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森の国、日本の林業をよみがえらせる 「森の産直」がスタート!

  • 環境と平和

2014年5月に公開された『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常』という映画をご覧になりましたか? 林業に生きる人々のドラマと山村の暮らしをいきいきと描いた作品で、これまで一般にはあまりなじみがなかった「山仕事」に注目が集まりました。そもそも国土面積の約7割を森林が占める日本にとって、「木」はもっとも身近で貴重な資源のひとつ。にもかかわらず衰退が叫ばれている森林や林業の未来を拓くために、私たちにどんなことができるでしょうか。

世界屈指の森林大国なのに、木材の7割を輸入に依存!?

 先進国のなかでも、フィンランドに次ぎ2番目の森林率を誇る日本。ところが、豊富な森林資源に恵まれながら、1955年には94.5%と高かった木材の自給率は、現在30%を切っています。

 戦後、焼け跡の日本を立て直していくために木材はとても貴重な資源でした。60~70年代の復興期、国をあげて植林を推進。それまで薪炭用として利用してきた広葉樹の天然林を伐採し、木材として扱いやすいスギやヒノキへと一気に植え替えが進んだのです。

人の手が入らなければ、山は荒れてしまう(写真:イメージ)

 人工林を健全に保とうと思えば、木々の風通しや日あたりをよくするなど、定期的に木の本数を人の手で間引く「間伐」が欠かせません。しかし、伐採、植林、保育、そして伐採...という循環が大事な山仕事として受け継がれていたのは、高度成長に下支えされ木材相場が比較的安定していた70年代後半まででした。

 というのも、国は人工林を拡大させる一方で、急増する需要をまかなうため、64年には木材の輸入を全面自由化。以降、建築資材や日用品などの多くが安価な外国産木材にシフトしていったからです。

 80年代に入ると国産材価格は暴落。伐れば伐るほど赤字が膨らむような状況のなか、山仕事は廃れていきました。放置されたまま日光も入らないような荒れた森が各地に急増。木材の供給量も減少し、日本は、広大な森林面積を持ちながら木材の多くを海外に依存するという矛盾を抱えることになったのです。

日本の材木(用材)の供給量及び自給率の推移

資料:林野庁「木材需給表」

見直される「森のはたらき」と国産材の価値

 木という身近で貴重な資源を供給する場である森林。木には、私たちが生きていくのに必要な酸素を供給したり、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素を吸入し、幹や枝などに炭素を蓄える働きもあります。

 そのほかにも、張り巡らされた根が土壌を維持して災害を防いだり、スポンジのように隙間のある土が雨水を蓄えて洪水を起こりにくくしたり、さらには農山村の貴重な雇用の場となっていたりと、森林の果たしている役割はじつに多様。一見、緑豊かな変わらぬ風景のようでありながら、近年、大雨や台風によって頻繁に山の崩壊や崖崩れが起きる原因のひとつは、人の手が入らず放置された森林が、その機能を充分に発揮できなくなっていることにあるともいわれています。

 「長い歴史のなかで、日本の国土や環境、また、私たちの安全で快適なくらしは森林の存在によって保たれてきたといっても過言ではない。水や空気がどこから来るのかと思い巡らせれば、森が私たちの命に果たす役割の大きさに気づく。森を考えることは、命を考えることと同じです」(パルシステム連合会理事長・山本伸司)

森林には、木材資源としてだけでなく、生命を育み、国土や水資源を守る働きもある(写真:イメージ)

 低迷が続いていた日本の林業ですが、最近では、住宅資材を中心に国産材の価値が見直される傾向に。国も、高温多湿の日本の風土に合った国産材の利用を推進する「木づかい運動」に取り組んでいます。

 パルシステムでも、日本の森林資源を保全し、持続可能な森づくりに貢献していくことを目指す「森林・林業方針」を2012年に制定。森林・林業に取り組む人々との連携や、積極的な木材利用、森林や林業についての啓蒙活動などを進めてきました。

