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写真=深澤慎平

カカオからチョコレートを作ったら世界が見えてくる! 全国に広がる手作りワークショップ

  • 食と農

今年もバレンタインデーが近づいてきた。日本ではチョコレートへの年間支出額の2割以上を2月が占める(※1)が、チョコレートがどこでどうやってできるのか、知る機会は少ない。そんな中、チョコレートをカカオ豆から手作りするワークショップが好評だ。カカオ豆の生産者と消費者をつなぐ「民衆交易」を進めるNPO法人APLA(あぷら)が、姉妹団体で商品事業を担う株式会社オルター・トレード・ジャパン(ATJ)とともにカカオについて知ってもらおうと始めた取り組みは、全国各地に広まっている。

※1:チョコレートへの支出(平成24年2月、総務省統計局)

初めて目にするカカオの実に興味津々

 2017年2月、東京・三鷹で開催された「ホンモノの手づくりチョコレートワークショップ」(主催=パルシステム東京三鷹委員会)を訪ねた。講師を務めるのは、NPO法人APLAの野川未央さん。まずは「カカオポッド」と呼ばれるカカオの実を手にしながら説明を始めた。

 「カカオポッドを振るとカラカラと音がしますね。中にカカオ豆という種があるんです。この種を焙煎して砕いたのが『カカオニブ』というものです」

カカオポッド(上)とカカオ豆(右)、カカオニブ(左)(写真=深澤慎平)

 参加者は、ふだん直接手に取ることのできないカカオの実に興味津々の様子。野川さんに促されてカカオニブを口に含むと、ぽりぽりと歯に絡み、香ばしく苦味がある。

写真=深澤慎平

 ここからがチョコレート作りのスタート。まずは、材料となる「カカオマス」と「ココアバター」を用意する。「カカオマス」は、カカオニブをペースト状になるまですりつぶしたものを冷やし、固めたもの。「ココアバター」は、カカオから搾り取った油だ。

カカオマス(右)とココアバター(左)(写真=深澤慎平)

 「カカオマスとココアバターをそれぞれ刻んだら、味見してみてください」

 カカオマスには、カカオ100%のチョコのような苦味がある。ココアバターは、まさに油。チョコレートの香りはほのかにあるが、苦味はない。

写真=深澤慎平

 刻んだカカオマスとココアバターは、別々のボウルに入れ、それぞれ湯せんで溶かす。チョコレートがきれいに固まるよう、水が絶対に入らないようにするのがポイントだ。カカオマスにココアバターを加えて混ぜると、たちまち艶やかになる。

 「ココアバターを加えなくてもチョコレートはできるのですが、さらに油を加えることでおいしいチョコレートになるんです」

写真=深澤慎平

 次は甘味付けだ。ミルクチョコレートには粉糖と粉乳、ビターチョコレートにはマスコバド糖(フィリピン産のサトウキビを搾った精製していない砂糖)を加える。

 「カカオ(300g)に対して砂糖がこんなに(110g)入ります(※2)! これでも市販のものよりかなり量は抑えてありますよ」

※2:ミルクチョコレートはカカオ150g(カカオマス100g、ココアバター50g)、製菓用粉糖55g、全脂粉乳50gが分量の目安。

写真=深澤慎平

 市販のチョコレートは、この段階で約24~72時間機械で練り続ける。「コンチング」といって、なめらかな舌触りとまろやかな味に仕上げるために欠かせない工程だ。

 「さすがに今日はできないので、せめて一生懸命かき混ぜてください。仕上がりの舌触りの違いで、コンチングの意味が分かると思います」

写真=深澤慎平

 次は「テンパリング」。温度を調整するという意味で、これもチョコレートをおいしくする秘訣の一つだ。手順は以下の通り。

 温度計を見つめながらの工程に、皆さんちょっと緊張気味。規定の温度になったら、スプーンですくい、型に流し込んでいく。あとは、冷蔵庫で30~40分冷せばでき上がりだ。

写真=深澤慎平

カカオ豆からカカオペーストを作る

 ここからは、カカオニブをすってできるカカオペースト作り。前段のチョコレート作りの工程をさらにさかのぼり、カカオ豆からカカオマスができるまでの段階を体験してみようというものだ。

