「おしゃれ」は、ホントに必要?
――長くファッションの仕事に携わってこられた林さんから見て、“おしゃれ”はやっぱり必要だと思いますか?
林 そうですね。人って、年を重ねるうちに人に会ったり、外出したり、新しいことにチャレンジしたりということがだんだんおっくうになってきますよね。でも、おしゃれをすれば、外に出かけたくなるし、人に会いたくなる。気持ちが元気になる。元気になれば、またおしゃれをしたくなる。そんな好循環が生まれるんじゃないかな。
――毎日をいきいきと過ごすために、“おしゃれ心”を失わないことが大切なんですね。
林 キーワードは、「笑顔」。究極、おしゃれって、笑顔になるための手段だと、私は思うんです。
着こなしやテクニックというのももちろんあるけれど、自分がいいなと感じるものを積極的に取り入れようとする人は、やっぱり素敵に見える。いろんな人に会うこと、いろんなところへ出かけること、ワクワクする気持ちや好奇心はおしゃれの原動力であり、そんな体験を積んで自然に身についた佇まいや着こなしが、その人を“ちょっといい感じ”に見せてくれるんじゃないでしょうか?
――林さんも、パートナーの行雄さんと、よく出かけられるそうですね。
林 そうですね。性格がまったく違うので、旅先で別行動なんてことはしょっちゅうですが(笑)。
とくにこのごろは、行きたい、見たいとなったら、すぐに行動に移すことにしています。若いころは、「いつかそのうち」と思うものだけど、「いつか」は自分で決めないと、永遠にやってこない。忙しいけれど、そうした行動による経験は、結果的に後で自分の肥やしになりますからね。
ワードローブを増やすより、真っ白いTシャツを
――今日はきれいな色のカーディガンをお召しですね。
林 季節に合わせて、春らしい色をセレクトしました。年をとってくると、なんとなく全体的にくすんでくるようなイメージがあるけれど、明るい色がそれを助けてくれますからね。私、白髪になったのが割と早かったのですが、グレイヘアはきれいな色を合わせやすいんですよ。
それと、おすすめは、真っ白のTシャツです。
――白いTシャツですか……。シンプルすぎて、着こなす自信がないのですが。
林 それがね、白はどんな色にも合うから、白いTシャツがあれば、コーディネートの幅がぐっと広がるんですよ。今日の私みたいにきれいな色のカーディガンを合わせてもいいし、アクセサリー感覚で薄手のストールを巻くだけでサマになります。
それに、白は光をいい具合に反射するので、顔に近いところにもってくると、表情を明るく元気に見せてくれる効果もあります。
――なるほど!
林 白は照れるわって敬遠される方もいるけれど、私はお客様にも、「ワードローブをあれこれ増やすより、自分の肩より少し内側に入った、ぴったりとサイズの合う白いTシャツを1枚買ってください」って言っています。
――たしかに、1枚あると重宝しそうですね。ただ、白いTシャツに限らず、年々、新しいものを取り入れることに尻込みしてしまいがちです。
林 お客様の中にもいらっしゃいますよ。いつもは選ばれないような色を勧めると、「私はそういうのは着たことがないから」「いや、私には似合わない」とかたくなに拒まれる方が。色も形も、自分の中で固まってしまっているんですね。
――耳が痛いです(笑)
林 自分に似合うものも、時代も、刻々と変わっている。だったら、その変化をとらえて、ファッションも更新していってほしいんです。流行を一所懸命追いかける必要はないけれど、いつもの自分のスタイルにちょっとずつ、「今」を取り入れていくって感覚ですね。
――簡単にできる取り入れ方があれば、教えてください。
林 まず分量の小さいものなら、取り入れやすいんじゃないかな。アクセントにカラーもののストールを合わせてみるとか、アクセサリーを変えてみるとか。
まずは、体に合うサイズを選ぶこと
――服を選ぶときに、ここだけは気をつけたほうがいいということはありますか?
林 それはサイズ感です。年齢とともに、「似合う」の要素の中で、「自分の身に合った服を着る」ということが、とても重要になってくるんですよ。
――つい、緩めのサイズを選びがちです。
林 体型を気にしてオーバーサイズの服を選ぶと、着にくくてかえってしんどいですよ。かといって、おしゃれのためだからと、無理やりぎゅっと締め付けるような服を着るのもナンセンスです。
似合うっていうのは、着ていて心地よく、自分の体に合っている服です。
私なんか、典型的な昭和のスタイルでしょ(笑)。足短い、お尻下がっている。あんまり股上の深いパンツを履くと、お尻がすごく長く見えちゃうので、そういうのは履かないようにしています。それから、パンツの丈を詰めるときには、単純に丈を詰めたのではシルエットのバランスが崩れちゃいます。裾幅もほんの少し詰めると、もとのきれいなラインが出るんです。
――サイズが、そんなに大事とは思いませんでした。着こなしというのは、どう身につけたらいいのでしょう。
林 やっぱり、何をどう着るのか、頭を使って考えないとね。朝、そこらへんにあるものを何も考えずに着ておしゃれ、という人はそんなにいません。私も、毎日、次の日に着るものをちゃんと考えてから寝ますよ。
――毎日、ですか?
林 1日5分でいいんです。お天気や予定を踏まえて、明日、何をどうまとうかということを考えてみる。ベルト1本、イヤリング1つでも、何をポイントにしようとかね。同じセーターでも、パールのピアスをしているのと、ターコイズのネックレスをしているときでは、雰囲気が全然違いますからね。
――1日5分ならできそうな気がします。
林 そうでしょ。ほんの少しの時間でも、服を選ぶことが習慣になれば、経験が蓄積されていく。センスって、生まれつきのものじゃない。そんなちょこっとの積み重ねで、磨かれていくものなんだと思います。
「いうても服。失敗しても取り返しつきますから(笑)」
――何を着てもサマにならないと、あきらめなくていいんですね。
林 考えることをあきらめたら、だめです。これは、服だけでなく何にでも言えることですけどね。たとえば、いまは、安く暮らそうと思えばどうにでもなります。スプーンでもお皿でもバスタオルでも石鹸でも、100均からハイブランドまで何でもそろっていますから。
安いのがだめと言っているわけではないんです。でも、同じ選ぶのであれば、こっちのほうがいい、という基準が本当は誰にも必ずあるはず。そういう一つひとつの自分の中のこだわりを大切にして、モノを選びたい。たいそうなことを構えてしなくても、それだけで、ちょっと気分がアガると思いませんか?
――たしかに! 最後に、「おしゃれが苦手」と悩んでいる人に、エールをお願いします。
林 いろいろ言ったけれど、いうても服着るってだけのことですからね。みんな生まれた時からやっている。そんなおおげさなものじゃない。
とにかく、自分で体感することが一番です。いっぱい知識をもっている人はいるけれど、知識の量にはあまり意味がない。情報や値段に左右されるのではなく、何が似合って、何が似合わないのかを、いろいろやって自分で判断したらいいと思うんですよね。
服選びって、つきつめていけば、自分の人となりや生き方にもつながっていくような大事なことだけど、やっぱり楽しむことが一番。人生まで失敗するわけじゃないから、楽しんで挑戦していってくださいって、言いたいですね。