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イラスト= naoya

家事をシェアすれば、家族も社会も幸せに? 家事シェア研究家・三木智有さんに聞く、家族をチーム化するコツ

  • 暮らしと社会

日本で唯一の家事シェア研究家として知られる三木智有(ともあり)さん。夫婦間の考え方や感覚のズレを解消するカギは「家事」にあると考え、「家事シェア」を広める活動を推進している。活動に取り組み始めてから今年で14年。多くの家族の悩みに向き合ってきた三木さんが語る、家族の関係から働き方までを円滑にする上手なシェアの方法とは?

稼いでいるから家事はやらなくていい?

――NPO法人「tadaima!(ただいま)」を立ち上げ、「家族でチーム化して家事をしよう」をテーマに活動をされていますが、そもそも家事シェア研究家になったきっかけは何だったのでしょうか?

三木智有(以下、三木) この仕事を始めて10年以上たちましたが、その前はインテリアコーディネーターの仕事をしていました。住まいについてクライアントの夫婦と話をしていると、「家が居心地悪い」って感じている男性がとても多いことに気づいたんです。

 居心地の悪さの原因って何なんだろうと不思議に思って、100人の夫婦にヒアリングをしました。すると、家のインテリアうんぬんの問題ではなくて、男性側の「仕事をして稼いでいるから、家事はやってもらって当然」という意識がその一因だってことが分かってきたんです。

 家庭に限らず、会社でもボランティアでも、何もやらない人は居場所がないですよね。居心地が悪くなる。家事をすることは、家族の一員として生活の基盤を作るうえでの必要な役割なんです。家族みんながチームとなって家事をして、居心地のいい家を作るお手伝いをしたい。そう思って、「家事シェア」の活動を始めました。

インタビューに笑顔で答える三木智有さん

「家事シェア」という言葉の生みの親でもある三木智有さん(写真=平野愛)

「男性が家事をする意識がなかった」僕が変わるまで

――「家事分担」というと、女性側の負担感が強いですけど、「家事シェア」だと男性も含めてお互いに家事を共有して協力し合うという、家族としての一体感があります。

三木 そうですね。夫に家事を手伝わせるコツといったアドバイスは当時からたくさんありました。ただ、その話を聞いた男性は、あまりいい気持ちになりませんよね。男性はそう言われないためにも、家事が家族の役割だという意識をちゃんと持つ必要があります。

 実は僕自身、結婚するまでは、男性が家事をやるっていう意識があんまりなかったんです。父親がまったく家事をしない家庭で育つと、そうなりますね。

――どんなきっかけで、家事に関心・意識を持つようになったんですか?

三木 妻と結婚する前の同棲をきっかけに、家事に対して向き合うようになったんです。当時、僕はインテリアコーディネーターとしてインテリアにすごいこだわりを持っていたんですが、僕の家に大量に入ってきた妻の荷物の中で、どうしても許せないものがあった。それがショッキングピンクの洗濯カゴ。それで、妻にほかの色に変えてほしいと言ったら、「洗濯もしないあなたが、私の洗濯カゴに口出しする?」って一蹴されてしまって (笑)。

 妻は家事が苦手と宣言していたので、「洗濯も料理も掃除も全部するから、口出ししたい」と言って、それから全部やるようになって、見方が変わっていきました。

 家事シェアに対する考え方も結婚生活の影響です。当時、起業したいと考えていた僕に、妻が「収入は私の稼ぎがあるから大丈夫だよ。全力で新しいことを目指して」と背中を押してくれて、一歩踏み出せたんですね。その2カ月後に妻が起業して、ふたりして収入ゼロになりましたけど(笑)。

 家のことも、仕事も、収入もふたりで力を合わせていったからこそ、シェアの大切さが実感できたんだと思います。

2024年4月に、パルシステムでもオンラインイベント「家族みんながごきげんでいるために―家事シェアで新生活を楽しもう―」の配信風景

2024年4月に、パルシステムではオンライントークイベント「家族みんながごきげんでいるために―家事シェアで新生活を楽しもう―」を開催。参加者からは家事についての悩みの声が多く寄せられた(写真=平野愛)

家事は、夫婦で話し合うところから

――家事シェアがうまくいくポイントは話し合いでしょうか?

