アブラヤシの断面

©WWFジャパン

もう見過ごせない森林破壊。生産者と消費者がともに取り組む「持続可能なパーム油」という挑戦

  • 環境と平和

アブラヤシの実をしぼった植物油「パーム油」。世界で最も使用されている植物油といわれ年々需要は拡大する一方で、環境破壊や労働問題などさまざまな課題が指摘されている。持続可能なパーム油生産も広がっているが、日本ではまだなじみが薄い。そこで今回、持続可能なパーム油の認証普及活動に取り組む環境NGOのWWFジャパン、パーム油の生産に携わるダーボン・オーガニック・ジャパン株式会社、これを使い商品開発を行う生協パルシステムが一堂に会し、パーム油の未来と課題を語り合った。

食品から洗剤まで。暮らしに欠かせないパーム油

――パーム油と聞くと、日本では洗剤のイメージが先行しているように感じますが、実際にはもっとさまざまな商品に使われているとも聞きました。パーム油とはどのようなものなのか、WWFジャパンの南さん、教えていただけますか。

 食品はもちろん家の壁紙や歯磨粉に至るまで、「自給自足的生活をしていない限り、朝から晩まで利用している」といわれるほど、パーム油はわたしたちの暮らしの至るところで使われています。世界で最も使用されている植物油ですが、実は洗剤など非食用に使われているのは全体の2割程度。食品への使用が8割強を占めています。

WWFジャパンの南明紀子さん

WWFジャパンの南さん(写真=編集部)

 ではなぜあまり気づかれないかというと、例えば「ショートニング」「植物油」「界面活性剤」などに名前を変えて、市販の商品に含まれているからです。

 味やにおいがないためパンやお菓子、洗剤などさまざまな商品に利用でき、サクッとした食感もトロッとした食感も出すことが可能です。

原材料表示

黄色く表示された原材料には、パーム油が含まれていると考えられる ©WWFジャパン

パーム油生産の課題と「RSPO認証」

――使い勝手のいい油だからこそ需要が集中してきたということですね。では逆に、どのような課題があるのでしょうか。

 先進国の人々が、安く便利な油の恩恵を受けている陰で、課題は山積しています。まずは環境面。熱帯雨林の破壊、泥炭地の開発による気候への影響がいわれています。また、開発に伴う先住民への人権侵害、児童労働を含めた労働環境まで、問題は大きく深刻です。

パーム油栽培による森林破壊

森林を焼いて、農地を開拓することも ©WWFジャパン

――リンコンさんは、パーム油を生産する立場から、この問題をどうとらえていますか?

リンコン 問題の根元は、原料のアブラヤシが「赤道付近の湿潤な熱帯地域」という極端に限られた地域でしか栽培することができないことにあると考えています。栽培可能なエリアに生産のニーズが急速に、そして、膨大に集中していったことで、さまざまな問題が噴出しているのです。

ダ―ボン社のみなさん

ダ-ボン社の皆さん。中央がリンコン社長(写真=編集部)

――こうした現状に対して、何か対策は講じられているのでしょうか。

 消費地である先進国を中心に徐々に問題意識が高まり、現場を変えるための仕組みを作ろうと「RSPO」という名の認証制度を立ち上げました。わたしたちWWFも、そのメンバーの1つです。

 RSPOは正式名称を「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil)」といい、パーム油にかかわる7つのステークホルダーによって構成される非営利組織です。環境面の成果として、RSPOメンバーが森林伐採や泥炭地開発を回避することで、年間140万トンの炭素排出をおさえられたという報告があります。

RSPO認証マーク

RSPO認証マーク

 それに、この認証があることで、政治的なルールではなく、買う側から生産者に「さまざまな問題に配慮していないパーム油は買いません」と伝えることができます。このことが、結果的に生産現場の環境改善につながることを期待しています。

