自然エネルギーは倍々ゲームで伸びている!
――自然エネルギーというと、日本ではまだ現実的ではないというイメージがあるようですが、海外の状況はいかがですか?
飯田 世界と日本の状況はだいぶ違います。世界に目を転じると、自然エネルギーではものすごくダイナミックな変化が起きているのです。たとえば「設備容量」といって、その設備が最大に能力を発揮したときに発電できる電力量でみると、世界の風力発電は2015年の1年間で6500万キロワット、つまり原発65基分を新たに生み出し、累積で4億3300万キロワットとなり原発を抜きました。
太陽光の設備容量は、2016年の1年間で原発75基分(7500万キロワット)と前年に比べ新たに50%も増え、2017年末には累積で原発を追い越す勢いです。原発は横ばいになってきているのに対して、風力、太陽光は、数学でいうと“指数関数的”、簡単に言えば倍々ゲームで伸びていて、いまもなお加速度的に増えています。
産業界でも、たとえばアップルやフェイスブック、グーグルのような世界のトップ企業の多くが事業活動で使用する電力のすべてを自然エネルギーでまかなうことを目標に掲げていますし、コペンハーゲンやサンフランシスコなど世界のメジャーな大都市でも、自然エネルギー100%をめざして具体的な実行計画をどんどん立てています。
普及すればするほど、自然エネルギーのコストは下がる
――世界各国でそこまで自然エネルギーが普及した理由は何ですか?
飯田 もちろん技術の進歩もありますが、自然エネルギーの普及を後押ししているのは、発電コストがどんどん下がっていることです。日本では、自然エネルギーは高いというイメージがありますが、2016年12月には、世界の経済情報を配信する米メディア「ブルームバーグ」が、あらゆる電源のなかで「最もコストが低いのは太陽光、次いで風力」と発表しています。
太陽光パネルの発電コストを詳しく見てみましょう。1970年代は1ワットあたり100ドル(約1万円)でしたが、2016年には50セント(約50円)を下回っています。40年間でなんと200分の1です。一方で、1年間に工場から出荷された太陽光パネルの容量は、40年前にはわずか2000キロワットだったのが、2016年は7600万キロワットと3万倍以上に。この先も価格は安くなり、出荷量はますます大きくなっていく。この流れは止まりません。
化石燃料や原発がどんどんコストアップしていくのに対し、自然エネルギーは、つくればつくるほどコストが下がる。これは、パソコンや液晶テレビなどと同じ、小規模分散型と呼ばれるハイテク技術に共通する現象です。革新的な技術開発があったからというより、普及によってコストが下がっていくのです。
原発事故後、急拡大した日本の自然エネルギー
――日本の自然エネルギーの状況はいかがでしょうか?
飯田 日本の政府や経産省は、いまだに「自然エネルギーは高い」「大して役に立たない」「クリーンだけど不安定」……と言っています。けれど、実際にはその日本でも、電源構成に占める自然エネルギーの割合に関していえば、2011年までは水力が中心でずっと10%程度の停滞気味だったのが、ここにきて急激に伸び、2016年には約16%になりました。
コストも海外に比べればまだ高いのですが、それでも、普及に伴いずいぶん下がっています。2012年7月、自然エネルギーの電気を国が定める価格で買い取ることを大手電力会社に義務づける固定価格買取制度(FIT)が日本でもようやく導入されたことは大きいでしょう。
これを契機に、とりわけ太陽光は爆発的に普及し、この5年間で発電量は原発10基分ほど増えました。その結果、当初1キロワットあたり42円だった太陽光発電の買取価格は毎年下がり、2017年4月からは21円(※)とわずか5年で半額までになりました。コストダウンと普及の好循環は今後も続き、経済的にも環境的にも大きなメリットをもたらすでしょう。
※10kW以上、2,000kW未満の太陽光発電。
「ベースロード電源」は古い。世界は「フレキシビリティ」の時代へ
――政府は、自然エネルギーでは不安定だから、ベースになる安定した電源として原発や化石燃料が必要だとしていますが、これについてはどうお考えですか?
飯田 まったく古いとしか言いようがありません。すでにヨーロッパの多くの国では、原発や化石燃料で一定量の電力を確保するという「ベースロード」から、まずは自然エネルギーを最優先し、でこぼこの部分はありとあらゆる手段で柔軟に需給を調整していこうという「フレキシビリティ(柔軟性)」へと考え方が変わってきています。
たとえば、気象のビッグデータやスーパーコンピューターの技術を使って風力・太陽光発電の変動をリアルタイムに予測する。水力・揚水発電を蓄電池として利用したり、ほかの地域から自然エネルギーを融通し合って供給を調整する。産業界と連携してピーク時の電力消費を抑制したり、家電を省エネ型に切り替えたりするなど、需要側を調整する。そうした方法を駆使することで、電力の需給は調整できるのです。
こうした施策によって、デンマークでは風力が電力需要の100%を超えることもある。ドイツも2016年5月には、数時間とはいえ自然エネルギー100%の状態になりました。もはや、自然エネルギーはお天道様まかせ、風まかせではなく、充分安定供給が可能であることが証明されているのです。
一方で、いまだに「ベースロード」に固執して、自然エネルギーの普及を妨げる壁がいくつもあるのが日本です。原発による独占や利権を守るために、自然エネルギーを送電線に接続する時に制限を設けたり、本来自然エネルギーを普及させるために皆で負担すべき接続に伴う費用を1事業者に全面的に負担させたり、廃炉費用を新電力事業者の電気料金にも乗せるなど、アンフェアなことが行われています。
「パワーエリート」から「ご当地エネルギー」へ
――日本が自然エネルギーによりシフトしていくためには何が必要でしょうか?
