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窓辺にたたずむ小国士朗さん

写真=深澤慎平

「注文をまちがえる料理店」から「deleteC」まで。明るく、楽しく、カジュアルに、社会を変えていく

  • 暮らしと社会
世の中にはさまざまな社会課題があることは知っていても、なかなか行動できない――「社会を変えるには、そんな“僕みたいな人間”でもやってみたいと思える仕掛けが大事です」と話す小国士朗さん。NHKのディレクター時代に企画した「注文をまちがえる料理店」に始まり、がんの治療研究を支援する「deleteC」などを手掛けてきた小国さんに、プロジェクトの生まれた背景や軽やかにアクションを起こすために大切なことを伺った。

認知症って「なんかこわい」と思っていた

――小国さんは、社会課題にユニークな視点で切り込むプロジェクトを数々企画されていますが、2017年に初めて開催した「注文をまちがえる料理店」がまず思い出されます。認知症のかたたちがホールスタッフを務めるイベント型レストランですが、どのようにして生まれた企画だったのでしょうか?

小国士朗(以下、小国) もともと僕はNHKのディレクターとして番組制作をしていました。2012年、担当していた『プロフェッショナル 仕事の流儀』というドキュメンタリー番組で、認知症介護の“プロフェッショナル”である和田行男さんを取材したんです。

 恥ずかしながら僕、和田さんの運営するグループホームに行くまで、認知症についてあまり知らなかったんですよ。ネガティブなイメージが強くて「なんかこわい」、「できれば触れたくないテーマ」みたいに思っていました。

――取材をされてみてどうでしたか?

小国 実際に行ってみたら、自分のイメージとは全然違う世界がありました。穏やかで笑いもあるし、みんなでお料理とかもしてて。どこに認知症のかたがいらっしゃるのか分からないくらい。ただ、よく見ていると「ズレ」があって、それを和田さんたちがさりげなくサポートされていました。

 その施設では、認知症になっても最期まで自分らしく生きる姿を支える介護をポリシーにしていて、認知症の状態にあるかたたちが、炊事、洗濯、掃除など自分でやれることは何でもやる。買い物にも行きますし、行きつけの喫茶店でモーニングを食べたりもするんですよ。

インタビューを受ける小国士朗さん

写真=深澤慎平

ハンバーグのはずが餃子が出てきた

――一緒に過ごすうちに認知症のイメージが変わっていったんですね。

小国 ときどきみんなが作ったごはんを一緒に頂いていたのですが、ある日、「今日の昼食はハンバーグだよ」と聞いていたのに、餃子が出てきたことがあったんです。僕はびっくりして、「あれ、違いますよね?」と言いかけた。でも、その言葉をグッと飲み込んだんです。

 なぜかというと、その場にいるおじいちゃん、おばあちゃんたちが、めちゃくちゃおいしそうに餃子をパクパク食べていたから。餃子になったことを気にしているのは僕だけ。そのことがとても恥ずかしくなりました。「こうあるべき」にこだわって間違いを指摘するより、みんなでおいしく食べるほうが、ずっと豊かだなって思って。

 そのときに「間違いっていうのは、その場にいる人たちが受け入れてしまえば間違いではなくなるんだ」と気づいたんです。それは僕にとって、コロンブスの卵みたいな大発見。「この風景ってすてきだな」って心に強く残ったんです。

――その経験が「注文をまちがえる料理店」のアイデアにつながったのでしょうか?

小国 僕みたいに「認知症」という言葉は知っているけどよく分かっていない人、あるいは分かったつもりになっている人に、この風景を見てほしい。じゃあこの風景に名前をつけて、町の中に置いてみたら何になるんだろう?と考えた。そこで浮かんできたのが、「注文をまちがえる料理店」だったんです。間違いが起きても笑って受け入れてしまえるような風景に、みんなが触れられたらいいなと思って。

注文をまちがえる料理店の看板

「まちがえちゃったけど、まあいいか」がコンセプトの「注文をまちがえる料理店」は、小国さんがグループホームで見た風景から生まれた(写真:森嶋夕貴(D-CORD))

 ただ、当時の僕はNHKで番組を作るディレクターだったので、「いやいや小国くん、料理店作るより番組作ってくれる?」という話じゃないですか(笑)。だから封印して、しばらく思い出すこともなかった。思い出したのが2016年ごろだったのかな。

 実は、僕は2013年に突然心臓病になって、医者から「もう番組制作の仕事は辞めたほうがいい」と言われてしまったんです。番組を作れないディレクターに何の価値があるんだろう、とかなり落ち込みました。職場の人たちは優しくて、「小国くんは内勤でいいよ」と言ってくれる。でも、その優しさがかえってつらい。

 そうやって落ち込んで3カ月くらいたったとき、「いや、むしろおいしいじゃん」と思ったんです。

「番組を作らないディレクター」

――どういうことでしょうか?