 野川さんが取り出したのは、焙煎済みのカカオ豆。少しだけ再加熱してカリッとさせる。「コーヒーと一緒で、カカオもローストすることでおいしい香りが出ます」。皆で皮をむき、フードプロセッサーで砕いていく。「あーすごい、いいにおい!」の声が一斉に上がった。こうしてできたものがカカオニブだ。

写真=深澤慎平

 続いて、カカオニブをすり鉢ですっていく。「カカオの種の約55%は油なんです。ですからゴマやクルミをするときと同じように、油分が出てとろっとしてきます」

 すっていくと、「いいにおいがする!」の声が。途中から湯せんしてさらにすると、見事にペーストになった。溶かしたカカオマスの状態と、ほぼ同じということだ。ここに、牛乳とマスコバド糖を入れたら、カカオペーストも完成。パンやクラッカーに塗って食べるのにぴったりだ。

写真=深澤慎平

ただ商品を売る以上の意味がある

 作業がすべて一段落すると、野川さんは参加者に呼びかけた。「皆さん、チョコレート作り、楽しかったですか? 今日の材料は、インドネシアのパプアというところから届いたカカオです。カカオ農園というと、カカオだけが栽培されている姿を想像するかもしれませんが、パプアでは、豊かな森のなかでカカオの木が育っているんですよ」

地球最後の楽園(パラダイス)と呼ばれるパプア(写真提供=ATJ)

 天然資源に恵まれたパプアでは、250を超える先住民族が自然と共存した暮らしを営んできた。しかし、近年グローバル化の波が押し寄せる中で、伝統的な文化や暮らしは危機に。生存の道を模索する中でAPLA・ATJとの出会いがあり、パプアと日本をカカオでつなぐ民衆交易事業が始まった。だが、すでに日本では他にもフェアトレードチョコレートがあり、普及している。どう販売していくのかが課題になった。

 チョコレートの発売を控えた2011年当時を振り返って、野川さんは言う。「話し合いを重ねる中で、生産者から直接原料を運んでこられることが私たちの強みなんじゃないかと気づきました。カカオからチョコレートになるプロセスをみんなで共有できたら、ただ商品を売る以上の意味があるんじゃないかと考えたんです」

カカオ生産者のウィレムさん(写真提供=ATJ)

 APLAが最初のワークショップを開催したのは2011年末。反応は想像以上によかった。「小さいお子さんでも、自分で作ったビターチョコなら、『苦い?』と聞いても、『おいしい』って言うんです」

 口コミで広がったワークショップは、次第に全国から「開催したい」と声がかかるようになり、これまでに2000人近い参加者が参加した。今では、野川さんたちAPLAのスタッフの手を離れ、生協など各地のグループが自主的にワークショップを開催する動きにもつながっている。

 「私たちも試行錯誤でやってきたので、正解があるわけではありません。皆さんなりのいい方法を見つけて、このカカオを活用して楽しんでいただきたいです」

野川未央さん(写真=深澤慎平)

チョコレートの背景まで、贈る気持ちに込めたい

 APLAとATJがパプア産のカカオを扱うのは、単に現地の生産者の自立を応援するためだけではない。安い労働力として子どもを使ったり、自然を破壊したりせずに作られたカカオが欲しいという消費者の声に応えたいという思いもある。

 日本のチョコレートの原料となるカカオ豆は、ガーナ産が7割以上を占める(※3)。ガーナやコートジボアールなどの西アフリカのカカオ農園では、約180万人もの子どもたちが重労働に就いており、中には学校にも行けない子どももいるという(※4)。また、農薬や化学肥料の多用による生態系破壊も問題になっている。

 「バレンタインの季節、愛情や感謝の気持ちを込めてチョコレートを贈る方も多いと思います。それをこうした問題が背景にあるチョコレートに託すのは、自分の気持ちも半減してしまい、悲しいと思うんです」(野川さん)

 APLAとATJは「チョコレート・アライアンス」というネットーワークに加盟し、児童労働によらないカカオ、あるいは農薬を使っていないカカオで作られた、「人と環境に優しい=愛のあるチョコレート」の普及に努めている。

カカオの出荷(写真提供=ATJ)

 パプアの小規模生産者たちは、収穫したカカオ豆を丁寧に発酵・乾燥させている。発酵のプロセスがしっかりしていないと、チョコレートになったときにおいしくないといわれているためだ。乾燥した豆は、出荷場で現地のスタッフと生産者がお互いに納得した金額で売り買いしている。

