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できたての味を知ったら、削らずにはいられない? 「かつおちゃん」とめぐる、人生を変えたかつお節のふるさと

  • 食と農

目の前で削られるかつお節と炊きたてのご飯に、だしのきいた熱々のみそ汁。古き良き味わいを求めて人々が列をなすのが、話題の「かつお食堂」だ。「かつお節がどのように作られるか知っていますか?」と話しながら慣れた手付きでかつお節を削るのは、青光りする「かつおブルー」に染めた髪に、「KATSUO100%」のロゴTシャツを着た、その名も「かつおちゃん」。知っているようで知らないかつお節のことを知るべく、彼女とともに産地の鹿児島県枕崎市を訪ねた。

きっかけは、削りたてのかつお節

 開店前から毎日行列の絶えない、東京・渋谷の「かつお食堂」。お客さんの目の前で削ったかつお節を、炊きたてのごはんが見えないくらい山盛りにのせたかつお節ごはんと、具沢山のみそ汁を提供する朝ごはん食堂だ。店を切り盛りするのは、通称「かつおちゃん」こと永松真依さん。早朝から昼まで、何十人分ものかつお節を1人で削る。

 かつお節生産者の思いや熱意をお客さんに伝えるべく、数種類のかつお節の中から好きなものを選べるというこだわりようだ。

かつお節を削るかつおちゃん

慣れた手付きでかつお節を削る。シュッシュとなめらかな音が心地よい(写真=編集部)

 そもそも、なぜ彼女はここまでかつお節に魅せられたのだろうか。

 大学卒業後、企業で働いていた永松さんは、仕事が終わると毎晩のように六本木に繰り出してはクラブで踊り、飲み明かしていたという。単調な毎日に「このままでいいのだろうか」と悩んでいた頃、遊びに行った九州の祖父母宅で、とある光景に衝撃を受ける。それは、かつお節を削る祖母の姿だった。

 「祖母がシャンとしてかつお節を削る姿がすごく格好よくて。かつお節はパックのものしか見たことがなく、節を目にしたのも初めてでした。大分名物のだご汁を作ってくれたのですが、そのおいしさに感動してかつお節に目覚めたんです」

かつお食堂のカウンターに立つかつおちゃん

写真=編集部

 猪突猛進タイプのかつおちゃんは、「これ」と決めたら驚きの行動力で突き進む。かつお節のことがとにかく知りたくなり、祖母からもらった削り器を片手に、全国各地のかつお節職人に会いに行く旅を始めたのだ。とある職人に当時の話を聞いたところ、ヒョウ柄のワンピースに10cmヒールでやってきたかつおちゃんを見て、「ヤバいのが来た……!」「親御さんは知っているのだろうか」などと大いに心配したというが、人懐っこく次々と質問してくる姿に驚きながらも感心したそうだ。

全国を旅していた頃のかつおちゃん

削り器を手に、全国を旅していた頃のかつおちゃん(写真=かつお舎)

 最初は彼女のことを怪訝に思っていた職人たちも、勉強熱心な姿勢にだんだんと心を開いていったのであろう。何度も足を運ぶうちにいろいろと教えてくれるようになり、「かつおちゃん」と呼ばれるようになっていったという。

 幼い頃から祖父に「何でも本物を知らないとだめだ」と教えられてきたというかつおちゃん。生産者を訪ねるのも、「本物を知りたい」という思いからだ。

 「かつお節も産地で話を聞いたり、かつお節作りを体験させていただくうちに、どんどんのめり込んでいったんです。『かつお食堂』に来てくださるお客さんにも、かつお節の本当の魅力や素晴らしさをお伝えしたいと思っています」

かつお節の産地を紹介するかつおちゃん

壁一面にはかつお節の産地の写真や、かつおの漁場を記した地図がずらり(写真=編集部)

 かつお節のことを話し始めると止まらなくなるかつおちゃん。かつお節をきっかけにかつお自体への愛もどんどん深まり、髪の毛もかつおのブルーに染め、身につけるものや手帳、スマートフォンのケースなども徹底的にブルーを選ぶ。「かつおのような彼氏がほしい」と笑いながら話すなど、大好きなかつおのことを知ることにも手を抜かない彼女と一緒に、かつお節の一大産地、鹿児島県枕崎市を訪ねた。

かつおちゃんの横顔

“かつおブルー”に染まるかつおちゃん。耳には「かつお」の3文字をかたどったピアスが(写真=山本尚明)

