鍋のふたをおそるおそる開けて、中の様子を見る二人の子ども

子ども厨房に入るべし! 「親は見守るだけ」の料理教室には、家でやってみたい食育のヒントがたくさん

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食材の色や変化を見る。トントン、シュンシュンといった音を聞く。においをかぐ。手で触る。味を確かめる。五感をフルに働かせてする料理。生活協同組合パルシステム茨城 栃木の食育プロジェクト「もぐもぐキャラバン」では、料理体験を通して子どもたちの食に対する関心を高め、食べ物や食べることへの感謝の気持ちを育もうと、7年前から「子ども料理教室」を開いています。教室を訪ねると、家でもすぐにできる食育のヒントがたくさん見つかりました。

親は、口も手も出さないのがお約束

 肌寒さの残る3月中旬、茨城県鉾田市にある大洋公民館の調理室に、「おはようございます!」と元気にあいさつしながら入ってきたのは、5歳から8歳までの子どもたち7人とその保護者。「もぐもぐキャラバン」が主催する、小学校低学年向けの「子ども料理教室~初級編~」の参加者です。

料理教室の冒頭、先生の話に耳を傾ける子どもたちと付き添いの親

パルシステム茨城 栃木の食育プロジェクト「もぐもぐキャラバン」メンバー、さとみ先生のあいさつでスタート

 「子ども厨房に入るべし」が、教室のキャッチフレーズ。この日のミッションは、「自分と付き添いの親の朝ご飯を作る」。メニューは、「ご飯」「豆腐とわかめのみそ汁」「目玉焼き」「ウインナー」「かぶときゅうりの浅漬け」です。

今回の料理教室で使う食材が各親子の人数分ずつ、調理台に置かれている

 オープニングのあいさつに続いて始まったのは、お米をとぐデモンストレーション。

 「まず、軽量カップで1合量ります。お米は、1合、2合って数えるんだよ」

 「もぐもぐキャラバン」メンバーで、この日のメイン講師・さとみ先生が、子どもたちの目を見ながら、ゆっくりと説明します。そのしぐさや言葉を、見逃すまい、聞き逃すまいと、身をのり出し、じっと耳を傾けている子どもたちの表情は、真剣そのもの。

先生がお米をとぐ様子を興味津々で見つめる子どもたち

 「お米に水を入れて、3回洗いますよ。まず1回目ね。手でぐるぐる回しながら、10数えましょう」「1、2、3……10!」

 「お水の色はどうかな?」「白!」

 「じゃ、あと2回洗うよ」

 「お水の色はどうなった?」「薄くなった!」

 「お米の最初の様子を覚えておいてね。後でお水を吸わせたらどうなるか、見てみてくださいね」

 見た目の変化を子どもたちときちんと共有しながら、次のステップへ。

お米をとぐたびに、水の色が薄くなっていることをみんなで観察

 「それでは、各テーブルに分かれて、しっかり手を洗ってから始めてください。今日は、お母さんは手伝ってくれません。皆さんが自分で、頑張って作ってくださいね」

 そう、親は口も手も出さずに、ただ見守るだけ――それが、この料理教室の大事なお約束。

先生を真似てお米をといでみる子どもの手元

「4つのおさら」を柱に、子どもたちに出前授業も

 「もぐもぐキャラバン」の活動メンバーは、現在15人。全員、パルシステム茨城 栃木の呼びかけにこたえて集まった組合員です。

 3歳の男の子のお母さんでもあるさとみ先生は、2年前から参加。以前はレストランの厨房で働いていた経験もあり、「食育に関することに携われれば」と、メンバー募集に手を挙げました。

並んで取材に答える、「さとみ先生」こと神長里美さんと食育委員会委員長 川浪肇子さん

左から、共に組合員でもある「さとみ先生」こと神長里美さん、食育委員会委員長 川浪肇子さん

 この日のような「子ども料理教室~初級編~」のほかに、小学校4年生以上を対象に、自分と家族のお弁当作りに挑戦する「子ども料理教室~中級編~」や親子で参加できる「季節の手づくりおやつ教室」も。また、茨城・栃木県内の保育園や幼稚園、小学校で、メンバーが作成したオリジナルの紙芝居やパネルシアターを使って「食育出前授業」も開いています。

