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“Be the Change.”「あなたこそ、世界を変える一人」―環境活動家アンニャ・ライトさん

  • 環境と平和

オーストラリア在住のシンガーソングライター・環境活動家のアンニャ・ライトさんは、二児の母でもあります。1999年に環境運動家の辻信一さんなどとともに環境=文化NGO「ナマケモノ倶楽部」を結成。日本、エクアドル、マレーシアなどで森林保護活動に取り組んできました。2015年10月、14歳になる娘のパチャさんとともに来日。「Love, Life, and Peace(愛、いのち、平和)」をテーマに、日本各地でトークライブツアーを行いました。加速するグローバリズム、脅かされる平和と自由......どこか不安と閉塞感が漂う日本でアンニャさんが伝えたかったメッセージとは。

豊かな森に生きるペナンの人々に見た”希望”

 環境活動家としてオーストラリアを拠点に、世界に向けてメッセージを発信しているアンニャさん。自らの「原点」と呼ぶのは、1989年に初めて訪れたマレーシア・サラワク州の1億8000万年という歳月をかけて育まれてきた豊かな森、そしてそこでくらす、世界最後の移動型狩猟民族と呼ばれるペナン民族との出会いです。

 当時、サラワクでは急速な開発による原生林の伐採が進み、一方で激しい反対運動が起こっていました。アンニャさんも、熱帯林保護NGOのメンバーとして同地を訪れたのです。

自然の音に包まれたサラワクの森

 「21歳だった私は、そのときまで私が世界を変えてやる、私が人々の声を届けるんだと、世界の代表になったようなつもりでいました。ところが、ペナンの人々に会って、彼らを救うためにやってきた自分こそが救われていることに気づいたのです」

 鳥の声、動物の鳴き声、樹々のさざめき……すべてが自然の音に包まれている世界。そこで営まれていたのは競争も階級もなく、すべてのものを分かち合い、自然に寄り添う持続型のくらしでした。

 「2日間森の中を歩きまわり、ひっそりと隠れるようにくらしている彼らにようやく会うことができました。やさしく握られた手の感触をいまでも忘れることができません。その頃の私は、自然破壊や戦争を繰り返す人間に絶望し、自分が人間であることを恥ずかしくさえ思っていました。人間不信に陥っていたのです。それが彼らに出会って、私たちの誰もがこんな風に生きることができるんじゃないかと思えた。ペナンの人々こそが人間に希望を与えてくれる存在なのだ、と確信したのです」とアンニャさんは回想します。

サラワクの森で出会ったペナンの人々

私たちが、「もう充分です」と声をあげれば……

 着るもの、食べるもの、住まう場所まで、すべてを与えてくれる、まさに”生活の糧”ともいえる森を危機にさらされたペナンの人々。「平和的で争いを好まない彼らも、さすがに立ち上がらざるを得ませんでした。なんと、ブルドーザーの通る道路を、からだを張って封鎖してしまったんです。いのちをかけて森を守ろうと行動するペナンの人々の”非暴力直接行動”に、私は深い衝撃を受けました」とアンニャさん。

 サラワクの森を破壊して生産される木材を消費するのは、日本をはじめとする先進国の人々。当時、ペナンの人々の状況を伝えるために初めて来日したアンニャさんは、人々があまりにも忙しすぎること、そして受け身的な態度に見えることに驚きました。

伐採された木材の多くは日本へ輸出されていた

 「日本にもすばらしい森があります。それがどんどん伐採されてコンクリートに変えられているのに、自分たちには関係ないと無自覚でいる。本当は誰もがそれぞれの土地や大地とのつながりをもっているのだから、森の危機はペナンの人々だけの問題ではないのです。森を守る活動は私たち自身のくらしを守る運動だということを伝えたいと思いました」

 アンニャさんが最初に訪れたサラワクの森はすべて伐採され、いまではパームヤシのプランテーションになってしまっているのだとか。

 「もう二度と元の山に戻ることはありません。グローバル化や経済優先のしくみは、いつでも、そうしたものと無縁に生きている人々から大切な居場所や平穏な日常を奪ってしまう。先進国の人々はなぜ、『もう充分です』と声を上げることができないのでしょうか」とアンニャさんは訴えます。

森を守ろうと非暴力直接行動を起こしたペナンの人々

意図をもって、自分の頭で考えながらくらす

 かつては「なにかを止めなくては」「反対しなくては」とアグレッシブな活動を続けていたというアンニャさん。けれど今は、オーストラリアで家族と共に過ごす”スローな生活”を大切にしていると語ります。

