モヤモヤしながら捨てている生ごみ
ふだん、どれくらいの生ごみを捨てているだろうか。統計によると、国内での食品ロスの発生量は年間約523万トン。うち、家庭から発生しているのが約244万トン……(※1)。一人当たり、1日お茶わん1杯のごはんを捨てているのと同量の食品ロスが発生しているそうだ。
食べ残しや調理の際に出た食品くずは、当然ながら可燃ごみとして処理され、その運搬や焼却にもCO₂が発生する。しかも生ごみは、重量の80~90%が水分。水を燃やしているようなものだから、エネルギーをかなり無駄遣いしているということだ。
環境にとって何ひとついいことがないうえ、捨てる本人も気持ちがモヤモヤする。食べ残しをしないように気をつけても、じゃがいもの芽は取りたいし、バナナやスイカの皮はなかなか食べられない……。
※1:農林水産省 令和3年度推計値。
巷でうわさの「コンポスト」
そんななか、最近「コンポスト」を始める人が増えていると聞いた。直訳すると「堆肥(compost)」。家庭で出る野菜くずなどの生ごみを、捨てずに「堆肥化」する仕組みのことだ。
生ごみを捨てずに済むなんて、なんてすばらしいんだろう。でも、本当にわたしの家でもできるんだろうか。実際どれくらい手間がかかるの? 堆肥ができたらどうすればいい? 始めてみたいと思うけど、わからないこと、気になることが次々に……。
それなら、実際にコンポストを使っている人に話を聞きに行ってみよう!思い立った編集部は、「うち、やってますよ!」というとある組合員のお宅におじゃますることにした。そんなわけで今回は、コンポストがある暮らしのリアルな声をレポートしてみることにする。
ポイントは「おしゃれ」「においが少ない」
やってきたのは千葉県にあるお宅。出迎えてくれたのは生協パルシステムの組合員・中村さんご一家だ。今のコンポストを設置して、もうすぐ1年がたつところだという。
玄関に入ると、さっそくコンポストが登場。高さは60cmくらいと決して小さめではないけれど、黒くてすっきりしたフォルム。
先にお伝えしておくと……じつは、中村さんのおうちにあるのは「ミミズコンポスト」だ。
ミミズ!!!
土に混ぜ込むだけがコンポストかと思っていたら、そういうタイプもあると今回初めて知る。
「コンポストは、生ごみを土に入れて微生物の働きで分解・発酵させるタイプのものが多いんですが、これはミミズに食べて分解してもらう仕組みです。意外かもしれないですが、発酵とは違うのでいちばんにおいが出ないんですよ」
教えてくださるのは中村彰宏(あきひろ)さん。これまでも自宅や職場で、いろんなコンポストを試してきたそう。今の家でもやろうか、となったとき、妻の真紀さんからの「見た目がおしゃれでにおいが少ないもの」という要望もあり、このミミズコンポストにたどり着いたのだそうだ。
たしかに、全くといっていいほどにおいがない。堆肥というと、ツンとした独特のにおいがつきものと思いきや、玄関にあってもこれがコンポストだとは、ましてやミミズのおうちだとは、言われなければ絶対に気づかない。
はじめましてのミミズたち
上ぶたをはずすと、濃い色の土が敷き詰めてあり、まだ食べきっていない野菜くずがちらほら。
スコップでざくりと土をすくうと、細くて小さいミミズたちがたくさん顔を出した。たまに道端で見かけてワッとなる太くて長いミミズよりもだいぶ小柄。
「釣り具屋さんでもエサとして売っている『シマミミズ』という種類で、太いやつとはまた別種類です。繁殖力が高くて、ミミズコンポストに向いている。ちぎった新聞紙やダンボールなんかも食べるんですよ」
小さなからだで、そんなにも食欲おうせいだったとは。そして食べた分だけ栄養満点の堆肥を作り出すなんて、ちょっと尊敬の気持ちが芽生えてくる。そういえば、こんなにミミズをまじまじと見つめるのは人生で初めてかもしれない。