小国 NHKには「U59問題」というのがあって、いちばん番組を見ている層は60代以上なんですよ。『プロフェッショナル』もそうでした。60代以上のかたが見てくれるのもうれしいのですが、これから社会に出る10代、20代、あるいは現役世代の背中を押したいと始まった番組だったので、大きな乖離があったんです。

 熱意と労力をかけて番組を作っても、本当に見てもらいたい人には何も届いていないっていう状況が本当につらかった。でも僕は病気で強制的に番組制作から降りることになったわけです。じゃあ届かない番組を一生懸命作るんじゃなくて、番組以外の方法で届けたらいいと考えた。それで、「番組を作れないディレクター」じゃなくて、「番組を作らないディレクター」になろうと決意したんです。

――「作れない」ではなく、「作らない」?

小国 「作れない」と「作らない」は1文字しか違わないけど、僕からしたらもう大転換。そこから番組以外の手段で伝えるための企画を打ち出すようになりました。

 そうした活動の中で「注文をまちがえる料理店」のことを思い出して「今こそやるべきなんじゃないか」と、まず和田さんに話しに行ったんです。

認知症介護のプロフェッショナルである和田行男さん(左) と小国士朗さん(右)のツーショット写真

認知症介護のプロフェッショナルである和田行男さん(左) と小国士朗さん(右)(写真:森嶋夕貴(D-CORD))

「原風景」がなければやらない

――「注文をまちがえる料理店」は、NHKに在職中に個人のプロジェクトとして手掛けられました。当時、周りからは「不謹慎だと言われるからやめたほうがいい」と心配する声もあったそうですが、そうした声を聞いて躊躇はなかったのでしょうか。

小国 最初から「認知症を見せ物にするな」とか「不謹慎だ」といった批判は、きっと出るだろうと思っていました。自分の中でも怖さや不安はもちろんありました。なぜ押し切れたかというと、さっき言った「原風景」を見ていたからです。 原風景というのは、ハンバーグのはずが餃子になっちゃったけど、おいしそうにみんなで食べていた風景のこと。それは僕がかってに頭の中で作ったものじゃなくて現実にあったことです。

 認知症に対して「なんかこわい」と漠然と思っていた僕みたいな人間のほうが、世間ではマジョリティかもしれないですよね。そんな僕が「これはすてきだな」と心を動かされたのなら、ほかにも同じように感じる人がいるはずだって思っていました。

――「原風景」が小国さんにとって大事な決め手なのですね。

小国 自分が本当に見たすてきな風景とか「なにそれ、面白い!」と思った瞬間とか、それらを「原風景」と呼んでいるのですが、それがない限り僕はプロジェクトをやりません。

 「注文をまちがえる料理店」なんて、机に向かったままでも思いつけるアイデアかもしれないですよね。「認知症の人が働くレストランがあったら面白そうだなあ」と。でも、それだと実際に何が起きるのか予想もつかない。やっぱり自分の中に強く心が動いたリアルな「原風景」があるかどうかが大切なんです。

注文をまちがえる料理店の開催時の様子。認知症のスタッフがお客さんの机の料理にこしょうをかけてサービスをしているシーン

「注文をまちがえる料理店」を開催したときのようす。認知症のスタッフがサービスを間違えたとしても、だれも怒ったりはせず、そこから自然にコミュニケーションが生まれる空間に(写真:森嶋夕貴(D-CORD))

やりたいことは「テレビジョン」

――その後、小国さんはNHKを退局されて、現在は個人で活動されています。小国さんの名刺には肩書きが一切書かれていませんが、独立されとき「次はこういうことがやりたい」という計画はあったのでしょうか?