 「カカオ農園の子どもたちの多くは、カカオが何になるか知らないし、それから作られたチョコレートを食べたこともありません。パプアの人たちもかつてはそうでした。でも、チョコレート作りやお菓子作りを現地でも体験することで、今はこんなにおいしいものができるんだとみんな知っています。ですから、いいものを作ろうとこれまで以上に頑張ってくれるようになりました。豊かな森の中で育つカカオや、生産者のことをぜひお友達にも伝えていただけたらうれしいです」

カカオの話に聞き入る参加者のみなさん(写真=深澤慎平)

 野川さんがそう付け加えると、タイマーが鳴り、冷やしていたチョコレートが固まったことを知らせる。「さあ、チョコレートを食べましょう!」

 「おおーっ」。冷蔵庫から取り出したチョコレートを前に歓声が上がる。

 「きれい! つやつやですね。ご自身で作るときは砂糖の種類や量も好みで調節してみてください」(野川さん)

写真=深澤慎平

 チョコレートを食べながら、参加者の声も弾む。「おいしかったですし、カカオの実を見るのは初めてでした。あの中に種がいっぱい入っていると知って、驚きました」。「一つずつの工程に触れられて、すごく楽しかったです」

※3:日本チョコレート・ココア協会(2016年、日本貿易統計)

※4:Payson Center for International Development and Technology Transfer. March 31, 2011. “Oversight of Public and Private Initiatives to Eliminate Worst Forms of Child Labor in the Cocoa Sector in Côte d’Ivoire and Ghana.” Tulane University.

「パプアは天国のように素晴らしいところなんだ」という誇り

 APLAとATJが共同で進めてきた民衆交易事業は、パプアでどんな成果を生んでいるのだろうか。2017年10月に来日したカカオ生産者、デッキー・ルマロペンさん(カカオキタ社代表)に話を伺った。

デッキー・ルマロペンさん(写真=編集部)

 「1969年にインドネシアに強制的に併合されて以来、パプアの人たちはビジネスができないと言われ、さげすまれてきました。それが今や、私たちと日本との民衆交易はすごく話題になり、政府も一目置き始めています。私は、チョコレートのビジネスを一緒に進めている日本の人たちを、ともに環境をよくしたり、平和を築いていく“仲間”だと思っています」

 カカオキタ社では、2015年から「貯蓄プログラム」を始めている。「汗水を流して作ったお金を大切に使うため、売った豆の代金の一部をすぐに民衆銀行に預けることにしています」。口座開設者は徐々に増えており、特に女性たちは熱心だ。親戚などに借金をしなくても、子どもの進級、進学費用をまかなえるようになった人もいるという。

豆代の支払いを受けた後、貯金額を通帳に挟んでカカオキタ社に託す(写真提供=ATJ)

 単一栽培でなく、豊かな森でカカオが育つことのメリットもあるようだ。

 「カカオが育つ森では、主食のサゴヤシデンプンを取ったり、イノシシを捕まえたり、狩猟採集ができます。ですから、カカオの端境(はざかい)期が来ても、ほかに売る物があるので問題ありません。土壌は豊かで、生産者は化学肥料も農薬も一切使っていません」

 デッキーさんたちは、パプアの豊かな自然と文化にちなんで、チョコレートに「パラダイス」という名前を付けた。「パプアは天国のように素晴らしいところなんだという誇り、その価値を取り戻しているんだということを示している名前なんです」

カカオ生豆を十分に乾燥させて仕上げる(写真提供=ATJ)

 カカオキタ社は、今、小さなチョコレート工房を作る計画も進めている。「この工房はカカオの生産者にとっても学びの場になるでしょう。カカオ豆を売るだけでなく、収入源が多様化するということです。いろいろな人が小さい規模でも生業をもてるようにしていきたいと思っています」

 自分たちの環境を守り、森を守りながら、経済的にも自立していく。パプアのカカオには、そんな大きな夢が託されている。

取材協力/パルシステム東京三鷹委員会、特定非営利活動法人APLA、株式会社オルター・トレード・ジャパン 取材・文/山木美恵子 撮影/深澤慎平 構成/編集部