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手作りみその工程、手にのせたみそ玉

手作りみその工程、空気を抜いて容器に詰めるための「みそ玉」(写真=疋田千里)

みそには、心身リラックスや腸内環境改善の効果も――2週間でできる「5倍麹みそ」のすすめ

  • 食と農

肌が弱い娘さんのために食事を見直すなかで発酵食の大切さに気づき、みそ作りを始めた予防医学指導士・栄養士の松田敦子さん。そのおいしさが口コミで広まり、京都で20年以上にわたってみそ作り教室を主宰。これまでに2万人以上に教えてきました。その原点は、実家でお母さまが手作りをされてきたみその味。みその魅力、そして松田さんがおすすめする初心者でも失敗しない「5倍麹みそ」について伺いました。

原点は農家の母が作るみその味

――20年以上続けていらっしゃるみそ作り教室のレシピは、お母さまが作られていたものがベースだそうですね。

松田敦子(以下、松田) 原点は農家の母が作っていた実家のみそです。母は父方の家で代々受け継がれてきたレシピを、ノートにびっしり書き留めていました。米こうじを作るところから始まるので、仕込みに4日間もかかります。昔のみそ作りは重労働でした。

 一番の思い出は、その手作りみそで毎年元日に父が作ってくれた「かしら芋のお雑煮」。それが、もう強烈においしかった。両親の愛情とともに、今も懐かしく思い出す味です。

娘の肌がきっかけで知った発酵食のよさ

――松田さんがみそを手作りされるようになったのは、娘さんの体調がきっかけだったと伺いました。

松田 娘のアトピー性皮膚炎がひどくて、みそに限らずいろいろな料理を手作りするようになったんです。避けなくてはいけない食材もありましたし、とくに授乳中は私自身が食べるものに気をつけていないと、娘の症状にダイレクトに変化が現れたからです。

 こうして食べ物が身体に与える影響を実感するなかで、発酵食の大切さに気づきました。母のように米こうじから手作りするのは大変ですが、市販の生こうじが手に入る。「それなら私も作ってみよう」と思ったんです。

笑顔で話をする松田敦子さん

松田敦子さん(写真=疋田千里)

――みそをはじめ発酵食は、健康や美容といった面から改めて注目されています。

松田 若い人たちもみそや甘酒を手作りしたり、ぬか漬けを作ったりして、そのようすをSNSにおしゃれにアップしていますよね。昔とはずいぶんイメージが変わったなと感じます。

 発酵食のすごいところは、原材料に含まれている栄養素が発酵・熟成によって増えるところ。みその場合、材料の大豆にたんぱく質、ビタミン、ミネラルが含まれていますが、微生物の力で発酵することでその量が増えたり、新しい栄養成分が生み出されたりするのです。

――発酵・熟成によって栄養がさらに豊かになるんですね。

松田 たとえばみそに多く含まれるトリプトファンは心身のリラックス効果につながったり、食物繊維が腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)[1]を改善したり、発酵・熟成によって抗酸化物質ができたり、多岐にわたる栄養があるのです。国立がん研究センターの発表でも、1日3杯以上みそ汁を飲む人は、1日1杯未満の人より乳がん発生率が40%下がるという結果[2]があります。

 だから、「みそは医者いらず」とか「みそ汁は朝の毒消し」といった言葉がたくさんありますよね。

――昔の人も、みその効果に気づいていたということでしょうか。

松田 「これを食べたら健康にいいよ」という食材はいろいろありますが、習慣的にとり続けるのが難しいから、一時的なブームで終わってしまいます。その点、みそは毎日3食でも食べられますし飽きません。和食、中華、洋食、お菓子まで、あらゆる料理に使えますから。

 みそはこうじを使った発酵食ですが、日本の高温多湿な気候で育つこうじ菌は、日本の「国菌」ともいわれています。みその起源は約1200年前とされていますが、平安時代の人たちが食べていたものが、進化しながら現代まで受け継がれてきた。すごいことだと思いませんか?

 伝統食として続いてきたのは、「先人の知恵」で身体にいいことを実感していたからかもしれません。いわば1200年続いてきた健康食です。

でき上がった「5倍麹みそ」を容器からスプーンで取り出すところ

写真=疋田千里

大豆と米こうじの割合が1:5

――松田さんが教室で教えている「5倍麹みそ」はどういったものなのでしょうか。

松田 大豆と米こうじの割合が1:5なので、「5倍麹みそ」と呼んでいます。これは実家で母が作っているみその割合で、ずっと当たり前のように思っていましたが、米みそは一般的に大豆と米こうじが1:1なので、じつはめずらしい割合だとあとから知りました。

 こうじが多いので甘めで塩は控えめ。だから、お野菜につけたり温かいごはんにのせたりとそのまま生で食べられます。こうじの香りが苦手な人も、この「5倍麹みそ」はおいしく食べられたという話をよく聞きます。

