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女子栄養大学の庭に立つ蒲池桂子さんと柏木智帆さん

写真=疋田千里

お米は食べたほうが吉! 健康への近道は「ごはん食」にあり

  • 食と農

「糖質制限ダイエット」などに関する情報があふれている昨今、「お米は必ず太る」という誤解から、本当は食べたくてもお米を抜いたり減らしたり……という人は少なくありません。正しい栄養学の知識によりお米を食べるメリットや健康的なお米の食べ方などを知れば、きっと今日からごはんをもっと食べたくなるのでは? そんな期待を抱きながら、お米の名誉回復を目指して、管理栄養士で女子栄養大学栄養クリニック教授の蒲池桂子さんをお米ライターの柏木智帆さんが訪ねました。

便秘や鉄分不足はごはんで解消?

――「ごはん=糖質の塊」と誤解されている人が多いように思います。ずばり、お米から得られる栄養について教えてください。

蒲池桂子(以下、蒲池) 糖質は、生命を維持するうえで大切なエネルギー源です。確かにごはんは糖質をしっかりととることができますが、じつはほかにも、たんぱく質、亜鉛や鉄分などのミネラル、ビタミン、カルシウム、食物繊維などをとることもできます。

――鉄分不足の女性は多いですが、ごはんを食べれば鉄分もとれるのですね!

蒲池 そうです。みなさんあまり知らないのですが、毎食ごはんにすれば鉄分はちゃんととれるんですよ。昔から日本人はおそらくごはんからも鉄分をとってきたのだと思います。だからごはんはとても重要なんです。

 こういった栄養は白米でもとれますが、最も栄養があるのは玄米のぬか部分。でも、玄米は消化しづらいのが難点です。おすすめなのは、ぬかの部分を残しながら精米した「分つき米」や、栄養が詰まった胚芽部分を残して精米した「胚芽米」です。

――栄養面と食べやすさを考えると分つき米と胚芽米がいいのですね。私は毎日白米が基本なんですが「玄米には栄養があって、白米には栄養がない」という主張を耳にすることもあるので、白米でもちゃんと栄養はあるというお話をうかがえると何だかうれしいです。

蒲池 ぬかには栄養がたっぷり含まれているので、ごはんといっしょにぬか漬けを食べるとよりいいですね。ぬか漬けを作る「酪酸産生菌」という菌は腸の状態を安定させたり、腸の運動を活発にしてくれたりする働きがあり、今ものすごく注目されている腸内細菌です。そしてやっぱり、ぬか漬けはごはんといっしょに食べたいじゃないですか。

――うんうん!

蒲池 栄養面や健康面を考えると、日本人が食べてきたごはん中心の食事を見直すことが重要になってきています。とくに女性の健康ですね。便秘に悩む女性は多いですが、水分を適度に含んだお米をしっかり食べることで便秘の解消にもつながります。

――私1日にごはんを3合ちょっと食べているせいか便秘知らずです。鉄分不足に加えて便秘の解消まで助けてくれるなんて、お米は女性の味方ですねえ。

蒲池 そうなんです。雑穀類も入れて食べれば食物繊維が増えます。雑穀の食感も楽しめますしね。

写真=編集部

お米に含まれる優秀なたんぱく質

――「糖質制限ダイエット」をしている人のなかには、ごはんを抜いて高たんぱく質の食品を積極的に食べている人もいます。もしかしたら、お米にたんぱく質が含まれていることを知らない人もいるのかも……。

蒲池 ごはん100gにたんぱく質はだいたい2.5g含まれていて、このたんぱく質は必須アミノ酸のバランスが非常にいいといわれています。一方で、パンはこのバランスがあまりよくありません。

 ただ、ごはんには大豆に含まれているアミノ酸「リジン」が不足しています。だからこそ、ごはんといっしょに大豆製品を食べるとたんぱく質の栄養価の質が高くなり、たとえ肉や魚などを食べなくても、このたんぱく質が体の中で筋肉などの材料になるといわれています。

 だから、ごはんとみそ汁という日本ならではの食べ方はたんぱく質の摂取には非常に効率がいいんです。あと五目豆とか豆腐とかね。

――ごはんにも栄養があるけれど、それだけでは足りないものをみそ汁や大豆製品で補うのですね。

蒲池 食事はそういった組み合わせが重要です。ごはんはビタミンとかミネラルが含まれている野菜やきのこ類、海藻類などを使った副菜との相性もいいので、いっしょに食べると満足度が高くなり、結果的に食べすぎの防止につながります。いろいろな味付けを楽しんだりすることもできますね。

 反対に、ごはんを抜いておかずを食べすぎてしまうと、脂質や塩分のとりすぎにつながってしまいやすいという面があります。

解説する蒲池桂子さん

写真=疋田千里

おにぎりはたくさん食べても“カロリー控えめ”?