かつお節の街、鹿児島県枕崎市

 かつお節は全国各地で作られているが、鹿児島県は生産量1位(※)を誇る。中でも枕崎市はその半数近くを担う一大産地で、市内にあるかつお節工場は約45軒。街中を歩いているとかつおを燻す香りが漂い、地元を離れた人は、この香りをかぐと「帰ってきた」と実感するのだという。

早朝の枕崎の様子

写真=山本尚明

 取材は朝7時から港で始まった。船上で急速冷凍された約2,000トンのかつおが、ベルトコンベアで次々と運ばれてくる。

凍ったかつおの尾の部分を削る職人

かつおの尾の部分を削り、職人の目で身質を見極める(写真=山本尚明)

 「どんなかつおがかつお節に向いているんですか?」真剣な眼差しでかつおをチェックする職人に、かつおちゃんが尋ねる。

 「脂の少ないかつおを見極めるのが重要だね。脂が多いと節になるまでに時間がかかるので」

 ものすごいスピードで流れてくる大量のかつおは、サイズごとに分けられていく。「かつお節に適した大きさはありますか?」と聞くと、4.5キロから6キロくらいとのこと。それ以上大きくなると、芯まで乾燥させるのが難しくなるという。

競りの様子を見つめるかつおちゃん

写真=山本尚明

 水揚げ場に隣接した競り場に移動すると、威勢のいい掛け声とともに競りがスタート。かつお節作りは、職人自ら買い付ける競りから始まるのだ。

※農林水産省「水産加工統計調査(平成29年)」より

いざ、かつお節作りの工程へ

 目利きが仕入れたかつおを、いよいよ節に加工していく。かつお節工場は多数あるが、今回訪れた揚村鰹節商店のような、家族経営の小規模なところも多い。同社は3代目の博郎さん、息子の公一朗さんを中心に、数名のベトナム人スタッフとともに、アットホームな雰囲気の中、完全手作りで本物のかつお節を作り続けている。

揚村鰹節商店の前に立つかつおちゃん

海にほど近い、枕崎の町中に位置する揚村鰹節商店(写真=山本尚明)

 代表の揚村博郎さんとかつおちゃんはこの日が初対面だが、「薪は何の木ですか?」「わたや背皮はどうするんですか?」などと、早くも質問が止まらない。

代表の揚村博郎さんに質問するかつおちゃん

かつおちゃん(左)に工程の説明をする揚村博郎さん(右)(写真=山本尚明)

 「わたは業者に引き取ってもらって塩辛に加工します。背皮は魚粉になりますね。かつおは、血だけ洗い流してあとは全部使うんです」(揚村さん)

 無駄になる部分が全くないというかつおが大量に並ぶ中、いよいよかつお節作りがスタート。これまでに何度もかつお節作りを見ているかつおちゃんも、ここの作り方は初めて見学する。

ずらりと並んだ生のかつおを、手作業で切り分けていく職人たち

写真=山本尚明

 「かつお節作りは、職人によって微妙に違うんです。まずは、冷凍かつおをゆっくり解凍するところから。解凍したら、身を手作業で4つにおろして節を作ります」(かつおちゃん)

 節状に切られたかつおの身は、完成品のかつお節よりはるかに大きい。ここからどうやってあの「世界一硬い食品」といわれるカチコチの節になるのか、この時点では想像もつかない。

 「次に、かごに並べて煮ていきます。熱でたんぱく質を凝固させることで、うまみをギュッと閉じ込めるんですね。煮えたら風通しのよい場所で冷まして、骨抜きと修繕作業を行います」

かつおをかごごと煮る様子

写真=山本尚明

職人の手が作る、美しい節の形

 冷めて身の引き締まったかつおから、大きなピンセットのような道具で丁寧に骨を抜いていく。薪を燃やし、煙で燻して水分を飛ばしたら、次は修繕だ。

 「修繕とは、骨抜きなどで欠けてしまった部分にすり身状にしたかつおの肉を塗る工程のこと。きれいな節に仕上げるためにも大切な作業なんです」

かつおの節にすり身を指ですりこむ様子

写真=山本尚明

 あの美しいカーブを描くかつお節は、こんな細やかな作業によって作られていたのだ。きれいに整えた節は繰り返し燻され、表面の黒い部分を削り落として形を整える。そして、最後に行うのがかび付け作業だ。

 「表面に付けたかびが内部の水分を吸収し、うまみや栄養成分が凝縮されます」

 かびを付けては天日に干す、という作業を数回繰り返す。かごに並んだ節が外で干されている姿はなかなか壮観だ。

天日干しされる大量のかつお節

写真=山本尚明

 「このかび付けと乾燥を長い期間ゆっくりと繰り返したものが、『本枯節(ほんかれぶし)』と呼ばれるかつお節。うまみがギュッと凝縮された、かつお節の中でも最高峰の味わいです」