――お母さまの時代には重労働だったみそ作りですが、「5倍麹みそ」は1キロと少量から作れて、季節を問わずに手軽に仕込むことができるのもうれしい点です。

松田 母にレシピを教わりながら、現代の生活に合わせて簡単に作れるよう工夫しました。特別な道具がなくても、家に冷暗所がなくても作ることができる。みそ作りって意外と「自由」なんですよ。

 たとえば私の娘に、米こうじから手作りする方法を教えても、きっとチャレンジしないと思うんです。結果的に作らなければ、次の世代に受け継がれない。それを時代やライフスタイルに合わせて、便利な道具や方法があるなら利用すればよいのではと思っています。

 みそを作る楽しさを知ってもらって、家庭の味をつないでいくことが大事だと思っています。

米こうじと塩を両手ですり合わせる松田さん

手作りみその工程、米こうじと塩をすり合わせるように混ぜる「塩切りこうじ」(写真=疋田千里)

「えっ、2週間で食べられるの?」

――何といっても最短2週間で食べ始めることができるというのが驚きでした。

松田 仕込んでから半年以上寝かすという熟成期間の長さも、手作りみそに挑戦するハードルを上げていますよね。「5倍麹みそ」なら、熟成が浅いうちから味わうことができます。

 でもじつは、私も最初は2週間で食べられるとは思っていなかったんですよ。最低でも3~4カ月は寝かせたほうが、たまり[3]のうまみが出てまろやかになりますから。

 ところがある日、教室の生徒さんが、12月20日に仕込んだみそをお正月に食べたらおいしかった、家族にも好評だった、という話をしていたんです。私は「えっ、それは早すぎる!」ってびっくりして……。

――そうだったのですか。

松田 でも、よくよく聞いてみると、ほかにも「じつは私も」と待ち切れずに食べ始めていた生徒さんが何人もいたんです(笑)。どれどれと試してみたら、確かにおいしかった。もちろん、こうじも少し硬いし、塩慣れしていない。こうじの粒も残っています。でも、市販では食べられない、この浅い熟成具合が好みだという人もいます。何より「2週間で作れるならチャレンジしてみよう」って思う人が多いみたいですね。

容器に入った「5倍麹みそ」

写真=疋田千里

――確かに、半年寝かせたあとに、ふたを開けてみたらカビが生えていてガッカリしたという苦い経験を持つ人も少なくないと思います。

松田 教室にも一度失敗してから作っていなかったという人が多くいらっしゃいます。でも、こうじ菌もカビの一種ですから、別にカビは悪者ではないんですよ。白とかグレーのカビが少し生えた程度ならその部分だけ取り除けば大丈夫。ただ、半年の間にカビがたくさん繁殖していたら、気持ちは落ち込んでしまうのかもしれませんね。

 みそは仕込んだら、とにかく気にかけて何度もようすを見てほしいんです。その点、「5倍麹みそ」は熟成期間が短いのでその間なら小まめに確認できますし、初心者でも絶対に失敗しません。

風邪を引いた子どもの「みそ汁が飲みたい」

――教室に参加された方のご感想はいかがですか。

松田 幅広い年代の方が教室でみそ作りをされていますが、みなさん「おいしい」とおっしゃいますね。

 この間、生徒さんから聞いたお話ですが、お子さまが風邪を引いて寝込んでいた時に「何が食べたい?」って聞いたら「みそ汁が飲みたい」と言ったという話を聞きました。

 みそは熟成加減によって色も味も変わっていくので、自分の好みの加減を見つけて楽しめるのもいいところ。浅い熟成が好きな人もいれば、長く寝かせて褐色になってから食べる人もいますし、熟成具合の違うみそを混ぜて使っても味わい深いと思います。

湯気が立つみそ汁

写真=編集部

――教室には親子で参加される方もいるそうですね。

松田 子どもたちも途中で飽きることなく、すごく楽しそうにみそを作っていますよ。教室でみそを仕込むだけではなくて、そのあと家に持ち帰って家族で熟成を楽しみに見守る時間がある。そうしてでき上がったみそは大事に食べるだろうし、みそが大好きになるのではと思います。これが食育の原点ですね。

 私の孫に6歳の男の子がいるのですが、「このみそじゃないとイヤ」って言うんです。この間、初めていっしょにみそ作りをしたのですが、それが楽しかったみたい。この味を孫が受け継いでくれるかもしれません。

――それは楽しみです。

松田 みそ作りは大変というイメージがあるかもしれませんが、今は簡単に作ることができるし、じつは自由で楽しい。毎日の食事に発酵食を取り入れることは健康や美容の面でもおすすめです。手作りのみそがあれば、どんなお料理も「わが家のごちそう」になりますよ。

話をする松田敦子さん

写真=疋田千里

脚注

  1. 腸管内で多種多様な細菌が種類ごとに塊となって腸壁にすき間なく付いている状態。「腸内フローラ(flora=お花畑)」とも呼ぶ。
  2. 国立がん研究センター「大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について 」(2024年1月8日閲覧)
  3. みそが発酵・熟成する間に分離して出てくる液体のこと。

取材・文=中村未絵 写真=疋田千里 構成=編集部