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ごはん茶わんを持ってほほえむ、ごはん同盟のシライジュンイチさんとしらいのりこさん

ごはん同盟のシライジュンイチさん(左)、しらいのりこさん(右) (写真=深澤慎平)

おいしくごはんを炊ける人、食べる人を増やしたい。ごはん同盟の「おかわりは世界を救う」

  • 食と農

新潟県出身のしらいのりこさんとシライジュンイチさんは、ご夫婦で「ごはん同盟」を結成。ごはん好きの、ごはん好きによる、ごはん好きのための炊飯系フードユニットとして活動し、その内容は炊飯ワークショップやお米やごはんに関連するレシピ開発、取材執筆、イベントと幅広い。活動の経緯やその中で感じていることを伺った。最後に「おいしいごはんの炊き方」も紹介!

新潟県出身。実家はコシヒカリの米農家

――しらいのりこさんと、シライジュンイチさんは、炊飯系フードユニット「ごはん同盟」としてご夫婦で活動されています。結成のきっかけは?

シライジュンイチ(以下、ジュンイチ) 私の実家は新潟の米農家なんですけど、継がずに東京に出てきてしまったんです。それで、本業のかたわら、親孝行のために実家のお米をマルシェなどで売っていたんですよね。

 ちょうどそのころ、のりこさんが料理の仕事を始めていたので、実家のお米を食べてもらうのが目的だったら、炊いたごはんを食べてもらっても同じじゃないかと思って。それで、SNSで参加者を募集して、実家のお米をみんなで食べるイベントを始めたんです。

ごはん同盟のシライジュンイチさん

写真=深澤慎平

しらいのりこ(以下、のりこ) ジュンイチさんの話を補足すると、そもそもマルシェでは、そんなにお米は売れなかったんですよ。東京では車で来ている人が少ないので、重いものはあまり買わない。それで、みんなに炊いたごはんを食べてもらうイベントをしよう、ってなったんだよね。

ジュンイチ そうそう。そのときに付けた名前が「ごはん同盟」でした。それが2011年。あれから12年。こんなに続くと思ってなかったです。

いつの間にか「ごはんに詳しい人」になっていた

――いまでは全国で炊飯ワークショップ(WS)を開催したり、テレビや雑誌でごはんに合うおかずのレシピを紹介されたりと多方面で活躍されていますが、元は本業としての活動ではなかったのですね。

のりこ 最初は単なる余暇活動です。私も新潟出身で実家は魚屋ですが、「新潟のお米が世界一おいしい!」と思って育ちました。新潟県人はみんなそうなんじゃないかな。だから、いろいろなイベントをやることで、自分たちのお米のおいしさを知ってほしかったんです。

 イベントをやってみたら、初対面の人を含めて20~30人も集まって、6升の炊きたてごはんがみるみるなくなっていきました。そのようすを見て、ごはんが持つ底力に希望を感じたんです。ごはんのおともをたくさん作り、お米を炊き続けて、「フリードリンク」ならぬ「フリーライス」のイベントになりました(笑)。

 それ以来、だんだんお米に対する興味も深まって、ほかの品種も試してみるようになり、それぞれのおいしさがあることにも気づきました。炊き比べもしたし、いろいろな鍋や炊飯器も試すようになったんです。

ごはん同盟のしらいのりこさん

写真=深澤慎平

ジュンイチ そうしているうちに、「ごはんに詳しい人」として、ごはんの炊き方を教えてほしいという話をいただいたり、取材が来るようになったりして自然と活動が広がっていきました。

――ところで、今日のお二人の衣装は、もしかして「ごはん」……ですか?

ジュンイチ そう。この黒いTシャツは海苔で、白いエプロンがごはん。いつもごはんをイメージさせる白黒の組み合わせが多いです。

のりこ たまに、カレーを作るときは黄色、玄米のときは茶色いTシャツを着ることもあるよね。

――よく似合ってらっしゃいます。

身近な存在すぎて、意外と知らないお米のこと

――今回、パルシステムでも組合員向けに炊飯ワークショップ(WS)を開催しましたが、計量から炊き上がりまで、ポイントをひとつずつ紹介しながら、参加者のみなさんと実践されていました。

のりこ 炊飯WSの活動は「おいしいごはんの炊き方を知りたい」という声から始まったんです。日本は「お米の国」だってみんな言うじゃないですか。でも、あまりにも身近な存在すぎて、お米やごはんについて知らないことが意外とたくさんあるんですよね。

炊飯ワークショップで、おいしいごはんの炊き方を参加者に教えるしらいのりこさん

「パルひろば☆おおたかの森」で開催した炊飯WSのようす(写真=深澤慎平)

