はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

食と暮らし、持続可能な社会を考える、
生協パルシステムの情報メディア

冷蔵庫の前に立つ島本さん

写真=スズキアサコ

食品の「ムダ」をなくせば、家事ラクで節約にも! 今日から始める台所のフードロス削減テクニック

  • 食と農

フードロス=「まだ食べられるのに捨てられてしまう食品」の量は、なんと日本だけで年間東京ドーム5杯分(約612万トン)。そして、その約半分が家庭から出ていることを知っているだろうか。「台所からのフードロスを防ぐポイントは、身近な冷蔵庫収納にあります」と話すのは、料理研究家で食品ロス削減アドバイザーの島本美由紀さん。さらに食品を上手に使い切ることは、お金の節約や家事の時間削減にもつながるという。おうち時間が増えている今、今日からできるテクニックを教えてもらった。

※感染防止策を講じ、撮影時のみマスクを外していただきました。

「うっかりダメに……」を今日から解決

 「冷蔵庫の奥に、しなびた野菜が隠れてた」

 「使いきれない調味料の瓶がいっぱい!」

 こうした冷蔵庫の悩みに、「分かる、分かる!」と共感する人も多いのでは。特売でまとめ買いした食品をダメにしてしまったり、うっかり消費期限を切らしてしまったり……そうしたお悩みも、冷蔵庫収納を少し見直すだけで解決できるかもしれない。冷蔵庫のムダをなくすことには、実はメリットがたくさんあるのだ。

 「例えば4人家族の家庭では、年間約6万円ものフ―ドロス(食べ残しと手つかず食品)が出ていると言われています(京都市食品ロスゼロプロジェクト調べ)。一人あたり1万5千円のムダと考えると、見過ごせませんよね。食品のムダを減らすことは、このお金のムダを減らすことにもつながります。さらに、毎日の家事も効率よく楽になって……と、いいことばかりなんですよ」と話す料理研究家の島本美由紀さん。エコの観点から収納や食品保存を提案する「食品ロス削減アドバイザー」としても、テレビや雑誌などさまざまなメディアで活躍している。

年間約6万円のフードロスが家庭から出ると話す島本さん

料理研究家の島本美由紀さん(写真=スズキアサコ)

 そして、何より大事なのが食品廃棄問題のこと。今日本では、まだ食べられる食品が年間約612万トンも捨てられている。国民一人あたり毎日お茶碗一杯分を捨てているという計算だというから、胸が痛む。しかも、その約半分が一般家庭、つまり私たちの台所から出ている。世界では9人に一人が栄養不足という状況のなか、フードロス削減は一人一人が取り組まなければいけない課題でもあるのだ。

 さっそく、今日からできるムダをなくす冷蔵庫収納テクニックを、島本さんに教えてもらおう。

ムダを減らす「買い物の心得」を、いざ伝授

 「冷蔵庫収納の基本は、買い物から。必要以上に買い過ぎないことがポイントです」。そのために島本さんが紹介する買い物の心得を、まずはチェック!

その1:買い物の回数を減らしましょう

 何度もスーパーに行くと余計なものをつい買ってしまうもの。週の初めに5日以内で使い切れるくらいの食材を買い、週の半ばに買い足すのがベストです。

その2:買い物の前に在庫を確認!

 同じ食材を買ってしまう「ダブリ買い」を防ぐためにも、今冷蔵庫に何が入っているのかを見て、買い物メモを作ってから買い物に行きましょう。

買い物は必要なものだけメモしてから

写真提供=島本美由紀さん

その3:献立を考えてから買い物に

 残っている食材や期限切れが近い食品、調味料などから献立を考えて、足りないものだけ買い足せば、食品をうまく使い切ることができますよ。

その4:余りがちな食品は小さいサイズで

 大容量のほうがお得と思って買った調味料やセールでまとめ買いしたものを、結局余って捨てることになっていませんか? それなら最初から小さいサイズを買って使い切るほうが、結果としてムダがありません。

その5:空腹のときの買い物は要注意!