 またこの認証制度は、会議のメンバーの中に販売側だけでなく生産者も入っているという大きな特徴があります。「Roundtable(円卓会議)」という名前になっているとおり、使う側の要望だけでなく、生産する側の実情も踏まえて話し合いを行い、実情に即したルール作りを目指しています。これにより、少しでも多くの生産団体が「これならばできる」と改善に一歩踏み出すことを促したいと考えています。

ZOOMでの対談風景

鼎談はリモートにて実施された(写真=編集部)

パルシステムではパーム油産地との産直提携も

――パルシステムでも、持続可能なパーム油で作られたショートニングを使った商品がありますよね。きっかけは何だったのでしょうか。

田端 現在、パルシステムのグループ会社の(株)パルブレッドで製造しているパンのうち、ほとんどのショートニングがダーボン社(生産はグループ企業のテケンダマ社)のものへと切り替わっています。つい先日も、お菓子でも持続可能なパーム油から作られたショートニングの使用が実現するなど、取り組みを拡げています。

ダ―ボン社のパーム油が使われている、パルシステムの「白パン(カスタード)」

ダーボン社のパーム油が使われている、パルシステムの「白パン(カスタード)」

 きっかけとなったのは、組合員からの声でした。ショートニングに含まれるトランス脂肪酸の健康上のリスクを問う声から始まり、そこから調べるうちに、原料のパーム油の生産にまつわる環境問題や人権問題の面からも考える必要があると分かってきました。これを受け、パルシステムも早期導入を目指して検討を始めたのです。

 当時、ダーボン社が扱うコロンビアの「エコ・産直バナナ」で取引があり、圃場視察で職員がコロンビアにおじゃました際に、たまたまパーム油の視察もさせていただけることに。ダ―ボン社のパーム油はトランス脂肪酸の含有率が1%未満と少なく、また、環境に配慮した生産をしていることがわかりました。この職員が、すぐに「素晴らしいパーム油の生産現場がある」と報告をし、これをご縁にパーム油の取引も始まったんです。

パーム油の生産現場

ダーボン社が扱うパーム油の生産現場(コロンビア)

――昨年10月には、その素晴らしい生産現場である、ダーボン社のグループ企業・テケンダマ社と産直提携も結ばれました。パルシステムとして、どのような部分に共感したのでしょう。

田端 第一にオーガニックのパーム油生産を行っていること、社員が生き生きと働いていて自然とも共生していること。そしてパルシステムが掲げている産直の考え方にも通じる、安全安心を前提とした人や地域のつながりを大切にする理念があったということが大きかったのだと思います。

パルシステムの田端さん

パルシステムの田端さん(写真=編集部)

――ダーボングループとしてはどのような思いで生産を進めていますか。

リンコン 考え方の基本は「持続可能である」ということです。それは、ダーボングループの一つであるテケンダマ社がパーム油の生産を開始した1985年ごろから変わりません。栽培の研究を重ね、1990年代にはすべての農法を有機農法に転換しました。そして栽培環境だけでなく、地域社会に貢献できるような健全な労働環境の整備も徹底しています。

テケンダマ社のアブラヤシの収穫風景

アブラヤシの収穫風景(テケンダマ社)

――なぜ、こうした取り組みを進めているのでしょう。

リンコン 市場で我々のパーム油を販売するため、厳しい基準をクリアしなければという面ももちろんあります。しかしそれ以前にわたしたちは、コロンビアのローカルコミュニティーに対しての責任感を背負って事業を行っているからです。

 コロンビアは貧富の差が激しい国です。大きな会社を作ったとしても、周囲で貧しい生活が続いていたらそれは幸せなことではありません。周囲の隣人たち、地域と共に発展していくことが、地元を愛する企業としての在り方なのだと思っています。

