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写真=PIXTA、グラフ作成=編集部

食料品もガソリンも高くなっているのは、なぜ? 「値上がり」から見る世界の変化と日本の今

  • 暮らしと社会

ニュースでも報じられているように、ガソリンの値上がりに始まり、小麦、食用油脂などを中心にした食料品の価格が上昇しています。その大きな要因としてあるのが、「気候変動」「脱炭素化」「新型コロナウイルス」「中国の需要拡大」です。「値上がり」の理由を知ることで見えてくるのは、世界と日本の今。資源・食糧問題研究所代表・柴田明夫さんに詳しい話を聞きました。

2021年6月から上がり続ける食料価格

――このところ「ガソリン高騰」「食料品・日用品の価格上昇」といったニュースを目にするようになりました。身近な食料品も値上がりが相次いでいます。

柴田 私が注目しているのは、国連食糧農業機関(FAO)が毎月発表している食料価格指数ですが、それによると2021年6月から穀物、肉、砂糖などが連続して値上がりしていることがよく分かります。

FAO(国際連合食糧農業機関)が発表している食料価格指数のグラフからもよく見て取れる。

FAO(国連食糧農業機関)が発表している食料価格指数(グラフ作成=編集部)

――その要因は何でしょうか。

柴田 穀物や油などそれぞれに違った要因がありますが、いくつもの要因が影響し合って起きているのが今回の値上がりの特徴です。その中でも共通する要因としては、「気候変動」「脱炭素化」「新型コロナウイルス」「中国の需要拡大」などがあります。新型コロナや脱炭素化も、広い意味では気候変動の中に含まれるかもしれません。

――例えば、植物油脂の値上がりの要因には、どういったものがあるのでしょうか。

柴田 食料価格指数を見ると、菜種や大豆、パームなどに代表される植物油脂はとくに大きく値上がりしていますね。その要因の一つには、主要産地であるアメリカとカナダで起きた干ばつの影響があります。

 アメリカ西部では2021年春ごろから深刻な干ばつが続いていました。それがアメリカ北部、カナダ南部にまで広がり、植物油脂の原料となる菜種が減産しました。減産によって菜種油に値上がりが起こり、それがほかの植物油脂の価格にも影響しているのです。

と、柴田さんは話す。

リモート取材に応じる柴田さん(写真=編集部)

――アメリカ・カリフォルニア州では「極度の干ばつ」で非常事態宣言も出されました。気候変動の影響で自然災害が起こりやすくなっているともいわれます。

柴田 この干ばつによって小麦も減産になっています。10年ほど前までは、伝統的な小麦生産輸出国といえばアメリカ、カナダ、オーストラリアでした。北半球のアメリカ、カナダで減産が起きても、南半球のオーストラリアが増産になるなど、全体でバランスが取れていたのです。しかし、近年は同時に干ばつが起こることもあります。

 新しい小麦生産輸出国としてロシア、ウクライナ、アルゼンチンなども出てきていますが、干ばつなどになれば当然、自国の食料をまず確保します。新興輸出国が出てきたからといって、世界間での小麦の供給が安定化したかというと、必ずしもそうではありません。

 また、2020年にはアフリカ東部を中心にサバクトビバッタが大発生して、この数十年で最悪の農作物被害をもたらしました。中国南部では洪水被害、アマゾンでは森林火災なども起きており、こうしたことが今後も頻発するかもしれません。

サバクトビバッタをはじめ、脅威は尽きません。

サバクトビバッタ、洪水、森林火災など、毎年さまざまな災害が起きている(写真=PIXTA)

「脱炭素化」が石油や食料品に影響

――そうした気候変動への対策として、世界的に「脱炭素化」の動きが起きていますが、それがなぜ値上がりにつながるのでしょうか。

柴田 ニュースでも聞いたことがあるかもしれませんが、気候変動や温暖化対策である「脱炭素化」に向けた世界の動きが、今の原油の値上がりに結びついています。

 世界が「脱炭素化」に向けて本格的に舵を切ったのは、2015年のパリ協定[1]以降です。今では、世界の主要な投資機関も化石燃料に関連する企業から引き上げ、環境配慮型企業に投資を振り分けています。石油を増産したくてもできない気運ができ上がってしまいました。