 空腹のとき、疲れているときに買い物をすると、思わず買い過ぎてしまいますよ。食後に行くかあめやクッキーで気分を満たしてから。

 さらに「冷蔵室は買い物前に、冷凍室の中身やストック品は1カ月に一度くらいの頻度で見直すのが大切です」と島本さん。時間がないときは、買い物前に野菜室の中をスマホでさっと撮ってから買い物に行くという裏ワザもある。

買い物前に冷蔵室の写真を撮る島本さん

スマホで写真を撮れば、ムダな買い物がなくなる(写真提供=島本美由紀さん)

これでもう、「あるかどうか忘れたから、とりあえず買っておこう」とダブリ買いしてしまうこともなくなるはず。

冷蔵室は7割以下、冷凍室は7割以上

 冷蔵庫収納の目安となるのが冷蔵室は7割以下、冷凍室は7割以上の考え方。これにはちゃんと合理的な理由がある。

 「冷蔵室を7割以下にすることで庫内の冷気が回りやすくなり食材が長もちします。反対に、冷凍室はたくさん詰めたほうが冷気が逃げません」(島本さん)。

冷蔵室を7割以下にするといいと話す島本さん

写真=スズキアサコ

 ちょっとハードルが高いと感じるかもしれないが、少し買い過ぎているかな?と思ったときには、この7割を目標に見直してみると分かりやすい。

 仕事上、たくさんの人の冷蔵庫の中を見てきたという島本さん。ドキッとするのが「冷蔵庫は毎日開け閉めするけど、見て見ぬふりをしてしまう場所。冷蔵庫にはその人の性格や暮らしぶりが表れるんですよ」という言葉。

 でも、不安にならなくて大丈夫。冷蔵庫収納は、3つのポイント「見える・まとめる・取り出しやすい」を少し意識するだけで、見違えるほど変わるという。

「見える・まとめる・取り出しやすい」

 この3つのポイントごとに、具体的なテクニックの一部を紹介してもらうと……

【見える】

 奥のほうにもらったものや、忘れている食材が入っていませんか? 冷蔵庫を開けたときに、ひと目でどこに何があるのかが分かると家事効率も上がります。

  • 目いっぱい詰め込まない。ひと目で何があるか分かるように
  • 保存容器は外から中身が分かる透明なものを
  • 後ろに置いたものが見えなくなるので、前後でものを置かないのが基本

奥まで見渡せる冷蔵庫内

奥まで見えると食材の使い忘れがなくなる(写真=スズキアサコ)

【まとめる】

 クローゼット収納と冷蔵庫収納の大きな違いは、入れるものの大きさや形が毎回変わること。決め過ぎず、臨機応変に収納できるゆとりも大切です。

  • 調味料は冷蔵室のドアポケットに全部まとめる
  • 中身が見やすい浅めのかごを使って、「朝食セット(ジャムやクリームチーズなど)」、「お弁当セット(のりや梅干し、鮭フレークなど)」など、使うタイミングが同じものをまとめて収納
  • 「使いかけ野菜」や「開封済み食品」のコーナーを作ってまとめ、ここから献立を考える
  • ねぎやしょうがなどの薬味は切ってから冷凍し、冷凍室に「薬味エリア」を作ってまとめておく

野菜もまとめて見失わないようにする

使いかけ野菜をまとめておくと、見失わずに使い切れる(写真=スズキアサコ)

【取り出しやすい】

 冷蔵室の奥のほうに食材を入れると、取り出しにくくて使わなくなるもの。そんなときは取っ手付きのトレイや浅めのかごを活用。

  • 葉物野菜や倒れやすい調味料などは、使い終わったペットボトルの空き容器などを利用して、立てて収納
  • 冷蔵室の稼働棚を半分にできるものは、折りたたんで奥行き半分だけに
  • 冷凍した食品はブックスタンドを使って立てる、タテ収納。肉、魚、野菜などのエリアごとに置く

冷凍した食品はブックスタンドを使うと便利

立てて収納すると、使うときも見つけやすい(写真=スズキアサコ)

下段に「ぽっかりスペース」をキープ

 ほかにも知っておくと便利なのが、冷蔵庫の温度のこと。「冷気は下にたまるので、冷蔵室の中でも下のほうは3度、上のほうは6度くらい。豆腐や開封した食品など日もちがしないものは、温度の低い下に入れたほうがいいです。チルドスペースは0~2度で食品の発酵や熟成を止めてくれるので、肉、魚以外にも、チーズ、キムチ、みそなどの発酵食品を入れると長もちします」と島本さん(※1)。なるほど~!

 また、作り置きをした鍋がさっと入れられるくらいの「ぽっかり(空き)スペース」を冷蔵室の下段に常に作っておくと、7割以下を保つことができ、冷蔵室の中身もひと目で把握しやすくなる。

いつでも鍋を入れられるスペースを確保

鍋が入っても、奥まで見渡せる冷蔵室内(写真=スズキアサコ)

 実際に「見える・まとめる・取り出しやすい」を意識して収納するようにしたところ、「今まで見たことのない冷蔵室の向こう側が見えた」という声も。島本さんの冷蔵庫を見せてもらうと、スッキリと片付いて、どこに何があるのかが分かりやすく、取り出しやすい。これなら調理も効率よく楽しくできそうだ。

※1:冷蔵庫の温度はメーカーや機種によっても多少異なります

「使いかけの調味料や野菜は、おいしく解消」

 さて、買い物の心得と冷蔵庫収納の基本を学んだところで、実際に生協パルシステムの組合員から寄せられた相談について、島本さんにアドバイスしていただいた。

――Q調味料が使い切れなくて、結局捨ててしまうことに……。どうしたらいいでしょうか?

