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食べ残しゼロ運動5日間チャレンジ中の、明治大学・所ゼミの学生たち

食べ残しゼロ運動5日間チャレンジ中の学生たち(写真提供=明治大学商学部・所ゼミ)

大学生が食品ロス削減「食べ残しゼロ運動5日間チャレンジ」に挑戦して見えたこと、見せたこと

  • 食と農

10月は食品ロス削減月間。生協パルシステムでは、「我が家の食品ロス削減アクション」として2つの運動を展開した。「みんなの食べきりテク」では、家事と暮らしの研究家・中山あいこさんが食べ残し削減テクニックを紹介するオンラインイベントを開催。「食べ残しゼロ運動」では、組合員が5日以上食卓から食べ残しを出さないようチャレンジし、明治大学商学部、所康弘教授のゼミから2、3年生32人も参加した。学生たちは食べ残しをどう考え、削減に向けた活動をしたのだろうか。

食品ロスは世界規模の社会課題

 食べられるのに廃棄される食べ物を「食品ロス」という。食品ロスは、SDGsの開発目標12「つくる責任、つかう責任」に関連するとされる。捨てられる現実がある一方、世界規模で俯観すれば人口は増え続けていくため、食糧需要は増し続けている。あらゆるシーンで、より無駄なく食べる方法の確立が求められているのが現代だ。

 その食品ロスの発生源は事業者と家庭に二分される。そのうち家庭から出る食品ロスの4割は食べ残しなのだという。

 こうした社会課題を研究する明治大学の学生が、研究の一環でパルシステムを訪ねたのは今年の春のこと。食品ロスについて、産直産地の声を聞くなどの交流を重ねてきた。

パルシステムの商品を説明する写真

「超えトーク」オンラインイベントのパネルより(写真=編集部)

大学生が感じる食品ロス

 日ごろからSDGsや環境問題といった言葉を身近に感じてきた大学生は、食べ残しという問題に対し、どのような肌感覚を持っているのか?「食べ残しゼロ運動5日間チャレンジ」に実際に参加した学生のうち、4名に話を聞いた。

――これまでの生活の中で、食品ロスについて考える機会はありましたか?

海老原優子さん 私は、6人家族で両親が共働きの家庭で育ち、今も実家暮らしです。ふだんは母が食事を作ってくれていて、「残さず食べなさい」と言われて育ちました。基本的に食事は家族内で食べきれるので、食品ロスを意識したことがなかったです。

オンラインでインタビューに答える海老原優子さん

海老原優子さん(写真=編集部)

久保田晴香さん 私も同じです。祖父母との二世帯住宅で暮らしていますが、家で食品ロスはほぼありません。洗い物は私がしているので、食べ残すと自分の負担が増えるということもあって(笑)、食べ残しが出ないようにという意識は、前からありました。

吉本悠希さん 大学に入ってから一人暮らしを始めて、今は週1〜2日は自炊しています。使いきれない野菜や卵に苦慮するときもあるのですが、何とか使いきっています。いちばん食品ロスを感じるのは、焼き肉店でのアルバイトのとき。大人数でお酒も入り、お帰りになったあとのテーブルにはけっこうな食べ残しが出ることがあり、見ると残念な気持ちになります。

中條扇之介さん 私は、部活の関係で中学生からずっと寮生活です。大学では部活の仲間40人くらいと生活を共にしています。食べる量が多いので大量に作る分、どうしても食べきれないときも正直ありましたね。食品ロスといわれてパッと思い浮かぶのは、部活の遠征で海外に行ったときのこと。海外の選手のテーブルと見比べると、日本人には、「食べ残しはよくない」っていうマインドがあるんだな、と感じます。

――食べ残しゼロ運動を実際にやってみた感想を教えてください。

海老原さん 改めて母を観察すると、たくさんの工夫をしていることに驚きました。レタスのしんに切り込みを入れて水につけ長く鮮度を保つ、といった保存の方法。傷みやすい食べ物はいったん火を通す、といった調理のしかた。母のありがたみ、そして「残さず食べなさい」の意味がやっと分かった気がしました。