小国 僕自身は、やりたいことはないんですよ。ただ、いいなと思っていることがつだけあります。それが「テレビジョン」です。テレビの語源になっている言葉で、「テレ」は遠くにあるもの、「ビジョン」は映すという意味です。

 僕はNHKに入局するまで、NHKの番組を見たことがなかったんです。だから入局してから「ここで何をすればいいんだろう?」と困ったんですよね。迷ったら、「もともとの意味はなんだっけ?」と原点に戻ることにしているので語源を調べてみた。そうしたら「遠くにあるものを映す」だったので合点が行きました。「なるほど、だからアマゾンに行ったり、宇宙に行ったり、深海へ行ったりして映すんだ」って。

――遠いから(笑)。

小国 でも、遠くにあるものは場所だけじゃない。人の心も遠くて分からないし、社会課題なんかも遠い。だから、NHKはドキュメンタリー番組を作ったり、社会課題を取り扱ったりしているんだな、とも思いました。

 これを広げると、「だれも見たことがない風景、だれも触れたことがない価値を形にして、広く多くの人に届ける」ともいえる。そうやって番組を作ってきたし、今もそれは変わらなくて「もっと自由にテレビジョンをやりたい」というのが独立の理由でもありました。

名前以外何も書かれていない小国さんの名刺

「肩書きをつけると何をする人って決まっちゃう。自分も相手もその枠にとらわれてしまうのがもったいない」という小国さんの名刺には名前だけがシンプルに書かれている(写真=深澤慎平)

「がんを治せる病気にしたい」

――小国さん自身がもともと、何かの社会課題に興味があって「何とかしたい」と始めるわけではないのですね。

小国 そうではないんですよ。きっかけをもらって始まることがほとんどです。例えば「deleteC」というプロジェクトの場合は、僕の講演会に来てくれたことから知り合った中島ナオという友人がきっかけだったのですが、彼女は31歳のときに乳がんになり、2年後に転移が見つかって、そのときはステージ4という状態だったんです。

 ナオちゃんは帽子などを作るデザイナーなんですけど、その商品を世の中に売ったり広げたりする手伝いを少しだけ僕はしていました。そうしたらある日、といっても正確に覚えているのですが、2018年の112日に彼女からカフェに呼び出されたんです。そこで「私はがんを治せる病気にしたい。何かアイデアを考えてほしい」と彼女から言われたんですね。それは僕にとっていちばん相談してほしくないテーマでした。

インタビュー中に机の上で手を組んでいる小国さんの手元の写真

写真=深澤慎平

――どうしてでしょうか?

小国 自分にはできることが何もないと思っていたからです。僕は医者でもないし、製薬会社の人間でもないし、お金もない。絶対に自分には無理だと思っていた。でも、彼女の話を聞いたら「そりゃ、そうだよな」と思ったし、腹をくくってアイデアを考えてみたんですけど全然思いつかない。

 出口が見つからなくて悩んでいたら、ナオちゃんが「そういえば、この間このかたに会ったんですよ」と言って、アメリカのがん専門施設で働く日本人医師の名刺を見せてくれました。それがMDアンダーソンキャンサーセンターの名刺で、「キャンサー」のところにビッと横線が引いてあったんです。その名刺を見た瞬間、僕は「これだ! Cを消そうぜ」と前のめりになりました。

 「がんを治せる病気にする」という想いに賛同してくれる企業の商品やサービスの名前からCを消してもらう。そしてその売り上げの一部をがんの治療研究のために使えたら面白いんじゃないかって。だから「deleteC」では、その名刺が原風景になっています。

「Cancer(がん)」の文字が、赤い線で消された「MD Anderson Cancer Center(MDアンダーソンキャンサーセンター)」の名刺

「Cancer(がん)」の文字が、赤い線で消された「MD Anderson Cancer Center(MDアンダーソンキャンサーセンター)」の名刺(写真提供=小国士朗さん)

「前のめり12度」になった瞬間がチャンス

――名刺を見てビビッときたのですね。

小国 無理だって思っていた僕が、「え、何これ」って前のめりの角度で名刺をつかんだ。「前のめり12度」って呼んでいるんですけど、それならきっと同じようにお店でCを消した商品を見て、前のめりになる人がいるはず。

 企業に「商品名からCを消してくれ」とお願いしに行くことは僕でもできるし、消費者としてその商品を買うのも簡単です。名刺を見た瞬間に「自分にもできることがある」と思えた。そうやって100社くらいを回って協力をお願いしていきました。

