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大きな北海道の小さな畑から。旬のかぼちゃをお菓子で味わう[菓子研究家・長田佳子さんと産地をめぐる-2]

  • 食と農

素材の持ち味を生かした、 美しく優しいお菓子作りで人気の菓子研究家・長田佳子さんと、生協パルシステムの商品が生まれる場所を訪ねる「産地をめぐる」。2回目となる今回の主役は「北海道のエコ・かぼちゃ」だ。秋深まり、かぼちゃの甘みものってきたころ。産地から届いたかぼちゃでお菓子を焼き上げ、広大な十勝平野へと向かった。

「かぼちゃ本来の甘み、素直にお菓子に生かしたい」

 箱を開けると、ごろんと立派なその姿。菓子研究家・長田佳子さんの元に、北海道からかぼちゃが届いた。今回の主役、パルシステムでも毎年好評の「北海道のエコ・かぼちゃ」。産地は十勝平野の中央部に位置するJAおとふけだ。

 このかぼちゃを使ったお菓子のレシピ作りにあたり、「何よりまずは、味見から。シンプルに、加熱して食べてみましょう」。そう言って、皮に包丁を入れる。

かぼちゃを切る長田さん

 大きめに切ったかぼちゃを皮ごと電子レンジで加熱し、一口、ぱくり。

 「わ、甘くておいしい!」

 長田さんの目がパッと輝いた。

蒸したかぼちゃ

 かぼちゃといえば、秋の味の定番である一方、モソモソしたり、逆に水っぽかったりと、当たり外れも多い野菜。「でもこのかぼちゃは、程よい水分でホクホク、皮も軟らかい。味わうほどじんわり、深みを増す甘みもいいですね。この、素材本来の甘みを素直にお菓子に生かしたいです」

かぼちゃのお菓子作り中

 そして長田さんが考案したのは、2つのお菓子。つぶしたかぼちゃを軟らかに焼き上げた「ハーベストクッキー」と、ごろっと皮ごと切ったかぼちゃを入れたパウンドケーキだ。

 「いずれも、必要以上にお砂糖に頼らず、『北海道のエコ・かぼちゃ』の味わいが生きるレシピに仕上げました。このかぼちゃ、どんなところで育っているんだろう……。作り手の方にもお会いして、このお菓子を食べていただきたいです」

 そう話す長田さんとともに、かぼちゃ畑のある十勝平野に向かった。

かぼちゃと小豆のパウンドケーキ

雄大な北海道で出合った、小さなかぼちゃ畑

 「北海道のエコ・かぼちゃ」の産地のひとつ・JAおとふけは、北海道・とかち帯広空港から車で約1時間。あたりには広々とした畑が広がり、大きな農業機械もミニカーのように小さく見えるほど。雄大な十勝平野の景色にまず、圧倒される。

家族総出で行われる、じゃがいもの収穫風景

広大な畑で行われる、じゃがいもの収穫風景

 しかし、訪ねたかぼちゃ畑は、意外にもぐるりと歩いて回れるほど小さなものだった。

 「周りに比べたら、だいぶ小さく見えますよね。うちの農地全体の100分の1の広さです」。そう話すのは、生産者の後藤友汰(ゆうた)さん。現在21歳、昨年農業短大を卒業したばかりの若手生産者だ。

生産者の後藤友汰さんとかぼちゃ畑

生産者の後藤友汰さん。大きな葉が茂る手前部分が「エコ・かぼちゃ」の畑

 実は、この「小ささ」には理由が。

 「かぼちゃは、苗の植え付けから収穫までほぼ手作業なので、じゃがいもや小豆などのように大型機械を入れることはできないし、なかなか大規模にもできないんです」

 だからこそ、友汰さんのような若手生産者が小さな畑から取り組み始める作物としては、うってつけの存在。世代交代が進む中で今、地域でも徐々に作り手が増えつつあるという。

知っていますか? 完熟かぼちゃの見分け方

 畑いっぱいに伸びたつるの先には、コロンと太ったかぼちゃの姿が。

生い茂る葉の下のかぼちゃ

 「持ってみますか?」

 友汰さんに、畑のかぼちゃを一つ、特別に切っていただいた。小さくてもその実はずっしりと重い。

かぼちゃを持つ長田さん

 「みずみずしくて、おいしそうですね」

 「ありがとうございます。でもこれは、まだ未熟でしたね。かぼちゃの完熟と未熟、どうやって見分けるか、知っていますか?」と、友汰さんからいきなりの逆質問が。

 思いがけない問いに長田さん、「えっ、外見で見分けられるんですか? これまでなんとなく、スイカを選ぶときと同じようにコンコン、とノックしていたけれど……」と、しばし考え込む。

