はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

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車が行き来する街中を背景に、二人の男性が歩道を歩いている。

パルシステム生活協同組合連合会元理事長の若森資朗さん(左)と現理事長の大信政一さん(右)(写真=疋田千里)

分断と対立から、支え合い、分かり合う「共生の社会」へ [コロナ後も“ともに生きる”ために-後編]

  • 暮らしと社会

未曾有のコロナ禍の中、格差と分断、対立がさらに深まるなど、社会は大きく揺らいでいる。暮らしや社会の課題に取り組み、身近なセーフティネットの役割を目指してきた生協は、どんな課題に直面しているのか。「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」を理念に掲げるパルシステム生活協同組合連合会理事長の大信政一さんと、在任中から「共生」の在り方を模索してきた元理事長の若森資朗さんに、これからの時代に求められる生協の役割について聞いた。

※感染防止策を講じ、撮影時のみマスクを外しています。

コロナ禍で浮き彫りになる、分断と対立の社会

――新型コロナウイルスの感染拡大が、世界に広がって1年になります。コロナ禍における社会の印象から、まずお聞かせください。

大信 「三密回避」が求められ、人と会って話すという当たり前のことが、難しくなりました。

 コミュニケーションの手段が限られ、対話での合意形成が困難な場面も見受けられます。SNSでよくあるように、自分の言いたいことを発言するだけの、一方的なギスギスした関係が強まっているように感じます。

若森 コロナ禍で、特別目新しいことが起こったかのようにいわれています。しかしわたしは、今まで起きていた問題点が、コロナ禍によって、よりリアルに、そして、広く深く浮き彫りになってきたと感じています。

 行きすぎた市場経済、効率と競争の社会が、格差と対立と分断を生んできた。「自己責任」を容認する論調、社会風潮が、コロナ禍によってより拡大してきたと感じるのです。それが、「自粛警察」の登場、感染者や特定地域へのいわれなきバッシング、特定の職業や医療従事者への差別に表れました。

――政治の世界でも、「経済活動を念頭に置いた感染対策」が声高に叫ばれる一方で、弱者と呼ばれる人たちにしわ寄せが行っています。

大信 生活困窮者、子供、外国のかただけでなく、これまで公的支援に無縁だった若い人、特に女性への影響も目立ってきています。

 相談窓口へのハードルが高かったり、情報が伝わらないなど、救済につながらないケースも多いと聞きます。

大信さんは真剣な表情で語る。

パルシステム生活協同組合連合会理事長の大信政一さん(写真=疋田千里)

若森 そもそも生協に関わってきたわたしたちは、経済優先の社会と環境保全に配慮することのない開発、その結果としての環境破壊が進んでいることに疑問を感じ、活動を続けてきました。

 その転換を図り、未来への変革のよりどころの一つとして日本でも関心を集めてきているのが、「社会的連帯経済」(※1)です。これは、資本主義や社会主義一辺倒ではなく、経済成長を目的化しない経済のあり方で、協同組合の考え方にも通じる、新たな経済のオルタナティブとして注目されています。

 市民や働く人の民主的な運営参加による新たな経済を作ろうと、「社会的連帯経済」という価値観を共有する人たちが集まり、その中からさまざまな運動体が生まれてきています。生活協同組合は、まさにその一つです。

若森さんは手ぶりを交えて語る。

パルシステム生活協同組合連合会元理事長の若森資朗さん(写真=疋田千里)

――行きすぎた市場経済が社会に広がる中、生協の存在価値が改めて問われているように感じます。

若森 コロナ禍で、「社会的連帯経済」に取り組んでいる人たちは、改めてそれへの確信を深めたと思います。しかし社会の風潮は、今の社会を維持したいと思う力のほうが大きいと感じます。

 しかも、「社会を変えよう」と思う人が力めば力むほど、対極にある人たちも「社会を変えまい」と力んできます。その結果、さらなる分断と対立を招き、格差を助長することさえも一定容認する社会になってしまっている。困ったことに、SNSがそのことを助長しているように思います。

 そのような対立関係を克服するために、寛容さをもって「事実」を確認していく対話を重ねることが大切だと感じています。

大信 経済的かつ社会的な問題は、コロナ以前から長く続いてきました。経済がよりグローバル化し、産業もデジタル化する中で、富む人がより富む社会になってしまった。その富は、ごく一部の人間にしか行きません。そこから格差が生まれ、分断を助長し、憎しみを生むわけです。