吉本さん 改めて、料理って難しい、食材を使いきるって難しいと感じたのが率直な感想です。お総菜のほうが、一人分だと時間も手間もかからないかもしれないのですが、容器のゴミが出るし…。食べることが好きなので、おいしいできたての料理を食べたい気持ちもある。だからもっと料理を知りたくなりました。

インタビューに答える吉本悠希さん

吉本悠希さん(写真=編集部)

久保田さん チャレンジの期間中に、近所のかたから柿を頂いたんです。食べきれない分をおすそ分けするのも、食べ残しゼロ運動の一環だ!と思って、うちにたくさんあった玉こんにゃくと交換しました。暮らしを分けた二世帯住宅なので、ふだんは祖父母と食事も別々なのですが、食べきれない分をシェアするなど、改めて、分かち合うっていいなと思いました。

久保田晴香さん

久保田晴香さん(写真=編集部)

――チャレンジの前後で、変化したことはありますか?

海老原さん 自分の食べる量を気にするようになり、大皿から取りすぎることや、食べすぎることがなくなりました。自分の食べる量が分からないと、調整することもできないんだなって改めて気づきました。

吉本さん 周りに意識が向くようになりましたね。友人と集まって鍋などをするときに、そぶりや発言から、あんまり料理はしないのかな? なんていうふうに。なので料理のしかたやレパートリー、僕が母に聞いた食べきる方法なんかもシェアし合って、周りでも食べ残しがなくなるように、という意識が芽生えました。

中條さん 私自身はそんなに変わっていないような気がしますが、寮の先輩が余っている食材をSNSで共有し始めてくれて、食材のロスがほとんどなくなりました。このチャレンジに関わった先輩ではないのですが、周りへの影響というのが少しはあったのかな、と感じています。

中條扇之介さん

中條扇之介さん(写真=編集部)

――今後の生活の中で、何か実践していきたいことはありますか?

吉本さん まずは、関心を持ち続けること。例えばアルバイト先で提供する量を考え直してもらえないか働きかけてみたり、SNSで発信してみたり。自分の立場でできることを続けていきたいです。

久保田さん ほかのゼミの子たちにも協力してもらい、ごちそうさまの写真を撮ってSNSに上げる活動を始めています。みんな思っていた以上に楽しんで参加してくれて、まず一声かけることで変わることもあるんだな、と実感できました。

中條さん 私も同じ活動に参加しています。自分たちにできることはある、小さいけれど変えていくことはできる、と感じられたことが、何よりの収穫でした。

海老原さん 私たちにもできることはあるし、今の私たちだからこそできることがある。そんな年齢になってきているんだな、と実感しています。

「食べ残し」の問題に、継続的に関わり、意識を持ち続けたいと語る大学生4人の集合写真

「食べ残し」の問題に、継続的に関わり、意識を持ち続けたいと語る大学生たち(写真=編集部)

見せられた、まっすぐな当事者意識

 大学生とは、法的には大人でも子供の面も持つ。キャンパスでの学生中心の世界と、アルバイトなどを通じた大人中心の社会等で、幅広い世代と恒常的に交流する。改めて考えてみれば、極めて発見の多い環境に暮らしているといえるのではないだろうか。

 取材を通じて見えてきたのは、古くから続く「もったいない」の意識が今日でも家庭で息づいており、食べ残しへの抵抗意識があることだ。そこにSDGsの社会課題の意識も加わり、むしろほかの世代以上に食品ロスに対する感度は高いようにも感じられた。

 ある学生はこう言った。「勢いで食べ物を大量に注文し、残して帰る大人はカッコ悪い」と。またある学生は「アルバイト先で注文を取る時、食べきれないのではないか?と思ったときは、量の説明をしている」と話してくれた。そのまっすぐな当事者意識を、見習いたい。

取材協力=明治大学商学部・所ゼミ 取材・文=千葉智史 写真=編集部ほか 構成=編集部