テケンダマ社の社員たち

生き生きとした表情のテケンダマ社員

それぞれの立場で課題を受け止め、「できること」を重ねる

――持続可能なパーム油生産や認証における課題はないのでしょうか。

 先ほど、RSPO認証は生産者が入ることで、生産現場の実情に即したルール作りが可能になるという利点をお話ししました。実は、この点に対して生産者側に都合のよい制度になってしまう懸念や、NGOや市民団体からの認証の実効性を疑問視する声があることも認識しています。

 けれどこれは本当に、難しい問題で。利用者側の理想を掲げた厳しい基準を一方的に押しつけても、生産現場は「これでは無理」と認証を取ることそのものをあきらめてしまいかねない。そうなってしまえば状況の改善に役立つ認証とはいえないからです。

 WWFは「森林破壊の防止」を目的に活動しており、方法の一つとしてRSPO制度を設立しました。しかし、認証制度は設立したら、それで完璧というものではありません。関係者が継続して話し合い、よりよいルールに改善を続けていくことが認証制度のあるべき姿と考えています。だからこそ、どうしたら現場の実態を踏まえながら環境課題の解決につながる認証となるのか、今後も検討を続けていきたいと考えています。

アブラヤシの生産者の様子

©WWFジャパン

――ひと筋縄ではいかない課題がたくさんあることが見えてきました。最後に、これらを踏まえて今後どのような取り組みを行っていきたいかを教えてください。

 ダーボン社のような生産者が世界中にいれば理想的ですが、実際にはRSPO認証を取得できているパーム油は全体の2割くらいにとどまっています。つまり残りの8割は森林破壊され、劣悪な労働環境のもと生産されているパーム油であるかもしれません。それでいいと思っている生産者や、そうした現実を知らずに利用している消費者もまだまだ多いのが現実なのです。

 これでは、責任感のある企業だけがコストをかけて取り組んでいて、消費者は知らないまま。持続可能なパーム油の生産が広がらないだけでなく、努力したものが損をするという状態にもなりかねません。今後も持続可能なパーム油の存在や意味を消費者に知っていただけるよう、企業の皆さんとも協力して活動をすすめていきたいと考えています。

RSPOマークのついた商品

日本でも、RSPOマークのついた商品が増えている ©WWFジャパン

――リンコンさん、田端さんはどうですか?

リンコン 気候変動の影響は日本と同様、コロンビアも年々大きくなっています。もはや毎年同じようにものが収穫できると楽観視できる状況ではありません。それでもRSPO認証の姿勢と同じように、生産現場もより高いレベルの環境配慮や労働条件の見直しなど、常に改善に努めていきます。

田端 今回、消費者と生産者の間に立ちながら進むべき方向を更新している、という南さんのお話がとても印象に残りました。これはまさにパルシステムが産直の現場において生産者、組合員とともに行っていることです。

「産地へ行こう。」ツアーの様子

産地ツアーを主催するなど、パルシステムはかねてから生産者と消費者を結びつけてきた

 わたしたちにできることは、これからも持続可能なパーム油を使用した商品を広げていけるよう検討していくこと。そして同時に、パーム油の現状や課題などの情報提供を行いながら、あるべきパーム油の生産について、使う側の目線から議論を重ねていくことかと思います。

パルシステム職員とパーム油生産者の交流の様子。

パルシステム職員とパーム油生産者の交流の様子。2019年8月テケンダマ社にて

 ちなみに、今年4月に発行したパルシステムの商品カタログの裏表紙で、持続可能なパーム油の産直提携のことを取り上げたところ、組合員から「とてもよい取り組みでうれしい」という反響もたくさんいただきました。学びながら、実践しながら、これからのパーム油の在り方を私たちも組合員とともに考えていきたいです。

パーム油の取り組みを紹介するカタログ誌面

カタログ誌面にて、パルシステムの持続可能なパーム油の取り組みを紹介(写真=編集部)

取材協力=ダーボン・オーガニック・ジャパン株式会社、世界自然保護基金(WWF)ジャパン 取材・文=玉木美企子 写真=編集部 構成=編集部