産直豚肉と野菜の甘辛炒め・ポテトサラダセット

写真=豊島正直

「時短」だけじゃない。料理の楽しさ、食べる豊かさを提案する、パルシステムのミールキット開発裏話

  • 食と農

「忙しくても食事は手作りしたい」。そんな思いにこたえてくれる、食材とレシピがセットになった「ミールキット」市場が活況だ。生協のパルシステムでも多くの組合員から支持され、現在メニュー数は延べ400品以上。時短調理できることに加え、ふだんは作らないようなメニューや下ごしらえが面倒な食材を気軽に味わえるところも人気の理由だ。「産直」を追求してきたパルシステムならではの思いを大切にした、開発の裏側を聞いた。

※本記事は、2020年3月12日に取材した内容です。

料理のバリエーションを広げる助けに

 ミールキットとは、野菜や肉、調味料など、調理に必要な人数分の食材とレシピがセットになった商品。利用者の多くは料理に時間や手間をかけられない共働き世帯や子育て中の世帯だが、最近では、大人のみの世帯からの利用も増えているという。

 パルシステムのミールキットである「お料理セット」が登場したのは2014年。定番のメニューに加え、少しずつオリジナルメニューを開発し、利用者数がぐっと伸びてきたのは2017年ごろ。「お料理セット」専用の自社工場「パルシステム板倉食品加工センター」を開設してからだ。

「お料理セット」の利用状況の推移

「お料理セット」の利用グラフ

「お料理セット」は右肩上がりに利用が増えている

 「それまではカタログに載っていることにすら気づいていない組合員のかたもいたので、商品展示会で“野菜のページの後ろに載っているんですよ”と見ていただけるように必死にアピールしていました」

 そう話すのは、青果・米部門の仕入販売を担当するパルシステムの子会社「株式会社ジーピーエス」で、メニューの開発を担う黒井洋子さん。現在、カタログに掲載されているのは、毎週28商品(カタログ『コトコト』/冷凍お料理セットを含む ※取材時点)。新商品も続々と登場している。

黒井洋子さん

4年以上「お料理セット」の商品開発に携わる黒井さん(写真=豊島正直)

 「中でも人気のあるメニューは中華です。豚肉のチンジャオロースなど、細かく野菜を切らなくてはいけないものはニーズが高く、定番メニューとなっています」

 国産の野菜、国産の肉を使うことはもちろん、カタログに掲載されている人気のプライベートブランド商品を取り入れ、たれはすべて化学調味料不使用など、パルシステムならではのこだわりも忘れない。

産直豚肉のチンジャオロースセット

登場以来人気の看板商品「産直豚肉のチンジャオロースセット」(写真=坂本博和)

 「スープ商品も安定して人気です。主菜は自分で作ってスープを『お料理セット』にすると、時短になるというご意見が多いです。スープって何種類もの野菜を用意しなきゃいけないんですよね。冬に豆乳みそスープを発売しましたが、とても好評でした。豆乳を使った初のメニューで、みそはパルシステムオリジナルの『産直大豆のみそ』を小袋にしてつけました」

豚だんごとさつまいもの豆乳みそスープセット

好評の冬メニュー「豚だんごとさつまいもの豆乳みそスープセット」(写真=海老原隆)

 豆乳みそスープのように、ふだん自分ではあまり作らないような味付けを手軽に試せるのも、「お料理セット」のメリットだと黒井さんは言う。

 「 “子どもが野菜を食べなかったのに、『お料理セット』なら食べてくれました”なんて声を頂いたことも。メニューや味付けのバリエーションが増えることで、そんなふうに子どもの食わず嫌いを減らすことができたらうれしいです」

大切なのは「パルシステムらしさ」を忘れないこと

 利用者が飽きないように、毎週必ず新商品が登場するのもパルシステムの「お料理セット」の特徴の一つ。しかし、そこに至るまでには乗り越えるハードルは高い。

試食に向けた調理の様子

試作では手順や作りやすさの確認も大切な作業だ(写真=豊島正直)

 「まずは、社内の課内プレゼンで、担当者それぞれがアイデアを持ち寄り、そこで試作してみんなで試食します。その次にパルシステム連合会の担当部署との試食があり、商品化に向けた意見を交わし、最後はパルシステム組合員も参加する全体プレゼンの場で賛成してもらって、最終決定となります」

試食の様子

商品化に向けて試作やプレゼンを重ね、量や味付け、価格の調整をしていく(写真=豊島正直)