蒲池 ごはんにはどちらかというと塩味やうまみのあるものが合いますが、パンは水分が少ないのでバターなどの油脂類が合います。そうなると摂取エネルギーは増えてしまいますし、パンのなかでも菓子パンが好きな方は知らず知らずのうちに中性脂肪とかコレステロールが上がってしまって脂質異常症などの病気になる可能性も高くなります。

――パンはうっかり脂質が多くなってしまいがちなんですね。

蒲池 そうです。だからたとえばワンハンドで食べるならば菓子パンよりもおにぎりのほうがカロリーは低いんです。やせたいと思うならばごはん食のほうがおすすめですね。

――お米は水分が多いからおなかの充実感で誤解しちゃうんでしょうね。腹持ちはいいから「何かすっごく食べちゃった」って。

蒲池 そうかもしれません。腹持ちという面でいえば、ごはんは粒の状態で食べる「粒食」なので、主に小麦粉からできているパンや麺などの「粉食」に比べて消化に時間がかかり、食後の血糖値の上昇がパンよりも緩やかだといわれています。

 さらに、おにぎりなどのさめたごはんには「レジスタントスターチ」というものが含まれています。これはまたの名を「難消化性でんぷん」といって、体内で消化されないと考えられているでんぷんのことです。だからいっぱい食べているようでも、じつは摂取カロリーは少し減るといわれています(※)。

※2020年の日本食品標準成分表改訂による

――おむすびってついたくさん食べちゃうけど、それを聞いたらちょっと安心しました(笑)。

蒲池 ほかにもレジスタントスターチは腸内細菌のエサになって有用菌を増やすなど、ごはんのよさがどんどん明らかになってきています。

 ちなみに、レジスタントスターチはさますことででんぷんが老化すると増えるんです。だから、レジスタントスターチを増やしたいのであればさめたごはんは電子レンジでチンしないで食べるのがいいかもしれません。

――なるほど!

蒲池 あとは、ゆっくりよくかんで食べるということも大事です。ごはんのでんぷんは唾液と混ざることで麦芽糖に変わり甘みが増えていきますので、よくかめばごはんだけで食べてもおいしい。さらにおかずといっしょに食べることで口の中で味の強弱をコントロールしたり、おかずを食べてからごはんを食べることで味をリセットしたりできます。これを「口中こうちゅう調味」といいます。

 それから、ゆっくり食べると脳に「食べました」と伝達されますが、よくかまない早食いだと「まだおなかがすいている」と脳が勘違いしてしまい、短時間にいくらでも食べられてしまいます。あとからおなかがいっぱいになって食べすぎたと後悔することになりやすいのです。

――私はちょっと早食いなので気をつけます……。

酒類

写真=PIXTA

ごはんを食べれば二日酔い知らず?

――お酒を飲むとごはんを食べない人もいますよね。お酒とごはんをいっしょに楽しめたらいいよなあと思うんですが。

蒲池 先日、カウンターでお酒が飲めるお店でお昼ごはんを食べたら、食事におちょこ1杯の日本酒が出てきて、私お酒があまり飲めないのですがおいしく飲ませてもらいました。そのときにね、日本酒ってごはんとすごく合うなと思って。ごはんからできていますしね。

 お酒のアルコールというのは消化液を出してくれるんですよ。だから食前酒としてちょっと飲んでからごはんとおかずに移るとおいしく食べられるんです。だから本当はごはんとお酒をいっしょに楽しんでほしい。

――ごはんをおなかに入れてからお酒を飲むとアルコールの吸収がおだやかになると聞いたこともあります。

蒲池 アルコールは胃を荒らしたりすることもありますので、ごはんをしっかり食べるといいですね。ごはんの中には多糖類というものが含まれていて、少しねばねばしているので胃の粘膜を保護してくれるのです。

――そうなんですね! じゃあまずはお酒をちょっと飲んで消化液を出し、ごはんを食べて胃の粘膜を保護して、それからまたお酒を飲む、と。

蒲池 ちびちびとやっていただくのが本当はいちばんおいしいし健康的。最初にごはんを食べなくても、先にお酒と料理を楽しんでから最後にごはんやおそばを食べるという流れもすごく理にかなっているんです。

 アルコールは肝臓で分解されますが、そのためのエネルギー源となるのが糖質です。だからお酒を飲むときに糖質をとらないとアルコールの処理能力が落ちてしまい、低血糖や二日酔いになりやすくなってしまいます。だから締めに炭水化物をとるといいのです。でも、ラーメンだと脂質や塩分が多くなっちゃうからおすすめはできませんね。

――おむすびとかお茶漬けとかがいいですかねえ。

蒲池 お茶漬けも胃に負担がかかるかな。

――え! お茶漬けって胃に負担がかかるんですか?