「でも、食べるのに時間がかかるものもあるので、それは分別しています。卵の殻みたいな硬いものとか、玉ねぎの皮みたいな繊維質のものとか。ミミズにあげられないものは、土を入れた小さな木箱を外に置いているんですが、そこに入れています。2種類のコンポストを併用という感じですね」
ミミズといっしょに暮らす楽しさ
料理のときに出た野菜くずなどを、ミミズ用とそうでないものに分け、さらに食べやすいように簡単にカットしているとのこと。
この日も、お昼ごはんのときに出た人参の皮をミミズたちに。かるーく混ぜ込むと、数日後にはあげたものをすっかり平らげてくれるそうだ。「ペット感覚です。おもしろいですよ」と彰宏さんは笑う。
一方、妻の真紀さんは、
「分けてカットするまでは私や子どもたちもやるんですけど、ミミズにあげるのは夫の仕事です(笑)。たまに脱走して、玄関のところで干からびていて『わ~っ』となるときもありますよ」
ミミズがちょこっと苦手な真紀さんは、食材の準備までを担当。バトンタッチして、彰宏さんがミミズのお世話を担当。家の中では、コンポストをめぐる小さなリレーが日々行われている。
「お世話といっても、1日ほんの1分くらい。基本的にはほったらかせるので楽ですよ」(彰宏さん)と言いつつも、ミミズは居心地が悪いと脱走が増えるそうで、暑すぎないか、湿度が高すぎないかといったところは気をつけているとのこと。
生ごみを食べてもらう代わりに居心地をよくする。生きものとのWIN-WINな関係が家の中でゆるりと築かれているのが、何だかほほえましい。
家の中で資源が循環
このコンポストは全部で3層になっており、いちばん上がミミズの食事を入れるところ、真ん中がミミズのすみか、いちばん下がミミズのおしっこである液肥がたまる場所になっている。層と層の間には小さな穴が開いていて、ミミズは自由に行き来ができる構造。
真ん中の層を見せてもらうと、中には見るからにふかふかの土が。つまりはミミズのうんちであり、堆肥だ。
「本当にいい堆肥ができるので、使いやすいですよ。液肥も水で薄めて使います」
そう言って、彰宏さんは堆肥を持って子どもたちと家の庭へ。庭の小さな畑には、近所の農家さんにもらったといういちごの苗が植わっていた。
そこにミミズの堆肥を置き、スコップで軽くならす。液肥も水で薄めてじょうろでまわしかける。
家庭菜園の作物を、自分の家で作った堆肥で育てられるなんて、安心感がすごい。いつかいちごの実がなって、そのヘタはきっとまたミミズに食べてもらうはず。コンポストはおうちの中に資源循環を生み出してくれる、人にも環境にもうれしい仕組みなのだ。
生ごみを「捨てる」という考えがなかった
お話を聞くと、中村さんご夫妻は結婚される前から谷津田(※2)の保全活動などに参加されていたのだそう。自然を大事にしたいという思いをずっとお持ちだったお二人が、環境に配慮する方法のひとつとして「コンポスト」を選んだ理由は何だったのだろう。
「もともと、生ごみを『捨てる』という考えがなかったんですよね。始める前は、庭に穴を掘って埋めていたんですが、けっこう大変で。それに、埋めておしまいというか、そのあと何にもならないことが気になっていました。これまでコンポストは何度かやったことがあって、堆肥化してうまく使えることを知ってはいたので、家でもできたらいいなと」
そう話す彰宏さんに、真紀さんもうなずく。
「生ごみは水分量が多いと聞きますし、燃やすためのエネルギーがもったいないと感じていました。それにうちは田舎なので、とうもろこしとかすいかとか、野菜を丸ごともらうことが多くて、どうしても生ごみが多くなっちゃうんですよ。それで、自治体の助成金とかも調べて、せっかくならおしゃれなのにして、と夫にお願いして(笑)」
「生ごみは捨てないもの」。この気持ちがあるかどうかで、暮らし方が変わってくる。日ごろ水分でずっしりとしたごみ袋を出している自分を思わず省みる……。
※2:低い丘陵地の谷間に作られた水田。年々減少するなか、豊かな生態系をはぐくむ場所でもあることから、各地で保全活動が行われている。
毎回のごみ出しが本当に軽い!
