はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

食と暮らし、持続可能な社会を考える、
生協パルシステムの情報メディア

のこり染ワークショップに参加した子どもたちが自分で染めたハンカチを持ってポーズとる様子

玉ねぎの皮、コーヒーの出し殻で布を染める? 発見が連続する「のこり染」は、夏休みの自由研究にぴったり!

  • 暮らしと社会

野菜の皮や搾りかすなど、ふだんは捨ててしまう「のこり物」を使って染色する「のこり染」。やさしく自然な色合いと、身近な材料でできる驚きが、人気を集めている。ワークショップを通じて「のこり染」の魅力を伝えている艶金化学繊維(株)の代表・墨勇志さんに、子どもと一緒にできる「のこり染」のやり方を教わった。家庭でも簡単にできるので、夏休みの自由研究にもおすすめだ。

「のこり」でハンカチを染めてみよう!

 「“のこり染”を体験してみませんか?」という編集部の呼びかけに答えて集まったのは、7歳から10歳の子どもたち4人とそのお母さんたち。夏休みの自由研究のテーマにもぴったりなワークショップと聞き、皆ワクワクしている様子だ。

 「今日は、料理をしたときに出る玉ねぎの皮、パセリの搾りかす、コーヒーの出し殻を使ってハンカチを染めていきます」

 先生は艶金化学繊維(株)の代表で、のこり染の達人、墨勇志さんだ。

「のこり染」について子どもたちに笑顔で説明する艶金化学繊維(株)の墨勇志さん

艶金化学繊維(株)の代表・墨勇志さん

 「皆さんが着ている洋服の布も、最初はみんな真っ白です。どういうふうに色をつけているか知っていますか? 今日は“のこり染”を体験しながら、野菜や果物など、身近にある物で色がつくことを知って帰ってください」

 まずは玉ねぎの皮、パセリの搾りかす、コーヒーの出し殻をそれぞれネットに入れて煮出すことから。コーヒーの出し殻はドリップしたフィルターごとでOK。濃いめに煮出すと濃く染まるので、少なめのお湯で30分以上時間をかけて煮出す。この煮汁が、ハンカチを染める「染料」になる。

玉ねぎの皮をネットに入れて鍋で煮出している様子

玉ねぎの皮など「のこり」をネットに入れて煮出して染料を作る

 材料をコトコトとなべで煮ている間、子どもたちにはハンカチに豆乳で絵をかいてもらうことに。野菜や果物、草花から取った染料は、たんぱく質が多いほどよく染まるという性質がある。豆乳で絵をかいた部分は濃く染まるので、染料につけたときに絵が浮かび上がってくるのだ。

 真剣に絵をかき始める子どもたち。大胆に線をかいていく子、慎重に隅のほうに小さくかいている子。かき方も性格によってさまざまで、「ぐちゃぐちゃになっちゃった!」と言いながらもみんな楽しそうだ。「もう一枚かきたい!」と2枚かく子も。かき終えたら絵の部分をドライヤーで乾かせば、絵付けは完了だ。

子どもがハンカチに豆乳で絵を描いている様子

みんな真剣に絵をかく

一つの物を長く大切に使うことを伝えたい

 「KURAKIN(クラキン)」というブランドでさまざまな「のこり染」の商品を生み出している艶金化学繊維(株)は、繊維の染色加工メーカーで、創業120年を数える。「のこり染」を始めたのは今から10年ほど前。きっかけは、「布地を染める染色がまったくエコではないことでした」と墨さんは話す。

 「染色では大量の水とエネルギーを使い、二酸化炭素を多く排出する。環境に負荷を与えてしまう仕事をしているからこそ、大量生産するのではなく、一つの物を長く大切に使うことを次の世代に伝えていきたい。何かエコな取り組みができないかと思い、本当は捨ててしまうような物で染める“のこり染”を考えたんです」

 工場がある岐阜県でも、今回のような「のこり染」の親子ワークショップや、工場見学などを積極的に行っている。

 「最近は、アパレルの生産工程がほとんど海外に移ってしまったので、子どもたちだけでなく、お父さん、お母さん世代もこうして布に色がついていく過程を見たことがない人が多いんです。実際に体験してもらったり、見てもらったりすることで染色を身近に感じてもらえたらと思っています」

染料を煮出す鍋をのぞく親子と墨さん

「のこり染」の親子ワークショップは、子どもだけでなく親にも発見がある内容

パッと色が変わり、子どもたちもびっくり!

 墨さんが話し終えると、ちょうど煮出しも完了。染料の完成だ。玉ねぎは黄金色、パセリは淡い緑色、コーヒーは茶色に。子どもたちは好きな色を選び、なべにハンカチを入れて染めていく。

 おもむろに白い粉を取り出した墨さん。「この白い粉を6g入れると、染料につけたハンカチに変化が起きるよ」との言葉に、「何が起こるの〜?」と子どもたち。ワクワクが止まらない。

ミョウバンをはかりで6gずつ計る子どもたち

慎重に6gずつ量る

 白い粉の正体は「みょうばん」。漬物など食品にも使われる物で、染め物では染料を定着させる「媒染剤」として使われる。

 量ったみょうばんをお湯で溶かしてなべに入れると、玉ねぎの皮で染めたハンカチが、茶色から鮮やかな黄金色に。「色が変わった!」と子どもたちは大喜び。3つのなべそれぞれで、驚きの声が上がった。

ミョウバンを入れる前と後の鍋の中の比較

左:みょうばんを入れる前、右:みょうばんを入れた後

 「今日は玉ねぎとパセリ、コーヒーでしたが、ほかにもいろいろな食品で染めることができます。例えば、あんこに使われている小豆。こしあんを作るときに残った皮を煮出して染めると、薄い紫になります。あとは栗や、柿の皮からも色は出せます。身近なものがどんな色になるか、ちょっと気にしてみてください」

 「じゃあトマトはどんな色になるんだろう?」「なすはやっぱり紫になる?」子どもたちの興味は早くも会場を離れ、さまざまな食材へ。こうしていろいろな素材で仮説を立て、実験で確かめる楽しさを身近な食材でできるのも「のこり染」の魅力だ。

 今回は木綿のハンカチと一緒に、化学繊維の布も染めてみた。一見染まっているようだが、水ですすいで絞ると……。「ほとんど落ちちゃいます。何でだと思いますか? ぜひ調べてみてください」。さすがは墨先生、宿題も忘れない。

「のこり染」で染まらなかった化学繊維を子どもたちに見せている様子

墨さんが持っている小さな布は化学繊維のもの。ほとんど染まらない

 そろそろ最後の工程へ。ハンカチを水で洗い、余分な染料を落としたら、ドライヤーで乾燥。最後にアイロンをかけて完成だ。

染め終わったハンカチを眺める墨さんと子どもたち

玉ねぎで染めたハンカチはきれいな黄金色に。豆乳でかいた絵もくっきり

 感想を聞いてみると、「のこり染を初めてやってみて楽しかった」「玉ねぎの色が黄金色に変わるのにびっくりしました」と、目を輝かせて話してくれた。

 墨さんからの「自分で染めたハンカチですから、大切に使ってください。のこり染は、おうちの食べ物の捨ててしまう部分やなべがあれば簡単にできるので、ぜひやってみてください」というあいさつで、ワークショップは終了した。

 自分で作ると、過程が分かり、愛着もわく。物を大切にする心を学びながら、夏休みの自由研究ができてしまう「のこり染」。ぜひ親子で挑戦してみてはいかがだろう。

取材協力=艶金化学繊維(株)、(株)うさぎ商店 取材・文=石本真樹 写真=疋田千里 構成=編集部