※1:公平で安心安全な経済、社会的包摂、持続可能な発展、まちづくりや経済を機能させることへの人々の参加度を高めることを追求する経済。協同組合、コミュニティビジネス、社会的企業、信用組合、共済組合、社会的責任金融、非営利団体(NPO)、慈善団体、フェアトレード、マイクロクレジットなど、利益追求を主たる目標にしない経済主体で構成される。

心豊かな共生の社会のため、人と自然との関係を見つめ直す

――コロナ禍で社会の状況が悪化する中、パルシステムとして、どんな取り組みを進めていますか。

大信 パルシステムではグループ全体で、さまざまな活動・支援団体と連携しています。生活困窮者のサポート、住まいのあっせん、子ども食堂やフードバンク活動への食材提供など、各団体を通じて、できる範囲の支援を行ってきました。

若森 それぞれの支援団体には、いろいろな活動経験と運営ノウハウがあります。そこと連携しながら、パルシステムとして何ができるのかを考え、より幅広く、こまやかな支援に取り組むことは大切だと思います。

歩道で人々が食品を袋に詰めている。

各地の支援団体と協力して、コロナ禍で困窮する人々に食料支援を行う(写真=深澤慎平)

大信 幅広い支援という意味では、「くらしの相談ダイヤル」(※2)では、電話だけでなく、スマートフォンアプリ「LINE」の活用も始めました。若い人たちからの困り事を寄せやすくするためです。

 仕事やアルバイトを失った学生や若者をサポートするため、パルシステムの配達業務を担当するグループ会社では、一時的な雇用の受け入れも実施しました。

相談員が電話の受話器を取ろうと手をかける。

くらしの相談ダイヤルでは、電話相談を中心にさまざまな生活相談を受け付けている(写真=疋田千里)

若森 さまざまな事情で窮地に陥っている人たちがいることを、生協の側から発信していくべきです。

 まずは、課題に気づいた人たちから取り組みが始まります。そして、協同組合の理念からいっても、その活動を広げていく努力が必要です。それが協同組合運動の基本ですから。

大信 昨年12月には労働者協同組合法(※3)が可決・成立しました。こうした動きの中で、生協が主導する形での雇用、働き方の多様化も考えるべきでしょう。

若森 コロナによってテレワークが普及しましたが、すべての人が在宅勤務できるわけではありません。非正規で働く親の中に、保育園が休みで子供が預けられず、仕事を辞めざるをえない人もいました。緊急事態宣言が出ると、真っ先に弱者が困難を抱えることになる。残念ながら、そのような社会になっています。

大信 おっしゃるとおりです。

若森 社会的連帯経済の視察でヨーロッパに出掛けたとき、協同組合が、きちんとした雇用を、日常からどれだけ作り出しているかが問われていると感じました。

 いろいろな困難を抱えた人たちが働ける場作りや雇用の創出に、パルシステムを含めた日本の協同組合がどれだけ率先して貢献できるか。これからの役割です。

機械部品の工場で人々が働いている。

スペインのバスク地方にある社会的企業の機械部品工場では、従業員の8割を障害者雇用している(写真提供=若森資朗)

――パルシステムでは、「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」を理念に掲げています。経済格差が広がる中、とても重い理念ではないでしょうか。

大信 パルシステムは、食の課題から始まった生協です。安全で、安心で、おいしくて、栄養のある食べ物が欲しい。そうした組合員の願いからでき上がったものです。

 その食文化がお金で買えないことは、当時の組合員は実践して感じたはずです。産直産地の生産者をはじめ、活動を理解し、賛同する仲間がいないと、継続的な関係になりえない。それがまずベースにあります。

親子が野菜を持って畑を歩いている。

パルシステムに有機野菜を提供する産直産地の一つ、有機農法ギルド(茨城県)(写真=深澤慎平)

若森 「共生の社会」を語る前提として、「人間と人間の共生」もありますが、「自然と人間の共生」をまず考えるべきでしょう。

 例えば、さけは川をさかのぼって産卵し、稚魚は川を下って海に戻ります。海の幸を山へ返し、山の幸を海へ返す。こうしたさまざまな循環により、地球全体の生態系が維持され、人間は生き延びてきたのです。

男性の漁師が両手に鮭を持って自慢げに見せている。

パルシステムの産直産地である野付漁業協同組合(北海道)の秋ざけ漁師(写真=深澤慎平)

大信 食も、エネルギーも、循環型の物作りをしていく。商品作りも、環境負荷をできるだけ下げていく。そうした取り組みが少しずつ蓄積して、今のパルシステムがあります。

若森 自分たちを生み、生きる糧となる自然と環境に敬意を払う。人間は万能ではなく、自分も万能ではないことを自覚する。そして、人間自体が多様であり、お互いに認め合い、共に信頼を築くために努力する。そこに尽きると思います。