――石油生産への投資が減ったことで、供給も不足しているのですね。

柴田 もちろん将来に向けて石油への依存度を減らしていかなくてはいけません。ですが、まだ石油に代わるエネルギーが普及していないにもかかわらず石油の供給に制限がかかったので、需要に対して足りなくなってしまった。その結果、価格が上がっているという状況です。

 十数年前にも原油価格が上昇したことがありますが、その際にはバイオ燃料ブームが起きて、原料となるサトウキビやトウモロコシの価格が上がりました。「穀物を燃料にするのか、食料にするのか」という大きな議論が起きましたよね。脱炭素化の動きが進む中で、同じことが再び起こる可能性も高いです。

今後もバイオ燃料の話題には要注目です。

トウモロコシなどは、バイオ燃料の原料としての需要も高まっていくことが予想される(写真=PIXTA)

――この原油の値上がりが、食料品の値上がりにも関係しているのでしょうか。

柴田 大きく関係しています。原油価格が上がれば、食料の生産コストが上がるからです。近代農業は石油に大きく依存していますよね。例えば、トラクターや農業機械の燃料、化学農薬や化学肥料、ビニールシートなどはすべて石油製品です。

 また、世界の食料生産の4割は、水を外から持ってくる必要がある灌漑(かんがい)農業によるものです。発展途上国ではガソリンのモーターを使って地下水をくみ上げているところが多くあるので影響も大きいのです。

(※取材後、2022年2月24日に始まったウクライナ/ロシア間の国際情勢の影響を受け、原油価格はさらに上昇した。)

「新型コロナ」による労働者不足

――新型コロナウイルスの影響は、どういうものでしょうか。

柴田 感染拡大防止のために人流が抑制されたので、外国人労働者の移動が止まってしまいました。国際労働機関(ILO)の報告によると、2020年だけで1,700万人の労働者の移動が止まったといわれています。

 日本の農業も外国人の技能実習生に頼っている部分が大きいですが、賃金の安い外国人労働者に支えられてきたアメリカの農業やタイの食肉加工場などはより深刻。労働力が足りないために工場の稼働がなかなか元に戻らずにいます。

 一方、ワクチンが普及したことで経済が動きだしていますが、国際海上輸送のコンテナが不足していて、海上運賃も値上がりしています。

海上で停泊するコンテナもまだ多くみられます。

たくさんのコンテナを積んだ海上輸送船(写真=PIXTA)

――なぜ、コンテナ不足や海上運賃の値上がりが起きているのですか。

柴田 2000年代初めに、中国の需要拡大に伴って海上輸送のための造船ラッシュが起こりました。そうして造船・コンテナ製造が増加したところに、2008年のリーマンショックが起きたのです。世界的な不況が広がり、海上運賃が大きく下がりました。連動して、この10年間コンテナ生産量は縮小していました。

 しかし、コロナ禍から経済が回復し始めて輸送量が急増したときに、今度はコンテナが足りなくなったのです。また、先ほど申し上げた移動制限による港湾労働者の不足も、輸送の遅れや海上運賃の値上がりに結びついています。

「中国の食料需要拡大」と買い負ける日本

――干ばつや生産コスト高、労働者不足や海上運賃の上昇など、さまざまな理由で食料供給が不足しているのですね。

柴田 加えて、中国での食料需要の急拡大が世界的に大きな影響を及ぼしています。中国は自国で6億7千万トン近い食料を生産していますが、国内の食料需要が増える中で自給が難しくなってきているのです。

 2021年4月には「反食品浪費法[2]」という食べ残しを罰する法律もできたくらい中国は危機感を持っている。政策としても本格的に食料を輸入する方向に切り替え始めています。

