株式会社危機管理教育研究所代表 国崎信江さん

写真=豊島正直

特別な備えだけが「防災」じゃない? 危機管理アドバイザーが提案する、日常生活でも取り入れられる防災の工夫

  • 暮らしと社会

自然災害が起こるたびに、あらためて防災の大切さを感じる一方、「何をどう備えたらいいのか分からない」という声も多い。そこで、危機管理アドバイザーとして活躍し、3児の母として「家族と子どものいのちを守る」という視点から防災対策を伝えてきた国崎信江さんに、日常的に取り入れられる防災の工夫を伺った。

防災意識を「生活習慣」に

――自然災害のニュースを見ると「わが家の防災の備えは大丈夫だろうか」と考えさせられます。国崎さんは、以前から日常生活に取り入れられる防災の工夫を提案していらっしゃいますね。

国崎信江(以下、国崎) 私は、いかに防災を日ごろの生活に定着させるかをテーマにしてみなさんに伝えてきました。災害が起きると一時的に防災意識が上がるのですが、時間がたつとまた下がってしまうんですよね。でも、災害はいつ起きるのか分からないもの。防災を特別なものではなく、「生活習慣」にしていくことが必要だと思っています。

株式会社危機管理教育研究所代表 国崎信江さん

株式会社危機管理教育研究所代表 国崎信江さん(写真=豊島正直)

――国崎さんが制作にかかわっている東京都の冊子『東京くらし防災』にも、「食器の重ね方を変えてみる」、「(いつもいる部屋に)寝転んで、危険を探してみる」など、今すぐに実行できる防災のアドバイスが載っています。(『東京くらし防災』/東京都から)

『東京くらし防災』表紙

女性視点の防災ブック『東京くらし防災』(東京都)では、すぐに始められる防災のコツなどを紹介している(写真=豊島正直)

国崎 防災についてアンケート調査をしたときに印象的だったのが、「不安はあるけど、何をしたらいいか分からない」という声が多いことでした。どこまで備えたらいいのだろう、何をしたらいいのだろう、と思っている人がたくさんいます。

 でも、防災とは特別な備えをすることだけではありません。わが家には、包丁を使ったらすぐに洗って片付けるというルールがあります。地震の揺れで包丁が飛んでくると大けがにつながるからです。それから、冷凍庫の自動製氷機の水タンクは、災害時の飲み水になることを考えて、いつも満タンにしておくように確認しています。

ものを出しっぱなしにしない。

キッチンにはものを出しておかない。とくに包丁はすぐしまう(写真=株式会社潮出版社)

 そういう、ちょっとした意識をふだんからしているかどうかが、災害のときに大きな違いを生みます。

「ハザードマップ」を見たことがありますか?

――防災意識を高めるために、何から始めるのがいいでしょうか?

国崎 まず、ご自分が住んでいる地域の「ハザードマップ」を見たことはあるでしょうか?

 地震、洪水、津波や土砂災害など、お住まいの場所にある災害リスクを、自治体のハザードマップで確認することができます。無料で配付されていて、自治体のホームページからも見ることができます。

 浸水エリアでも、床上浸水なのか、水没してしまうのかなど、地域によってレベルが違います。2階に逃げれば大丈夫なのか、避難所へ行ったほうがいいのか、ハザードマップをもとに避難のタイミングやルートなどを想定しておいてほしいのです。

ハザードマップ。国土交通省のホームページからも検索できる。

ハザードマップでは予想される被害をチェックできる(写真は東京都新宿区のもの)

――防災体験学習施設というのは、どういう場所ですか? 

国崎 防災体験学習施設というのは、地震や暴風、津波避難などの体験ができる場所です。休日に、子どもと一緒に遊びに行きます。

 東京だと、「そなエリア東京」(江東区)、「池袋防災館」(豊島区)、「立川防災館」(立川市)、「本所防災館」(墨田区)の4カ所にあり、それぞれ体験できる内容が違います。首都圏だけでなく全国にありますので、お近くの施設を調べてみてください。わが家では、家族旅行のときも近くの防災体験学習施設に行くんですよ(笑)。

――どんな体験ができるのでしょうか。

国崎 たとえば、本所防災館では、水圧でドアが開かないという体験ができます。子どもだと水深30㎝で、もうドアが開けられません。50㎝だと男性でもビクとも動かせない。災害時には、「まだ大丈夫」と思っているうちに逃げられなくなることもあるので、疑似体験しておくことはとても大事です。

東京都本所防災館、都市型水害体験コーナー

防災体験学習施設で、災害の疑似体験をしてみては。2019年現在「本所防災館」では水深10、20、30cmの水圧を体験できる(写真=本所防災館)

 もしハザードマップで、お住まいの地域が震度6弱の地震に見舞われる可能性があると分かったら、その揺れを体感しておくといいと思います。まず住んでいる地域のハザードマップを確認して、それから防災体験学習施設でリアルに災害を感じてみる。そうすると、いざというとき「早く逃げよう」という意識が高まるはずです。

――子どもも、楽しみながら防災意識を身に着けることができそうですね。

国崎 本当にそうなんです。親から子どもに「防災対策」を教えようとしても、なかなか聞いてくれませんよね(笑)。それより、一緒に行って体験して学ぶほうが頭に入ってくると思います。

電気、ガス、水道を使わない「おうちキャンプ」

――子どもと一緒に家でできることはありますか?