 「まず、調味料類はラベルを見えるようにして、ドアポケットにまとめて置くこと。目に留まりやすい場所にあるだけでも出番が増えます。また、週1回でも2回でもいいので、調味料から献立を考えてみるといいですよ。例えば、冬以外の季節にはなかなか登場しないゆずこしょうも、手羽先に塗ってグリルで焼けば、ビールにも合うおかずが完成。ドレッシングもサラダだけに使うのではなく、便利な合わせ調味料として使ってもいいんです。

 余った調味料は、好きな人が多いマヨネーズと合わせて、野菜のディップにするのもおすすめです。例えば生春巻きを作って余ったスウィートチリソース+マヨネーズでエスニック風、コチュジャンとマヨネーズでピリ辛韓国風、のりの佃煮とマヨネーズで和風、といろいろな味を楽しみながら余った野菜につけて食べる。これなら、すぐにできそうでしょう?

 とくに、甜面醤、豆板醤、コチュジャンは、三大「ごぶさた調味料」。でも、塩分の強い調味料は凍ることがないので瓶ごと冷凍庫で保存できるんです。風味も変わりにくく、そのままスプーンですくって調理に使えます」

調味料類はラベルを見えるようにしてドアポケットに置く

ラベルは見やすく、取り出しやすくが基本(写真=スズキアサコ)

――Q気づくと野菜がシナシナに。ムダにせずに長もちさせるコツはありますか?

 「よくありますよね。実は、家庭で出るフ―ドロスのうち、半数近くを占めるのが野菜なんです。適した場所で正しく保存することで、おいしく食べ切りましょう。

 例えば、ほうれんそう、小松菜、春菊などの葉物野菜は、ペーパータオルで包んでから立てた状態で野菜室かドアポケットに保存。むきだしのままだと、乾燥してしなびてしまうので注意してくださいね。もやし、にら、れんこんなどは、透明容器に入れて水につけ、温度の低い冷蔵室へ。

 ピーマン、なす、ミニトマト、いんげんなどの実野菜は、丸ごと冷凍すれば2カ月はもちます。冷凍室から出して数分おけば包丁で切れるようになりますよ。ミニトマトは、そのまま煮物に入れても、すりおろしてもOK。切った場合は、切り口から劣化するので1カ月程度が保存の目安です。余った野菜を切ってから数種類ミックスして冷凍しておくと、野菜炒めやみそ汁にさっと使えて時短調理にもなります」

野菜は保存袋に入れて冷凍できる

野菜ごと、用途ごとで分ければ使うときに便利(写真=スズキアサコ)

できることから始める、家庭のフードロス削減

 島本さんに教わるムダをなくす冷蔵庫収納術は、どれも具体的ですぐに取りかかれることばかり。「いきなり全部は無理!」と思った人もいるかもしれないが、「できることだけやればいいですよ」と島本さん。

 「100%こうでなくちゃいけない、と決めてしまうと大変になってしまいます。私は、まず最初に『ドアポケットだけ片付けてみてください』とすすめています。それなら時間をかけずにできるはず。料理が得意な人は使い切ることから、そうではない人は買い物の仕方を変えてみるところから少しずつ始めるだけで、冷蔵庫収納が変わって、フ―ドロスも減っていきます」

まずはできるところからと話す島本さん。

写真=スズキアサコ

 海外旅行が好きで、これまでに50カ国以上を旅してきたという島本さんは、世界に食べられない子どもたちがたくさんいるなかで、日本ではたくさんの食べ物が捨てられていることに疑問を持つようになったという。それがきっかけで、使い切りレシピや食品保存、冷蔵庫収納の見直しテクニックを紹介するようになっていったと話す。

 「食材を食べずに捨てるということは、実はお金を捨てているのといっしょ。そして同時に、大切な資源とエネルギーをムダに浪費してしまうということでもあります」と島本さん。フ―ドロスというと大きなテーマに思えるかもしれないが、身近なところに解決につながる方法がたくさんあると話す。

 「私自身、冷蔵庫の使い方を見直していったら、食費も浮いたし、家事も楽になりました。そして、それがフードロス削減にも結びつく。昔の人は『もったいない』と言って、何でも大切に使っていましたよね。『おうち時間』が増えている今、身の回りを見直す機会にしてもらえたらと思います」

取材・文=中村未絵 写真=スズキアサコほか 構成=編集部