 今回は鍋で炊きましたが、どのWSで聞いても、家では炊飯器を使っているという人が8~9割。なので、炊飯器のスイッチを入れる前の、計量や水の温度、とぎ方といったところに重点を置いて伝えることが多いです。

 そもそもふだんから土鍋でごはんを炊いているという人には、もう私が教えることもないと思うんですよね。

ジュンイチ あきらめるなよ(笑)。

のりこ だって、その人は十分一生懸命やっているじゃない。WSの半分は聞いたことがある内容かもしれませんが、間違った知識のまま炊いている人も多いです。

 たとえばお米のとぎ方も、昔は手のひらの付け根でしっかりとぐと習った人もいると思いますが、いまは精米技術が向上しているので、できるだけやさしくとぐほうがおいしく炊けますよ。

ジュンイチ 炊飯のコツは一度覚えると試す機会が多いのもいいところ。「おいしい唐揚げのコツ」を家で毎日は使えないけど、炊飯なら日々実践できる。ごはんがおいしく炊けると、毎日の食事そのものが楽しくなります。

炊飯ワークショップで、参加者と談笑するしらいのりこさん

WSの参加者からは「目からウロコで、学ぶことが多い」との声も(写真=深澤慎平)

とにかく冷たい水でお米を研いで、炊いてみて!

――たくさんの炊飯ポイントがあると思いますが、「これだけは大事」というものを絞って挙げていただくとしたら何でしょう?

ジュンイチ 「冷たい水で炊くこと」と「炊き上がったらすぐにほぐす」。この2点ですね。

のりこ ほうほう。

ジュンイチ ほうほうって(笑)。

のりこ いや本当に、冷水で炊くのはおすすめなので、ぜひやってほしいです。「ミネラルウォーターのほうがいいですか?」と聞かれることもあるのですが、普通に飲める水だったら、そこまでの味の差はありません。もし私がポスターを作るなら、キャッチフレーズに「ごはん同盟は水質より水温を大切にしています!」と掲げますね。

炊き上がりにほぐすことの大事さに関していえば、家で炊飯器から炊き上がった音がすると、ジュンイチさんが寝ていてもがばっと起き上がって、ほぐしに飛んで来るくらいです。びっくりしちゃう。

笑いながら話すしらいのりこさんとシライジュンイチさん

写真=深澤慎平

ジュンイチ そのエピソード要るかな……。あと、たまに氷を入れて炊いている人がいますけど、あれは水分量の計算が変わってくるし、冷たいところとそうでないところの温度差ができて炊きムラにつながるのでおすすめしていないです。

のりこ 私は以前、お米屋さんで働いていたのですが、おいしいごはんを炊くには、「お米」だけがよくてもダメで、「炊く人の力」と「道具の力」の3つが必要になるのだと教わりました。でも、だいたいみんな、お米か道具のせいにしちゃう。

ジュンイチ おいしいお米があれば、おいしいごはんになるわけではないんですよ。どうやって保存するか、とぐか、水や火加減、ほぐしのタイミングとか、いろいろな要素が絡み合って、おいしいごはんになる。炊く人の知識や技術によって味が分かれるのが、炊飯の面白いところです。

炊飯ワークショップで、実際にボウルの中に入れた米をとぎながら、参加者の人たちに研ぎ方を教えるシライジュンイチさん

お米のとぎ方を参加者の目の前で実演して見せるジュンイチさん(写真=深澤慎平)

いまも昔も「はじめちょろちょろ中ぱっぱ……」

――炊飯の基本は、「沸騰の10分、蒸し焼きの15分、蒸らしの10分」という紹介もありました。どんな鍋にも応用ができるので覚えておくと便利ですね。

のりこ 「始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣くともふた取るな」っていう歌を覚えている人も多いと思うのですが、あれ実は途中の歌詞が抜けているんですよ。

 「始めちょろちょろ中ぱっぱ(弱火から沸騰させていく)、じゅうじゅう吹いたら火を引いて(沸騰したら弱火にして)、ひと握りのワラ燃やし(一度高温にして温度が下がらないようにする)、赤子泣くともふた取るな(火を止めて蒸らしの時間)」というのが全文(※)。

 なぜか途中だけ抜けちゃったんだけど、歌に炊飯の基本が全部入っていて、いまと全然変わっていません。

※:地域によって歌詞にバリエーションがあります。

炊飯ワークショップで、ごはんを炊いている鍋に耳を近づけて、炊き上がりの音を確認しているしらいのりこさん

わかりやすく解説しながら、炊き上がりの音を確認するのりこさん(写真=深澤慎平)

ごはんの炊き方は突き詰めると化学の話

――炊飯WSなどでのお二人の役割分担は、どう決めているのですか?