国崎 電気やガス、水道を使わずに、防災グッズを使って家で過ごす「おうちキャンプ」も楽しくできる防災訓練のひとつです。部屋の中でもいいので、テントを張って寝袋で眠り、電気や水道などのライフラインを使わずに一日を過ごしてみてください。

 家にあるものだけでやりくりしてみることで、どんな防災グッズが必要なのかが分かりますよね。防災グッズの使い方を練習しておけば、いざというときに慌てることもありません。

――寝袋やテント、ヘッドライトなど、キャンプで使うアウトドアグッズは、防災グッズにもなるのだと見直しました。

国崎 とくにテントや寝袋は持っておくといいですよ。余震で天井から埃などが落ちてくると落ち着いて食事もできないので、部屋にテントを張れば中で食事をすることができますし、部屋の暖房が使えなくて寒いときもテントの中にいたほうが暖かいです。また災害時に家族が集まってひと部屋で過ごすときには寝袋があると便利です。

食品は10日分、日用品は1か月分

――国崎さんご自身は、どんな備えをしているのでしょうか?

国崎 防災というと「非常用持ち出し袋」を最初にイメージする人が多いと思いますが、わが家では自宅での備えを重視しています。

 そもそも都心は人口が多くて避難所のスペースが足りていない地域もあります。もちろん自宅に倒壊や水没の危険があるときは避難所に行ったほうがいいですが、実際には災害時に自宅で過ごすケースが多いのです。

 持ち出し袋を用意するのであれば、家族やご自身の体力にあわせて大きさや重さを選んでください。緊急時には重い袋を持って逃げる余裕がないかもしれないからです。

――それは意外です。自宅には何をどのくらい用意しておけばいいのでしょうか? 非常食をいろいろ用意しても、気づいたら賞味期限が切れてしまっていたということもあります。

国崎 わが家には約1か月分の食品備蓄がありますが、少なくとも食品や調味料は10日分、日用品は1か月分ほど用意してほしいと思います。最近では、1週間分の食品では足りないこともあると言われています。

日用品は1ヶ月分を目安に備蓄

日用品も備蓄して使い回すのがおすすめ(写真=株式会社潮出版社)

 防災についての講演で「今、家に10日分の食品備蓄がありますか?」とお聞きすると、最初は多くの人が「ありません」と言います。でも、冷凍庫には冷凍食品があり、冷蔵庫には野菜、卵、納豆、ヨーグルト、さつま揚げ……と意外といろいろな食品がありますよね。

 「全部を食べつくしたら3日分はあるという人は?」と聞くと、多くの人が手を挙げます。さらに、お米、そばやパスタ、シリアル、パンケーキの粉、缶詰などの常温食品も考えていくと、「実は、あわせてみたら10日分あった」という人は多いですよ。

――国崎さんは「家庭内流通備蓄」を推奨されていますが、これはどういうものですか?

国崎 防災用に特別なものを用意するのではなく、ふだん食べ慣れているもの、使っているものを常に少し多めに買って、使いながら備蓄していく方法です。

 食品も日用品も、なくなる前に買ってストック(備蓄)し、古いものからどんどん使っていきます。先ほどのような、パスタとかそば、冷蔵庫内の食品など、ふだんから食べているものが災害時の食べ物になるんです。

食べ慣れた食料を備蓄

食べ慣れたものを少し多めに買って使い回す、が「家庭内流通備蓄」(写真=株式会社潮出版社)

 飲料水については、1日3リットルの備えが必要だと言われていますが、それは乾パンのような水分の少ない非常食を取っている場合です。ふだんの食事と同じなら、そこから水分も取れますし、わが家では水分を含んだ果物を欠かさないようにしています。冷蔵庫にある牛乳、子どものジュース、製氷機の氷や水も含めて、ふだんどれくらいの水分が家にあるのかを考えてみてください。

不安は行動することでしか解消できない

――多めに買いながら使っていくやり方なら、うっかり賞味期限が切れていたという事態も防げそうです。ふだんからできる工夫は、ほかにもありますか?

国崎 たとえば多くの時間を過ごす寝室やリビングなどには、なるべく家具を置かず、インテリア雑貨も減らしています。家具を固定している人は多いと思いますが、わが家の場合はTVも壁に固定しました。落ちてくるものを少なくすることで、ふだん過ごす部屋が「安全な場所」になります。

 また、吊り下げ式の照明や掛け時計などは、落ちてきたときのリスクを減らすために軽い紙製のものを選ぶなど、固定できない生活雑貨は軽くてやわらかい素材のものを選ぶようにしています。そうやって「防災目線」で生活を見直してみると、いろいろできることがあると気づくはずです。

事務所の時計は紙製を使用している。

掛け時計も紙製などの軽いものにすると、落下したときの被害を防げる(写真=豊島正直)

 災害に対して漠然とした不安を抱えている人が多いという話を紹介しましたが、不安は行動することでしか解消できないものです。防災は特別なことではありません。無理なくできることから始めて、ぜひ防災を生活習慣にしていってほしいと思います。

取材・文=中村未絵 写真=豊島正直、株式会社潮出版社 構成=編集部