 「もぐもぐキャラバン」の活動の根っこにあるのは、日本における食育の先駆者・吉田隆子さん(NPO法人「こどもの森」理事長)の提唱する「4つのおさら」(※)の考え方。吉田さんの講演会に参加したり、「こどもの森」を視察して学んだことを取り入れながら、精力的に活動しています。

料理教室の最後に子どもたちに配布される、「4つのおさら」の考え方が書かれたランチョンマット

料理教室の最後に子どもたちに配布される「4つのおさら」ランチョンマット

※:主食、汁物、主菜、副菜をそれぞれ「黄のおさら(主食)」「白のおさら(汁物)」「赤のおさら(魚や肉が主役のおかず)」「緑のおさら(野菜が主役のおかず)」と名づけ、バランスの取れた食卓の目安とするもの。

参考記事:食育の第一人者・吉田隆子さんが伝える 子どもを変える「食の力」(KOKOCARA)

「卵を割る」も、立派な食育

 さて、教室に話を戻しましょう。3つのグループに分かれた子どもたちの前に、一人分ずつ用意されているのは、これから使う食材一式。テーブルごとに先生がつくので、子どもたちは目の前でお手本をじっくり観察できます。

目の前の先生のお手本をじっと見つめる姉弟

 「子どもによってできることに差があるので、みんなが納得しながら進めるペースを心がけています」と、さとみ先生。だれかが遅れぎみだったりと、つい手助けしたくなるような場面でも、じっと見守り、子ども自身が手を動かしたり体感したりすることを大事にしています。

軽量スプーンで慎重に油を量る女の子
ていねにレタスを水で洗う男の子

 調味料を量る、包丁で切る、火をつける、だしを取る、味付けをする……。シンプルなように見えて、低学年向けのメニューには、調理のイロハがきめ細かく組み込まれています。例えば、主菜を目玉焼きにしたのは、「卵を割る」という体験をさせるため。

 「まず、トントンと殻にひびを入れてください。それから、ひびのところに両指を入れて、そっと両方に引っ張っていきます」

 お手本に続いて、いざやってみると、慎重になりすぎて殻になかなかひびが入らなかったり、逆に、勢い余ってぐしゃっとなってしまったり。あちこちから、「あーあ」というため息が聞こえてきます。

ゆっくりと卵を割る子どもの手元

 でも、この日は自分の分とお母さんの分とで、卵を割るチャンスは2回。1個目のときにうまく割れずに悔しそうにしていた子も、2個目では白身も黄身もきれいに取り出すことができ、ほっとしたような表情に。

男の子が卵割りに成功した瞬間を見守る兄と大人たち

緊張の瞬間! 初めての包丁

 浅漬け用に野菜をカットするところで、いよいよ包丁の出番です。

 「血が出るかもしれない」「けがしたらどうしよう」と不安そうな子どもたち。そばで見守るお母さんたちもドキドキです。「ちゃんと話を聞いて注意を守れば、大丈夫だよ」と、先生。包丁の持ち方、置き方、食材の押さえ方を、一つ一つしっかり伝えます。

先生に包丁の扱い方を習う子どもの手元

 包丁を持つのは初めてという8歳の男の子は、「猫の手」に丸めた左手できゅうりをしっかり押さえながら、神経をぐっと手元に集中し、ゆっくりゆっくり刃を下ろしていきます。端っこに行くほど押さえにくくなるキュウリ。ちょっと止まって考えてから、さらに慎重に包丁を動かし、最後まできれいに切り終えることができました。

先生に見守られて、きゅうりの端っこまで包丁で慎重に切っていく男の子

 「何歳から子どもに包丁を持たせるのかは難しいところですが、私自身は、子どもが興味を持った時、と考えています。もちろん、最初は傍について、注意すべき基本をしっかり伝えたうえですが」と、さとみ先生。「けがの心配もありますが、それも包丁の怖さを知るよい経験。信頼して、子どものやる気を大事にしたいですね」