のりこ 炊飯は化学みたいなところがあるので、説明はジュンイチさんにお任せしています。私はあんまり理屈っぽい話は得意じゃないので。

ジュンイチ 炊飯っていうのは、お米のでんぷんを水と熱の力で変化させるものなので、突き詰めると化学の話になっちゃう。

 水温が低いほうがいいのも、中に含まれる酵素が働くのにちょうどいい温度帯が長く保てるからで、そうするとごはんが甘くなる。そういう裏付けを調べるのが私の役割ですね。でも、酵素の働きがどうのと言っても覚えられないと思うので、WSでは「冷たい水で炊いてください」と、炊飯時にやってほしいことだけを伝えています。

のりこ とぐ水は冷たいほうがいいというのは、私が以前に働いていたお米屋さんで教えてもらったことなんです。そのお店は特別な機械を使って5℃の冷水でお米をといでいました。5℃ですよ、もう冷たいなんてものじゃない! それで、私が「5℃がいいらしいよ」って、手がしもやけになるような思いをしながら実践してきて……。

ジュンイチ 私がその裏付けを調べる。

のりこ 冷たい思いをせずにね(笑)。そういう役割分担です。

炊飯ワークショップで、ごはんに浸水させる水を注ぐ、参加者の男の子と女性

今回のWSでも冷たい水を使って実践(写真=深澤慎平)

週にもう一杯だけ多くごはんを食べる人を増やしたい

――WSもお二人の掛け合いで楽しく進んでいくのが魅力ですよね。「ごはん同盟」が理念に掲げる「おかわりは世界を救う」についても教えていただけますか?

のりこ 約60年前と比べると、いまの日本のお米の消費量は半分くらい。すごく減っているんです。

 そうすると、お米が余って価格が安くなる。それは消費者にとってはうれしいことかもしれないけど、米農家さんの収入減につながるので離農する人が増えてしまうことになる。その結果、極端な話をすれば将来は国産のお米が食べられなくなるかもしれません。

 そういう現状を考えると、いま私たちが「食べ支え」をしないといけない。たとえば、みんなが週にもう1回、ごはんを一杯食べるだけで、いまの米余りは解消できる可能性だってある。だから「おかわりは世界を救う」なのです。

ジュンイチ 正直に言うと、活動を始めた当初はそこまで考えてなくて、実家のお米のおいしさを知ってほしいというのが目的だったんですけど、米農家さんの現状などを知るようになって、「ごはん同盟」の活動にも意味があるんだなと思うようになりました。

 おいしいごはんを炊ける人と、おいしくごはんを食べる人を増やす。そのために、ごはんをおいしくいただく方法を探求して、その成果を多くのごはん好きのみなさんと分かち合う。「もっと気軽に、おいしいごはんが食べられるよ」ということを伝えるのが、ごはん同盟の役割なのかなと思っています。

のりこ あんまりまじめなことばかり言うと、「いい人」みたいに見えちゃう(笑)。

 私たちは、「ごはんって、おいしいよねぇ」って、ゆる~っと伝えていきたいんです。難しいことを言っても人は動かないし、なかなか伝わらないから。理屈じゃなくて、「ごはん、おいしそう!!」っていうのをまず伝えたい。

炊飯ワークショップで、自分で炊いたごはんをほおばる少年

WSでは、「自分で炊いたごはんは格別!」とおかわりする人が続出(写真=深澤慎平)

無洗米は手抜きではなく、「アップデート」

――たしかに大事なことですね。ごはんがいいと思いつつ、炊くのが面倒で麺やパンを選んでしまう人もいるように思います。

のりこ 食の選択肢がたくさんあるなかで、お米だけ食べるのは現実的には難しいかもしれません。最近気になっているのは、子育て世代の方から「無洗米を使っているんですけど大丈夫でしょうか……」みたいな相談を受けること。「無洗米=怠けている」「ちゃんと手間をかけてとがないといけない」というイメージがあるんでしょうね。

 でも、無洗米もパックごはんも手抜きじゃなくて、お米の技術がアップデートした結果です。なので、罪悪感を持たずに大手を振って使っていただきたいです。

ジュンイチ 実際に、味も本当においしくなっているよね。

のりこ そうなんだよね。いま冷凍うどんは当たり前のように食べられていますけど、「ゆでてなくてごめんね……」って罪悪感を覚える人はいないですよね。

 お米の消費拡大っていうとつい子どもたちに食べさせなきゃって大人は思うんですけど、子どもは今も昔もしっかりごはんを食べてます。むしろ親、祖父母の世代の米離れが深刻なんです。大人に合わせてごはんを食べなくなったら、どんどん消費は下がってしまいます。「手間をかけなくちゃ」と思うあまり、結果として「面倒だから食べない」となってしまうのは残念です。

パックごはんをごはん茶わんによそっている場面

「負担にならない方法で、どんどんごはんを食べてほしい」とのりこさん(写真=大木啓至)

新米はこの時季だけ。温度を変えて二度味わって!