 おいしくて簡単であることは大前提だが、商品作りで問われる最も大事なことの一つが“パルシステムらしさ”。料理を通じて暮らしを豊かにする“気づき”があるかどうかが商品化の決め手となる。

 例えば、旬の食材の味わいや食べ方を知ってもらうことだ。取材前に行われていた、初夏に向けてのパルシステム連合会の担当部署へのプレゼンでは、ゴーヤやズッキーニなどの夏野菜を使ったメニューを提案していた。

試食で用意された料理

多いときでは月に15品以上の新商品を提案することも(写真=豊島正直)

 「今日はゴーヤとズッキーニでしたが、例えば過去には冬瓜(とうがん)の煮物を提案しました。冬瓜って、1個がとても大きいですよね。最近ではスーパーで輪切りでも売っていますが、どうやって調理していいか分からない人も多いと思うんです。だからこそ、まずは『お料理セット』でそのおいしさを知っていただきたい。そのために、食材の新しい食べ方や味付けを考えるきっかけになるレシピや、旬の野菜を取り入れることで季節を感じられるレシピなど、さまざまな工夫をしています」

 ほかにも、ふだん使い慣れていないような乾物を知ってもらおうと、切り干し大根や打ち豆、すき昆布なども活用。煮物だけではなくいためものに少し混ぜるなど、気づきになるようなセットを作った。「乾物を使いこなせないかたに、『こんな味付けも合う』ということを知ってもらい、もっと親しみやすくなればいい」と黒井さんは言う。

すき昆布と産直豚肉の炒め煮(クーブイリチー)セット

すき昆布を使った沖縄の郷土料理「すき昆布と産直豚肉の炒め煮(クーブイリチー)セット」(写真=佐藤朗)

 「最近、スープに押麦を入れたメニューを開発したのですが、どんどん水分を吸って、翌日はリゾット風になるんです。そんな二度おいしい、食の楽しみも知っていただけたらと思います」

 「お料理セット」に使われている食材を通じて、原料や製法にこだわりのある、パルシステムオリジナル商品の魅力に触れてもらうことも大きな目的だ。そしてその先にある“産地との輪”を広げたい、とも。現在では、産直産地との共同開発商品も作り始めたという。

魚の調理の様子

魚の手軽な食べ方を知りたいというニーズも多い(写真=豊島正直)

 「最近では産直のさわらをジェノベーゼのソースでホイル焼きにしたり、しらすをゴーヤチャンプルーにしたりと、水産品にも力を入れています。やっぱり商品を通して産地と組合員を結びつけるということが、パルシステムらしさだと思うんですよね」

「自分に届いたときにどう思うか」の目線を忘れない

 時短で簡単に調理したい人にとっては便利なミールキットだが、料理ができる人にとっては、自分で材料を揃えるよりやはり割高だ。だからこそ、パルシステムの「お料理セット」は提供する商品のクオリティーにとことんこだわっている。

パルシステム板倉食品加工センター外観

「お料理セット」専用の自社工場「パルシステム板倉食品加工センター」(写真=編集部)

 まず、板倉食品加工センターでは、野菜の洗浄には3~4℃に冷却した地下水を使用し、鮮度をキープ。殺菌には野菜の風味を損ないにくい電解次亜水を使用。殺菌の際、野菜ににおいがつくことがなく、作業者にも優しい。加工のスピードも、野菜に包丁を入れてから通常24時間以内に個包装まで行うことを徹底している。

野菜洗浄の様子

野菜は地下水で、丁寧に洗浄(写真=編集部)

 野菜の芯や汚れを取るなどの下処理はすべて手作業で行っている。野菜のカット自体も9割は手作業だ。ただし触れる回数が多いと素材を傷める可能性もあるため、最少のタッチで正確にカットし、品質を保持している。「やり直しの利かない真剣勝負です。この手間や時間が含まれた価格に納得して利用していただくためにも、クオリティーは最重要視しています」と黒井さん。

野菜カットの様子

皮むきや下処理をはじめ、野菜のカットはほとんどが手作業(写真=編集部)

 自社工場を作ったからには、パルシステムが自信を持って届けられる商品を作っていかなければ、という思いは強い。働くスタッフの意識も高く、異物混入がないよう目視でチェックしていく工程では小さな変化も逃さない。常に厳しい目で製造している。

パッケージングの様子

配置の美しさにも目を配りながら、チームワークでセット作業を行う(写真=編集部)