 残念ながら現代は、そのことが欠けていると思わざるをえません。協同組合は、その修復を図る立場です。

※2:パルシステムグループと連携する、一般社団法人くらしサポート・ウィズが運営。暮らしの中での困り事や悩み、離婚、相続、金銭に関すること、人間関係まで、電話とLINEで相談を受け付けている。

※3:協同労働の協同組合である「出資・経営・労働を一体化した協同労働を行う組織」に法人格を与える法律。「出資・経営・労働」を三位一体にした働き方を目指し、主体者=組合員となって働く(定款で定めれば、利用者や地域の人も組合員になれる)。

相手の個性を尊重し、自らの視野を広げていく

――「パルシステム2030ビジョン」では、「たべる(食)」「つくる(農・産直)」「きりかえる(環境)」という食と暮らしの課題とともに、「ささえあう(福祉・たすけあい)」「わかりあう(平和)」が掲げられました。

大信 「パルシステム2030ビジョン」の策定にあたっては、若手職員もチームを組んで参画しました。「ささえあう」「わかりあう」社会がないと、これからの地域がもたないことは、若い人たちも感じています。

 地域がよくならないと、暮らしも社会もよくなりません。「自分さえよければいい」ではなく、「一緒に取り組む」という決意を、このビジョンに込めました。

――なぜそもそも、生協は「共生の社会」を理念に掲げているのでしょうか。

大信 先ほど若森さんがおっしゃったように、自然と人との共生があり、人と人との共生があるわけです。

 人と人との共生という意味では、多種多様な人たちがいる中で、どう互いを尊重し、社会を作っていけるのかが問われています。

大信さんは優しい表情で語る。

写真=疋田千里

若森 アフリカで生まれた人類は、それぞれの個性によって、長い年月をかけて世界に広がりました。そして、それぞれの土地で暮らし、文化をはぐくんできました。その中から、地域や国も生まれてきました。

 生産力が増し、分業が生まれる中で交易が生まれ、顔も、姿も、言葉も違う中で交流し、対話してきました。しかし、経済力の不均等などから戦争を幾度となく繰り返し、憎しみ合ってきました。その歴史からわたしたちは、それぞれの違いを認め合いつつ、一緒に未来に向かって友好的に取り組む大切さを学んできたはずです。

大信 大切な指摘です。

若森 そのうえで現代は、人間が作り出した環境破壊や資源の枯渇、そのことによる異常気象や大災害、そして、経済危機に見舞われています。戦争をしたり、憎しみ合うことができる状況にはないことを、自覚すべきだと思います。

 今はまさに、人の多様性の中にこそ文化が生まれ、進歩がある。そう確信する時代ではないでしょうか。

大信さんと若森さんは向かい合って語る。

写真=疋田千里

大信 相手の個性を尊重し、相手から得たものを通して、自分の視野を広げていく。つまり、変わっていく。そこには常に、自己反省があるように感じます。それが生協の目指すべき「共生の社会」ではないでしょうか。

――「共生の社会」が実現すれば、大きな社会変革にもつながります。どうすればそうした社会のムーブメントが、市民の側から生まれてくるのでしょうか。

若森 難しい課題です。2度めの緊急事態宣言の発令に至り、さすがに「何かしたい」「このままではいけない」と多くの人が感じているのではないでしょうか。

 市民の側から「共生の社会」へのムーブメントを高めるには、現実に横たわる問題点や課題を積極的に可視化し、伝えることが大切だと思います。

 それと同時に、具体的な実践としてその克服に取り組み、活動参加を呼びかけることも大切ではないでしょうか。それが社会を、政治を動かすきっかけになると思います。

若森さんは笑顔で語る。

写真=疋田千里

大信 小さな積み重ねも大事です。商品をお届けするとき、「何か困ったことはありませんか」と配達員が一声かける。組合員や生協で働く人たちだけではなく、地域の人たちも巻き込みながら、そうした日々の積み重ねを意識的に作っていく。それが「共生の社会」への大きな力となるはずです。

――社会問題への意識が高い人は多く、さまざまな支援団体もある中で、市民の側からの社会変革につながっていない現実もあります。

若森 一つは、連帯・連携が足りないと感じています。一つ一つの運動が、孤立している。その横のつながり作りにこそ、パルシステムが関わり、役割を担っていくべきです。そこから多様な人材も育っていくと思います。