――2019年に始まった「deleteC」は現在も続いていて、延べ200社以上が参加するプロジェクトになりました。

小国 2020年からは、毎年9月(がん征圧月間)にユーザーによるSNS投稿アクション「#deleteC大作戦」も行っています。これはユーザーが参加企業の商品名のCを消してSNSに投稿すると、企業から「deleteC」を通じて1投稿当たり100円ががんの治療研究に寄附されるというもの。これなら、商品名からCを消してSNSに投稿するだけなので、若い学生やがんに対してなにができるだろう……と躊躇していた人でも気軽に参加することができます。

 社会課題について四六時中考えている人って本当に一部だと思うんです。だからこそ、僕みたいな社会課題に対して積極的に動くようなタイプじゃない人間が「何それ、面白い!」ってわくわく参加できるものにしたほうが、多くの人を巻き込んでいけるんじゃないかなって思っています。

小国さんの著書「注文をまちがえる料理店のつくりかた」と「笑える革命」

小国さんの著書には、これまで手掛けたプロジェクトが生まれた背景や発想のヒントが詰め込まれている(写真=深澤慎平)

素人が感じる疑問や面白さに鉱脈がある

――社会課題が遠くなりがちなのは、きちんと勉強したり、知識を持っていたりしないと、うかつに触れてはいけないのではないか、というイメージもあるように思います。

小国 それはあると思います。でも実は、よく知らない人のほうがほとんどですよ。それに知っている人だけが動いていたら数が限られます。知らない人こそ動いてなんぼ、です。

 僕は人の話を聞くときに、ノートに「面白いな」と思ったことを書いて赤丸をしておくんです。それから「分かんねえな」というものには青丸をつける。何も知らない素人のうちに感じたことが大事だから、それを何度も見返します。

 僕が「分かんねえな」って思うものは、大体世の中の人も分かっていない。みんな当たり前のように「サステナビリティ」とか言うけど、その意味を小学生に説明してくださいって言うと「うっ」となる。

 素人の僕が感じる面白さや疑問、違和感、そこにこそ、人を動かす鉱脈がある。僕は「熱狂する素人」のほうが、中途半端なプロよりもイノベーションを起こせると思っているんです。

――「熱狂する素人」というのは?

小国 僕は素人だから「Cが消えたら面白いよな」ということに熱狂しちゃうわけですよ。でも、これは広告代理店の人は絶対にやらない。クライアントの企業に「ブランド名からCを消しませんか」なんて言ったら怒られますから。でも、僕は代理店でも何でもないから、「Cを消したら面白いっすよね」と言えちゃう。

 企業の担当者のかたから、「小国さん、何歳ですか? 商品名からCを消すことの意味は分かりますよね」と怒られたこともあります。「分かります」「じゃあ、何で消せるか聞くんですか」「いや、でも面白いですよね」と埒が明かない(笑)。熱狂する素人ってそんな感じなんです。

 だって、あらゆる商品名からCを消すことでがんの治療研究に寄附が集まる世界のほうが絶対に面白そうだと思っているから、怒られても平気。そのうちに、企業の中にも「前のめり12度」で「いいですね、やりましょう」って言ってくれるところが出てくるんです。

「deleteC」メンバーの集合写真

中島ナオさんとスタートさせた「deleteC」は、プロジェクトに共感したさまざまな分野の人たちがメンバーに加わり、医療従事者と一体となって活動を支えている(写真提供=小国士朗さん)

「まあ、しょうがないな」で成り立つ社会

――小国さんは「社会課題は社会受容の問題であることが多い」ともおっしゃっていましたね。

小国 社会側の受容力を上げることで課題が課題じゃなくなることもあると思うんですよね。

 「注文をまちがえる料理店」は世界中に情報が広がっていったのですが、インドネシアの人から「バリ島じゃ絶対にはやらないな」と言われたんです。理由を聞いたら、「だって、バリ島のレストランはよく注文を間違えるもん」って(笑)。

 それを洗練されていないと取るのか、社会の寛容度が高いと取るのか。でも、間違えてもお客さんたちが別に怒るでもなく「まあ、しょうがないな」と言って成り立っている社会って、何かいいなと思ってて。

 「注文をまちがえる料理店」をやったときに、大雨の中を夜行バスでわざわざ来てくれた人がいたんです。その人はちょっとミスをしたら、すごくとがめられたり、あるいはだれかをとがめている人を見たりすることが多くて、「しんどいな」と思っていたそうなんです。だから「注文をまちがえる料理店」に心を揺さぶられたと話していました。