長田さんとかぼちゃを見せる友汰さん

 友汰さんからの答えは、このとおり。

 「かぼちゃの表面には必ずといっていいほど、皮の色が薄い部分がありますよね。これ、実が地面に接していた部分で『グラウンドマーク』というんですが、ここの色が黄緑色からオレンジに変わってきたら、しっかり熟してきた証拠なんです」

かぼちゃのグラウンドマーク

向かって左が未熟なもの、右が出荷前の熟したもの

 貯蔵庫から持ってきたかぼちゃと、今切ったばかりのものを、割って比べてみると、その差は歴然。

未熟なかぼちゃと熟したかぼちゃ

 確かに、収穫したばかりの果肉はグラウンドマークと同じ黄緑色だ。「グラウンドマークの色で、かぼちゃのおいしさが『見える』なんて。知りませんでした」

かぼちゃのお菓子を囲んで、さあ、お茶の時間

 農家さんの午前休憩の時間となり、友汰さんのご両親もじゃがいもの収穫から戻ってきた。青空の下、お待ちかねのお茶の時間。長田さんも早速、持参したお菓子を並べる。

長田さんと後藤さんご家族
コンテナの上に並べられた焼き菓子

 長田さんのハーベストクッキーを目にした友汰さんが、「母がよく作ってくれる『かぼちゃ団子』に見た目が少し、似ていますね」と話す。

 「かぼちゃ団子って、どういうものですか?」

 「ふかしたかぼちゃをつぶして、片栗粉と混ぜて焼く、北海道ではおなじみの食べ方なんです。うちでは砂糖じょうゆの甘辛いタレで食べることが多いんですよ」と、友汰さんの母・信江さんが笑顔で答える。

 「まさにこのクッキーでも、粉はつなぎ程度にして、おいしいかぼちゃの存在感を生かしたかったんです。甘辛いおだんごも食べてみたいな」。長田さんも思いがけない一致にうれしそうだ。

後藤さんご家族

左から父・寛さん、母・信江さん、友汰さん

 一方、パウンドケーキは同じくJAおとふけ産の小豆を使ったパルシステムの「産直小豆ゆであずき」を合わせ、しっとりホクホク。ナッツやドライフルーツが味のアクセントとなり、飽きのこないおいしさだ。

 「みなさんのかぼちゃが本当に甘くておいしかったので、お菓子作りのなかでは一切、砂糖を足していないんです。甘みはかぼちゃと『ゆであずき』だけで十分でした」と、長田さん。

 「うちでも、この商品の小豆を育てているんですよ」と、父・寛さんもうれしそうに話す。

さやから出した小豆

JAおとふけは小豆の栽培も盛ん。パルシステムのPB商品にも使われる

 「かぼちゃとの相性もいいですよね。厚く切ってもしつこく感じずに食べ切れる、上品な甘さに仕上がりました」(長田さん)

山あり谷あり。でも、楽しい! 2年目の「エコ・チャレンジ栽培」

 さて、今回お菓子の材料となった「北海道のエコ・かぼちゃ」の“エコ”とは、パルシステム独自の「エコ・チャレンジ栽培」のこと。友汰さんはこの基準を達成し、メルヘンという品種のかぼちゃを栽培している。

 「エコ・チャレンジ栽培でのかぼちゃ作り、難しくはないですか?」

 と、長田さん。そう、「エコ・チャレンジ栽培」では、化学合成農薬と化学肥料は北海道の慣行基準の半分以下。

 春先に行う苗の植え付けに、手作業での草取り。生えてくる余分なツルを取り除いたり、絡まらないように整えたり。友汰さんのかぼちゃ仕事は、秋まで尽きることがない。

かぼちゃを持ち上げ熟度を確認する友汰さん

かぼちゃを持ち上げ、熟度を確認する友汰さん

 「一年目の去年は、お天気にも恵まれて、すごくうまくいったんです。でも今年はこのとおり、だいぶ葉が病気にやられてしまって」。友汰さんは畑を見つめながら話す。

 確かに、青々とした葉も茂るが、枯れているところも目立つ。

ところどころ枯れたかぼちゃの葉

葉に粉のような白い斑点が付く「うどんこ病」

 「うどんこ病です。農薬を使えば抑えることもできますが、エコ・チャレンジ栽培達成のために、ここはガマンするしかなくて。収穫量は、前年の半分くらいに減少してしまいそうです」