 食料の需要が伸びているのは中国だけではありません。日本では人口が減って高齢化することで食料市場は縮小していますが、世界全体で見れば人口はまだ拡大しています。とくに中東や東南アジアでは若い世代の人口が伸びています。

――そうした国でも経済成長が進むにつれて、食料需要が増えていきます。

柴田 グローバリゼーションの流れの中で、日本を含めた先進国は賃金の安い国に工場を移すことで脱工業化をしていきました。

 工場が移って工業化したアジアの国々では早く経済が成長します。人々は、よりいい食事を求めるようになるし、肉などの需要も増えていくでしょう。反対に、先進国は脱工業化し、経済のサービス化・ソフト化を目指すわけですが、経済成長としては鈍化していきます。

 そうした中で、かつては強い購買力を持っていた日本も、ほかの国に食料を買い負けるようになってきています。データで見ても、日本の食料品輸入は数量ベースでは減ってきている。金額ベースで増えているのは、値上がりの影響なので、買う力自体がなくなっているということは明らかです。

「海外から安く」というシステムの限界

――この先、状況が落ち着く見込みはあるのでしょうか。

柴田 一時的に価格上昇は少し落ち着くかもしれませんが、厳しい状況にあることは変わらないでしょう。90年代からグローバリゼーションが進んで、モノ、サービス、投資などすべての貿易の自由化が加速しました。その結果、どの国も海外から安い食料を輸入する方向に進んでいきました。

 できるだけ国内に在庫を持たず、安い原油を使って大型船で遠くから食料を持ってくる――こうした食料供給システムができ上がったのです。日本は食料自給率がカロリーベースで37%まで下がり、ほとんどを輸入に頼る状況です。今回、こうした世界の食料供給システムが抱える脆弱性が浮き彫りになったと私は思っています。

 持続可能な食料確保は、今や世界共通の課題です。2021年9月には「国連食料システムサミット」がきゅうきょ開かれて、各国首脳、国際機関、民間企業、市民社会など広く参加者が集まり議論が行われました。そこには、今すぐに持続可能なシステムを作らなければ手遅れになるという危機感があります。

――コロナ禍を機に、国際情勢の変化によって、輸入に頼っていたものの供給がいきなり滞ってしまう不安定さを実感した人も多いと思います。

柴田 そのとおりです。その典型が食料ですが、食料だけに限りません。例えば半導体だって手に入らなくて大変なことになっていますよね。気がついてみたら日本は、生活に欠かせないもののほとんどを輸入に頼っています。しかし、これからは従来のように「より安くて質のよいもの」をいくらでも輸入できるとは限りません。

 そういう意味でも、食料はやはり基本的に「地産地消」をベースにするべきだと私は思っています。しかし、輸入の食料品が高くなったからといって、すぐに国産を増やせるのかというとそうではありません。残念ながら、国内では農業生産者も農地も減り続けていて弱体化しています。

荒れ果てた耕作放棄地も珍しいものではありません。

荒れ果てた耕作放棄地(写真=PIXTA)

――簡単には解決できない問題だと思いますが、例えば消費者の立場から少しでもできることはあるでしょうか。

柴田 これまでは食料は輸入したほうが安かったし、それで割に合ったかもしれません。でも、これからの日本は小規模農家も含めた形で、農業をもう一度立て直していかないと大変な状況になってしまいます。

 こうした状況は、生産者側だけの問題ではありません。これからは消費者が適正価格をよく見極める力を養うことも大事だと思います。短期的には「安ければ安いほどいい」のは分かります。でもそれを続けた先、長期的に考えたとき、どうなるのか。ほんの少し想像力を持つことが、未来を変える力につながるのではないでしょうか。

脚注

  1. 2015年にパリで開かれた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された協定。産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるため、21世紀後半には温室効果ガスの排出量実質ゼロを世界全体で目指す。
  2. 大量に食べ残した際の処分費用を飲食店側が客に請求できることや、「大食い番組」の配信禁止などを定めた食品ロスを防ぐための法律。

取材協力=株式会社資源・食糧問題研究所 文=中村未絵 取材・写真・構成=編集部