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[TPPで迫る食の危機(3)]食卓に忍び込む「遺伝子組換え」―天笠啓祐さん

  • 食と農

年内の妥結に向け、急速に議論が進むTPP交渉。 アメリカは日本に対し、農産物の関税撤廃や自動車の市場開放を強く迫っています。 一方、懸念されていた遺伝子組換え表示は「変えなくていいことを確認した」とされます。 しかし、私たちの食卓には、すでに遺伝子組換え食品が大量に入ってきていることをご存知でしょうか。TPPを象徴とした自由化の背景にあるのは、 "貿易障壁"をなくし、企業の利益を優先したルールを敷くこと。 グローバル経済のなかで迫り来る「遺伝子組換え」に対し、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。

日本の食卓は、すでに遺伝子組換え食品であふれている!

 日本がすでに、世界一の遺伝子組換え食品消費国のひとつであることをご存知ですか? 日本のとうもろこしの消費量は、年間およそ1,600万トン(※1)と、主食である米の2倍もの量。しかも、ほとんどを輸入に依存しています。じつはこの自給率の低さが、「世界でもっとも遺伝子組換え食品を食べている」という状況を生み出しているのです。

日本は、米の消費量の2倍ものとうもろこしを、アメリカなどから輸入。家畜の飼料や食品の原料、添加物として食卓に入り込んでいる

 日本に出回っている主な遺伝子組換え作物は、とうもろこし、大豆、菜種、綿、パパイヤの5種類。パパイヤを除く4種類は、多くが食用油の原料や家畜の飼料用として輸入されています。いずれも、自給率がたいへん低い作物です。

 長年、遺伝子組換えに反対を訴えてきた「市民バイオテクノロジー情報室」代表の天笠啓祐さんは、「とうもろこしや大豆などは、そもそも自給率が低すぎる。それを、遺伝子組換え作付け比率が一番高いアメリカやブラジルなどから買っているんです」と指摘します。

 天笠さんの計算によれば、日本に輸入されるとうもろこしの85%、大豆の81%、菜種の89%が遺伝子組換え(※2)というありさま。大半は家畜の飼料や油になるほか、とうもろこしは様々な食品の原料や添加物のもとになるコーンスターチにも加工されます。

 「食品の表示によく書かれている、果糖ぶどう糖液糖や加工デンプン、醸造用アルコールなどもコーンスターチ由来のものがほとんど。おそらくそれらの原料の多くは、遺伝子組換えとうもろこしでしょう」(天笠さん)

※1:アメリカ農務省「World Markets and Trade」(2011/12年)
※2:輸入元の国における2012年作付面積の割合と2010年の日本の輸入割合をもとに試算

遺伝子組換え原料使用でも「表示なし」のカラクリ

 「そんなに使われているといっても、『遺伝子組換え原料を使っている』という表示は見たことがない」と戸惑う方もいるのでは? 実際のところ、これほど多くの遺伝子組換え食品に取り囲まれているという実感は、私たち消費者にはありません。なぜか――?

 というのも、全食品、全成分の表示を義務づけているEUの表示制度に対し、日本の制度で表示が義務づけられているのは、豆腐、納豆、おから、味噌、コーンスナック菓子など、指定された33の食品群のみ。加えて、重量で上位3品目かつ重量比5%以上のもののみに限られているからです。

 「組み換えられた遺伝子やその結果としてできるたんぱく質が、加工中に除去・分解されてしまうという理由で、食用油や醤油などは表示義務がなく、コーンスターチや添加物もほとんど表示を免れています。逆に、豆腐など表示義務のある食品は優先的に非遺伝子組換え原料を使用。つまり、最初から『遺伝子組換え原料使用』と表示する必要が生じないしくみになっているのです」と天笠さんは指摘します。

「私たちは知らないうちに遺伝子組換え食品を口にしている」と指摘する、市民バイオテクノロジー情報室・代表の天笠啓祐さん

安全性の確認は、確実に行われているのか?

 遺伝子組換えで気になるのはその安全性です。「日本もアメリカも、『遺伝子組換え作物と従来の作物を科学的に比較すれば、ほとんど似ている=つまり”実質的に同等である”ことから、違う部分だけ評価すればいい』という考え方。簡素なチェックで『安全』を評価し、承認してきたというのが実情でしょう」と天笠さん。

 ところが、2000年代に入り、さまざまな研究機関や研究者が動物実験の結果を発表し、その安全性に警鐘を鳴らす声も上がっています。たとえば2009年には、アメリカ環境医学会が過去の研究結果から得られた問題点を評価。免疫系や子孫への影響について「偶然を超えた関連性がある」とし、遺伝子組換え食品の即時の一時停止を訴えました。

 また2012年、フランスのカーン大学では、ラットのエサに遺伝子組換えとうもろこしや、畑で同時に使用される除草剤を与えた実験結果を発表。2年間という長期にわたる実験で明らかになった寿命が短くなるなどの異常は、映画『世界が食べられなくなる日』でも衝撃を与えました。

渋谷アップリンクで公開中の映画『世界が食べられなくなる日』は、ラットに遺伝子組換え作物を2年間与え続ける実験に密着取材した(写真提供=アップリンク)

 「もちろん私たちは、日常的には動物実験のように直接摂取するわけではありません。しかし多くの実験結果が、遺伝子組換え作物そのものが、とても『安全』とは言いにくいことを示しています」(天笠さん)

消費者は「選ぶ権利」を行使できる!

 こうしたなか、危ぶまれてきたのがTPP(環太平洋経済連携協定)への参加です。アメリカ通商代表部(USTR)は、かねてより遺伝子組換え表示を「貿易障壁」、つまり「自由貿易の妨げ」と批判してきたからです。

 11月、日本はアメリカとの二国間協議で、「遺伝子組換え表示や食品の安全基準は変えなくていいことを確認した」としていますが、TPPが経済を優先し、貿易の自由化と促進を前面に出す以上、「表示以外の部分でも『疑わしいものを規制する』という考えがどこまで機能するのかはわかりません」(天笠さん)

 こうしたグローバル経済の流れのなかで、私たちに何ができるのでしょうか? 天笠さんはこの問いに対し、「日々の買い物を通して、遺伝子組換え食品を避けることができる」と提唱します。それは、次の4つの方法。

① 遺伝子組換え原料が使用されることの多い食用油に気をつける。ごま、米、オリーブ油や、「非遺伝子組換え」の表示が明確なものを選ぶ。
② 日本では遺伝子組換え作物は栽培されていないから、国産原料の食品を選ぶ。
③ 有機食品では遺伝子組換えは認められていないから、有機食品を選ぶ。
④ 外食や加工食品をできるだけ避け、原料産地や生産者が明確で、「遺伝子組換え不使用」の表示があるものを選ぶ。

『世界が食べられなくなる日』の監督ジャン=ポール・ジョーさんは、「消費者には『情報を発信する』『買う商品を選ぶ』という武器がある。あきらめてはいけません」と話す

 重要なのは、自分たちの口にする食べ物やその生産環境に関心をもち、自分の考えに近い食べ物を「選ぶ」こと。消費行動のなかで、食を守り抜く意思を示していかなければなりません。 もはや無縁ではいられない「遺伝子組換え」。次回の「TPPで迫る食の危機(4)」では、この問題をさらに考えていきます。

取材・文/高山ゆみこ 構成/編集部