 今年の北海道は、6月、7月の長雨とその後の暑さによって、多くの作物がダメージを受けている。農薬の使用回数に厳しい制限のあるエコ・チャレンジ栽培ではなおさらだ。

若き生産者の誕生を、家族で見守って

 それでも、「好きで始めた農業なので、仕事は楽しいです。かぼちゃは自分の担当なので、余計に思い入れがありますね」と、友汰さんの表情に曇りはない。

 実は友汰さん、三人兄弟の末っ子だが、「農作業も機械も好きだし、できるなら僕が継ぎたいな、って。小学生のころから農家になるって決めていました」と話す。

友汰さん

 母・信江さんからは、こんなエピソードが。

 「小学校にあがる前から、この子は『おうちで待っててね』って言っても畑についてきたんです。手伝いもずっとしてくれていたよね」

 父・寛さんからも、「朝に晩に、少しでも時間があれば様子を見に行って、世話をして。やっぱり(農業が)好きなんだなあって、見ていて感じます」と、後継者誕生を心から喜び、見守る思いが伝わってくる。

かぼちゃ畑を見守る友汰さん

 「これからの計画や、挑戦してみたいことはありますか?」と、最後に友汰さんに尋ねてみた。友汰さんはぐるりと畑を見回したあと、

 「かぼちゃのことをもっと勉強しながら、規模拡大もしていきたい。他の品種にも挑戦したい。もちろん、父が続けてくれているじゃがいもや小豆の大型栽培もできるように、機械も少しずつ覚えています」と話してくれた。

かぼちゃ畑に立つ友汰さん

 かぼちゃがつるを伸ばすように、まだまだ、もっと、一歩ずつ。「北海道のエコ・かぼちゃ」には、そんな若き生産者の思いも詰まっていたのだ。

お届け前、最後のバトンは「選果センター」へ

 友汰さんの畑を後にし、JAおとふけ職員の山岸晃雄さんに案内されたのは、収穫された野菜が集まる「選果センター」。巨大な倉庫に足を踏み入れると、各所から集められたかぼちゃの仕分けの作業が手際よく進められていた。

選果センター内
かぼちゃの重量確認

 「パルシステムさん向けのは、こちらですよ」

 山岸さんに案内され、通された貯蔵庫には、金属製のコンテナに入れられて高く高く積まれたかぼちゃの山が。

集められたかぼちゃの山

巨大な扇風機のある保管庫で約1週間、12℃前後で保存する

 「収穫したてのかぼちゃには、水分が多く含まれていて、これが傷みの原因にもなってしまいます。そこで扇風機の風に当て、湿気を飛ばしてしっかりと乾燥・熟成させる『キュアリング』と呼ばれる工程が、欠かせないんです」

出荷を待つかぼちゃたち

出荷を待つかぼちゃたち。へたがコルク状になったら準備完了だ

 「生産者が一生懸命育てた野菜を、ベストな状態で届けるのが私たちの役目」と話す山岸さん。それは日本の食糧基地・北海道を支える、もう一つのプロフェッショナルたちの光景だ。

箱詰めされるかぼちゃ

 「こうした手間と工夫を経て、甘くておいしいかぼちゃが届くんですね」。長田さんは一つひとつの工程に感心し、その様子に見入っていた。

JAおとふけ職員の山岸晃雄さんと長田さん

案内してくれたJAおとふけ職員・山岸晃雄さんと長田さん

旬の味を、無駄なく、おいしく。私たちにできる「チャレンジ」を

 旅の終わりに、長田さんは「エコ・チャレンジ栽培」のかぼちゃをめぐる出会いを振り返る。

 広がる十勝平野を見渡して、

 「北海道の農業というと、大きな畑で、自動化も進んでいて……というイメージもあったんです。でもそれは決して荒涼とした風景ではなく、人々の“手”をしっかりと渡っていると知りました。その成果を受け取るのだから、せめて無駄なくおいしく食べ切りたい。それが私たちにできる、小さな『チャレンジ』かもしれません」

十勝平野を見下ろす長田さん

 そして、おいしく食べ切る方法の一つとしても、お菓子作りはおすすめ、と話す。

 「今回はとてもおいしいかぼちゃだったけれど、もしも甘みが少ないな、水っぽいな、と思ったときにも、お菓子作りは挽回のチャンスになってくれるはず。

 まずそのまま加熱して味を確かめ、砂糖や粉の量を調節してみてほしいです。かぼちゃ一つひとつの個性を受け止めながら、旬の味を楽しんでみてください」

取材協力=JAおとふけ レシピ監修=長田佳子 写真=森本菜穂子 取材・文=玉木美企子 構成=編集部