三木 そうですね。でも、いざ話そう!と思っても家事や育児についての話し合いを煩わしく感じて逃げてしまう夫もいると思うんです。相手が逃げた場合の対応策もあるので、まずはわが家の家事シェア・分担のチームスタイルを見極めることがポイントになります。

わが家の家事スタイルを自己診断

――自分たちの家事スタイルを判断する方法を教えてください。

三木 家事運用スタイルは、4つのタイプのどれかに当てはまると思います。まずはチャートでどのタイプに当てはまるか診断してみてください。

わが家の家事スタイルを判定する診断チャート図

わが家の家事スタイルを判定する診断チャート図(NPO法人tadaima!提供)

①シュフ型:家事をコントロールするシュフが家族に指示を出しながら家事をする。シュフとカタカナ表記なのは、主夫も増えてきているため。

②担当型:ゴミ捨て、食器洗いなど担当を決めて家事を分担するスタイル。担当している家事に関してはお互い干渉しない。

③ハイブリッド型:担当してもらっている家事以外は、自分が指示を出す。シュフ型と担当型のいいとこ取りの中級者向け。

④自立型:担当はとくに決めずに気づいたほうが実行する。夫婦の話し合いがうまくできている上級者向け。

 自立型が最上位というわけではなく、スタイルにランクはありません。また、家族のライフステージによっても、シュフ型になったり、担当型になったりとタイプが変わることもあります。家族の状況に合わせて、自分たちのベストなやり方を見つけてみてください。

パルシステムのオンラインイベント「家族みんながごきげんでいるために―家事シェアで新生活を楽しもう―」で、参加者の質問に答える三木さん

オンライントークイベントでも、チャートを使って参加者の家事スタイルを診断。タイプ別の質問が相次いだ(写真=平野愛)

タイプ別の攻略方法

――なるほど。家事スタイルが分かったら、次に何をすれば家事がうまく回りますか?

三木 家事運用のコツはタイプによって違います。

 シュフ型でよくあるケースは、指示がうまくいかないパターン。たとえば、テレビを見てのんびりしている暇そうな夫に、「掃除をお願い」と頼むと、夫は「今忙しいんだけど」と拒否する。指示した側は当然ムッとするし、一方で指示された側は「今見たい番組があるのに」と不機嫌になる。このやり取りで、お互いにストレスがたまるわけです。

 このストレスをなくすポイントは、「何をするか」ではなく、「いつやるか」を事前に決めること。たとえば、「朝食後に、掃除と洗濯をするから一緒によろしくね」と前もって一言声をかけておく。すると、心積もりができて、指示する側は声をかけやすく、指示される側も素直に聞き入れやすくなります。

シュフ型のチーム図

シュフ型の家事シェアのスタイル図(NPO法人tadaima!提供)

――夫婦でやるべき家事が決まっている担当型の場合はいかがでしょうか?

三木 基本的に担当型は、相手の家事についてはノータッチがベスト。「何でやらないの」、「いつやるの」、「まだやらないの」は担当者が主体性を失ってしまうので、禁句です。ただ、言わないといつまでもやってくれないこともありますよね。

 その場合の解決策は、「いつまで」にやるか、締め切りを決めること。締め切りを過ぎても始めていない場合は、約束の時間が過ぎていることをやんわりと伝えます。すると、約束した手前、相手もスムーズに家事をしてくれますよ。

担当型のチーム図

担当型の家事シェアのスタイル図(NPO法人tadaima!提供)

――シュフ型と担当型のミックスタイプであるハイブリッド型では、どんなところに気をつければよいでしょうか?

三木 ハイブリッド型はシュフ型と担当型のいいとこ取りなんですけど、悪いとこ取りになるケースもよく見かけます。担当以外の家事や育児に関して、シュフ型と同じで「いつやるか」を決めておくことがとっても大事。

 これを決めておかないと、「俺、担当している家事以外やらなくていいと思っていた」と拒否されることになります。

ハイブリッド型のチーム図

ハイブリッド型の家事シェアのスタイル図(NPO法人tadaima!提供)

――理想形ともいえる自立型でも何か問題が起こることはあるのでしょうか?

三木 自立型でもうまくいかないことはもちろんあります。「自分のほうが気づいてやっている家事が多い」と片方が感じた場合、その偏りに不満が生まれます。すると、気づいたほうが負けという気持ちになって、お互い見て見ぬふりをするようになるんです。麦茶を作るのが面倒だから2㎝だけ残してみたり、排水口が汚れているのに相手が気づくのを待ってみたり……。どっちがそれに耐えられなくなるか、ガマン大会の状態になりがちです。

 これを解決するには、お互いどの段階でその家事の必要性を感じるのかというボーダーラインを決めて、わが家なりのゴールを目指すようにします。そして、もう一つ大事なのが、自分の家族に対する高い期待値を半分以下に下げること。家事シェアがぐんとしやすくなりますよ。

自立型のチーム図

自立型の家事シェアのスタイル図(NPO法人tadaima!提供)

食器洗い中、ソファでくつろぐ夫にイライラ?