蒲池 さらさらっと飲んじゃうから。だからちゃんとかめるおにぎりのほうがおすすめです。

――なるほど。「締めのごはんは太る」説は、ごはんだけが悪者ではないですよね。

蒲池 それはもう、まったくその通り。どんな料理をどれくらい食べるか、です。結局、お酒を飲むとアルコールが胃を刺激して消化液が分泌されやすくなってたくさん食べられちゃうから。食べすぎれば太りますよね。

――アルコール分解のためにも料理を抑えぎみにしてごはんを食べるとか……。

蒲池 そうですね、それが最高です。締めはラーメンじゃなくてごはんというところがポイントですね。

話をする柏木智帆さん

写真=疋田千里

おにぎりの名コンビ、焼きのり

――おむすびだったらレジスタントスターチも多く含まれているしいいですね。お酒の締めに限らず、おすすめの食べ方はありますか。

蒲池 おにぎりの周りにはぜひ焼きのりを巻いてほしいなと思います。焼きのりには葉酸や食物繊維のほかに、ビタミンB12といって動物性の食品にしか入ってないビタミンが含まれています。おむすび1個に焼きのり半切り1枚は付けてほしいところです。

――3歳の娘がおかずをあまり食べないんですけど、焼きのりはごはんといっしょにたくさん食べるんです。巻いたりはさんだりして。本能でビタミンB12を補っていたのかな(笑)。

蒲池 それから、梅干し。見ているだけで唾液が出てきますよね。先ほども言ったように、唾液が出てくるとごはんに甘みが出てくるんですよね。「梅干しはいらない」という人も目の前に梅干しを置いて見ながら食べるとごはんがおいしくなりますよ(笑)。

 あとはやっぱり食物繊維である野菜類も食べてほしい。ほうれん草とか小松菜とかキャベツとか、旬の野菜とか。漬け物だけだと塩分が気になるという人は、ほかの野菜といっしょに炒めたりあえたりして調味料代わりにしてもいい。

――漬け物を細かく切って納豆とあえたりするとおいしいですよね。

蒲池 そうそう。それとごはんの組み合わせは最高においしいですよね。

――ということは、のりを巻いて梅干しを入れたおむすびに、具材がたっぷり入ったみそ汁があれば完璧ってことですね。

蒲池 完璧に近いです。たんぱく質も忘れずに、みそ汁にはぜひ豆腐を入れてくださいね。

食卓に並んだおにぎり

写真=豊島正直

朝起きたらすぐにすべきこと

――そのほか、日常生活でおすすめなごはんの食べ方を教えてください。

蒲池 大切なのは「食事の時間」で、3つのポイントがあります。1つ目は、12時間くらいの間になるべく朝昼晩の3食をとれるようにすること。

 2つ目は、朝と昼、昼と夜の食事の間を少なくとも2時間半から3時間くらいは空けること。そうすることで、血糖値の動きにリズムをつけることができます。だらだらと小刻みに食べ続けることは、血糖値がずっと高い状態になってしまうのでよくありません。

 3つ目は、朝食は目覚めてなるべくすぐとること。そうすることで、血糖値をコントロールしやすくなり、体の調子を整えやすくなります。食べることで体温が上がって午前中の運動量が増えれば、1日しっかりとエネルギーを使うことができます。つまり、朝ごはんを食べてエンジンをかけることでやせやすい体になるのです。

――やせようと思って朝食を抜くと逆効果なんですね。

蒲池 そうです。朝食を抜くと昼や夜に食べすぎてしまい、夜に食べすぎると胃がもたれて空腹感がないから、翌朝食べられなくなってしまうことも多いのです。

――負のスパイラルですね……。

蒲池 食べられないならばおにぎり1個でもいい。ふつうのおもちは「粉食」にあたり、ごはんと比べると血糖値が上がりやすく消化も早くておなかがすきやすいですが、手軽に栄養をとるならばおもちを電子レンジでチンしてみそ汁に入れちゃうのも手ですね。

話をする蒲池桂子さんと柏木智帆さん

写真=疋田千里

ごはんの“適量”はどのくらい?

――わが家はめちゃくちゃお米を食べるのですが、もしかして食べすぎ?と思ったりすることもありまして。お米の適量ってどうやったらわかるのでしょうか。

蒲池 1日の食事量というのはその人が食べたい量を食べると、だいたい一定なんです。健康であればその量で大丈夫ですよ。

――確かに毎日決まった量を炊いて、きれいになくなります。

蒲池 じゃあそれでいいんだと思います。それでたとえば太ってきたり健康診断で引っかかったりしたら見直したほうがいいですけど、しっかり食べられて仕事もちゃんとされている方はリズムがちゃんとできているのでその量でまったく問題ないと思います。だけど、高齢になって運動量が変わってくると、適量も変わってくると思います。そのときにどのくらい食べているかをチェックするならばうちの栄養クリニックで栄養相談を承りますよ。

――よかった。これからもしっかり食べます! それにしても昔の日本人はお米をしっかり食べることに現代のような罪悪感なんてなかったんだろうなあ。こうして正しい知識を得られれば、ごはんをおいしく安心して食べられる人も増えそうですね。

取材・文=柏木智帆 写真=疋田千里、編集部 構成=編集部