飯田 発展途上にある日本の自然エネルギー市場をねじまげようとする動きはありますが、決して悲観する必要はありません。
これまでは、エネルギーをつくるのは、電力会社を中心とする超大企業の人間、つまりパワーエリートと呼ばれる人たちでしたが、いまは地域のなかにエネルギーに取り組む人たちが無数に増えている。日本各地に小規模分散型のエネルギーシステムで自立をめざす「ご当地エネルギー」が次々と立ち上がり、電力自由化で小売り業者もたくさんできました。生産者と連携して消費の力で商品を変えていった生協運動のように、消費の力でエネルギーを変えていくという動きも始まっています。
インターネットの普及が、それまでお役人と一部のメディアだけが握っていた情報を誰もが発信して双方向でやりとりできるものに変えたように、エネルギーも誰もが自分でつくってまかなえる時代が来るのです。
――一方で、自然エネルギーの設置場所をめぐる立地の問題や、パネルなどの廃棄物を懸念する声もありますね。
飯田 外から入ってきた大資本が、その地域の意向や景観、環境を無視して開発しようとしているケースなどでは問題も生じます。地域の人たちがオーナーシップを持つような形で進めることが大切でしょう。また、農地の上に3分の1程度だけ日陰になるようにして太陽光パネルを設置し、畑として作物も作れるようにする、「ソーラーシェアリング」という方法もやり方のひとつです。
太陽光パネルの廃棄物のリサイクルシステムがまだ確立していないことや、風車への野鳥の衝突(バードストライク)などの懸念があることは、まだ課題です。それでも、原発は取り返しの付かない重大な事故を起こし、ほぼ永久に処理できない廃棄物を残す持続不可能なエネルギーであるのに対し、自然エネルギーは人類が消費するエネルギーの1万倍も降り注ぐ太陽エネルギーを起源とするため、根源的にクリーンで持続可能です。矛盾を抱えながらも、1歩ずつ改良を加えて前に進む“漸進主義”の考え方も必要ではないかと私は思っています。
「最初は無視される。次に嘲笑される。そのうち闘ってくる。最後はあなたが勝つ」
――「ご当地エネルギー」を成功させていくためのポイントは何でしょう?
飯田 とにかく、できるだけ地域の人たちが関わり、自分たちの手でつくることです。たとえば、人口1万人地域の光熱費はおよそ年間10億円。これは同地域の地方税収にほぼ匹敵する金額ですが、いまは電気代は電力会社、灯油代は石油元売り会社と、ほとんど地域から出て行ってしまっている。でも、エネルギーを自分たちの手でつくれば、その10億円は地域の中で回るのです。
地域に広めていくためには、いきなり発電事業を始めるんじゃなくて、まずはいろいろな人を巻き込んで、地域の将来像をともに話し合うプロセスが大事です。
たとえば、「おらってにいがた市民エネルギー協議会」は、地域の市民運動が中心になって始まったご当地エネルギーで、脱原発を掲げた知事誕生の原動力にもなりました。地域で電気のことを考えることで、新たなコミュニティができたり政治を動かしたりといろいろな作用がもたらされる。地域を変えていこうと活動するおかあさんや若者の姿から、政治を自分に取り戻そうという新しい風を感じました。
また、福島では「2040年までに自然エネルギー100%へ」というスローガンの下、自分たちの地域を自分たちで何とか再生しようと動いている人がたくさんいます。原発で大切な家や田畑を汚染され、いまも何万人もが避難している福島で、その悔しさを自然エネルギーによる地域自立という希望にかえてつながっている。素晴らしい使命共同体ができあがりつつあるのです。
――住民一人ひとりの参加が、地域社会そのものを変えていく力になりそうですね。
飯田 「最初は無視される。次に嘲笑される。そのうち闘ってくる。最後はあなたが勝つ」――私には、民主主義を称えるこのガンジーの言葉が自然エネルギーの未来に重なって見えます。
じつは私は学生時代に原子核工学を専攻し、卒業後も10年ほど原子力産業に携わっていました。黒を白と言う、原子力に疑問をもつことを許さない“原子力ムラ”の実態と空気が嫌で飛び出し、環境エネルギー革命の真っただ中にあったヨーロッパに身を置いたことが、現在の礎になっています。
原発を維持する力との闘いは世界中で起こっていますが、必ず勝てると私は信じます。知恵を出し合い、助け合いながら、一人ひとりが「ワン・オブ・ゼム」(それらの一人)となり、社会をつくり、エネルギーを自分たちで生み出していきましょう。