ツアー最終日の11月1日、インタビューに答えるアンニャさん

 「よく眠り、日の出とともに起きる。食べるものを育て、育てられないものはファーマーズマーケットなどで環境に配慮されて栽培されたものを必要な分だけ買っています。テレビは持たず、図書館でDVDを借りてくる。お金をなるべく使わないように考えています」

 子どものペースに合わせたくらしは、いつも「ゆっくり」というわけではないものの、とてもシンプルで豊か、とアンニャさん。

娘のパチャさん(中央)、息子のヤニさん(左)とともに

 「今回のツアーで訪れた長野県中川村の農業者の姿も印象的でした。動きは決してスローではなかったけれど、しっかりと地面を踏みしめて歩いていた。早く早くと先を急ぎ、一所懸命歩いて新幹線に乗って……というペースに巻き込まれて生活していると、ほとんど意図も考えもなく行動してしまいがちですが、そうではなく、しっかり意図をもって、自分で考えながら行動することが大事だと改めて思いました」

 また、ツアー中、各地で出会った子どもを連れたお母さんたちや若者たちが、皆、とてもポジティブであることにも驚いた、とアンニャさん。

 「”平和”を脅かしかねない政治的な動きを見ていて、日本のみなさんがどんなに落ち込んでいるかと心配していたのですが、逆に元気をもらいました。

ツアー先のひとつ、長野県大鹿村にて

 今私たちが抱えている問題のほとんどは、もっとたくさん、もっと利益を、もっと成長をと、従来の経済主体の価値観やしくみの上で起こったこと。ならば、そうではない別の新しいしくみを自分たちでつくっていけばいいと気づいた人たちが、”愛”をキーワードにパワフルに動き出している。そのことがわかって、とても頼もしく思いました」

 「たとえば、パルシステムのように、産直で食べ物がどこから来たのかがはっきりわかるというのはとても素晴らしいこと。作り手と直接つながり、その食べ物が育まれた大地に思いをはせることで、自分も自然の一部であると感じることが大事です」

「もし、戦争に使われるお金がすべて平和のために使われたなら……」

 これまでオーストラリアで7回選挙に出馬したというアンニャさん。「どの候補も口にしないようなことをしっかり口にして、こういう問題があるんだと人々に知らしめたかったのです。選挙に勝つことが目的ではなく、有権者に選択肢を示すことが大事」とその理由を説明しながら、「でも、もう出馬しないと思います」と語ります。

 これからの時代は、政治や既存の政党ではなく、地元に根差す「ローカルムーブメント」に力を注いでいきたい、とアンニャさん。

 「為政者の意見を上から無理強いするような政党型のしくみでは、もはや民主主義は機能しないように思います。だからこそ、地域の中で一人ひとりが参加できる民主主義をめざしていきたい。だって、そこで私たちは、くらす、食べ物を作る、子どもたちを育てる、という生きるプロセスを共有しているのですから」

 「子育ては”未来の世代”を育てる大事な仕事」と微笑むアンニャさん。新しいアルバムには、娘のパチャさんが作詞した「Be the Change」も入っています。

I am only a child,
And I know we’re all part of one family
We are all one

I am only a child,
And I know if all the war money was spent on peace
What a wonderful world it would be

私はまだ子どもだけど、
私たちが地球という大家族の一員であることを知っている。
もし、戦争に使われるお金が
すべて平和のために使われたなら、
この地球はもっと素晴らしい場所になるだろう。
(「Be the Change」より)

11月1日に日比谷公園で行われた「土と平和の祭典」で歌うパチャさん(左)とアンニャさん

 「これは、パチャが1992年にブラジルで開催された”地球サミット”でのセヴァン・スズキのスピーチからインスピレーションを得て書いた詞です。セヴァンやパチャたちが環境を守ろうと周囲を巻き込みながら活動している姿を見ていると、問題は本当はそんなに複雑ではない、シンプルに考えればいいんじゃないかと思えるんです」

 「”Be the change if you want to see in the world. “(自分の望む世界をもたらす変化に自分自身がなりなさい)」というガンジーの言葉があります。私たちの行動が問題だとわかれば、あとは簡単。私たちが行動を変えればいいのですから。世の中の常識からはずれることを恐れないで、ゆっくりでも、やり方が違っても、あきらめないで。変化を積み重ねていくことで、私たちが世界を変えることができるのです」

取材協力/ナマケモノ倶楽部 取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部