包丁で手のひらの上にある豆腐を切る女の子

家庭でも、味見や味付けを子どもたちに

 味の体験も、この教室が大事にしていること。みそ汁のだしを、昆布とかつおぶしで取るのも、子どもたちに「本物」を味わわせるためです。

 「家庭でよく使われる手軽な顆粒だしは、塩分が入っていることが多く、それになじんでいると、自然のままのだしが物足りなく感じるようですね」と、さとみ先生。確かに、「だし」を味見した子どもたちに、「どんな味?」と聞くと、「うーん」と口ごもったり、顔をしかめたり。こちらがつい期待してしまうような「おいしい」という声は、なかなか聞こえてきません。

お椀で味見をする女の子

 「だしに限らず、料理の途中で食材を味見させたり、料理の味付けに子どもを引き込むことも、繊細な味わいをキャッチする舌を育むために大切だと思います」

 鍋を囲み、みそ汁の味決めをする子どもたち。

 「どう?」「うーん、まだ薄いかな」

 「どう?」「これでいいと思う」

 だしの入った鍋に溶いたみそを少し加えて味見、また少し加えて味見……。頭と舌をフル回転させながら話し合っている姿が、とても頼もしく見えます。

味見を基に、相談しながら追加するみそを用意する子どもたち

最後は笑顔で「いただきます!」

 目玉焼きも浅漬けもみそ汁も用意でき、ご飯も炊けて、いよいよ試食タイム。自分の分とお母さんの分をお皿に盛りつけ、テーブルに並べます。心配そうに見守っていたお母さんたちも、ようやく安心して席に着き、みんなでそろって「いただきます!」

子どもたちが作った料理が皿にもられ、スタッフがゆでたウィンナーとデザートの広島県産清見オレンジが添えられた

子どもたちが作った料理に、スタッフがゆでたウインナーとデザートの広島県産清見オレンジを添えて

 「何が難しかった?」「野菜を切るところ」

 「楽しかった?」「疲れたー」

 「目玉焼き、きれいにできたね」

 「おみそ汁の味付け、ばっちりだね」

 それぞれのテーブルで、親子の会話が弾みます。

 一生懸命、自分の手を動かして作ったご飯。それをおいしそうに食べるお母さん。子どもたちの顔に浮かんでいたのは、最後まで自分たちの手で「やり切った」という達成感、難しかったけれどあきらめないで「できた」という自信と喜び、そして、何より「楽しかった」という満足感。

試食をする親子1
試食をする親子2

 「家では、子どもが料理をしたいと言っても、つい『後でね』なんてじゃまにしてしまっていました。子どもを信じて、任せることが大事なんですね。初めに丁寧に説明すれば、子どもだけでもちゃんとやれるということが分かりました」と、納得した様子のお母さん。親にとっても、口や手を出しそうになるところを、我慢してじっと見守る体験は貴重だったようです。

 「ここに参加して苦手な食べ物を克服できたという話や、この体験をきっかけに、家でも料理に興味を持ってどんどん上達したという話も聞きます。この活動をやっていてよかったと思う瞬間ですね」と、さとみ先生のひとみが輝きます。

嬉しそうに話す「さとみ先生」
料理教室の最後、先生からお褒めの言葉とランチョンマットなどの景品をプレゼント

最後は子どもたち一人一人に担当の先生から、お褒めの言葉とランチョンマットなどの景品をプレゼント

 「食育」とか「子どもの料理」というと、何となく面倒に思ったり、大げさに構えたりしてしまいがち。あるいは、何から始めさせればいいのか、どう教えたらいいのか分からない、という人もいるでしょう。

 けれど、大人にとっては何でもないような小さな作業、例えば、卵を割る、レタスをちぎる、お皿に盛りつけるといったようなことが、子どもの感性や好奇心を刺激し、親でも気づかなかった能力を引き出すきっかけになりえるもの。朝食作りを通してたくさんの驚きや発見、感動を体験した子どもたちの、まるで冒険を終えて帰ってきたような晴れ晴れとした笑顔が、「食育とは何か」を教えてくれます。

 さあ、わが家でも、「子ども厨房に入るべし」。まずは何から任せてみましょうか。

料理教室に参加した子どもが書いた感想
きゅうりを切る男の子の手元

取材協力=もぐもぐキャラバン、パルシステム茨城 栃木 食育委員会 取材・文=高山ゆみこ 写真=疋田千里 構成=編集部