南都留森林組合と、初の「森の産直」を締結

 パルシステムでは、プロジェクトを立ち上げて国内の森林・林業の現状について学びながら、同時に提携産地を選定。今年1月、山梨県南東部、都留市や西桂町などの森林を管轄する南都留森林組合との間で、パルシステムとしては初の林業分野における産直協定を結びました。

 同組合は、代表理事組合長・杉本光男さんの指揮のもと、高齢化や後継者不足を打破するため異業種から人材を公募したり、間伐後の空いた土地でこごみやみょうがを栽培するなど、先進的な取り組みで全国的にも注目されている組織。いわゆる民有林は、多くの権利者が存在するためなかなか整備が進まないものですが、同組合では所有者一人ひとりに対し真摯に訴え、煩雑な手続きを代行しながら1山分(約100ha)を集約化、大規模な間伐で森をよみがえらせたという実績もあります。

南都留森林組合との産直協定調印式。南都留森林組合の代表理事組合長・杉本光男さん(右)とパルシステム連合会理事長・山本伸司

 パルシステム商品開発本部第2商品部長・野津秀男は、「3年前に縁があって出会ったときは、互いにシロウト集団のようなところがありました。でも、だからこそ、既存の枠組みにとらわれない自由な発想が生まれるのでは、との期待があったのです」と、同組合と産直協定を締結した理由を語ります。

 パルシステムでは、産直第1弾として、杉の間伐材を使った商品『どっちかな積み木』と、間伐材利用の炭の脱臭剤『炭たまご~マトリョーシカ~』を開発。

 「森を元気にするためには、出口、つまり間伐材を使う場や機会を広げていくことがとても大事です。間伐材にしっかりした使い道があれば、伐ることができるし、また植えることもできる。間伐材の価値を見直すことが地元の雇用にもつながります」と、杉本さんも産直品の誕生を喜びます。

森林産直商品の第1号となった商品。左から『どっちかな積み木』と『炭たまご~マトリョーシカ~』

木とふれあえる「パルシステムの森」をつくろう!

 南都留森林組合との産直協定締結を機に、日本の森林再生に向けた活動を本格的にスタートさせたパルシステム。小さな一歩ですが、これまで、農業、水産業の分野で全国の産地とつながり、商品開発や人の交流を通して地域づくりに関わってきた経験を手掛かりに、森と都市とを結んで何ができるか、これからの可能性に大きな期待が寄せられます。

 すでに3月には、パルシステム連合会の拠点のある東京・新宿区の小学校を、切り出した丸太とやすりやネジなどの資材を持って南都留森林組合のメンバーが訪問。子どもたちといっしょに縁台を製作しました。また、パルシステム東京が府中に開設した保育園「ぱる★キッズ」では保育方針のなかに「木育」を導入。木のぬくもりや「山の仕事」に触れる交流や体験の場づくりも始動しています。

東京・新宿区の小学校で子どもたちといっしょに縁台を製作

 「森を守っていくためには、産業界も行政も市民も、垣根を越えた草の根の連携が何より強い力になると思います。われわれも、消費者の視点や女性ならではの感性をぜひパルシステムから学びたい」と杉本さん。

 「木に触れ、森の力を感じることで、生きる力が湧いてくる。自然から切り離されたような都市の空間に森の片鱗(へんりん)を届けたい。ゆくゆくは、組合員が気軽に遊びに行ける『パルシステムの森』を作りたい」(山本)との提起に、「大歓迎です。体感のある交流は森ならではの醍醐味。ぜひ、実現させましょう!」と、杉本さんも力強く応じます。

 森の健全な営みを取り戻すことで、私たちの社会やくらしももっといきいきとしたものになる。「森の産直」がもたらす未来へ、夢は大きく膨らみます。

南都留森林組合は、地元の保育園の裏山にある林を整備し、園児が自由に遊べる「森のほいくえん」もつくった

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部