注文をまちがえる料理店でサーブされた料理の画像

「僕は“社会を変えよう”という高い意識を持って注文をまちがえる料理店をやっていたわけではないんです。存在を知ってくれた人やお店に来てくれた人が、それぞれ何かを感じてくれたら、それだけでいいと思っています」と小国さん(写真:森嶋夕貴(D-CORD))

「ドンマーイ!」と励ます自動改札機

――特に日本は、行き届いた完璧なサービスを求める傾向が強いですよね。

小国 だからといって僕も、日々そんなに寛容に生きているわけではありません。イライラすることもたくさんある。

 ただ、本当にものは考えようで、例えば混んでいる駅で、自分が急いで電車に乗ろうとしているときに、前の人が自動改札で「ピンポーン!」と引っかかってしまったら、やっぱりイライラしちゃうんですよ。「急いでいるのに、何してんだよ」って。

 でも、これって「ピンポーン!」と鳴るからイライラするけど、その音が「ドンマーイ!」だったら、多分怒らないなって思うわけです。しょうもないけど、自動改札機が「ドンマーイ!」と言ってくれたら、 周りの人も「そうだよな、ドンマーイ!」とちょっと応援してあげたくなるかもしれない。

――「ドンマーイ!」と鳴る改札機、いいですね。気持ちが和みそうです。

小国 ふふっと笑ってしまうじゃないですか。そうしたら、「何にイライラしてたんだろう、むしろドンマーイ!って言ってあげよう」みたいな価値転換が起きる。「ピンポーン!」が「ドンマーイ!」になる、たったそれだけのことでも受容力が上がるわけです。そういうことが、実は大事だなと思ったりするんです。

インタビューに答える小国士朗さん

写真=深澤慎平

難しく考えるよりも、まずアクション

――「CSA」(カジュアル・ソーシャル・アクション)という造語もよく使われていますが、これはどういうものですか?

小国 これは「deleteC」でも大事にしている考え方です。よく企業でCSR(企業の社会的責任)とかCSV(企業と社会が共有できる価値を創出する活動)という言葉が使われますよね。じゃあ次に来る、“CSほにゃらら”は何かと考えたときに、「CSA」という言葉をパッと思いついたんです。

 ソーシャル・アクション(社会課題解決のための行動)を起こすには、ちゃんと勉強して準備しないといけないと思われがちです。でも、そんなふうにかってにハードルを高くして結局動かないより、企業も個人ももっとカジュアルに軽やかに行動しましょうよ、という提案です。だって、そのほうが社会は変わるから。

 「deleteC」もそんな感じで、いろいろな人たちが「自分のできること」で参加してくれています。京都府の京丹後市に櫛田ひなのさんという中学3年生がいて、彼女は中1のときに少し学校に行けなくなってしまったそうなんですでも、父親から「deleteC」のことを聞いて、「それ、やりたい」と言い始めた。

――何が彼女を動かしたのでしょうか?

小国 実は、彼女には医者になる夢があったのですが、学校に行けなくなってしまい、もう無理だと思っていたそうです。でも、「deleteC」を通じてなら、自分でも医療を前に進める力になれるかもしれないと思った。

 そこからがすごいのですが、彼女は耕作放棄地でいちごを作る農家さんのことを知って、市場に出ないB級品をもらい、「いちごはローマ字で書くとCがある」といって東京ではやっているいちごあめを作り始めるんです。

 大人たちも巻き込みながら地元の商店街で売るなどして、たくさんの寄附を集めました。起業家ですよね。その彼女の原動力になったのが、まさに「自分にもできることがあった!」という思いでした。

――「自分にもできるかも」と思ったら、まずは動き出してみることが大切なのですね。

小国 みんながみんな、彼女のような起業家や企画者になる必要は全然なくて、やれることは人それぞれでいいと思うんです。

 例えば寄附になる商品を購入するだけでもいいし、SNSで広めることも大事だし、「注文をまちがえる料理店」のような場所に行ってみるだけでもいい。そういう一人ひとりの力が積み重なって、世の中は変わっていくのだと思う。

 「自分にできることって何?」という問いを持ち続けて、それが見つかったときには、躊躇しないで軽やかにアクションをしてみる。それがいちばん大事なんじゃないかなと思います。

“注文をまちがえる料理店 ” 2017レポートムービー

2017年9月、3日間限定で都内にオープンした「注文をまちがえる料理店」の記録動画。サービスをする認知症の人たちとお客さんとの間で起きた温かいやり取りのようすがこまやかに映し出されている。

 

取材・文=中村未絵 写真=深澤慎平 構成=編集部