さらに、2019年8月からは居住支援法人指定を受け、住まいに関わる支援も開始。今、必要とされる社会的課題にも取り組んでいる。

 「こうしたウィズでの事例のように、社会的課題に向けて、会員生協が各地域で取り組めるような後押しや協力をし、パルシステムの理念でもある、だれもが暮らしやすい『共生の社会』の実現を目指していきたいと思います。」(吉中さん)

取材協力=一般社団法人くらしサポート・ウィズ 取材・文=中村未絵 写真=疋田千里 構成=編集部