 発酵と熟成を重ねた本枯かつお節は、ほのかに甘みのあるまろやかな味わいが特徴だという。このように、でき上がるまでには大変な手間がかかり、完成までに要する期間は約数ヶ月。5キロのかつおが本枯かつお節になると800〜900gになり、約1/6の重量になる。

枕崎の海を見つめるかつおちゃんの姿

「この海のどこかで、かつおが泳ぎ回っていると思うとうれしくなります」と話すかつおちゃん(写真=山本尚明)

 「無駄な部分が全くないかつおはやっぱり偉大!」「生まれ変わったらかつおになりたい」など、知れば知るほどかつおの魅力にハマっていくかつおちゃん。今回の取材で、さらにかつお愛が深まったようだ。

世界一硬い食品、かつお節から生まれる花削り

 かつおちゃんが、でき上がったかつお節を愛おしそうに削り、「かつお食堂」で出しているかつお節ごはんを作ってくれた。ひらひらと薄く、まるで花びらのように美しい削り節。どうやったらこんなにふんわりと削れるのだろうか。

完成したかつお節を、かつお節削り器で削るかつおちゃん

自前のかつお節削り器を取り出し、かつお節を削り出すかつおちゃん(写真=山本尚明)

 「まず、腰より下に削り器を置くこと。かつお節全体に自分の力をのせるイメージです。節の頭を自分側に向け、手のひらのみに力を入れて、節をしっかり押さえて前方へ押し出すようにして削っていきます」

 始めのうちは表面が粉状に削れてしまうが、それは当たり前のことだそう。

 「表面や角をとって平らにしていくことで削る面が大きくなり、やがて花びらのようにふんわり仕上がるんです。目指すのは、向こう側が透けるくらい薄く、なめらかな舌触りの削り節です」

かつお節の角を削る様子

出っ張った部分や角を少しずつ削り、平らな面を作っていく(写真=山本尚明)

粉やかけらの混じった削り節

削り始めの粉やかけらも捨てずに活用して(写真=山本尚明)

 「うまく削れなかった粉やかけらは、だしをとったり、だし醤油に使うといいですよ。上手に削れるようになってくると、どんどん楽しくなって、かつお節とリズムが合ってくるような気がするんです。かつお節のようにじっくりと時間をかけて、上達していく楽しみを味わってもらえるとうれしいです」

ふんわりと薄く削れたかつお節

透けるように薄い、ふんわりとした削り節(写真=山本尚明)

「無理はしない」がかつお節ライフを楽しむコツ

 「削ったかつお節はすぐに鮮度が落ちるので、削りたてが香りもよくて断然おいしい。お刺身と一緒です」とかつおちゃん。食堂で削りたてのかつお節ごはんを出すことを決めたのも、「それが一番かつお節のおいしさが伝わる方法」だったからだ。

削り立てのかつお節をたっぷりのせたごはん

写真=山本尚明

 店では削りたてにこだわる彼女だが、「私も家では毎日削っているわけではありません」とも言う。

 「疲れているとなかなか削る気になれないし、楽しい気分で削れないと、おいしいかつお節にならないんです。袋入りの削り節やだしパックを使うこともあります。自分のライフスタイルに合わせて使い分けながら、さまざまなかつお節を楽しめばいいと思うんです」

かつお節丼を見つめるかつおちゃん

写真=山本尚明

 「削り器で削った本物のおいしさを知ると、普段は袋入りの削り節やだしパックを使っている人も、『たまには削りたてのかつお節が食べたい』となると思うんですよね。上手に薄く削れたかつお節は本当にいい香りで、だしをひいてもとてもおいしい。本物を知ることが、選択肢を増やすことにも繋がります」

 かつおのおいしさを余すことなく閉じ込め、うまみをギュッと凝縮させたかつお節。食欲をそそられる香りとコクのある豊かな味わいは、誰もがほっとするのではないだろうか。かつお節のすべてに魂を奪われたかつおちゃんは、これからも食堂やSNSなどを通じてその魅力を発信し続けたいという。

 「かつお節には、人の生活に寄り添ってくれるやさしさがあると心底思います。懐が深い。難しく考えず、日常でおいしく楽しくどんどん使って、新しいかつお節の世界を知ってほしいですね」

取材協力=揚村鰹節商店、立石水産株式会社 取材・原稿=梅津有希子 写真=山本尚明 構成=編集部