「自己責任」ではなく、理不尽な社会構造の是正を

――今年から進学や就学の継続が難しい若者を対象にした「パルシステム給付型奨学金」(※4)がスタートします。「ささえあう」の一つの事例です。

大信 「パルシステム給付型奨学金」に先立つ取り組みとしては、2018年にスタートしたパルシステム神奈川の「神奈川ゆめ奨学金」(※5)があります。

 一口に奨学生といっても、事情はさまざまです。大事なのは、「いつも一緒にいるよ」という気持ちを、奨学生の皆さんに感じてもらうことです。そこがわたしたちの考えている支援の形です。

若森 とても大切な活動だと思います。やるからには、より継続的で広がりのある取り組みとして位置づけてほしいですね。いろいろな困難を抱えている若者がいますから、常に相談に応じられるような体制のさらなる充実も必要でしょう。

大信 困難に直面し、つらくて、乗り越えられない学生も多いはずです。当事者の若者が、自分の中でどう前向きな気持ちを出していけるのか。そのために、わたしたち生協の側は、どんなサポートができるのか。とても重い取り組みを始めたと感じています。

大信さんは歯を食いしばって真剣な表情を見せる。

写真=疋田千里

――経済格差や生活困窮者に対しては、根深い自己責任論もあります。「共生の社会」「ささえあう」「わかりあう」という美しい言葉を投げかけるだけでいいのでしょうか。

若森 確かに、いったん「自己責任」が刷り込まれてしまった人に、言葉を投げかけるだけでは、響かないと思います。信頼をはぐくむ継続的なサポートが必要です。

 深刻なのは、自分が困難を抱えているにもかかわらず、「自己責任」と考えて孤立してしまうことです。場合によっては、同じ困難を抱えている人どうしで対立したり、自分より弱いと感じる人を責めてしまうことさえ心配されています。

大信 ただ一方的に「共生の社会は必要です」「正しいことだからやります」と訴えるだけでは、共感してもらうのは難しいでしょうね。

 パルシステムはなぜ「共生の社会」を理念に掲げているのか。なぜ、この支援が必要で、活動に取り組むのか。そうしたことは、組合員や職員だけではなく、広く地域の人にも伝えていかなければなりません。

若森 他人を思いやる人の中にも、結果だけを見て、「離婚するのが悪い」「路上生活に陥るほうがよくない」と一方的な考えを持ってしまう人はいると思います。

 離婚や路上生活の背景にあるのは、自己責任ではなく、理不尽な社会構造の問題が大きいと考えています。誰もが陥る可能性があり、そのことへの怒りを持ち、実態を広く知らしめていく。その中で、もしもの場合、「こうした支え合いの形がある」と提案する。生協発の「気づきの運動」と呼んでもいいかもしれません。

※4:家庭環境や経済的な理由で大学などへの進学・就学が困難になっている若者を対象にした給付型奨学金制度。単なる奨学金給付にとどまらず、定期的な生活・進路相談などの精神的サポートも行う「伴走型の支援」を目指す。

※5:生活協同組合パルシステム神奈川が設立した、一般財団法人神奈川ゆめ社会福祉財団が運営。神奈川県に住む生活困窮家庭の子供(主に高校生)の就学を支援することを目的に、奨学金と卒業時のお祝い金を給付する制度。学習支援や交流会も実施している。

若森さんは遠い目で語る。

写真=疋田千里

無自覚な差別意識について、一人一人が考える

――格差と分断と対立の先には、「差別」があります。「共生の社会」を実現させるためには、差別の現実から目を背けることはできません。

若森 「言論の自由」を間違って理解している人がいます。ヘイトスピーチやヘイトデモ(※6)、レイシズム(※7)のような差別的言質は、言論の自由でも何でもありません。人権を無視していると、そこはまず押さえておきたい。

 差別とは、属性を変えることができないマイノリティに対する、マジョリティからの攻撃です。差別かどうかは、その言葉を受け取った人が判断することなのです。

街並みを車と人が行き交う。

かつてヘイトデモが広がった東京・新大久保の街(写真=編集部)

大信 パルシステムの雑誌『のんびる』2020年5・6月号のインタビューで、弁護士の伊藤和子さん(※8)がこうおっしゃっています。「差別は犯罪を生み、犯罪は虐殺につながる。差別をなくす第一歩は対話だ」。とても大切な指摘です。

 外国人、女性、LGBTQ(※9)、生活困窮者、障害者など、差別を容認する発言がインターネットにも、街頭にもあふれています。「人権」という言葉の持つ重さを、一人一人が考え、話していかなければいけない時代です。