――さて、これから新米の季節です。最後に、ごはんの魅力についてお願いします。

のりこ ごはんはなんにでも合うし、食べると幸せな気分になれるところが私は好き。とくに新米はやっぱりおいしい! 新米ならではのおいしさ、みずみずしさはこの時季だけ。新鮮なお刺身を食べるような気持ちで、新米を優先して食べてほしいです。

ジュンイチ 新米の炊き方は基本的に同じなのですが、やわらかく炊き上がることが多いので、一度炊いてみて「やわらかいな」と思ったら、大さじ1か2くらい水を減らして炊くといいですよ。

のりこ あと、炊きたてはもちろんおいしいのですが、人肌くらいの温度になったときに、おいしいお米は力を発揮するんです。甘みを感じやすくなる。なので、炊きたての熱々のうちに一杯食べて、次に人肌温度のおむすびにしてから味わうといい。二度おいしいです!

【おいしいごはんを炊いてみよう】

 パルシステム主催の炊飯ワークショップで紹介されたポイントの一部を紹介します。

●計量

お米と水の割合はとても大事。米専用の計量カップにまず山盛りにお米を入れて、箸などですりきって正確に計ります。デジタルスケールで重さ(1合=150g)を計ると、より正確です。

すりきり一杯(約150g)の米を入れた計量カップをのせた電子スケール

「途中で話しかけられて何合計ったかわからなくなった経験ありませんか? 重さなら心配がありません」(のりこさん)(写真=深澤慎平)

●とぐ

  1. ボウルや炊飯器の内釜に計量したお米を入れます。1回目はとがずに水を注いで表面の汚れを洗い流すだけ。水はすぐに流しましょう。
  2. 2回目は、グレープフルーツを握るような手の形で、水をきった状態で手をまわし、お米同士を10~20回こすり合わせます。それから水を入れて汚れを洗い流します。3回目も同様に。
  3. 4回目はとがずに、水を入れてすすいで流して終わり。水が透明になるまでとぐ必要はありません。最後はざるにあげて20~30秒おいて水けをきります。

ボウルに入れた米を手で洗っている場面

「なるべく冷たい水を使って、ゴシゴシとがずに軽く洗うのがポイント」(のりこさん)(写真=深澤慎平)

●吸水

お米1合に対して水200ml程度を目安に保存容器などに入れ、冷蔵室で2時間~半日ほど吸水させるのがおすすめ! 冷たい温度のほうが芯まで吸水します。

※炊飯器を使って炊く場合は、といだお米をすぐに内釜に移し、目盛りまで水を加えたらスイッチを入れてOK(吸水もプログラムの時間に入っています)。事前に吸水させたお米を炊く場合は「早炊き、高速炊飯モード」で。

吸水して、水をしっかり吸って真っ白になった米粒

「ちゃんと吸水した米粒は真っ白。指先でつぶせます。見た目や感触での判断も大切に」(のりこさん)(写真=深澤慎平)

●炊飯

  1. 鍋で炊くときの基本は、「沸騰の10分+蒸し焼きの15分+蒸らしの10分」。まずは最初の10分でちょうど沸騰するくらいの弱~中火の火加減からスタート。
  2. 10分経って沸騰したら吹きこぼれないように火を少し弱めて、沸騰状態を15分キープします。
  3. 1~2秒ほど強火にしてから火を止めて、10分蒸らします(炊飯用土鍋を使う場合は蓄熱性が高いので、最初から火を強めにして12~13分で沸騰したら火を止めてもOK。詳しくは取扱説明書の炊き方を確認してください)。

「使う鍋によって火加減は変わります。パチパチと弾ける音が鍋から聞こえ始めたら火を止める合図です」(ジュンイチさん)(写真=深澤慎平)

●炊き上がり

炊飯器でも鍋でも、炊けたらすぐにふたを開けてほぐしましょう。しゃもじで十字に切って底から持ち上げ、余分な水分を飛ばすイメージで。

鍋で炊いたごはんをしゃもじで底から持ち上げてほぐしている場面

「とぐときも、よそうときも、お米にはやさしく!」(のりこさん)(写真=深澤慎平)

取材協力=パルシステム千葉 取材・文=中村未絵 写真=深澤慎平、大木啓至 構成=編集部