 「自分が組合員だったとして、“自分に届いたときに商品を見てどう思うかを常に考えながら製造してください”と働いている皆さんにもお伝えしているのですが、その思いをしっかり受け止めてくださっているのだと思います」(黒井さん)

連携によって「フードロス」が減らせる

 パルシステムの「お料理セット」を作るのは、板倉食品加工センターだけではなく、協力会社含め5社。本来であれば、ライバル同士の5社だが、パルシステムの「お料理セット」という一つの商品作りのために各社が集まり、進捗共有や意見交換を定期的に行っている。それぞれの工場見学なども盛んで、技術の向上につなげられるようにしているのだという。

 連携することにより、足りない材料を余剰のある工場から提供してもらえるなどのメリットも。食材が無駄にならないので、フードロスも減らせて一石二鳥だ。

 さらに、フードロスの視点でいえば、パルシステムの「お料理セット」はスーパーなどの市販品とは違い、1週間前に注文を受け、その数だけ生産できる受注生産の強みもある。

 「ただ、どうしても野菜が残ってしまうこともあります。そのときには、カットしていない野菜は地域の子ども食堂に提供するなど、なるべく有効活用しています。もちろんむいた皮も無駄にはせず、堆肥化しています」

トレイに入った材料

ドライカレーのセットでは、一度にいためるみじん切りの野菜3種が同じ袋にまとまる(写真=川津貴信)

 フードロス以外に、プラスチック軽減の取り組みも。調理の工程で同時にいためるものはミックス野菜にして一緒に入れることによって袋を減らせるうえに、作る側もいくつも袋を開けなくていいので手間が省ける。この袋を減らす提案は、工場のスタッフから出た意見だという。

 「ほかにも、袋を止めるテープを開けやすいものに変えるという提案もスタッフからです。細部まで“自分に届いたときに商品を見てどう思うか”を頭に置いて、組合員の視点に立った商品作りを心掛けています。その提案が、“それいいね”となったらすぐに実現できるのは、自社工場の強みだなと。さまざまな意見をスタッフから聞けるところも、意識が高い証拠なのかなと思います」

開封しやすい袋のテープ

今のテープは左右に引っ張るだけで楽に開封。「私自身、利用者として開けづらく感じていたので、細かい部分ですが改善できてストレスが減りました(笑)」(写真=豊島正直)

幅広い層に安心感を与えられるように

 利用者の多くは、働きながら子育てをする世代。最近では「お料理セット」を目的にパルシステムに入会したという若い世代も多い。

 一方で若年層だけでなく、ベテラン主婦のかたなど、料理を作れる層の組合員の利用も増えてきた。手をかける料理を作るのが負担に感じたときにも、すぐに「あと一品」が作れる「お料理セット」の利便性が浸透してきたからだろう。

 「パルシステムらしさにこだわったものなら、と考えてくださるかたも増えたのかなと思います。忙しいときに夕飯のメニューが一品決まっている安心感は大きいですよね。私もそれは日々実感しています」

便利の先にあるよさを知ってほしい

 「便利」で「簡単」なミールキットでパルシステムに興味を持ってくれた人に、新しい食材の使い方を知ったり、料理のレパートリーを増やしたりと、「便利だけではないその先のよさを知ってもらいたい」と黒井さん。

 「すごく簡単に作れるので、料理初心者や子どもの“料理の入り口”にもなりますよね。実際、お子さんと一緒に使ってくださるかたも多いです。餃子のセットは、“子どもと一緒に作りました”というコメントをたくさん頂きました。小学校高学年や中学生くらいになると“子どもが自分で作ってくれました”というかたもいらっしゃいますし、奥様が忙しいときに、“夫と子どもが一緒に作って夕飯を済ませてくれました”といった声もあります」

おうちで簡単手作り餃子セット

家族で作るのも楽しい「おうちで簡単手作り餃子セット」。野菜がカット済みだから、こねて包むだけと手軽(写真=坂本博和)

 家族のコミュニケーションに、「お料理セット」は一役買ってくれる。調理時間も短縮できるので、ゆっくりテーブルを囲む時間も増えるだろう。「食を通じた家族の豊かな記憶作りのきっかけになれば」と黒井さんは言う。

 「もちろん便利だと思ってもらえることが一番ですが、『お料理セット』を通じてパルシステムのファンを増やしたい。そういう思いで、これからも商品作りを続けていきます」

取材・文=石本真樹 写真=豊島正直 構成=編集部