若森 コロナ禍においても、差別はあからさまに横行しています。差別は無自覚に起きることに、一人一人が気づかなければならないと感じます。

 差別を黙認し、無関心でいることも、結果的に差別を認めてしまうことになりかねない。見ないようにしている人たちにも、問われていることです。

7色の虹色の旗や「TOKYO RAINBOW PRIDE」と書かれた横断幕を掲げながら、人々が道路を歩いてパレードする。

東京・代々木公園で開催される東京レインボープライドでは、LGBTQをはじめ、すべての人が生きやすい世界に変えようと呼びかけている(写真提供=東京レインボープライド公式Instagramより)

大信 例えば路上生活者と出会ったとき、反射的に「自分とは違う人」と感じるかもしれません。もし「違う」と感じたのであれば、何がどう「違う」のか、自分なりに理解すべきだと思うのです。

若森 人と人の共生という視点からも、差別は絶対に許されません。「差別している」と気づいていない人もいます。「共生の社会」を掲げることは、そのことに気づく活動を繰り返して、「差別は許さない」という社会的風潮を形成していくことでもあります。

 これは生協の側にも突きつけられた課題です。具体的にいえば、反ヘイトスピーチ、反レイシズムの視点で、自分たちや取引先との関係を見てほしいと思います。企業体質、考え方、労働環境などを含めて、生協の側が、そして自分たち自身も、しっかりとチェックすべきではないでしょうか。

※6:国籍、人種、民族、宗教、性的指向などへの偏見や憎悪から引き起こされる。嫌がらせ、恐喝、暴行、殺人に至るまで、そのターゲットは個人、集団にとどまらず、子供たちにも向けられ、ヘイトクライム(hate crime、憎悪犯罪)と呼ばれる。

※7:racism(人種主義)。優生思想に代表されるように、人種にはもともと優劣の差異があり、優等人種が劣等人種を支配することを肯定し、排外的な言動・行為を容認する思想、イデオロギー。

※8:ミモザの森法律事務所代表、ヒューマンライツ・ナウ事務局長。女性、子供の権利、冤罪事件など、人権問題に関わって活動。2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本初の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウを立ち上げた。

※9:性的少数者。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング/クィアの頭文字に由来する。

イベントの会場に7色の虹色の旗がひらめき、人々が集う。

大阪・扇町公園で開催されたレインボーフェスタ!2018にて(写真提供=東京レインボープライド公式Instagramより)

「友愛」の視点で、生協としての「運動」を問い直す

――「共生の社会」を実現させることが、容易ではないことが分かってきました。生協として、どうやってこの理念を実現させていきますか。

大信 地域には、いろいろな人たちが暮らしています。まずはそうした人たちの声を、きちんと取り上げ、社会がさまざまな形で成り立っていることを、広く地域の人たちと共有していくことです。

 そのためのアプローチは、いろいろあっていいはずです。組合員や地域の人たちが語り合うリアルな場や、オンラインを活用した語らいの場への可能性も感じます。このWebメディア『KOKOCARA』や雑誌『のんびる』といった媒体からの発信も大事なことです。

若森 組織のトップが、こうしてメッセージを発することはとても大切だと思います。それを繰り返し伝えることで、より多くの人たちに共有化されていくはずです。

 素晴らしい事例だけではなく、差別のような社会の現実も伝え、みんなで共有していく。その日常的な作業が、これからのパルシステムに問われているのではないでしょうか。

大信さんと若森さんはパーテーション越しに語り合う。

写真=疋田千里

大信 国際協同組合同盟(ICA)の協同組合原則にも書かれているように、生協は、教育的な役目も担っているのではないでしょうか。

 今回こうしてお話しさせていただいたことを、広く地域のかたがたにもお伝えしていくことは、わたしたちの責務だと考えています。

――最後に「生協とは」という視点で、お二人からお願いします。

大信 生活協同組合は、一言でいえば助け合いの組織です。市民が、ある課題の解決のために集い、手を携えて生まれました。行きすぎた市場経済を抑制する存在として、期待されている側面もあります。

 効率重視の過度な市場経済は、競争を激化させ、格差を広げ、社会を不安にさせていきます。そうした中での生活協同組合の役割は、とても大きいはずです。

若森 協同組合であり、助け合いの組織だからこそ、組合員ときちんと合意したうえで、地域を巻き込み進めていく。それが真の「生協運動」と呼べるものではないでしょうか。

 加えて、パルシステムの弱点とされてきた、「自らが向かおうとしている未来の社会への想像力を養う」ことにも取り組んでほしいですね。

大信 「自由」と「平等」とともに、フランス革命の際に掲げられた言葉として、「友愛」があります。生協はまさに「友愛の組織」ではないでしょうか。だからこそ、今が踏ん張りどきだと感じるのです。

大信さんと若森さんは笑顔でこちらを向く。

写真=疋田千里

取材・文=濱田研吾 写真=疋田千里 構成=編集部