――家事スタイルによっては、うまく運用していくまでに、少し時間がかかりそうですよね。

三木 実は、今すぐにできて、即効性のある、とっておきの方法があるんです。「パラレル家事」って呼んでいるんですが、簡単にいうと、「一緒に家事をやろうね」というやり方です。

 ある男性の相談事だったんですが、夕食後にその男性が晩酌しながらテレビを見ていたら、食器を洗う音がガチャガチャと大きくなってきて、「食器洗いが大変」とつぶやく妻の声も聞こえてくる。これはマズイ……と思った男性は「食洗機でも買おうか」と解決策を提案したんです。ところが、妻はめちゃめちゃキレた。でも、なぜ妻が怒ったのか、男性には分からない。

 この怒り、イライラの原因は2つあります。1つめが家事の「負担感」で、2つめが家事への「不満」です。「負担感」は、ごはんの用意や掃除が面倒という手間の部分で、この手間は、家事代行や食洗機の利用で軽減できるんです。ところが、大きな問題は「自分ばっかりが時間を調整しないといけない」、「自分が指示しないとだれもやってくれない」という不公平感にある。この「不満」をなくすために、一緒に家事をするんです。

――確かに。この不公平感、不満感が家事をめぐる言い争いの原因になりますよね。

三木 はい。ごはん担当で料理を始める僕のところに、娘がパパ遊ぼうってやってくるんですね。妻はどうしているかというと、ソファに寝っ転がりながらスマホですよ。日本唯一の家事シェア研究家でも、ムカッてきます(笑)。家事をやっている人がどういうときにイライラするのかを知っておくことがめちゃめちゃ大事なんですね。

 この不満な状態を作らないためにも、ごはんを作っていないほうがお風呂の準備をするとか、掃除をしていないほうが買い物に行くとかすればいいんです。休むのがダメって言っているわけではありません。家族の状況を見ずに自分勝手に黙って休むのがダメなんです。

押し付け合う「分担」ではなく、助け合う「シェア」の意識を持つことで、家族間の信頼関係を深めることができる(イラスト= naoya)

定年の夫が家事に参加すると、何が起きるのか?

――家事参加の必要性を語っていただいた一方で、定年を迎えた夫が家庭で居場所を作るために家事を始めると、妻に嫌がられるという話も聞きます。

三木 定年後に妻が助かるだろうと思って家事を頑張る夫に向かって、妻が「勝手なことをしないでよ」と言い放つパターンですね。夫から見れば、何で怒られるのかが分からない。妻からすれば、すでに決まった家事のやり方があるのに、いきなり「俺のやり方」を導入しようとするから、不愉快になるんですよね。

 この問題の原因は、サポートする側にエゴがあるからなんです。恥ずかしい気持ちもあると思いますが、夫は「ちょっと自分に任せてくれよ」とか「助けたい気持ちがあるんだ」と素直に妻に話すといいと思います。妻がしてきたことに対して、最大限のリスペクトを払いながら一緒に家事を協力し合う。家事シェアがうまくいっている夫婦に共通して見られるのがこのリスペクトなんです。

実は、男性も限界まで家事と育児に追われていた

――ところで、最近は男性の家事・育児に対する意識もだいぶ変わってきているように思いますが、実態はどうなのでしょうか?

三木 内閣府が公開している2021年度のデータによると、日本の一日あたりの家事・育児時間は女性が448分、男性が114分です。この数字を見る限り、女性の家事・育児時間は、フランスやイギリスなどと比べて圧倒的に長い。逆に、男性の時間は短い。ところが、仕事や通勤時間を除いた自由時間の中で男性が家事や育児に費やす時間を見ると、日本の男性の時間がいちばん長いんです。

 つまり、日本の男性は家事・育児を限界まで頑張っている、ということになるんです。驚くべき結果です。もちろん、「うちのパパはそんなことない」っていうかたもいると思うんで、個人差はありますよ(笑)。

オンライントークイベントで講演する三木さん

「家事を取り巻く問題の多くは気持ちのすれ違い。コミュニケーションで解決するしかない」とオンライントークイベントで語る三木さん(写真=平野愛)

――家事シェアが単に「家事を一緒にすること」を超えて、働き方や家族の在り方も変える力になるということを、お話を聞いて感じました。

三木 若い世代に、残業しないで帰宅して家事・育児に協力して家族で過ごす時間を大切にするという価値観が広まってきているなって、感じます。ただ、残業しないで帰宅するのは、現実的にはまだまだ難しいですよね。そのしわ寄せが女性に来ているのも、依然として課題です。

 社会はすぐに変わりません。今できることは、お互いがどのように働き方を調整して、家事・育児シェアするかを話し合うことです。

 最近の働き方改革を受けて、行政や企業からパパ向け家事・育児シェアや、育児時間の使い方に関するセミナーの要望が増えています。時代の流れは家事シェアを通じて両立生活が実現できる環境へと確実に変わってきている、そう感じています。

取材・文=中沢弘子 写真=平野愛 イラスト=naoya 構成=編集部