そして、さまざまな種類があるコンポストのなかでも「ミミズ」をチョイスした中村家。彰宏さんは「生きものが分解してくれるというのがすごく魅力的」と話す。(おうちで鶏やヤギを飼うことも検討しているとか!)
人間が食べられなかった分をミミズが食べてくれるわけなので、ミミズが苦手なものを除き、家庭内で「食べ残し」がほぼ出ないということになる。
「生ごみ、ほとんど出ないですよ! コーヒーのかすなんかは捨てることもありますが、毎回のごみ出しが本当に軽いです。出す頻度も少ないですし。紙類は資源回収に出しているので、ほぼプラスチックごみだけという感じです」(真紀さん)
コツは、無理なく楽しく
ごみへのストレスが激減! 環境にやさしく、という目的はもちろんありつつも、自分の暮らしにとってもいいことがあるとやっぱりうれしい。では、コンポストを継続するコツは?
「無理をせず楽しむ、ということじゃないですかね。できた堆肥にしても、全部使おうとすると大変ですし、自分一人じゃなく周りの人とも共有していける仕組みがもっとできるといいなと思います。そうやって、同じ気持ちの仲間が増えていったらうれしい」と真紀さん。
彰宏さんもこう続ける。
「庭やベランダの有無、出る生ごみの量など家の環境はそれぞれだと思うので、おうちに合ったやり方を見つけることですかね。環境のためとはいえ、家族の負担が増えたら意味がないですから。
ミミズコンポストは……ミミズが苦手じゃない人におすすめです(笑)」
子どもたちに、解決策を見つけられる人になってほしい
中村家では、「環境にいいことをやらなきゃ」ではなく、コンポストのある暮らしを純粋に楽しんでいるのがとても伝わってきた。
彰宏さん自身も「楽しいです」とにこやかに言いきる。そして無理のない、自然体な取り組みの奥には、お子さんたちに対する思いもあった。
「子どもたちも料理が好きなんですが、そのときに『これはミミズさんが食べる用』と言いながら分けたり、いっしょにごみ出しに行くときに『うちのごみ袋、すごく軽いでしょ』と話したりしています。
コンポストに限らず、ごみ拾いに行ったり、山の中で遊んだり、『学校の給食のストローがなくなったよ』『パルシステムのリユースびんってね……』という会話をしたり。とくに改まった話をしているわけではないですが、何か受け取ってくれていたらいいですね。
環境問題は、本当に申し訳ないけれど今の大人たちの代で解決しきれることではないので……。子どもたちには、自分なりに何か解決策を見つけられる人になってほしいなと思っています」(真紀さん)
「コンポストを通じて、実際にごみの量が減ったというのもそうだし、自分たちの意識も『できるだけ量を減らそう』と気をつけるようになりました。
子どもたちには、簡単なことですが、食べ残ししないようにと伝えています。どうしても残してしまったときは僕が食べていますが(笑)、『生ごみ、ごみ箱に捨てちゃうの?』みたいな感覚を自然に培ってもらえたらいちばんいいなと思いますね」(彰宏さん)
「食品ロス削減」「環境問題」というとついつい堅苦しく考えてしまいがちだけれど、自分や家族が楽しめさえすれば、それが生活にするっとなじみ、毎日歯磨きをするのと同じように「当たり前のこと」になるのだと感じた。誰かが楽しそうだと、まねしたくなる。やってみたくなる。そんなふうに「自分にも環境にもいいこと」が広がっていったらすてきだ。
ミミズとひとつ屋根の下で暮らすなんて考えもしなかったけれど(そして苦手ではあるのだけれど)、「ちょっといいな」と思ってしまったのも事実。さて、自分が楽しんでできること、改めて考えてみることにしよう。
自治体によって、コンポスト購入時の助成金(生ごみ処理機購入助成制度)や、できた堆肥の回収を行っているところもあるので、「やってみようかな」という方はぜひチェックを!
ミミズは苦手、置き場所がないという方も、コンパクトなコンポストバッグやダンボールを使った手軽なものなどもあるので、おうちに合ったコンポストを見つけてみて。